nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2813件 |
No.2473 | 4点 | ハイビスカス・ティーと幽霊屋敷 ローラ・チャイルズ |
(2022/01/28 11:40登録) (ネタバレなしです) 2021年発表のお茶と探偵シリーズ第22作のコージー派ミステリーです。幽霊屋敷イベントの最中に起きた殺人事件ということで「ジャスミン・ティーは幽霊と」(2004年)を連想される読者がいるかもしれません。テーマパークの幽霊屋敷と同じような雰囲気なのでホラー要素は全くありませんが。これまでのシリーズ作品でもヘリテッジ協会(とティモシー・ネヴィル会長)が時々登場していますが、本書では容疑者の大半が協会関係者というのが作品個性になっています。(警察の警告をまたも無視して)いつも以上に気合の入っているセオドシアがいくつかの手掛かりを発掘しては警察と共有しつつ、警察からも引き換えに情報を入手とアマチュア探偵としては上出来の捜査だと思います。とはいえ犯人はこの人と確信するところまでは至らず推理による解決ではないし、誰も真相についてきちんと説明してくれないのでこちらは消化不良です。 |
No.2472 | 5点 | 怯えるタイピスト E・S・ガードナー |
(2022/01/26 01:07登録) (ネタバレなしです) 1956年発表のペリイ・メイスンシリーズ第49作の本格派推理小説で、シリーズ屈指の怪作だと思います。弁護依頼を受けたのが逮捕後と後手に回っているだけでなく非協力的な態度の依頼人、失踪中の容疑者は捕まらない、別の容疑者の尾行は失敗とまともな準備もできずに法廷場面に突入です。この法廷場面の第18章で他のシリーズ作品にはなかった展開に驚かされます(他のシリーズ作品をいくつか先に読んでおくことを勧めます)。もちろんメイスンならではの逆転劇は用意されているのですが、複雑な真相説明にもう一歩丁寧さが欲しかったですね。ハミルトン・バーガー地方検事の「弁護人は争点を混乱させようと計っているのです」というコメントは他の作品でもあったような気がしますが今回は共感しました。ある人物が(身を滅ぼしかねないのに)最後まで偽りを続けた理由が私にはわからず、釈然としませんでした。 |
No.2471 | 4点 | 九つの離婚 佐野洋 |
(2022/01/24 04:14登録) (ネタバレなしです) 1988年から1990年にかけて雑誌発表された9つの短編を収めて1990年に出版された短編集で、タイトル通りどの作品も離婚が絡んでいます。作品間に共通して登場する人物はいません。テーマがテーマだけに心理ドラマ要素が強く、離婚に至る物語、離婚後から始まる物語、夫婦関係改善のために離婚をほのめかす物語など意外とヴァラエティーに富んでいますが、ミステリーとは言えないのではというプロットの作品が少なからずあるのは評価が分かれそうです。その中では離婚の原因をずけずけと問い詰める展開に息を呑む「好きなように」が印象的でした。 |
No.2470 | 5点 | ピーター卿の遺体検分記 ドロシー・L・セイヤーズ |
(2022/01/22 23:13登録) (ネタバレなしです) セイヤーズの生前に発表された短編集は3冊あり、1928年発表の本書はピーター・ウィムジー卿シリーズの短編12作を収めた第1短編集ですと紹介したいところですけどあれ、論創社版は「アリババの呪文」を欠いて11作しかありません。というのは同じ論創社が独自編集で先に出版した短編集「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方に「アリババの呪文」を収めたためです。独自編集を否定するつもりは毛頭ありませんけどこのために本書は微妙に中途半端になってしまったし、「モンタギュー・エッグ氏の事件簿」の方は全11作書かれたモンタギュー・エッグシリーズを6作しか収めておらず(他は「アリババの呪文」と非シリーズ6作)、一体どういう編集方針なんでしょうね?さて本書の感想ですが短編であってもピーター卿の饒舌ぶりはしっかり描かれており、時に謎解きから脇道にそれ気味なのは同時代のアガサ・クリスティーの無駄の少ない謎解きプロットとは対照的な個性ですね。本格派推理小説というよりスリラーの作品もあります。個人的に好きなのは頭のない御者と頭のない馬が音もたてずに走らせる馬車が幻想的効果を生み出す中編「不和の種をめぐる卑しき泣き笑い劇」とピーター卿を名乗る2人のどちらが本物なのかの人物鑑定がユーモラスで楽しい「嗜好の問題をめぐる酒飲み相手の一件」です。 |
No.2469 | 5点 | ダミー・プロット 山沢晴雄 |
(2022/01/21 07:57登録) (ネタバレなしです) 力作中編の「離れた家」(1963年)が酷評され、第1長編である「悪の扉」(1964年に完成)が出版を拒否された山沢はミステリー作家としての道をあきらめて公務員として働きますが定年退職した1982年頃から作家の虫がうずきだして再び筆を執るようになります。当初は「砧自身の事件」のタイトルだった本書はこの時期(1983年頃)に書かれた砧順之助シリーズ第2作の本格派推理小説です。犯行が起きる前に容疑者たちの陰謀が紹介されるという変わったプロットで、トリックも色々ありますがタイトル通りこれはプロットで勝負した作品でしょう。終盤には作者による【陰の声】が挿入され、いかに読者に対してフェアプレーで臨んでいるかを説明してますがこれだけ複雑でしかも偶然に頼った部分も多いのでは読者が完全正解するのは無理な気もします。「砧自身の」という当初タイトルの割には「砧の登場が遅く、少ない」という天城一の指摘もごもっともと思います。しかしとにかく作家活動を再開したというだけでもファン読者は喜ぶべきでしょう。ちなみに本書もすぐには陽の目を見ず、ようやく「悪の扉」(1999年)に続いて2000年に同人誌での出版の運びとなり、単行本は2022年の創元推理文庫版まで待たなくてはなりませんでした。 |
No.2468 | 5点 | 生首岬の殺人 阿井渉介 |
(2022/01/19 21:21登録) (ネタバレなしです) 1994年発表の警視庁捜査一課事件簿シリーズ第4作の本格派推理小説です。作者は「冒頭に魅力的な謎を提出すること。そして、意外な結末」を意識しているコメントを寄せていて、ある程度それを具現化していると思いますがそれを超えることもしていないように思います。つまり中盤が間延びしているのですね。序盤で生首をくわえた犬の目撃事件と風変わりな身代金を要求する誘拐事件を発生させて謎づくりに関してはまずまずなのですがその後は盛り上がりに乏しく、第4章で「捜査が進むにつれて、さらに複雑さは増し、事件の輪郭がぼやけてきた」と表現しているように展開がぐだぐだ気味になって読む方に集中力が求められます。しかし最終章で明かされる大トリック説明で私の途切れた集中力はやっとつながりました(笑)。基本的アイデアは米国の某本格派推理小説に前例がありますが、そちらでトリックを見破られる手掛かりとして使われたものを本書では逆用してトリック成立に使っているのが工夫です。シナリオライター出身の作者ならではの、見映えするトリックといえるでしょう。 |
No.2467 | 5点 | ペンバリー屋敷の闇 T・H・ホワイト |
(2022/01/16 22:22登録) (ネタバレなしです) インドに生まれギリシャで亡くなった英国のテレンス・ハンベリー・ホワイト(1906-1964)はファンタジー小説の「永遠の王」四部作の他に冒険小説、SF小説、ノンフィクションなど様々な著作がありますが、1932年発表の本書はサスペンス小説です。全体の1/3を占める第一部は大学に起こった二重死亡事件を扱った本格派推理小説で、片方がもう片方を殺して自殺したのではと思われますが第5章でのどんでん返しの末にブラー警部がトリックを見破って真犯人を名指しします。ところがこれで解決とはならないまま(犯人と指摘されても全く動じない真犯人が凄い)第二部に突入し、ペンバリー屋敷の主人があまりにも軽率な行動で真犯人に狙われることになるサスペンス小説にがらりと変貌します。もっとも(警察を退職した)ブラーも相当に軽率なことやってると思いますけど。本格派からサスペンス小説へ切り替わる展開はマージェリー・アリンガムの「幽霊の死」(1934年)を彷彿させますし、たった1人で大勢をきりきり舞いさせる神出鬼没の真犯人はフィリップ・マクドナルドの「エイドリアン・メッセンジャーのリスト」(1959年)を連想しました。 |
No.2466 | 5点 | 月は幽咽のデバイス 森博嗣 |
(2022/01/15 22:08登録) (ネタバレなしです) 2000年発表のVシリーズ第3作の本格派推理小説です。オオカミ男が出ると噂の屋敷を舞台にしていますが、「何が根拠でそんな噂話が広まっているのか不明」という設定にしたためか怪奇色をあまり期待しない方がいいと思います。後半にはちょっとしたスリラー演出がありますけれど。あと屋敷の見取り図はほしかったですね。文章だけでは私の平凡(以下の)頭脳では理解しきれませんでした。講談社文庫版の巻末解説で「フェアと取るか、アンフェアと取るかは、読み手次第だろう」と微妙な評価ですが、まあ確かにこの密室トリックは万人受けしないでしょうね。それにエピローグで登場人物の1人に「今もなお、この疑問、根本的な謎は残る」と思わせているように、どこかすっきりしない説明に感じられました。 |
No.2465 | 5点 | 正直者ディーラーの秘密 フランク・グルーバー |
(2022/01/12 22:00登録) (ネタバレなしです) 1947年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第9作で、舞台はラスベガスです。論創社版の巻末解説によると1940年代半ばに豪華なカジノホテルが続々と誕生したと説明されていますが、本書の第10章で「三つの巨大なカジノのあいだには手つかずの砂漠が広がる」という描写があることから現在のラスベガスに比べればまだまだ発展途上だったのではと推測します。このシリーズは本格派推理小説の謎解きを楽しめる作品もありますが本書に関してはその要素は希薄でした。デスバレーで殺された男の死に際に出会ったジョニーとサムが、「ニックに届けてくれ」というダイイングメッセージと男の所持品(トランプやポーカーチップなど)の秘密を探る展開になりますがニックの正体にしろ(登場人物リストにはニックが1名いますが...)、所持品の秘密にしろ場当たり的に明らかになってジョニーの推理の出番がありません。ユーモア・ハードボイルドとしては十分に読みやすい作品ではありますけど。他のシリーズ作品と違うのはいつもは金策に苦心しているのに本書ではジョニーがカジノで稼ぎまくってます。うーん、苦労せずに金儲けしているなんてのはファン読者の期待に反しているのではないでしょうか(笑)。 |
No.2464 | 6点 | 複数の時計 アガサ・クリスティー |
(2022/01/11 01:22登録) (ネタバレなしです) 1960年代のミステリーはスパイ・スリラーの台頭がありましたが、大御所クリスティーも時流に乗ったのか1963年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第29作の本書では秘密情報部員を登場させてポアロよりも登場場面を多くしています。それでも本格派推理小説の謎解きの方にウエイトを置いていますけど。第14章でポアロにミステリー評論めいたことをさせているのも本書の特徴ですが、紹介されている作家の約半分は架空の作家のようです。実在の作家名を出すと色々都合悪かったのでしょうか(笑)。ハードボイルドには非常に辛口ですけど、まあクリスティーの作風には合わないですよね。タイトルに使われている「時計」は死体を取り囲むかのように置かれていた時計を指すのですが、この謎解きがなーんだというレベルだったのは呆れたというより失笑ものでした。 |
No.2463 | 5点 | 椿姫を見ませんか 森雅裕 |
(2022/01/10 23:16登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の鮎村尋深(あゆむらひろみ)&守泉音彦シリーズ第1作です。本書では尋深が芸術大学の音楽学部の学生、音彦が美術学部の学生で友人以上恋人未満風な関係です。オペラの練習中に毒殺事件が発生し、生前の被害者から受けた相談電話を相手にしなかったことを後悔した音彦が謎解きに乗り出します。一方で意外にも尋深は謎解きにほとんど参加しませんが、容疑者たちとは複雑な関係がある模様で一時的ながら自身も容疑者になったりしていて探偵役というより事件関係者役です。主人公2人の青春小説要素が強くて時にミステリーらしさが希薄になりもしますが、終盤は本格派推理小説らしく音彦が(あまり論理的ではありませんが)推理で複雑な真相を明らかにします。しかしこれで解決ではなく、更にサスペンス溢れる展開が用意されています。 |
No.2462 | 6点 | 幽霊はお見通し エミリー・ブライトウェル |
(2022/01/09 22:11登録) (ネタバレなしです) 1993年発表のジェフリーズ夫人シリーズ第3作の本格派推理小説です。作中時代は1887年1月。シリーズ前作の「消えたメイドと空家の死体」(1993年)が失踪事件に身元不明の死体とミステリーとしての展開が遅かったのとは対照的に本書はあっという間に殺人事件が起こります。ウィザースプーン警部補は強盗殺人と判断しますがジェフリーズ夫人たちは偽装強盗と疑います。ベッツィ、スミス、グッジ夫人、ウィギンズたちいつもの使用人メンバーだけでなく富豪未亡人のルティと彼女の執事ハチェットまで捜査に参加して謎解き議論が盛り上がります。第9章でジェフリーズ夫人が(当時の)社会問題について講義したい気持ちを抑えて謎解きに集中しているところも好ましく映ります(第7章では死体泥棒について蘊蓄を披露してますが)。ところで過去のシリーズ2作品を読んだ時にはこのシリーズは結末が次作の冒頭へとつながる趣向があるように思いましたが、本書の締め括りはそうではないようです。でもこの締め括り、ウイットとユーモアに溢れていてくすっと笑いたくなります。 |
No.2461 | 5点 | 堕天使の秤 吉田恭教 |
(2022/01/08 14:40登録) (ネタバレなしです) 2014年発表の向井俊介シリーズ第3作です。交通事故に巻き込まれた偽造ナンバー車両には4人が乗っていましたが(3人死亡、1人重態)、前席の2人は医者で後席の2人は麻酔薬で眠らされていたことから誘拐事件が疑われます。一方向井俊介は本来業務でない年金不正受給調査に狩り出されます。2つの事件捜査が絡み合う展開に淀みがなく、複雑な内容ですが読みやすいです。凝ったトリックもありますし(第7章で解き明かされる理系トリックは怖いまでに印象的)、どんでん返しの謎解きもなかなかの出来栄えですが事件が明らかに組織的犯罪であることと、社会問題と必要悪について読者に考えさせる内容であることからジャンルとしては社会派推理小説かと思います。犯人たちにはある種の正義感がありますが真相に近づいた人物を殺してしまっているので共感できないという意見もあると思います。しかし正論と綺麗事だけでは解決できない問題もあることをしみじみ感じさせる作品です。 |
No.2460 | 5点 | 霊柩車をもう一台 ハロルド・Q・マスル |
(2022/01/03 22:34登録) (ネタバレなしです) 1960年発表のスカット・ジョーダンシリーズ第8作です。ハヤカワポケットブック版(1961年出版)の巻末解説によると国内に初めて翻訳紹介されたマスル作品で当時のシリーズ最新作でしたが、過去のシリーズ作品を読んでる読者にちょっとした衝撃を与える趣向があり、最初に読むべきシリーズ作品ではないように思います。その巻末解説で「たくみな構成」とほめていますが、5万ドルの持ち逃げ事件、警察とギャングの癒着疑惑、遺産を巡る富豪一族の争いが複雑に絡み合いながらも読みやすく仕上げられています。第18章のほろりとさせるエピソードの活かし方も巧みです。しかし本格派推理小説としては本書のジョーダンの推理はかなり粗くて犯人特定の証拠は弱く感じるし、他の容疑者についてただ「するわけがない」との説明では説得力不足でしょう。 |
No.2459 | 5点 | 三匹の猿 笠井潔 |
(2022/01/02 22:33登録) (ネタバレなしです) 1995年に発表された本書は私立探偵・飛鳥井(見落としたかもしれませんが名前は表記されていないように思います)を主人公にした長編ミステリーです。母子家庭で育てられた女子高生から母親に内緒で父親を捜してほしいとの依頼を受けるのですが、スキャンダルまみれの人間関係が徐々に明らかになっていく展開は典型的なハードボイルドのプロットです。謎解き伏線を回収しながらの推理場面があって本格派推理小説要素もあるのですけどあまりにも錯綜している真相の説明には十分でなく、結構憶測で補っているように感じられました。矢吹駆シリーズと比べると哲学要素がない分読みやすいのですが、謎解きの魅力がいまひとつ及ばないように思います。 |
No.2458 | 6点 | 湖畔荘 ケイト・モートン |
(2021/12/29 22:15登録) (ネタバレなしです) 「秘密」(2012年)に続いて2012年に発表された長編第5作で、創元推理文庫版で上下巻合わせて700ページを超す大作であるところも「秘密」と共通しています。心理描写が非常に丁寧なので大作であっても重厚さよりも抒情性を感じさせるところがこの作者ならではの作風ですね。メインの謎が1930年代に起こった赤ん坊(セオ)の失踪事件であることと現代(2003年)でその謎解きを試みるのが女性刑事のセイディであること(但し警察の組織力には頼れません)が本書の特徴ですが、事件発生前の複雑な家族ドラマ描写が長々と続き、いくつかの秘密や問題が示唆されて緊張感も徐々に高まるのですが、事件発生後の描写が短いためかミステリーらしさは希薄に感じられるかもしれません。それでも最後は本格派推理小説風に伏線を回収しての謎解きがあるのですが、真相については何度か作中で語られる「コインシデンス(偶然の一致)」をどう評価するかで読者の賛否が大きく分かれそうな気がします。 |
No.2457 | 5点 | 塗りこめた声 曽野綾子 |
(2021/12/18 17:23登録) (ネタバレなしです) 曽野綾子(1931年生まれ)は純文学作品、ノンフィクション、エッセーなど幅広い執筆で知られていてミステリー作家のイメージはあまりありませんが、1961年発表の本書は珍しくも本格派推理小説です。全29章から構成され、各章の冒頭に他作家のミステリー作品からの引用が置かれていますが、有名作家だけでなくブルース・ハミルトン、ハリイ・オルズカー、ウイリアム・モール、ベルトン・コッブなどマニアックな作家もあって結構力を入れて書いた模様。しかし30人を超す登場人物の大半が書き込み不足で存在感が薄く、人間関係も曖昧な状況が終盤まで続くのでドラマとしても謎解きとしても盛り上がりを欠いてます(主人公などはちゃんと描かれているので書こうと思えば書けたはずですが)。終盤になって主人公が犯人がわかったと言いますが推理説明はほとんどせず、26章から29章に渡っての「役割のわからない疑問の人物」による自白で真相が判明するというのはユニークではありますけど後出し感の強い謎解き説明で、本格派としては不満があります。最後の事件がドラマとしてのインパクトはありますけどミステリープロット的には完全な蛇足にしか感じられないのも残念です。 |
No.2456 | 6点 | 風果つる館の殺人 加賀美雅之 |
(2021/12/16 21:56登録) (ネタバレなしです) 2006年発表のシャルル・ベルトランシリーズ第3作の本格派推理小説で加賀美雅之(1959-2013)の最後の長編作品となりました。生前に出版されたのが長編3冊と短編集1冊のみなのが本当に惜しまれます。あとがきで横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)へのオマージュであることが紹介されていますが、「犬神家の一族」に限らずいくつかの先行ミステリーを思い起こさせる場面がしばしばでした。それをパクリだとか焼き直しだと批判することも可能でしょう。雰囲気や描写が大げさだとか古臭いと思う読者もいるでしょう。本書を好きな読者は大好き、嫌いな読者は大嫌いとはっきり分かれると思います。私はもちろん前者です。第17章の2で「おそらく古今東西の犯罪史上に類例があるまい」と(パットが)驚く場面だって「いやいや、某米国女性作家の1930年代の本格派作品に類例があるでしょ」と突っ込みたかったです。でもそれも含めて大いに(そして懐かしく)楽しめました。 |
No.2455 | 5点 | ボニーとアボリジニの伝説 アーサー・アップフィールド |
(2021/12/12 22:21登録) (ネタバレなしです) アーサー・アップフィールド(1890-1964)晩年の1962年発表のボニー警部シリーズ第27作です。巨大なクレーターの中で発見された死体の事件を扱っていますが大自然描写はやや控え目です。とはいえアボリジニを大勢登場させて複雑な人間ドラマを形成させているところは十分に個性的な作品といえるでしょう。被害者の正体(登場人物リストには載ってません)が前もって把握されているにも関わらず捜査官のボニーには情報が伝えられていないという設定がかなり異様に映ります。まあそれだからボニーも自己流で事件処理しちゃうのですけど。犯人当てとか殺人動機とかはメインの謎でなく、どのような経緯で死体がクレーター内に出現したかの調査を謎解きの中心に据えているのも一般的な本格派推理小説とは大きく違うプロットで、万人受けタイプではないように思います。 |
No.2454 | 6点 | 死まで139歩 ポール・アルテ |
(2021/12/08 22:47登録) (ネタバレなしです) アルテを日本に紹介するのに貢献した殊能将之(1964-2013)が「狂人の部屋」(1990年)と並ぶ傑作と評価していたのが1994年発表のアラン・ツイスト博士シリーズ第10作の本書です。謎を盛り沢山にする作者ですが本書でもツイスト博士が「次々押し寄せる奇々怪々な出来事」と述懐するように謎また謎のオンパレードで圧倒します。真相も色々な意味で手が込んでおり、馬鹿々々しくて信じられないと感じる読者もいるでしょうけど本格ミステリの将来(作中時代は1940年代末)について議論したり、密室トリックのカテゴリー分けしたりと本格派推理小説にこだわりぬいた作品です。トリックについては小粒なトリックの組み合わせであまり印象に残りませんが、ツイスト博士が最後に解明した「狂気のなかにある論理」の悲しい結論は強く印象に残りました。 |