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ミステリの祭典

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東方の黄金
ディー判事 別題『黄金の殺人』『中国黄金殺人事件』

作家 ロバート・ファン・ヒューリック
出版日1965年01月
平均点7.75点
書評数4人

No.4 10点 ポラ丸
(2026/03/29 09:11登録)
ロバート・ファン・ヒューリックは駐日オランダ大使をはじめアジア各地で外交官をつとめました。学者としても超一級の東洋学者(シノロジスト)、さらに江戸川乱歩達と交流もあるミステリー愛好家でもあった。

そのファン・ヒューリックが中国の公案小説、狄仁傑(ディー・レンチェ)を主人公とした「狄公案」を素材に書き上げたのが「狄(ディー)判事シリーズ」です。

公案小説とは古代中国の公文書をもとにした読み物。その公文書自体が大変面白いらしい。当時の行政官は裁判官、捜査官を兼ね、悪賢い犯罪者との闘いに勝つと、その事例を同僚たちや後世の行政官の勉学のために詳しい記録に残した。それが明・清の時代には庶民の娯楽読み物になった。その公案小説には二大ヒーローがいて、一人は包公(包拯)もう一人この狄公(狄仁傑)。

ファン・ヒューリックはこの狄公案をそのままなぞったわけではなく、添え物の事件の謎解きやメインの事件の素材に使いますが、小説の骨子、事件の核心は全てファン・ヒューリック創作です。ただ副官4人、喬泰(チャオ・タイ)、馬栄(マー・ロン)、陶侃(タオ・ガン)、洪警部(ホン警部)は狄公案の登場人物でもあり、物語に時代の情緒を添えています。


このシリーズは多くの出版社から刊行され、早川書房のポケミスで全体が翻訳されました。ただ原書刊行順でもポケミスのNo順でも物語全体の進行順ではないため、読者に届けるべき楽しさが半減しているところがあります。つまり1作1作のミステリーは十分に一つの世界として完結し、どれを読んでも魅力的ではありますが、「狄判事ものがたり」という通しもの魅力が伝わらないのです。この文末に狄判事の任地順・物語の年代記順の一表を添付します。本書をスタートラインにして順に読まれたらいいと思います。

なお物語の魅力もここでまとめておきます。

このシリーズの魅力は
1.人間の愚かさや欲望で起きる事件の謎と狄判事が解決していく過程のミステリー。
2.4人の副官の物語。それぞれの人生がこのシリーズのもう一方のタテ糸を紡ぎます。
3.ご子息によれば本シリーズでファン・ヒューリックが一番書きたかったことはその「アジア愛」。それぞれの巻には古代中国の人々の暮らしと風物詩が必ず一つは描かれます。

1と2は既に論評されていらっしゃる方が多いと思います。自分は3の各巻に書かれた人々の風物詩を書き出してみたいですね。

「東方の黄金」で描かれた風物詩は二つ。「官吏の採用風景」「海から来る深い霧の中に見え隠れする隣国朝鮮と日本」でしょうか。

それでは「ものがたり順の」の作品リストです。

1.平来(ポンライ)
 ①東方の黄金
 ②螺鈿の四季
 ③五色の雲(短編「五色の雲」収録)
 ④鶯鶯の恋人(短編「五色の雲」収録)
 

2.漢源(ハンユアン)
 ⑤水底の妖
 ⑥雷鳴の夜
 ⑦通臂猿の朝(中編「寅申の刻」収録)
 ⑧青蛙(短編「五色の雲」収録)
 ⑨すりかえ(短編「五色の雲」収録)

3.蒲陽(プーヤン)
 ⑩江南の鐘
 ⑪白夫人の幻
 ⑫紅楼の悪夢
 ⑬真珠の首飾り
 ⑭観月の宴

4.蘭坊(ランファン)
 ⑮沙蘭の迷路
 ⑯紫雲の怪
 ⑰赤い紐(短編「五色の雲」収録)
 ⑱化生燈(短編「五色の雲」収録)
 ⑲小宝(短編「五色の雲」収録)

5.北州(ペイチョウ)
 ⑳北雪の釘
 ㉑西沙の柩(短編「五色の雲」収録)

6.都
 ㉒飛虎の夜(中編「寅申の刻」収録)~都への赴任途中
 ㉓柳園の壺

7.広東(カントン/広州)
 ㉔南海の金鈴

No.3 6点 nukkam
(2015/08/14 15:15登録)
(ネタバレなしです) ディー判事シリーズは作品発表順と作中事件の発生順がずれており、本書は1959年出版のシリーズ第3作ですが物語としてはディー判事最初の事件を扱っていて、ディー判事が副官マー・ロンやチャオ・タイと初めて出会う場面が描かれています。シリーズ初期の特長である、複数の事件が絡み合う複雑なプロットになっていて密室の毒殺トリックや(ネタバレになるので詳しく書けませんが)ちょっとした発想の転換など印象的な謎解きを多数含みます。オカルト要素の扱い方も巧妙です。なお本来のタイトルは「中国黄金殺人事件」(英語原題も「The Chinese Gold Mureders」)です。

No.2 7点 kanamori
(2010/08/31 21:08登録)
中国版「水戸黄門」+「大岡越前」、ディー判事シリーズ初期の傑作です。旧版「中国黄金殺人事件」で読みました。
知事としての最初の赴任地での事件を扱っていて、冒頭の見送りの場面から、赴任地の地理的要素まで重大な伏線になっていたりします。
例によって複数の事件がモジュラー形式で進展し、物語として読みどころが盛りだくさんで堪能しました。判事のささいな気付きで、大きな陰謀が暴かれる終盤が結構スリリングです。

No.1 8点 mini
(2008/10/26 10:40登録)
狄(ディー)判事シリーズはとても面白いのでもっと読んで欲しいシリーズだ
「東方の黄金」は発表順は第3作目だが、作中時系列では判事の最初の赴任地の話なので、赴任するいきさつや、後の作品でも判事の手足となって働く二人の部下、馬栄(マーロン)と喬泰(チャオタイ)との出合いなどが描かれ、順番的にはこれから読むのが適当との意見もあるようだ
私は原書刊行順に第1作「沙蘭の迷路」から入門でもいい気もするが、でも「東方の黄金」は屈指の傑作である
巧妙な密室トリックも出てくるが、密室トリックに関しては私は「迷路」での密室トリックの方が不気味で好きだ
やはり「黄金」の良さは見事なプロットに尽きる
意外過ぎる黒幕真犯人には賛否両論あろうが、それ以上に意外なのが運河に葬られた人物の超意外な正体で、これには慣れた読者でも驚くだろう
さらにメインのネタでは無いが、序盤で登場する幽霊の正体が最後の最後で明かされる粋な演出など、全編に亘って素晴らしい
物語の面白さ、謎解きといい、これを読んだらシリーズの虜になってしまうこと請け合いだ

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