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ミステリの祭典

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翼とざして

作家 山田正紀
出版日2006年05月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2022/09/11 23:03登録)
(ネタバレなしです) 2006年に発表された「アリスの国の不思議」という副題を持つ本書は、作者が自分なりにセバスチャン・ジャプリゾのサスペンス小説「シンデレラの罠」(1962年)と「新車の中の女」(1966年)を書いてみたいと意識して作られました。私はジャプリゾを読んでいないので作者の思いがどれだけ実現しているかはわかりませんけど、「サスペンス、スリラーがどこか一点を境にして本格ミステリーに変貌していく」を目指した作品らしいので読んでみました。作中時代は1972年、舞台は沖縄の無人島で文字通りの孤島ミステリーです。全体の半分を占める第1章に相当する「孤島」の章では主人公の女性が自分が仲間の一人を崖から突き落とすのを自分で目撃するという、不思議な事件が起こります。過去と現在が交互に描かれ、主人公の心は乱れまくりと非常に幻想的です。第2章「殺意の翼」では主人公が交替しますが、不思議な謎は増える一方だし第2の主人公もまた自分がおかしくなってしまったのかと混乱します。しかし終盤にさまざまな伏線が回収されて合理的に謎が解かれるところは確かに本格派推理小説です。異様な動機を読者に納得させるためか登場人物たちの心の揺らぎがちょっと好都合的な手段で好都合的なタイミングに引き起こされている感はありますけど。

No.1 6点 蟷螂の斧
(2014/03/09 09:29登録)
裏表紙より~各国が領有権を主張している南洋の島、海鳥諸島。その中のひとつ、鳥迷島に、右翼青年のグループ『日本青年魁別動隊』が上陸した。しかし、上陸早々、仲間のひとりが断崖から突き落とされた!わたしは、わたしが突き落とすのを見ていた…。グループの人間が次々と惨劇遭う。仕掛けているのは、わたしなのだろうか。わたしも、殺されるのだろうか。~著者のミステリーとの出会いは「僧正殺人事件」「Yの悲劇」「新車の中の女」三冊とのこと。「新車の中の女」のアイデンティティの揺らぎをモチーフにした作品です。60年代後半から70年代にかかる物語で、「東京流れ者」「ベンチャーズ(キャラバン)」「三島由紀夫」「007(ドクター・ノオ)」「太陽がいっぱい(アラン・ドロン)」「夕日が泣いている(スパイダーズ)」など青春時代を思い起こさせる言葉が出てきました。著者とほぼ同年代なので懐かしい(笑)。サスペンス色の強い作品ですが、幻想(揺らぎ)が回収されてゆく様は読みごたえがありました。この点は本格ものを意識していると思いますが、ややご都合主義といわれても仕方ないところもあります。しかし、「揺らぎ」の要因は初物と思われ評価したいと思います。挿入されている寓話「蠍とカワウソ」(蠍はこうするように生まれついている)→(わたしは、誰よりも愛しているのですから・・・)が印象に残ります。

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