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ミステリの祭典

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動く指
ミス・マープル

作家 アガサ・クリスティー
出版日1958年01月
平均点5.71点
書評数14人

No.14 6点 斎藤警部
(2023/05/27 18:24登録)
風よ、教えてくれ。 私はこの物語で、クリスティにミスリードされていたのだろうか。。。

小さな田舎町(セントメアリミードに非ず)を混乱の渦に投げ込んだのは、連続する匿名の『誹謗中傷手紙』投函事件。やがて二人の人物が命を落とす。この町で療養中の傷痍軍人である独身青年は、同行者たる彼の妹にまで届けられた匿名の手紙 .. あなたたちは実の兄妹ではく云々なるいやらしい内容 .. をきっかけに事件解決へ向け、爽やかな恋愛模様を交えつつ、ゆるりと動き出す。。。。

ミス・マープル登場の遅いタイミングに、大らかなる旨味あり。 鮎川哲也の長篇(鬼貫や星影の登場にチキンレースの如くギリギリまで待たされがち、全てではないが)を思わせる。

大きな捻りを擁しているかの様であり、実はそうでもない?物語構造。 それも悪くない。

二周回って?意外性の枯れた?真犯人像。 だがそれもまた良し。

ロジック重視派でない私でさえ "もう少し推理が欲しい" と願ってしまう、論理の道筋の儚さ。 許します。 唐突な『冒険解決』も責めはしません。

最後の台詞、凄く良い。

日本人には?厄介な、二人のミス・バートン(Miss Burton & Miss Barton)が「主要登場人物表」に掲載される小説でもあります。

No.13 7点 虫暮部
(2022/12/08 13:06登録)
 静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。

No.12 5点 nukkam
(2022/09/02 10:00登録)
(ネタバレなしです) 1943年発表のミス・マープルシリーズ第3作の本格派推理小説ですが舞台がいつものセント・メアリ・ミード村でないためか、他の方のご講評で紹介されているように彼女が登場するのは物語が2/3ほど進行してからですし登場以降もそれほど目立っていません。匿名者による悪意と中傷に満ちた手紙がばらまかれて自殺(かもしれない)事件まで起きてしまうというプロットがなかなかユニークで(カーター・ディクスンの「魔女が笑う夜」(1950年)やジョイス・ポーターの「誤算」(1965年)に影響を与えたかも)、匿名者を象徴するかのようなタイトルが秀逸です。現代では手段こそ電子化されていますが匿名という安全圏(のつもり)からの誹謗中傷行為というのは昔もあったのですね(なかなか表面化しないでしょうけど)。ただ本書での匿名の手紙の扱いは微妙で、文面や内容の描写や手紙を受け取った人々の反応描写が物足りないです。主人公(語り手)の探偵行動もどこか淡白で、第2の事件(こちらは明確に殺人事件)が起きても謎解きがあまり盛り上がりません。クリスティーが自薦ベストテン作品に入れた自信作ですが、個人的には可もなく不可もなくの作品です。

No.11 4点 レッドキング
(2021/03/25 16:54登録)
療養のために田舎の旧館を借りた若者と付添いの妹。都会風な裕福兄妹を待っていた村中巻き込む醜聞怪文書騒ぎ。騒ぎはやがて自殺・殺人事件へと発展し・・。本来は一番に怪しまれる立場の人物に煙幕をはる為の「いかにも~が行いそうな」偽装行為。加えて一人称叙述・・「アクロイド」以降、読者にとっては拭い切れない疑惑・・の二重煙幕。
※「女はたいがい、自分の子供のことを、あまり好きではありません」・・嗚呼、何という「残酷な真理のテーゼ」

No.10 7点 蟷螂の斧
(2020/03/14 16:45登録)
(自薦の一冊)裏表紙より~『傷痍軍人のバートンが療養のために妹とその村に居を構えてまもなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられた。陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆い、やがて名士の夫人が服毒自殺を遂げた。不気味な匿名の手紙の背後に隠された事件の真相とは?ミス・マープルが若い二人の探偵指南役を務める。』~

なんとも言えないほのぼの感。サブストーリーですが、兄妹二人の恋の同時進行は初もので楽しめました。「冒頭に罠。殺人者の思惑通り読者が引っかかる」と著者の談。その通り!。今回もミスリードにしてやられました(笑)。

No.9 5点 青い車
(2016/07/18 16:59登録)
 ミス・マープルの出番は少なく、今回の主役は完全に舞台となる町に移り住む兄妹です。特に妹の姿が生き生きと描かれる様は悪くありません。ただし、そもそもアガサ・クリスティーはこれ見よがしに大袈裟なのは嫌いなのかもしれませんが、事件は他に例がないほど地味です。誹謗中傷の手紙を除けばアイディアらしいアイディアはなく、クイーンにおける靴や帽子のような推理のとっかかりもありません。作者の密かなお気に入りだったそうですが、瑞々しい小説としての魅力はいいものの、ミステリーとしては二軍の出来となってしまうと思います。

No.8 7点 makomako
(2015/07/19 10:34登録)
 スマープルものではあるが、彼女が出てくるのは本当に最後に近くなって「これってミスマープルシリースのはずだよなあ?」と心配になったころでした。
 それまでは田舎でのめったに起きないような出来事のお話が続きます。やや平凡な感じはしますが、読み進むのに苦痛なことはなくすらすらと読めました。
 クリスティーの作品にはこんな人本当にいるのと思わせるような変な人物はあまり登場しないので、安心して読めるのもよいのでしょう。かなりしつこくうっとうしい人物は出てくるけどまあ許せる範囲です。
 乙女チックな感じ出てくるので若い女性が読むともっと面白いかもしれません。
 最後はめでたしめでたしに近いので読後感は良いです。

No.7 7点 了然和尚
(2015/07/16 11:07登録)
よくある構図かと思いますが楽しめました。犯人は娘のミーガンであるかのように書かれていて、ちゃんと証拠的なものも書かれています。最後にどんでんがえしで夫の妻殺しとなるのですが、それはないやろと感じます。(こっちの手がかりは書かれてた?)
しかし、マープルの説明には納得せざるをえません。例えば、殺されたお手伝いさんは「ミーガンが手紙を入れたのを見た」とミスリードされますが、「だれも手紙を入れるのを見なかった」と考えた方が、その後の行動がしっくりきます。家庭教師へ怪文書がこなかったことも同様です。燻製ニシンのミーガンが、ちょっと個性的すぎるキャラクターのために、人によってどう感じるかで本作の評価は変わりそうですね。

No.6 6点 クリスティ再読
(2015/06/07 21:55登録)
ステロタイプをまったく使わない大衆小説というものはありえないが、ミステリの場合には「ステロタイプを使いつつそれを裏切る瞬間があってこそ」だとは言えると思う。

この作品では結構いろいろのジェンダーがらみのステロタイプがネタとして使われている(「女の方がオトコよりずっと辛辣な悪口を言う」とか「セックスアピールのない女性」とかね)が大きなネタとして扱われていて、フェミっぽい分析だってやれそうな感じだね。まあ便利なステロタイプは、それが時流から外れたら最後「偏見」して非難させて終わりなんだが、さすがにクリスティはそれを結果としてズラした使い方をしていて、まあ何とか現在でもセーフかなぁ。

「馬みたい」とさえ評された不思議ちゃんミーガンのシンデレラストーリーとか、結構萌え視点で楽しんでもいい(不思議ちゃん讃な傾向がクリスティにはあるでしょ...そういえば「ABC」のミーガンも似たタイプ)とは思うが、実はこれ、こういう筋立てのゆえか、本当はゴシックロマンスの骨格を持っている(だから今作のマープルはタダに脇役だ)ことがバレるというリスクもある....別なレベルでのステロタイプに回収される想定外な結果だね。

男性ミステリマニアだとこういう読みは完全スルーになりがちだろうね。クリスティは女性なことをお忘れなく。

No.5 5点 あびびび
(2013/12/18 14:48登録)
嫌がらせの手紙がなんでもない事件を混乱させている。それこそ犯人の狙いだったが、分かってしまえばごく普通の動機、事件だった。それを物語の4分の3くらいに登場したミス・マーブルが指摘するのだが、囮捜査で事件解決に導くため謎解きの醍醐味はない。

それでも駄作とは言えないと思う。クリスティーのレベルからはやや見劣るものの、読後感は悪くなかった。

No.4 5点 好兵衛
(2011/04/23 17:10登録)
そんなにイメージがない作品。
悪くもないし、そんなによくもないといった感じ。

いやがらせの手紙の発想は面白いし。
それで村がごちゃごちゃするかんじも面白い。
しかし、それらが面白いということは殺人事件のおもしろさは
むしろ低くなっている。
ミステリというか、サスペンスに近い感じもする。

その模写や雰囲気は
ある意味、クリスティー色が強い作品といえる。
だが、トリック、ロジック斬新でめぼしいものは、あまりない。

No.3 5点 江守森江
(2010/09/08 03:03登録)
これまたドラマを観てからオサライしてきたのだが、久々に原作よりドラマの方が楽しめる作品だった。
ドラマではマープルも結構絡んでヒクソンの良さが出ていた。
但しドラマ版は、ミスリードされず自殺に見せた殺人事件が起きてすぐに犯人の目星がつく欠点がある。
タイトルの「動く指」に関しては中傷の手紙の宛名をタイプする事を指し、推理の鍵だと暗示しているのだろう。
クリスティ月間でポワロが無くマープル&フレンチ・ミステリー(色々な作品をフランスでアレンジしたシリーズ)を中心に放送するAXNミステリーにはビックリ(NHK・BSに完敗かな?)

No.2 4点 りゅう
(2010/02/14 08:47登録)
 この作品は、ミステリーの要素が希薄だ。登場人物や人間関係の描写が主であり、読んでいる時にはミステリーであることを忘れてしまう程だ。クリスティーは自作のベストテンの中に本作品を選んでいるが、これは登場人物への思い入れの強さによるものであろう。
 物的証拠がないため、最終的にはマープルと警察は犯人に罠を仕掛けて、逮捕する。謎解きの面白さがないため、採点は厳しめとなった。文章は会話が主体であり、非常に読みやすい。
 しかし、なぜ表題が「動く指」なのであろう。読み終えてもわからなかった。謎のままである。

No.1 7点
(2009/06/15 21:26登録)
小さな田舎町を騒がせる匿名のいやがらせの手紙を書いているのは誰か?
一人称形式で書かれた本作は、ミス・マープル初登場の『牧師館の殺人』と同じように第三者的立場から見られた住人たちの姿がじっくり描かれていて、なかなか味わい深い作品です。
発想は実にシンプルで、下手な作家が書けばせいぜい凡作にしかならないでしょう。ところが、登場人物たちの性格描写をしっかり行うことがミスリーディングになってしまうという、クリスティーならでは手際を見せてくれているのです。ストーリーを追っているうちに、いつの間にかある前提に捉われてしまうよう、巧妙に仕組まれています。
ミス・マープルが登場するのは、すでに話が8割ぐらい進んでからです。その後も最後の推理部分を除くと、彼女の出番は10ページちょっとぐらいのものですので、そこがファンには物足らないかも。

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