nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.865 | 5点 | 島崎警部のアリバイ事件簿 天城一 |
(2015/11/12 14:01登録) (ネタバレなしです) 2005年に出版された短編集で、PART1は列車の名前をタイトルにしたアリバイ崩しの中短編9作、PART2はよりバラエティーに富んだ14作が収められています。「ダイヤグラム犯罪編」の副題を持つPART1は時刻表を駆使する作品が多く、中には1つの作品で時刻表が5つも6つも使われています。ただ路線図が付いていなくてわかりにくい謎解きの作品があるのは不満でした。このPART1ではトリック批判の多かった鮎川哲也の「砂の城」(1963年)を擁護するために書かれた「急行《さんべ》」(1975年)が力作だと思います(鮎川作品のネタバレになっていますので注意下さい)。、「不可能犯罪編」という副題のあるPART2の方は書かれた時代が1948年から2001年までと幅広い上に全部がトリック作品というわけではなく、犯罪小説風や社会派推理小説風な作品もあるなど作品集としては統一感に欠けています。もっともPART1より多彩で楽しめたという読者もいるでしょう。この中では天城作品にしては珍しく犯人当て要素の強い「雪嵐/湖畔の宿」(2001年)が個人的には楽しめました。 |
No.864 | 3点 | 観音崎灯台不連続殺人事件 草野唯雄 |
(2015/11/11 10:11登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の尾高一幸シリーズ第6作で、過去の怨恨絡みの復讐劇を描いたサスペンス小説です。復讐する側も復讐される側も悪事の応酬となり、全く関係のない人間まで殺されてしまう仁義も正義もない展開です。尾高の推理は冴えまくっていますがそれほど緻密なものではなく、本格派推理小説の謎解きではありません。一気読みできる読み易さはありますがそれだけといえばそれだけの作品です。 |
No.863 | 6点 | チェスプレイヤーの密室 エラリイ・クイーン |
(2015/11/10 14:18登録) (ネタバレなしです) 1960年代から1970年代前半にかけて他の作家がエラリー・クイーン名義で書いたミステリーは30作近くもあり、真正のクイーンであるフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの承認を得ていることから偽作というレッテルこそ貼られてはいませんが、ハードボイルドや犯罪小説といった従来のクイーンのイメージと合わない作品があることもあってクイーンの熱心なファンでもそこまで手を伸ばそうという読者はまだ多くないようです。クイーン名義で3作品を書いたSF作家のジャック・ヴァンス(1916-2013)が1965年に発表した本書は、それらの中では最も真正のクイーン作品に近いと高い評価を得ている本格派推理小説です。ハードボイルドほどではないにしろ、どこか冷めた雰囲気があって謎解きも微妙に盛り上がりませんが最後はサスペンスが増加して、密室トリックがなかなか印象的でした。ヒロイン役のアンは他人と(家族とも)距離を置くような描写が多く、読者が共感を抱きにくいキャラクターではないでしょうか。だから最後の方で「かわいそうなお父さん」としんみりしているのを見ても「へえ、そういう感情もあったの」とこちらもドライな感覚で受け止めました。 |
No.862 | 5点 | 女囮捜査官 2 視姦 山田正紀 |
(2015/11/08 08:49登録) (ネタバレなしです) 1998年発表の北見志穂シリーズ第2作です。猟奇的なバラバラ殺人の犯人の異常ぶりが終盤にたっぷり描かれ、サイコサスペンス色濃厚なジャンルミックス型の警察小説としてよくできていると思います。ただ朝日文庫版の巻末解説で我孫子武丸が指摘しているように、ある種の不可能犯罪を扱い、巧妙なミスディレクションやトリックも用意してありながら謎の演出が弱いために本格派推理小説を期待すると物足りなさを覚えます。また時に矛盾を感じさせる犯人の行動が「異常な犯人だから」というのは説明として短絡的に過ぎるように思います。 |
No.861 | 5点 | ぼくらの気持 栗本薫 |
(2015/11/08 08:37登録) (ネタバレなしです) 1979年発表の「ぼくらの」三部作の第2作となる本格派推理小説です。「ぼくらの時代」(1978年)から2年が経過した設定ですが主人公3人の友情は変わらず会話は学生時代のノリと同じです。有力容疑者と成ったヤスヒコが単独行動に走り(そしてますます窮地に陥る)、それをぼく(栗本薫。男性です)と信がフォローするプロットで、このスラップスティック(どたばた劇)な展開はクレイグ・ライスのミステリーに通じるものがあります。特に終盤のサスペンスはすさまじく、いい意味で作者の若さが発揮されています。ただ謎解きとしては問題点もあり、動機の説明に力を入れていますがそれだけでは犯人当てとしての説得力は不十分です。機会についても推理してますが、多少の行き当たりばったりには目をつむるにしても本書の場合は余りに好都合で犯行が成立したという印象が残りました(失敗してもやり直しができたと説明はしていますが)。 |
No.860 | 5点 | 仮面舞踏会 ウォルター・サタスウェイト |
(2015/11/08 08:14登録) (ネタバレなしです) 1998年発表のフィル・ボーモントシリーズ第2作の本格派推理小説です。1923年のパリを舞台にしており、背景や食事の描写が丁寧です。歴史上の有名人が大勢登場していますが中ではヘミングウェイとガートルード・スタインが印象に残りました。古典的な本格派推理小説の雰囲気づくりを心がけた前作の「名探偵登場」(1995年)と比べると、麻薬や同性愛(直接的な描写はほとんどありません)が扱われ、アクションシーンも多いなどハードボイルド要素が表に出ているためか(もともとこの作者はハードボイルド作品も書いているそうです)、謎解きとしては若干散漫な印象を受けました。密室トリックが大したことないのは「名探偵登場」と共通しており、これは残念。ユーモアを適度に織り込んで重苦しくなり過ぎないのはよい工夫だと思います。 |
No.859 | 6点 | ハーヴァードの女探偵 アマンダ・クロス |
(2015/11/08 07:52登録) (ネタバレなしです) 1981年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第6作です(英語原題は「Death in a Tenurned Position」です)。名門ハーヴァード大学に初の女性教授誕生というニュースに男性教授たちが様々な反応を見せるところから物語が始まります。フェミニズムを取り上げているのがこの作者らしいですが、本書の場合はケイトが探偵活動の方に集中していますのでフェミニズムが苦手な読者にも受け容れ易い本格派推理小説だと思います。もっとも戦うタイプの女性でないと世渡りが難しいような結論になっているのがこの時代ならではでしょうか。謎解きは通常だと不満の残りそうな真相ですが、動機の説得力で支えています。 |
No.858 | 5点 | 芝居も大変 アリサ・クレイグ |
(2015/11/08 07:35登録) (ネタバレなしです) 1988年発表のディタニー・ヘンビットシリーズ第3作のコ-ジー派ミステリーです。最初は人物関係がごちゃごちゃしていますが読み進む内に物語の流れはスムーズになります。凶悪犯罪を扱っても陽気な作品の多い作者ですが本書では殺人事件にさえ至りません。しかし楽しい作品ながらも犯罪の影に潜む悪意は結構強力だったと思いました。 |
No.857 | 5点 | ブロンドの鉱脈 E・S・ガードナー |
(2015/11/08 07:21登録) (ネタバレなしです) 1962年発表のペリイ・メイスンシリーズ第67作です。序盤のモデル契約書絡みの謎がやや難解です。殺人事件は中盤まで起きませんが起きてから法廷場面まではあっという間です。被害者を容疑者たちが次々と訪れていたという設定が謎を深めていますが、解決は切れ味鋭いと評価するか唐突であっけない真相だと評価するか微妙なところです。もう少し謎解き伏線を丁寧に張ってあればよかったのにと思いました。 |
No.856 | 5点 | 湖底のまつり 泡坂妻夫 |
(2015/11/06 09:45登録) (ネタバレなしです) 「11枚のとらんぷ」(1976年)、「乱れからくり」(1977年)と2作続けて本格派推理小説の傑作で注目を浴びた作者が1978年に発表した長編第3作で、連城三紀彦が「大掛かりな詐術で描いた巨大な『騙し絵』」、綾辻行人が「凄い作品」と大絶賛です。本書は幻想的な雰囲気、登場人物の情感描写など過去2作品とは異なる個性を発揮していることに成功していますし、『騙し絵』ならではの仕掛けもあります。ただ繰り返される官能描写は好き嫌いが分かれそうで、少なくとも万人に勧められる作品とは言えないでしょう。この官能描写も単なるお飾りではないところが巧妙ではあるのですが。 |
No.855 | 5点 | 脅迫者たちのサーカス 日下圭介 |
(2015/11/05 13:26登録) (ネタバレなしです) 1994年発表の倉原真樹シリーズ第6作で、色々なミステリー要素を含んでいますが総合的には誘拐サスペンスに分類できるかと思います。読者には誘拐でなく家出であることが最初から明かされているのですが、にもかかわらず身代金要求によって警察が誘拐事件として捜査を開始するプロットがなかなか個性的です。真樹の地道な捜査、スクープねらいのメディアの暴走、家庭ドラマ、執行猶予期間というタイムリミットなど様々な場面が入り乱れ、良く言えば多彩、悪く言えば焦点の定まりにくいストーリーです。真樹は女性ゆえに警察内で実力を正当に評価されていないようですが、あの独断的行動では出世に縁がないのもやむなしでしょう(笑)。最終章で真樹がある真相を見抜いたことが示唆されていますが、ちゃんと推理説明してくれないので本格派推理小説好きの私には不満でした。 |
No.854 | 5点 | 孤独なアスファルト 藤村正太 |
(2015/11/04 05:29登録) (ネタバレなしです) 藤村正太(1924-1977)は川島郁夫名義で1949年から中短編を発表していましたが、最初の長編作品が藤村正太名義で1963年に発表された本書です。病気療養や経済的理由による断筆もあって残された作品は多くないようです。本書は発表当時、「社会派的な味を持たせた本格推理小説」と評価されたそうですが個人的には社会派要素の方が濃いように感じました。地方出身者の田代省吾が東京で味わう孤独感がよく描けています。もっとも田代がハイライトされるのは序盤と終盤で、中盤は来宮警部の足を使った地道な捜査描写で占められています。丁寧でリアリティーのある捜査と推理で作品としての完成度は高いですが、読者が自力で犯人当てにトライできる謎解きにできなかったのは社会派推理小説全盛の時代の作品ゆえやむを得なかったのでしょう。良かれと思ってしたことが苦い結末になってしまう締めくくりが印象的です。 |
No.853 | 6点 | やぶにらみの時計 都筑道夫 |
(2015/11/03 23:59登録) (ネタバレなしです) 本格派推理小説、ホラー、SF、ハードボイルド、時代小説と様々なジャンルの作品を書き、海外ミステリーの翻訳や評論まで手がけた都筑道夫(1929-2003)は器用さだけでなくモダンなセンスを持っていたと評価されています。1940年代後半から数多くの短編を書いていたそうですが長編作品は1961年発表の本書が第1作となります。国内ミステリーで初めて2人称形式を採用した実験性で知られています。前半は主人公(きみ)の記憶喪失(正確には主人公の記憶が人々から次々に否定される)を扱ったスリラー小説風なプロットですが、中盤での海外ミステリーを引用しながらの推理場面は本格派推理小説らしさを感じさせます。起こった犯罪の謎解きではなく犯罪を阻止できるかに物語の興味は移り、最後はハードボイルド的な虚しさを漂わせる結末を迎えるなど多面的な要素を持った独創性が光ります。作者の才覚を十分に示しています。 |
No.852 | 5点 | ラリーレースの惨劇 ジョン・ロード |
(2015/11/03 22:49登録) (ネタバレなしです) 世界3大ラリーの1つであるウェールズ・ラリーGBの前身であるRACラリーの第1回大会が1932年に開催されたのに触発されて書いたとされる、1933年発表のプリストリー博士シリーズ第15作の本格派推理小説です。地名や車名の一部に架空の名前を使っているのはモータースポーツ業界から苦情を受けないようにする対策でしょうか(笑)。論創社版の巻末解説でコメントされているようにレース描写は序盤のみで、ほとんどが地道な捜査描写に終始するプロットになっているのはこの作者らしいです。犯人の正体は終盤まで伏せられてはいますが犯人当てとして楽しめる内容ではなく、レース中の事故死(と警察は当初判断します)はどのようにして発生したのかというハウダニットの謎解きの方が目立ちます。ただ現代の自動車とは構造の異なる部分の多いクラシックカーですので、このトリックも既に骨董品クラスです。発表当時はどのように受け止められたのでしょうか、気になります。 |
No.851 | 4点 | ウェディングケーキにご用心 ジェン・マッキンリー |
(2015/11/03 15:02登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家ジェン・マッキンリーが2009年に発表したカップケーキ・ベーカリーシリーズの第1作であるコージー派ミステリーです。スイーツが登場するコージー派といえばジョアン・フルークやリヴィア・J・ウォッシュバーンがいますので比べてみるのも一興かと思います。当然のように本書でも巻末にケーキのレシピが載っています。さて肝心の中身の方ですが、プロットはストレートな犯人当てです。コージー派ゆえに謎解きにあまり多くは期待してはいませんでしたが、それにしても重要な人間関係が終盤まで伏せられているなど読者に対するフェアプレーを全く考慮していないのが残念ではあります。主人公のメルが容疑者扱いされて周囲から敬遠され気味になるためかコージー派としてはリラックスした雰囲気はあまりありませんがさりとて暗い作風というほどでもなく、まずまず読みやすいです。 |
No.850 | 5点 | 黒後家蜘蛛の会5 アイザック・アシモフ |
(2015/11/02 05:47登録) (ネタバレなしです) 1985年から1990年にかけて発表された12編のシリーズ短編を収めて1990年に出版されたシリーズ第5短編集です。アシモフ(1920-1992)は本書以降にさらに短編を6作書きあげて世を去りました。このシリーズはまっとうな謎解きよりもとんち話やなぞなぞ的な作品の方がしっくりくるようで、「三重の悪魔」や「水上の夕映え」の方がチェスタトンの劣化コピーみたいな密室トリックにがっかりさせられた「秘伝」より数段楽しめました。 |
No.849 | 6点 | 放浪探偵と七つの殺人 歌野晶午 |
(2015/11/02 05:25登録) (ネタバレなしです) 社会に背を向け過ぎる信濃譲二の言動を作者が持て余しつつあったのではと思いますがこのシリーズは長編第3作の「動く家の殺人」(1989年)で終了となりました。その後さらに短編が8作書かれたそうで(それで本当に打ち止めらしい)、その中の7編をまとめて1996年に短編集として発表されたのが本書です。本格派推理小説としてしっかり作られた作品が多く(講談社ノベルス版では問題編と解決編に分けて袋綴じしていたらしいです)、特に「有罪としての不在」は講談社文庫版で70ページ超に及ぶ長めの作品で10人以上の登場人物を揃え、「読者への挑戦状」と「読者への確認」まで挿入された長編並みの密度に圧倒されました。犯人の名前を最初に明かしておきながらなお意外性を追求した「水難の夜」も出色の出来映えです。なお「マルムシ」はアイデアに先例があることが判ったため当初は単行本未収録で(だからタイトルは「七つ」になりました)、講談社文庫の増補版でようやく陽の目を見ましたが他作品と比べて見劣りのする凡作にしか感じられませんでした。 |
No.848 | 5点 | 奥多摩殺人3Wの逆転 水野泰治 |
(2015/10/31 15:19登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。鍾乳洞の殺人が起きるということで横溝正史の「八つ墓村」(1949年)を連想する読者もいるかもしれませんが、本書の鍾乳洞は観光客で賑わっている鍾乳洞なので雰囲気はまるで違います。2年がかりで案出したトリックを使っているそうですが小細工が多過ぎで、普通ならどこかで破綻するかもしれないと犯人は考えないのでしょうか。策士策におぼれるどころではありませんよ、これは。 |
No.847 | 6点 | ホテル1222 アンネ・ホルト |
(2015/10/29 11:29登録) (ネタバレなしです) 2007年発表のハンネ・ヴィルヘルムセンシリーズ第8作ですが、それまでのシリーズ作品と比べて色々と新たな試みの見られる意欲作だそうです。ハンネが警察を辞職していること、両足を失った身体障害者となっていること、そしてハンネを語り手にした1人称形式にしていることなどがシリーズ異色作の所以のようです。アガサ・クリスティーの「オリエント急行の殺人」(1934年)と「そして誰もいなくなった」(1939年)を意識した作品ではありますが、吹雪の山荘ならぬ吹雪のホテルに100人を超す遭難者を集め、殺人事件の謎解きのみならず極限状態での緊張感もたっぷりと織り込んだ独特の世界を築き上げることに成功しています。ハンネは正式の捜査官でない上に積極的に動ける状態でないので謎解きがなかなか進展しないもどかしさがありますがそれも作者の計算通りかもしれません。最後は容疑者が一堂に集まってハンネの推理説明で犯人が指摘されるという本格派推理小説ならではの決着が見られます。ただその後の最終章「風力階級12」はどうにもすっきりせず、蛇足のように感じられましたが。 |
No.846 | 5点 | 検事踏みきる E・S・ガードナー |
(2015/10/27 22:42登録) (ネタバレなしです) 1948年発表のダグラス・セルビイシリーズ第8作です。セルビイの失脚をもくろむ敵方がセルビイの捜査に色々と難癖をつけるのはシリーズのお決まりパターンです。しかし本書の場合、殺人ではと疑うセルビイに対して明らかに自殺なのに殺人と決めつけて捜査するとはとんだ見当違いだという主張も(自殺という証拠だって十分でないので)説得力に乏しく、セルビイが危機に陥っているという切迫感がいまひとつです。それでも宿敵の悪徳弁護士カーの策謀や怪しい証言の数々をどう切り抜けて真相を見破るか最後まで予断を許さない展開はさすがです。犯人自身が指摘したように、推理よりもハッタリ要素の方が強い解決になっていますが。 |