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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2900件

プロフィール| 書評

No.2320 5点 文学少女対数学少女
陸秋槎
(2020/12/25 21:09登録)
(ネタバレなしです) 2019年に発表された本書は推理小説を書いている文学少女の陸秋槎(作者と同じ名前ですね。作者は男性ですけど)と数学の天才少女の韓采蘆の2人の女子高生が活躍する4つの中編を収めた短編集です。どの作品もボリューム以上の複雑な内容を感じさせます。「連続体仮設」は秋槎の書いたミステリーを読んで采蘆が犯人を当てて作品の出来栄えを評価するというもの。謎解きよりも本格派推理小説のあるべき姿の議論に重きを置いてます。「フェルマー最後の事件」では今度は采蘆が書いたミステリーを秋槎が読むことになります。作中作の謎解きがまだ終わってないところへ現実の事件が起きる展開には意表を突かれました。伝統的な本格派推理小説でありながら「推理の過程の間違いは、結論の正しさの妨げにはならない」とか「解の存在は証明できるけど方程式は解けてない」とかどこか前衛的な要素が混じっていて微妙なもやもや感を覚えました。余談ですが私の読んだハヤカワ文庫版では登場人物リストは書物の中には記載されず、別紙の形で(栞のように)挿入されてました。なくしちゃうよ!


No.2319 3点 増加博士の事件簿
二階堂黎人
(2020/12/17 23:11登録)
(ネタバレなしです) 2012年発表の増加博士シリーズ第2短編集は何と全部がショート・ショートという珍品で、250ページ程度の講談社文庫版に27作品が収められています。ショート・ショートづくしの本格派推理小説というと18作品を収めたエラリ・クイーンの「クイーン検察局(1953年)ぐらいしか私は思い浮かびません(但しクイーン作品には1編だけ普通サイズの短編「ライツヴィルの強盗」が混ざってますが)。ショート・ショートゆえに謎解きの完成度に期待をかけるのは間違いなのかもしれませんが、それにしてもダイイング・メッセージの謎解きが揃いも揃って「感想を考えるのも嫌になる」レベルです。そういった作品が全体の約4割を占めているのを多いか少ないかは意見が分かれるかもしれませんが、私は十分にうんざりしてしましました。トリック挑戦の作品も一足飛びにこうすればできるよという説明だけが多いです。クイーン作品も凡作が少なくありませんが本書よりは読者への推理説明が丁寧でした。本書は増加博士(と作者)の自己満足だけが目立っています。


No.2318 5点 パスカル夫人の秘密
ウィリアムズ・スティーヴンス・ヘイワード
(2020/12/17 22:41登録)
(ネタバレなしです) 女性刑事を主人公にした作品は1864年に初登場したらしいです。アンドリュー・フォレスター・ジュニアによる名無しの女性刑事ものの短編集とパスカル夫人シリーズ短編集の本書がそれです。本書については人並由真さんのご講評で紹介されているように出版時には作者名が伏せられており、ヒラヤマ文庫版の巻末解説では英国の大衆小説家ウィリアム・スティーヴンス・ヘイワード(1835-1870)が著者と「推定される」と記述されてます。本格派推理小説の謎解き要素よりは冒険スリラー小説要素のほうが強く、唯一の殺人事件を扱った「溺死」も前半は本格派風ですが解決はかなりの偶然に助けられてのものです。意外だったのはハッピーエンド狙いのために時にはパスカル夫人が犯人(悪人)と痛み分けの解決にする作品があることです。思った以上にバラエティーに富んでいますが、ページ数の多い作品の方が出来がいいように思います。


No.2317 5点 風神雷神の殺人
阿井渉介
(2020/12/17 22:17登録)
(ネタバレなしです) 1994年発表の警視庁捜査一課事件簿シリーズ第2作の本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス型ですが、読者が自力で解決を目指せるプロットではありません。風神や雷神の助けによって実行された2つの殺人と次の殺人を予告する手紙が事件の発端です。更に堀刑事自身が目撃者になる中学生襲撃事件が起きるといういささか脈絡のないような展開です。殺人を宣言された2つの事件は鉄橋からの列車転落事故と列車同士の衝突事故で、さすがにこれを人為的なトリックで実行するのは無理だろうという難題です。仮に実現できたとしても大勢の犠牲者を出してまで実行するのかという謎も強力です。真相はそこをうまく処理しているなと感じました。とはいえタイトルに使われている風神雷神の演出が弱いし、犯人の行動力はあまりにも超人的に感じられます。まあこの作者の他の作品で大勢の共犯者を使った組織的犯罪の真相に比べればまだましですが。


No.2316 4点 ラベンダー・ティーには不利な証拠
ローラ・チャイルズ
(2020/12/11 22:52登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表の「お茶と探偵」シリーズ第21作です。冒頭の謝辞で「まだまだたくさんの<お茶と探偵>シリーズをお届けすると約束します!」と意気盛んで、よほどの人気シリーズなんでしょうね。今回は狩猟パーティーの最中の銃殺事件の謎解きです。定番のお茶やお茶菓子の描写は変わらずの充実で、デビュー作から発揮されている洗練された文体も安定しています。謎解きが残念レベルなのも相変わらずで(笑)、あの人を疑いこの人を疑いと焦点が定まらないのはまあ謎を深めようとしていると好意的に捉えますがあまりにも棚ぼた式の解決にはもはやあきらめのため息しか出ません。


No.2315 5点 劇画殺人事件
生田直親
(2020/12/11 22:40登録)
(ネタバレなしです) テレビ脚本家だった生田直親(いくたなおちか)(1929-1993)はミステリー作家としては「誘拐197X年」(1974年)でデビュー、派手な展開のサスペンス小説が多いようですが通俗的な官能描写、社会問題への怒り、力のこもったスキー描写や山岳描写など多彩な個性を持っていたようです。本格派推理小説とは無縁の作家かなと思ってましたが、1976年発表の初期作品である本書の光文社文庫版では本格派の作品と紹介されていました。漫画界を背景にしていますが人間関係は結構殺伐としています。まあ殺人が起きるんですからね。米国帰りの風来坊的な主人公が探偵役ですが、映画プロデューサーになろうという夢を持っていてこの夢が実現すのかどうかが謎解きと共に物語の両輪となっています。探偵と容疑者が対決的でありながら一方で互いに認め合うという人間関係も読ませどころです。アリバイトリックにちょっと面白いところがありますが、ちゃんと調べたらばれるのは時間の問題のトリックでしょうね(実際警察も最後は見抜いています)。


No.2314 6点 秘密
ケイト・モートン
(2020/12/11 22:23登録)
(ネタバレなしです) オーストラリア出身で米国に移住したケイト・モートン(1976年生まれ)は「21世紀のダフネ・デュ・モーリア」と評価されているみたいで、本格派推理小説ばかり偏愛している私の心には全く刺さらない評価なんですが(笑)、2012年発表の小説第4作にあたる本書については創元推理文庫版の巻末解説で本格派要素もあるように紹介されているので試し読みしました。上下巻合わせて700ページに達する全34章の大作なのでお試しとしてはちょっと敷居が高かったかな。1961年に母ドロシー(ドリー)が娘ローレルの目の前で殺人を犯し、それから50年後の2011年にローレルはいったい何がドロシーを殺人に駆り立てたのかを追求することになります。事件のあった1961年はそれほど描かれず、1941年と2011年を何度も往ったり来たりするプロットです(これは作者の得意パターンらしい)。1941年に関してはドロシーの青春物語要素が非常に濃く、丁寧な描写が光りますがミステリー要素が希薄でもやもや感が強かったですね。最後は巧く「秘密」が明かされてすっきりできました。もっともあの真相だとある人物の言動が不自然に感じられて、のどに魚の小骨がささったような読後感も残りましたが。


No.2313 6点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅵ
エドワード・D・ホック
(2020/12/10 22:20登録)
(ネタバレなしです) エドワード・D・ホック(1930-2008)の死去と共にサム・ホーソーンシリーズもついに本書で終焉を迎えました。最後のシリーズ作品となった第72短編の「秘密の患者の謎」(2008年。作中時代は1944年)は死後出版だったそうです。第1短編の「有蓋橋の謎」(1974年。作中時代は1922年)から出版順かつ作中時代順に短編集が編集され、日本の創元推理文庫版で全6巻の全集が完成したのが2009年、本国アメリカでの全5巻の全集の2018年完成よりもずっと早かったことは日本人読者として誇りに思います。本書では第二次世界大戦の影響が描かれているだけでなく、時代性と巧妙に融合している歴史ミステリー的作品があるのが特徴です。サムの人生にとって重大イベントがあることも重要でしょう。どの作品も30ページ程度の分量に本格派推理小説の要素が十分に盛り込まれていますが、個人的なお気に入りは巨大鳥にさらわれたのではという推理は本気かよと思いつつも楽しめた「巨大ノスリの謎」、江戸川乱歩の某作品を連想させるトリックと解決場面でのある人物の常軌を逸した行動にびっくりの「自殺者が好む別荘の謎」です。


No.2312 5点 変若水
吉田恭教
(2020/12/10 21:51登録)
(ネタバレなしです) 吉田恭教(よしだやすのり)(1960年生まれ)は本業が漁師で、時化で海に出られない時に小説でも書いてみようとしたのがきっかけで作家になった珍しい経歴の持ち主です。デビュー作の「朝焼けの彼方へ 背暦の使者」(2006年)は粗筋紹介を読むと現代人がタイムスリップしての歴史冒険小説みたいですが(未読なので間違いでしたら御免なさい)、2011年に第2作として発表された本書(タイトルは「をちみづ」と読みます)は向井俊介シリーズ第1作の本格派推理小説です。古き因習の残る村の描写とPCテクニックを駆使して手掛かりを集める俊介の捜査描写との新旧の時代性対比が印象的です。トリックは専門的な医療知識が求められていること、芋づる式に解決される展開であること、あまりに複雑すぎて到底読者が自力で見抜けるような真相でないことなど本格派としては問題点も多いですが非常な力作だと思います。


No.2311 5点 ストーンサークルの殺人
M・W・クレイヴン
(2020/12/10 21:39登録)
(ネタバレなしです) フルーク刑事シリーズを書いていた英国のM・W・クレイヴンが2018年に新シリーズとして発表したのがワシントン・ポーを主人公にした警察小説の本書です。カンブリア州に点在するストーンサークルで「イモレーション・マン」による猟奇的な殺人が相次ぎます。3人目の被害者の身体にはポーの名前が刻まれていますがポーには全く心当たりがありません。なおグロテスク描写は抑え気味です。ハヤカワ文庫版で550ページを超す厚みがあり、しかも前半はひたすら地味な捜査に終始します。小出しに出される手掛かりもストレートなものばかりで読者が推理に参加する要素もなさそう、と思っていたら50章の終わりで「ポーはイモレーション・マンの正体を突きとめた」と本格派推理小説を期待させるではありませんか(勝手に興奮する私)。もっとも登場人物の1人からも指摘されているようにポーの推理説明は飛躍し過ぎの感がありますし、犯人が判明した後も物語は68章まで続きます。丁寧に説明される動機にはハードボイルド小説にありそうな非情な背景が浮かび上がるし、新たな可能性が示唆される最終章も印象的です。私の好みとは少し乖離している作品ですが、英国推理作家協会のゴールド・ダガー賞を獲得したのは納得です。


No.2310 6点 ピラミッド殺人事件
新谷識
(2020/11/10 23:07登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の阿羅悠介シリーズ第2作の本格派推理小説と紹介したいところですが、本書での悠介は完全に脇役でした。「ヴェルレーヌ詩集殺人事件」(1990年)でも活躍していた姪の小川由美子は本書でも大活躍、「由美コロンボ」ぶりにますます拍車がかかって主役の座を奪ってます。まあ前作でも悠介は主役にしては地味過ぎでしたからこの主役交代は成功と言えるのでは。アマチュアの由美子に警察が全面的に協力的なのが相変わらず不自然ですが、それを受け容れられればなかなか楽しく読める作品です。殺人が起きるのは日本にあるピラミッド型のホールですが、後半には本物のエジプトのピラミッドも登場しますし、スカラベや死者の書などの古代エジプトアイテムも物語を彩ります。それにしてもある登場人物(容疑者の一人)の性格が前半と後半であまりにも変わったのにはびっくりしました。


No.2309 5点 死を招く女
デラノ・エームズ
(2020/11/10 22:49登録)
(ネタバレなしです) デラノ・エームズ(1906-1987)はアメリカ出身ですがイギリスへ渡り、第二次世界大戦後からダゴベルトとジェーンのブラウン夫妻シリーズの本格派推理小説を書きました。1960年にスペインへ移住すると今度はスペイン人探偵のシリーズを書くようになり、同地で没しました。本書は1948年発表のブラウン夫妻シリーズ第1作ですがまだ2人の関係は恋人であって結婚していません。しかも2人の馴れ初めについてはほとんど説明されていません。文章は難しくありませんがプロット展開に秩序を感じられず、ダゴベルトとジェーンの会話も恋人同士にしてはしばしば噛み合わずどうも読みにくかったです。ガス中毒トリックは時代の古さを感じさせるもので現代読者にはわかりにくいと思います。これがかなり早い段階で解明されていたのはありがたかったですね。


No.2308 6点 四国周遊殺人連鎖
中町信
(2020/11/10 22:33登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の氏家周一郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。タイトル通り四国の観光名所を転々としながら事件が続発するプロットですが、旅情を全く排して謎解きに特化しているのがこの作者らしいですね。子供の誘拐や過去のひき逃げ事件の目撃や不倫関係なども見え隠れする複雑なプロットです。氏家早苗のにぎやかワトソンぶりも相変わらずですが、本書では周一郎が謎解きに苦戦していることもあって早苗の推理がそれなりにまともに見えてますね。作者は伏線に配慮したとコメントしていますが、メッセージの解釈が中心を占める推理なので鮮やかな切れ味は感じられませんでした。


No.2307 5点 長い脚のモデル
E・S・ガードナー
(2020/11/02 22:19登録)
(ネタバレなしです) 1958年発表のペリイ・メイスンシリーズ第55作の本格派推理小説です。メイスンが証拠に細工するのは本書が最初でも最後でもありませんが、秘書のデラまでもが(しかもメイスンに内緒で)加担しています。親子が同じ名前なのを利用して(シニアとジュニアで区別されますが)警察をどちらのことなのか混乱させようとしますし、法廷では検察側に散々証言させておいて「証言を全面的に削除を提案」してかき回す、それでも不利な局面を察知して(禁じ手に近い)被告の証言を画策したりといつにも増して芝居ががかってます。締めくくりは唐突で推理説明が物足りないのが残念ですが途中までは実にめまぐるしい展開です。そうそう、トラッグ警部が味方のはずのハミルトン・バーガー検事に「わからずや!」と毒舌吐いているのも貴重です(笑)。


No.2306 6点 鏡館の殺人
月原渉
(2020/11/02 21:34登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のツユリシズカシリーズ第4作の本格派推理小説です。これまでのシリーズ作品中でも最も綾辻行人の館シリーズを意識して書かれたのではという内容で、48の鏡が配置された本館と別館から構成された館という舞台は某作品を連想する読者もいるのではないでしょうか(見取り図はあればもっと演出効果があったと思います)。新潮文庫版で300ページに満たない作品ながら謎解きは充実、シズカの推理説明は時にくどさを感じさせながらも丁寧です。反則ではと思われる設定があって好き嫌いが分かれそうですが、それについても「自分の目から見てあきらかであった(中略)件を、事件の最後まで触れなかったのには理由がございます」とアンフェアではないかとの読者の疑念を晴らそうとシズカは最後の最後に説明しています。


No.2305 5点 にがみばしった殺人者
ハロルド・Q・マスル
(2020/11/02 21:06登録)
(ネタバレなしです) 1956年発表のスカット・ジョーダンシリ-ズ第6作のハードボイルドです。いきなり冒頭で殺人容疑をかけられるジョーダンですが、災厄はこれだけではすみません。凶器の拳銃が彼のアパートで発見されるし、彼の札入れからは身に覚えのない偽札が出てきます。人間関係もややこしく、このシリーズの中ではプロットがごちゃごちゃで少々読みにくかったですがジョーダンの説明はこの複雑な謎を明快に解きほぐします。もっとも辻褄は合わせているものの推理過程が不十分で結論ありきの説明に感じられてしまい、作中人物が「論理が通っている」と評価しているのには首肯できませんが。


No.2304 5点 殺人事件が起きたので謎解き配信してみました
越尾圭
(2020/10/27 22:48登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表の本格派推理小説です。動画配信中に毒殺された事件の謎解きを扱っています。アマチュア探偵役が自分の推理を動画配信という手段で披露するという着想は非常にユニークだと思いますが前半はともかく後半はあまり活きていないないのが惜しまれますし、ライバル(?)的な刑事も動画配信者である設定は更にプロットの中で活かされていません。前半の丁寧な捜査と推理に対して後半が唐突で強引な解決に感じられるのも残念です。タイトルから想像される通り読みやすい作品ですが(ユーモアは意外とありません)、これだけの素材ならじっくり丁寧な謎解きの作品に仕上げてほしかったです。


No.2303 4点 探偵小説の世紀(下)
アンソロジー(海外編集者)
(2020/10/27 22:24登録)
(ネタバレなしです) (上下巻合わせての感想を書いてます)私は本格派推理小説以外のミステリーにはほとんど関心がない偏屈読者なので、幕の内弁当的に様々なジャンルが集まりやすいアンソロジーはほとんど手を出しません。それでも本書は海外本格派黄金時代の真っただ中の1935年に最晩年のG・K・チェスタトン(1874-1936)が編纂したので勇気を振り絞って(大袈裟だ)読んでみました。創元推理文庫版で上下巻合わせて1100ページもの大容量ですが、実はこれでもチェスタトンの原典盤から一部削除されてます。原典版は44作家45作品(エドガー・アラン・ポーは2作品)ですが有名作家の作品は他の文庫版に収められていたためかマイナー作家中心の34作家34作品版に縮小されてしまいました。ほとんどが私の知らない作家で、意外な掘り出し物の本格派に会えるかと少しは期待しましたがストレートな本格派は少なかったです。例えばアラン・メルヴィルの「くずかご」は「バーナード・ハズウェルを誰が、いかなる方法で、なぜ殺したのか」と堂々たる本格派風に始まりながら解決は場当たり的で残念、但し最後の一行の切れ味でかろうじて凡作を免れたような作品でした。ヘンリー・ウッド夫人の「エイブル・クルー」も途中まではアガサ・クリスティーに匹敵するほどの面白さがありましたがやはり解決が物足りません。個人的にまあまあだったのは怪奇小説作家として紹介されながら意外と本格派していたフランク・キングの「8:45列車内の死」と短編ボリュームに緻密なアリバイ崩しを詰め込んだヘンリー・ウェイドの「三つの鍵」ぐらいでした。それにしてもこのアンソロジーにコナン・ドイルのシャーロック・ホームズ作品が選ばれていないのはとても不思議ですね。


No.2302 6点 モップの精は深夜に現れる
近藤史恵
(2020/10/13 23:09登録)
(ネタバレなしです) 短編集「天使はモップを持って」(2003年)は物語的に一つの区切りをつけていたのですが好評だったのでしょうか、キリコシリーズ第2短編集として本書が2005年に発表されました。「天使はモップを持って」は全8作が収められていますが、本書は(文春文庫版で)約70ページの短編4作が収まっています。前作では全作品で語り手だった大介は本書では1作のみの登場で、作品ごとに語り手が違うのが特徴です。一応は本格派推理小説に分類できますが前作と同様に犯罪が起きる前に終わる(当然誰も逮捕されたり罰せられたりしない)作品があるし、大介の登場する「きみに会いたいと思うこと」はキリコの長旅の目的は何という謎があるとはいえ、家族ドラマ要素の方が濃厚な作品です。まあ前作を読んでいるとある程度傾向は読めているので気楽に読めたし、終わり方も前作よりはすっきり感があります。但し本書が初めてのシリーズ体験となる読者だと「きみに会いたいと思うこと」でのキリコの紹介は説明不十分に感じられるかもしれません。


No.2301 5点 シュロック・ホームズの回想
ロバート・L・フィッシュ
(2020/10/13 22:22登録)
(ネタバレなしです) 1964年から1974年にかけて発表された11の短編を収めて1974年に出版された迷探偵シュロック・ホームズシリーズ第2短編集です。前作同様ホームズの迷推理と皮肉な結末を楽しむ本格派推理小説ですが、相変わらず真相を誰もはっきりと説明しないので私のように推理力の弱い読者だと何が間違いで何が正しいのか理解できない作品もあって万人向けですと推奨しにくいです。まともそうな作品よりも羽目を大きく外している作品の方が高く評価されるかもしれません。個人的な好みの作品は「シュロック・ホームズの復活」(復活自体は他愛もありませんが、「感謝のしるし」がとても印象的)と「アルスター切手の謎」(ホームズの兄クリスクロフトのヒントと編集者後記まで付くので真相が見当つきやすい)です。なおフィッシュ(1912-1981)はその後もシリーズ短編を書き続けましたが9作を書いたところで急死してしまい、生前には第3短編集は発表されませんでした。しかし1990年に全32作を収めた全集がめでたく出版されたそうです。

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