home

ミステリの祭典

login
虚妄の残影

作家 大谷羊太郎
出版日1981年09月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 nukkam
(2020/08/20 20:21登録)
(ネタバレなしです) 1972年出版の本格派推理小説ですが書かれたのはデビュー作で江戸川乱歩賞を受賞した「殺意の演奏」(1970年)よりも早く、1969年の同賞にノミネートして落選した作品です(ちなみに受賞したのは空さんのご講評で紹介されているように森村誠一の「高層の死角」です)。しかし内容的には単行本出版に値する力作だと思います。第二次大戦中の思い出話を語った男が密室内で毒死します。自殺か他殺か微妙な状況で思い出話に裏があったことが判明します。さらには9年前の未解決毒殺事件も絡む複雑な展開となりますが、意外と読みやすく謎の段階的な深め方も巧妙です。トリックメーカーとして名高い作者ですが本書では犯人当てについてもどんでん返しを用意するなど配慮されています。タイトルがあまり魅力的でないですが、なぜこのタイトルにしたかは最終章で判明します。

No.1 6点
(2013/06/13 22:30登録)
森村誠一『高層の死角』と同年の乱歩賞応募作で、作者が翌年同賞を受賞した後に出版された作品です。出版に際して改稿されたとしても部分的でしょうし、『高層の死角』がなかったら乱歩賞を獲っていたかもしれないと思わせられました。
初期の大谷羊太郎は密室にこだわっていたようですが、本作では一応密室ではあるもののあまり不可能性は強調されていません。それよりも現在の毒殺事件と、その後に浮上してくる過去の2つの迷宮入り事件とがどうつながってくるかというところが見どころになっています。この全体構造が、偶然の使い方にも意外性があり、なかなかよくできているのです。本筋からはずれる部分で、筆跡発見に関する偶然は確率が低すぎるという意見もあるかとは思いますが、犯人または探偵にとって都合の良い偶然が続くというわけではないので、これはこれでいいでしょう。

2レコード表示中です 書評