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ミステリの祭典

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瀬戸内海の惨劇
南波喜市郎シリーズ

作家 蒼井雄
出版日1992年09月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 9点 斎藤警部
(2022/05/30 12:00登録)
初夏の瀬戸内海を舞台とした連続殺人劇。 往来の風景描写に滲むほどの旅情は文句無し。 或る小島の血腥い伝説を背景に、絞りに絞った僅かな登場人物群が次々と屍体で見つかる、異様な焦燥感。 格調ある文体と言葉択びで綴られた、本格ミステリと心理サスペンスのハイブリッド展開。 樽ならぬ、トランクならぬ「柳行李」と屍体並びに生ける人物の異様に複雑な移動(なのか!?)、きっちり追いきれなくともせいぜい雰囲気だけで問題無し。。と油断していたら!! 雰囲気とかそういう次元の問題じゃない!! やばい!! 偶然要素も濃いとは言え、そういう問題じゃねえ、心理的にも物理的にもあまりにも熱い灼熱の、劫火の如き複雑系アリバイ顛末!!! いや、よく考えたらそれ、アリバイと一言で呼べるものではありません・・・ 真相の或る部分、ずるい手を。。としばし思ったが、そのずるい要素さえ一息に呑み込み、実に奥深く巧みに、本格推理のガチンコ勝負に出る蒼井雄!! あまりに熱い涙を圧し出させずにおられぬ、情け迸る或る殺人シーン、これは貴重極まりなかった。。 一連の犯罪動機にも面積巨大な落とし穴、これは、戦前の当時にして、探偵小説における古臭い犯罪背景の典型をさりげなく一刀両断したものと捉えてよいか。  

世評もあり、『船富家』よりは数段落ちるのかな、それでもいいや、と漠然と心の準備をしていましたが、読んでみると個人的には全くそんな事は無い、充分に高い水準で肩を並べる逸品でありました。 確かに、ストーリーの大半は割とゆったり構えた所があり、そのくせ真相解明のラストスパートで一気呵成に密度を上げるようなアンバランスはありますが、だからこそこの強烈な感動(連城の短篇を彷彿とさせる)がもたらされたのではないかな、と思っています。

No.1 6点 nukkam
(2015/08/14 17:48登録)
(ネタバレなしです) 戦前の国内本格派推理小説を代表する「船富家の惨劇」(1936年)に続く南波喜市郎シリーズ第2作(1936年発表)です。姿の見えない犯人を追いかけるという、本格派推理小説としては結構風変わりなプロットで、地味な展開と次々に起こる事件のアンバランスな組み合わせが不思議な魅力を生んでいます。丹念なアリバイ捜査描写で評価の高い「船富家の惨劇」と比べるとスリラー要素が強いのがあだとなったのか一般的評価が低いのも理解できます。しかしクロフツやフィルポッツの影響があからさまなあちらよりも本書の方が私には個性的に感じられ、これはこれで面白い作品でした。定年までサラリーマンを全うした蒼井雄(1909-1975)にとって作家業はあくまでも副業に留まったようで、本書以降は目立った活躍もなく、残念ながら国内ミステリー界をリードする存在にはなれませんでした。

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