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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.685 3点 電話の声
ジョン・ロード
(2015/07/12 07:46登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表のプリーストリー博士シリーズ第47作の本格派推理小説。しかしプリーストリー博士は完全に脇役扱いで、本書の名探偵役はジミー・ワグホーン警視です(世界推理小説全集版ではジミイと表記)。犯罪研究家でもあったロードならではでしょうか、本書は実際の犯罪を下敷きにした作品とのことです。リアリティーを重視し過ぎたためかあまりにも地味なストーリーになってしまい、相変わらず個性のない人物描写と相まって退屈の方が先立ってしまったような気がします。ジミーが犯人をびしっと名指しした場面ではさすがに引き締まりますが、よく読むと推理よりもはったりの方が多いみたいですね。まあそれも名探偵の条件かもしれませんけど(笑)。


No.684 6点 死の序曲
ナイオ・マーシュ
(2015/07/12 07:29登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のアレン警部シリーズ第8作である本書はそれほど高い評価は得ていないようですが、容疑者数を絞り込んでコンパクトにまとまっており、代表作とされる「ランプリイ家の殺人」(1940年)よりも個人的には気に入っています。27章から構成されていますが、「唐草模様」というタイトルの入った第7、12、25章での容疑者たちのやり取りやモノローグがなかなか面白く、この中の誰が犯人だろうという読者の興味をさらに刺激しています。


No.683 6点 マローン殺し
クレイグ・ライス
(2015/07/12 07:25登録)
(ネタバレなしです) クレイグ・ライス(1908-1957)の死後の1958年に出版されたマローンシリーズ第一短編集で10作品が収められています。粗い謎解きの作品も少なくありませんがライスならではの人情物語は短編でも十分堪能できます。謎解きのまとまりがいいのは「永遠にさよなら」だと思いますが、ライスならではの個性が1番発揮された作品なら悲哀の色濃い「邪悪な涙」だと思います。いつも控え目な秘書のマギーが健闘する「マローン殺し」や女性レスラーが登場する「恐ろしき哉、人生」なども面白いです。


No.682 5点 魔神の遊戯
島田荘司
(2015/07/12 06:44登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表の御手洗潔シリーズ第9作の本格派推理小説で舞台はスコットランドです。魔神の伝説、魔神の咆哮、魔神に引きちぎられたような死体とスケールの大きな謎が用意されているところは島田らしいのですが過去作品、例えば「暗闇坂の人喰いの木」(1990年)と比べると作風が微妙に違います。猟奇的な殺人が起きますがグロテスクな描写は相当抑えられています。狂気描写も同様です。これを読みやすくなったと好意的に評価する人もいれば、物足りないと批判する人もいるでしょう。私は個人的には肯定派です(ただ一方で「暗闇坂の人喰いの木」にはどこか魅かれるところもあるのですが)。謎解きには不満点が多く、肝心の魔神トリックに魅力がありません。犯人の計画も随分と念を入れているのですが細工を弄し過ぎていて失敗リスクが高く、これが成立したというのはあまりにも好都合過ぎる展開にしか思えませんでした。犯人と御手洗潔の最後の問答も締め括りとしてはキレがありません。


No.681 5点 音のない部屋の死
ハーバート・レズニコウ
(2015/07/12 05:36登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の非シリーズもの本格派推理小説です。謎解きプロットに父子ドラマを織り込もうとし、音響メーカーの音響実験室(無響室)という凝った犯罪現場でしかも準密室状態、秘密主義の被害者のため動機の謎解きも難航と、実に色々詰め込みかつ丁寧に謎解きしてはいるのですがもう一工夫欲しかったです(私がぜいたくなのかなあ)。建築家出身の作家ならではの緻密な描写ではあるのですが理解力のない私としては現場見取り図はぜひ欲しかったです(図があれば不可能犯罪性もそれを打破するトリックももう少しわかりやすかったと思います)。同じように企業を舞台にした本格派推理小説を得意としたエマ・レイサンと比べてしまうと人物描写の弱さで損してしまい、誰が誰だかよくわかりにくかったです。


No.680 4点 ふたりで探偵
平岩弓枝
(2015/07/12 04:43登録)
(ネタバレなしです) 1987年に発表された短編集で旅行記や紀行文を書く作家の夫と旅行社の添乗員である妻の活躍する8作が収められています。妻の旅行先での経験や情報を聞いた夫が推理で謎を解くプロットパターンが多いので本格派推理小説といってもいいのですが、大したことのない謎に大したことのない推理とミステリーとしては薄味です。点数評価が低目なのはそのためです。但し旅行描写(ほとんどが海外旅行)と人情談はなかなか読ませるものがあり、手応えのある謎解きを期待しないで読めば楽しめると思います。(新潮文庫版で)40ページに満たない作品ばかりで気軽に読みます。


No.679 6点 死角に消えた殺人者
天藤真
(2015/07/05 22:35登録)
(ネタバレなしです)  1976年発表の長編第7作(鷹見緋沙子名義の「わが師はサタン」(1975年)もカウントすれば第8作)の本格派推理小説です。互いの関連性を見出せない4人の被害者の誰が狙われたのかというユニークな謎解きが特色で、この種のプロットでは笹沢左保の「死人狩り」(1965年)という前例もありますが本書は(登場人物の1人が指摘しているように)「世間知らずの温室娘で、することなすこと頼りなくて、そのくせ気だけは強くて自分のすることが全部正しいと思いこんでる」女性を主人公にしているのが個性になっています。他の登場人物もかなりクセのあるキャラクターが多く、読者の好き嫌いは分かれそうですが彼らが衝突したり協力したりを繰り返していく展開は読み応え十分です。


No.678 6点 呪われた穴
ニコラス・ブレイク
(2015/07/05 22:26登録)
(ネタバレなしです) 「旅人の首」(1949年)から久しぶりとなる、1953年に発表されたナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第10作となる本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「人物描写と堅実な推理」を誉めていますが私もそれに賛同します。ジョン・ディクスン・カーを彷彿させるところがあり、村を舞台にした匿名の手紙事件というプロットがカーター・ディクスン名義の「魔女が笑う夜」(1950年)と共通していますし、ある小道具で某作品(作品名は伏せます)のメイントリックを思い浮かべる読者もいるでしょう。しかし全体の仕上げはやはりブレイクならではのもので、特に最終章でのナイジェルの推理と村人たちの行動を交互に描写した構成と劇的な結末の効果は見事です。長らく絶版状態のハヤカワポケットブック版(ナイジェルがナイゲルと表記されています)は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ新訳版が待ち望まれます。


No.677 5点 『風と共に去りぬ』殺人事件
ジャックマール&セネカル
(2015/07/05 22:15登録)
(ネタバレなしです) 1981年に発表されたサンソン&ステファノプーロスシリーズ第2作の本格派推理小説ですが、このコンビ作家の1人、イヴ・ジャックマール(1943-1980)は本書の出版時には既に世を去っています。何と驚き、本書の舞台はハリウッドです。このフランス作家が果たしてアメリカをどう描くかというだけでも興味津々です。映画に関する薀蓄(うんちく)もたっぷりで、好きな人にはたまらないでしょうが私のように映画をあまり知らない人には実在の映画関係者と物語の登場人物がちょっとごっちゃになってしまいました。ややB級ミステリー風な展開と専門的な知識が必要な謎解きは好き嫌いが分かれそうですが、なるほどこれはアメリカを舞台にする必要性があったなと十分納得できます。そして結末の悲劇的な演出も印象的で、やはりこの作家は私にとって「欠点も数多いがそれでも何かを期待させてくれる作家」の1人です。クリスティーの「鏡は横にひび割れて」(1962年)の謎解きネタバレをしているのはよくないなと思いますけど(シリーズ前作でもクリスティー作品ネタバレやってますが、あれは謎解きプロットと密接に絡むので例外的に仕方がないとは思います)。


No.676 5点 聖堂の殺人
S・T・ヘイモン
(2015/07/05 21:57登録)
(ネタバレなしです) 1982年発表のベンジャミン・ジャーネットシリーズ第2作で、CWA(英国推理作家協会)のシルバー・ダガー賞を獲得しています。本格派推理小説に属する作品ですが、万人受けするタイプではありません。宗教色が滲み出ていること、さほど生々しい描写ではないものの被害者がむごたらしい殺されていることなどは好き嫌いが分かれるでしょう。ハードボイルド小説ほど過激ではありませんが暴力的な場面もあります。最終的には犯人の自白で事件は終わるのですがジャーネットが懸念しているように、その自白にさえもわが身かわいさの嘘が混じっているのではという疑念が最後まで払拭されませんでした。文章は読みやすく、時にはユーモアも見せるのですが後味の悪さが残る作品でした。


No.675 5点 ウィッチフォード毒殺事件
アントニイ・バークリー
(2015/07/05 21:49登録)
(ネタバレなしです) 1926年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第2作はユーモア豊かな本格派推理小説で、サスペンスには乏しくとも主役3人のやり取りがなかなか楽しくて退屈しませんでした。実際に起きた殺人事件からヒントを得ているそうですが、晶文社版の巻末解説を読むと実に多くのネタを作品に取り入れているかに驚かされます(借り物ネタが多いことに個人的に感心できないところもありますが)。最終章の「究極の答え」もビギナー読者をミステリー嫌いにしてしまう危険性のある結末だと思います(実験精神は誉めてあげたいところですが)。明らかにミステリー通向けの作品です。


No.674 4点 史上最悪のクリスマスクッキー交換会
レスリー・メイヤー
(2015/07/05 21:44登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表のルーシー・ストーンシリーズ第6作です。創元推理文庫版で300ページに満たない分量ながら、登場事物リストには35人もの人名が載っています。しかし物語の流れはスムーズで、大勢の登場人物も混乱を招かないところはさすがです。陽気なだけの作品ではなく、生活苦からドラッグ取引に手を出す漁民と、それが子供たちの世界にまで関わってくる描写などがコージー派らしからぬ不快感を読者に提供しているのが個性となっています。謎解きは相変わらず物足りなく、推理要素が少ないままに解決してしまいます。


No.673 8点 三人の名探偵のための事件
レオ・ブルース
(2015/07/03 10:56登録)
(ネタバレなしです) 英国のレオ・ブルース(1903-1979)の1936年発表のデビュー作で最高傑作の呼び声も高い本格派推理小説です。パロディーミステリーでもあり、3人の名探偵はクリスティーのエルキュール・ポアロ、セイヤーズのピーター・ウィムジー卿、チェスタトンのブラウン神父を彷彿させる人物像です。ビーフ巡査部長の造形も秀逸で、いわゆる「アマチュア探偵を馬鹿にしてその意見に耳を貸さない頑固警官」役を完全に演じきっています。登場人物のキャラクターに頼っただけのミステリーではなく多重解決ものとしてもなかなかよく出来ており、推理の競演とどんでん返しが見事です。オリジナルのシリーズ物を先に読んでいれば本書の面白さは更に増加すると思います。


No.672 6点 研修医に死の贈り物を
レイア・ルース・ロビンソン
(2015/06/28 21:05登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表のエヴリン・サトクリフシリーズ第3作です。舞台は過去作品と同じくユニバーシティ病院ですが登場人物はほとんどが初登場です。作品ごとに容疑者が一新されるのは犯人当て本格派推理小説のシリーズとしては当然そうあるべきではあるのですが、こんなに容疑者が次々と出てくる病院にはあまりお世話になりたくないな(笑)。過去作品でも病院描写は丁寧でしたが、特に本書ではER(緊急救命室)ならではの緊迫感がよく伝わってきます。多少詰め込み過ぎの感もありますが複雑なプロット、サスペンスに富む展開、しっかりした謎解きをうまく両立させており、過去作品からの確実な進歩を感じさせます。


No.671 6点 ラバー・バンド
レックス・スタウト
(2015/06/28 20:42登録)
(ネタバレなしです) 1936年に発表されたネロ・ウルフシリーズ3作目の本書は謎解きとしてはやや容易過ぎの感もあるけれど伏線がしっかり張ってあり、シリーズ入門編として最適の本格派推理小説だと思います。全く関係なさそうな2つの依頼から物語が始まりますがプロットがいたずらに複雑になることもなく読みやすいですし、最後のまとめかたも上手いです。


No.670 6点 死のチェックメイト
E・C・R・ロラック
(2015/06/28 12:18登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表のマクドナルド警部シリーズ第24作の本格派推理小説で、戦時下の雰囲気が豊かです。第7章の終わりにある、「父が1940年以前に亡くなったのは幸せだった」というせりふは簡潔な表現ながら戦争の辛さをよく示していると思います。画家のアトリエ(殺人現場の隣と目されます)にいた5人と被害者の家を訪れた3人という、ある意味クローズド・サークル内の人物を対象に捜査をしている前半が密度が濃くて面白かったです。一方で捜査範囲が広がって昔の住人まで追跡している後半はややプロットが散漫にななったように感じました(追跡する理由はちゃんとあります)。トリックは印象的ですが、その結果導き出される真相はちょっと個人的には気に入らなかったです。でも序盤に殺人があってすぐに探偵による捜査と推理が始まるというオーソドックスな展開になっている分、「ジョン・ブラウンの死体」(1938年)よりはとっつきやすいと思いました。


No.669 6点 九つの答
ジョン・ディクスン・カー
(2015/06/28 10:56登録)
(ネタバレなしです) 1952年出版の本書は、「好事家への小説」という副題がついているように、謎解きマニアを意識して書かれた本格派推理小説です(シリーズ探偵は登場しません)。物語の合間合間で作者から読者に対して仮説が9回にわたって提示され、その仮説は間違いで真相は違うところにあると警告されます。中でも9番目の仮説はいかにも謎解きマニアの読者を意識したものです。中盤からの殺人挑戦ゲーム以降の展開はカーが以前書いたラジオドラマ脚本の焼き直しにすぎず、先が読めてしまった...と思っていた私は第7の警告で見事に背負い投げを食らいました。トリックはかなり強引で無理があるように思いますが、非常に複雑なプロットとたたみかけるような場面変化の連続によってじっくり読むもよし一気に読むもよしの作品に仕上がっています。


No.668 6点 死人の鏡
アガサ・クリスティー
(2015/06/22 00:29登録)
(ネタバレなしです) 1937年出版のポアロシリーズの中短編集です(中編3作と短編1作)。中編は3作とも過去に発表された短編をリメイクしたものです。オリジナル短編は純然たる犯人当てミステリーですが、中編化によって登場人物の描写を充実させています。それが最も成功したのが「厩舎街(ミューズ)の殺人」でしょう。「謎の盗難事件」と「死人の鏡」は対照的な作品ですね。前者は中編化する必要性を感じない軽いテーマだし、後者は長編ネタでもおかしくないぐらい複雑なプロットです。唯一の短編「砂にかかれた三角形」は短編らしく小ぢんまりとまとまっていますがポアロの警告はなかなか印象的です。


No.667 6点 雷鳴の中でも
ジョン・ディクスン・カー
(2015/06/22 00:14登録)
(ネタバレなしです) 1960年発表のフェル博士シリーズ第20作の本格派推理小説です。この作者としては地味な部類ですがすっきりしたストーリー展開で読みやすく、推理合戦的な趣向もあって十分楽しめました。不可能犯罪風に仕立てるのに苦心した感がありますがトリックも印象的です。


No.666 5点 聖なる泥棒
エリス・ピーターズ
(2015/06/21 23:58登録)
(ネタバレなしです)  1992年発表の修道士カドフェルシリーズ第19作です。宗教色が強い作品ですがキリスト教信者でなくてもわかりやすい物語です。とはいえ泥棒行為さえも「神のお導き」と正当化している議論は、巻末で解説されているように身勝手と感じる読者も多いのでは。謎解きはかなり幸運にまかせて(これも神のお導きか?)解決されています。なお本書を読む前に「聖女の遺骨求む」(1977年)と「陶工の畑」(1989年)を読了することを勧めます。特にシリーズ第1作である前者についてはこれまでの作品でもネタバレされていましたが、本書ではついに犯人の名前までが堂々ばらされてしまってますので。

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