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ミステリの祭典

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ヨーク公階段の謎
プール警部シリーズ

作家 ヘンリー・ウエイド
出版日2022年09月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2022/11/07 14:50登録)
(ネタバレなし)
 第一次大戦を経た英国。「フラットン銀行」の頭取で金融界の大物ガース・フラットン卿は、旧友の元陸軍将校ハンター・ローン卿から相談を受ける。その内容は、ハンター卿が会長を務める金融会社「ヴィクトリー・ファイナンス」の重役に就任してほしいというものだった。一度は応じたガース卿だが、その後、今度の話を再考。ガース卿は友人の銀行家でユダヤドイツ系のレオパルド(レオ)・ヘッセルにどうすべきか意見を求める。ふたりはロンドンの名所「ヨーク公階段」の近くを歩くが、そのとき速足の若い男がガース卿に接触。若者は最低限の詫びを残すとそのまま立ち去った。だがしばらくしてガース卿は近隣の場で急死。もともと心臓が悪かったガース卿は、先の接触事故もあっての病死と思われるが、やがて徐々にその死の周辺に事件性が浮上する。ロンドン警視庁の若手ジョン・プール警部は、この案件を捜査するが。

 1929年の英国作品。
 ウェイド(ウエイド)はこれで3冊目の評者だが、ようやく日本でもやや知られたシリーズキャラクターのジョン・プールものに対面した。
 本作でデビューのプールは、オックスフォード大学を卒業した元苦学生で弁護士の経験もある独身の若者。ちょっとだけキャラクターに存在感を見やる。本作では、事件の関係者の女性にほんのりと胸をときめかせてしまう描写もあり、モース警部や評者の大好きなあのアメリカの警察官のようで、その人間味に好感が持てる。

 お話は、とにかくそのプールが事件関係者の間から足で証言をかき集めていく描写にほぼ徹しており、丁寧な捜査警察小説なのはいいのだが、正直、退屈さと紙一重というところ。会話が多めの文体と、翻訳がとても良いことでけっこう救われている。
 それでも事件の最大容疑者が浮かび上がり、それをフックに読者の興味をひき、後半のさらなるいくつかの仕掛けにもっていく手際などよく出来てはいる。
 結局は、終盤で、こういうトリックというかミステリ的なネタまで用意していたか! と軽く驚かされた。

 巻末の丁寧な解説によると、有名なミステリ同人誌「ROM」基幹の加瀬氏(故人)や小林氏がウェイドの大ファンだというが、なるほどこういう方向の作品が多いというなら、それもわからなくはない。
 といいつつ評者などは『死への落下』はそれなりに面白かった、『リトモア』はやや期待外れだった、という感じで、まだそんなにウェイド作品が面白い、とは思えない方なのだが。

 トータルな楽しめ度でいうなら、今回の作品は『死への落下』と同じぐらいかな。良作だとは思うが、とにかく中盤の冗長な感じ(それなりに楽しめるのだが)でちょっと減点して、7点に近いこの評点というところで。

No.1 5点 nukkam
(2022/09/19 19:28登録)
(ネタバレなしです) 英国のヘンリー・ウェイド(1887-1969)は2つの世界大戦では軍人として活躍し、行政長官や治安判事などを歴任し准男爵の地位を継承するなどまさに「名士」と呼ばれるにふさわしい人物でした。ミステリー作家としての活動は余技程度だったそうですが、1926年から1957年の間に長編20冊と短編集2冊をこつこつと発表しています。その作風は一言で言えば質実剛健、警察の捜査を丁寧に描いたクロフツ流の本格派推理小説や倒叙推理小説ですが人物描写ではクロフツを上回っていますし、印象的に物語を締めくくる技術にも長けています。1929年出版の長編第3作である本書は全作品の約1/3(長編7作と短編7作)に登場するプール(Poole)警部シリーズ第1作の本格派推理小説です。医師から健康への警告を受けていた銀行家が歩行中に他人とぶつかり、しばらく後に倒れて死んでしまうという珍しい事件を扱っています。殺人ならどんなトリックが使われたのか、動機はプライヴェート関連かビジネス関連か、誰に犯行機会があったのか、様々な疑問に対して多くの証言が集められ、部下たちを動員しての丁寧な現場検証(現場見取り図は欲しかったです)とプールの捜査は多岐に渡りますがちょっと焦点が定ってない感もあって読みにくく、読者の集中力を求める作品です。エンディングの演出はなかなかユニークです。

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