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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2810件

プロフィール| 書評

No.2630 5点 現代夜討曽我
高木彬光
(2023/05/22 13:11登録)
(ネタバレなしです) 病気療養による空白期からの復活作としては神津恭介シリーズ第14作の「古代天皇の秘密」(1986年)に次ぐ1987年発表の本格派推理小説で、墨野隴人シリーズとしては第3作の「大東京四谷怪談」(1976年)以来となります。本書の光文社ノベルス版で作者は本書と次作の二作をもって完結、終了の予定と宣言しており、作家としての執念と幕引きの意識を表明しています。日本三大仇討ちの一つである、800年前の曽我兄弟の仇討ち事件への復讐を示唆する怪文書が発端となる事件ですが、現代に登場する曽我兄弟と800年前の曽我兄弟に血のつながりがないためか見立てとしては中途半端だし、サスペンスも不足しています。中盤で曽我兄弟物語の概要を紹介しているのは親切な読者サービスですが。墨野は「殺人というような大仕事をした以上、それと釣り合いのとれるようなことがなければ、おかしい」と動機を重視していますが、手段や機会については証拠らしいものがなく「想像に頼る以外にはありません」と粗い推理で、ワトソン役の村田和子が絶賛するほど「あまりにも明快な解説」とは感じませんでした。すっきりしない幕切れも読者の好き嫌いが分かれそうです。


No.2629 5点 サイモン・アークの事件簿〈Ⅰ〉
エドワード・D・ホック
(2023/05/20 00:18登録)
(ネタバレなしです) 短編ミステリーの巨匠である米国のエドワード・D・ホック(1930-2008)は多くのシリーズ探偵を生み出したことでも知られますが、サイモン・アークは2000歳のコプト教僧侶で悪魔を求めて時代を超えて世界中を旅をしているという設定で、オカルト色の濃い本格派推理小説が多いのが特長です。本書はホックが日本読者のために選定した26作の中短編を全3巻の創元推理文庫版に収めた内の第1短編集(10作)です。ホックのデビュー作でもある「死者の村」(1955年)は73人の村人全員が崖から落ちて死ぬという事件の衝撃性が凄いですが「説明できないことがたくさんありすぎた」と語られるように推理説明が十分でないのが残念です。とはいえこの異様な真相はシリーズ代表作と言ってもいいでしょう。他には狼を射殺したはずなのに死んでいたのは人間だった「狼男を撃った男」(1979年)や凍死させる理由が釈然としませんけど神秘的な雰囲気の「妖精コリヤダ」(1989年)が個人的に印象に残りました。


No.2628 5点 三重殺
奥田哲也
(2023/05/17 03:09登録)
(ネタバレなしです) 1991年発表の本格派推理小説です。同一人物が3回も殺された?、という謎がユニークではありますがこの謎が謎として完成するのは中盤を過ぎてからです。バラバラ死体を宅配便で発送していたことから送り主は何者か、受取人は何者かを丹念に追跡する最初の事件の捜査展開はF・W・クロフツの「樽」(1920年)や鮎川哲也の「黒いトランク」(1956年)を連想しました。読みやすさを心がけたのか主人公の刑事の性格描写はかなりくだけた雰囲気にしていますが、度重なる推理議論が机上の空論にしか感じられず全体としてはわかりにくい作品でした。それは容疑者の大半が生身の人間として登場することがないという設定も影響したように感じます。「本格派は人間が描けていない」としばしば揶揄されますが、本書はその究極型の一つと言ってもいいかも。


No.2627 4点 罪深き絆
エリザベス・ジョージ
(2023/05/16 07:55登録)
(ネタバレなしです) これまでに出版された作品も十分に長大で重厚な本格派推理小説でしたが、1993年発表のリンリー警部シリーズ第6作の本書はハヤカワ文庫版で上下巻合わせて800ページを超す大作です。被害者が早々と殺され、事件関係者たちを丁寧に描くことによって被害者の人物像を浮かび上がらせるという点では従来の作風を踏襲してはいるのですが、本書の場合は被害者とのつながりが弱いようにしか感じられない人物が多くてミステリーとしては冗長に感じます。食べられる野草のつもりで毒草を食べたという事件なのですが、殺人だとすると食べさせる可能性のある人物が極めて限られている状況のため犯人当てとして楽しめる内容でもありません。終盤になって被害者が殺される理由がだんだんと見えてきますが、登場人物リストに載っていない名前が次々に出てくる謎解きも感心できませんでした。


No.2626 6点 夢・出逢い・魔性
森博嗣
(2023/05/06 01:07登録)
(ネタバレなしです) 2000年発表のVシリーズ第4作の本格派推理小説です。なかなか細かい仕掛けを用意してあるのですが登場人物が無駄に多くて十分描き切れていないのがもったいなく、工夫次第ではもっと意外性を演出できたのではないでしょうか。特に最終章で明かされた秘密は非常に印象的で、綾辻行人の某作品を意識したのではないかと思いましたが綾辻作品と比べるとメインの謎解きとの関連性が弱いです。あと本書の英語タイトルが「You May Die in My Show」と、日本語タイトルと洒落の関係にあるのはS&Mシリーズの「封印再度」(1997年)(と「Who Inside」)を連想させますが、作品内容をよく表していた「封印再度」と比べると苦しいタイトルに感じます。悪くはありませんが色々な意味で惜しい作品だと思います。


No.2625 5点 消えた看護婦
E・S・ガードナー
(2023/05/06 00:15登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表のペリイ・メイスンシリーズ第43作の本書は本格派推理小説としてはかなりの異色作です。飛行機事故で死んだと思われる男が殺されたらしいという事件に発展するのですがその正体を巡って二転三転、犯人探しだけでなく被害者探しでもあります。しかしこの大胆な真相、自力で謎解きしようとする読者はアンフェアに過ぎる謎解きだと納得できないかもしれません。色々な人たちが逃げたたままで終わる結末のすっきり感のなさも好き嫌いが分かれそうな気がします。


No.2624 5点 伽藍堂の殺人~Banach-Tarski Paradox~
周木律
(2023/04/30 21:07登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表の堂シリーズ第4作の本格派推理小説です。孤島ミステリーで登場人物は限られており、もちろんお約束の風変わりな建物も用意されています。謎の魅力はこれまでのシリーズ作品の中でも1番かと思うほどインパクトがあり、猟奇的な死体をグロテスクに描写していないのも好ましく思います。そしてスケールの大きいトリックが図解入りで説明されるのですがこれは賛否両論かもしれませんね。あまりにも非現実的にトリックを成立させていると感じる読者もいるでしょう(島田荘司の1990年代の某作品を連想しました)。しかしもっと読者を揺さぶるのはエピローグで披露されるとんでもない推理で、シリーズの今後はどうなってしまうのかと心配になるほどです。次作を購入させるためのプロモーション手段としては悪くないかもしれませんけど(笑)。


No.2623 5点 ネロ・ウルフの災難 激怒編
レックス・スタウト
(2023/04/30 06:15登録)
(ネタバレなしです) 国内独自編集版ながらおそらく国内初の単行本と思われる論創社版のネロ・ウルフシリーズ中短編集、本書が最終巻らしいのは少々残念ではありますが、米国オリジナルで14の短編集で全41作のシリーズ作品が論創社版の6つの短編集で半分弱の19作が読めるようになったのは感謝に絶えません。米国版第6短編集(1952年)の「悪い連“左”」は共産主義者たちを容疑者にしてFBIまで登場させた、時代性を強く感じさせる作品です。推理の根拠が容疑者の不自然な言動なので、証拠として強力には感じませんが。米国版第12短編集(1962年)の「犯人、誰にしようかな」がプロットの面白さでは1番。論理的推理ではないですけどミスリードが効果的です。珍品なのがスタウトの死後に出版された第14短編集(1985年)の「苦い話」で、実は1940年に雑誌掲載されたシリーズ初の中編作品です。この第14短編集の作品はいずれも改訂版や別バージョン版というマニア読者向けで、「苦い話」はネロ・ウルフの登場しない長編を改訂したもの(登場人物名を使い回ししている!)。中短編の長編化はよくありますが、長編の中短編化は珍しいですね。食い物の恨みを晴らそうというウルフの探偵動機は長編版にはない面白さですけど、(私は長編版を先に読んでしまっていたので)謎解きに関しての新しい発見はなかったです。個人的には他のシリーズ作品を収めてほしかったです。


No.2622 6点 体育館の殺人
青崎有吾
(2023/04/25 23:54登録)
(ネタバレなしです) 青崎有吾(1991年生まれ)の2012年発表のデビュー作で裏染天馬シリーズ第1作です。私は改稿された創元推理文庫版(2015年)で読みました。頭脳明晰なのに駄目人間設定の裏染天馬の登場は約100ページほど物語が進んでからですが、明快な推理を早速披露して名探偵らしさを印象付けます。その後の捜査場面は地味だし登場人物は無駄に多くて個性も感じられませんが、「読者への挑戦状」の後に続く解決編の章では犯人の条件を列挙しながら唯一の犯人を丁寧に論理的に絞り込んでいく、王道的な本格派推理小説として楽しめました。巻末解説で辻真先がアニメオタクでもある裏染のアニメ蘊蓄に感心していましたが、アニメに詳しくない私にはほとんどわかりませんでした。でも長々とアニメ知識を解説して謎解きを興ざめさせたりはしていないのは個人的には好ましく映りました。


No.2621 6点 善意の代償
ベルトン・コッブ
(2023/04/23 21:01登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のチェビオット・バーマンシリーズ第28作の本格派推理小説です。バーマン警部も十分に活躍しますが本書の主役はバーマンの部下のブライアン・アーミテイジ巡査の婚約者で女性捜査部のキティー・パルグレーブ巡査です。冒頭で彼女が「さすがのチェビオット・バーマン警部も、寄る年波で判断力が鈍ったせいで失敗するのではないか」とどきっとするような考えにとりつかれています。それはある男の命が狙われているとのタレコミ情報をバーマンがでたらめと判断したことにキティーが疑問を抱いたことがきっかけで、キティーは休暇を取って(バーマンには内緒で)狙われたとされる人物の住む下宿屋を女中に扮して偵察することになります。家主の家族や個性豊かな下宿人たちを相手にキティーがどう立ち回るのか、そしてついに殺人事件が起きてバーマンたちが乗り込んできた時にキティーの立場はどうなるのか、派手さのない展開を物足りなく思う読者もいるかもしれませんが個人的にはなかなか興味深いネタを上手くつなぎ合わせたストーリーだと思います。終盤のどんでん返しの連続はそこそこ劇的です。


No.2620 6点 女怪盗が盗まれた
日下圭介
(2023/04/22 05:04登録)
(ネタバレなしです) 私にとって日下圭介(1940-2006)は本書の光文社文庫版の巻末解説で紹介されているように「どちらかといえばサスペンス派の印象があり、(中略)幻想ふうの作品もあるが、本格推理ももちろん手掛けている」作家です。そのため本格派推理小説ばかりを漁っている私は無条件に何でも手にとっているわけではないのですが、1994年発表の短編集である本書は裏表紙で「謎解きの興味を満喫できる全七編」と紹介されているのでトライしてみました。なるほど「問題編」と「解答編」で構成されている「正直なうそつき」(1976年)や「女怪盗が盗まれた」(1984年)はいかにもな本格派だったし、「午後五時の証言」(1988年)の鮮やかなどんでん返しも印象的です。めまぐるしいどたばたサスペンスを謎解きに絡めた「犯人は誰だ刑事は誰だ」(1984年)も面白いです。二人の会話に終始する地味な展開なのにサスペンスがどんどん高まるプロットの「旅の密室」(1982年)はクリスチアナ・ブランドの名作短編「ジェミニー・クリケット事件」(1968年)をどこか連想させます。


No.2619 7点 死と奇術師
トム・ミード
(2023/04/20 09:35登録)
(ネタバレなしです) ハヤカワポケットブック版に限定すればB・S・バリンジャーのサスペンス小説「消された時間」(1957年)の1959年邦訳版以来となる袋綴じ本です。英国のトム・ミードが2022年に発表した長編第1作の本格派推理小説ですが、冒頭に「父と母、そして亡きJDC(1906-1977)に捧ぐ」献呈文が置かれているではありませんか。本格派の熱心なファンならJDCがジョン・ディクスン・カーを指すことは容易に気づくでしょう。作中時代は1936年で密室殺人がありますし(しかもカーの「三つの棺」(1935年)の密室講義が引用される)、袋綴じの前には「読者への挑戦状」に相当する幕間「読者よ、心されたし」が挿入されるし、興奮で震えながら(変態だ)袋綴じを切り開くと手掛かり脚注付きで真相説明されるではありませんか。贅沢な注文としては現場見取り図があればと思わないではないし、(犯人ではないけど)重要人物が人物リストから抜けているとか、トリックに現代では通用しそうにないものがあるとか気になるところもあるけど実に楽しく読めた作品です。巻末解説で「フェアかどうか微妙なところがある」とほのめかされていますが凡庸読者の私は気にならなかったし(気づかなかったというのが正確)、なかなか巧妙に考えられたミスリードのアイデアだったと思います。


No.2618 4点 京都貴船連続殺人
池田雄一
(2023/04/18 08:25登録)
(ネタバレなしです) ミステリー作家としては1982年デビューと遅咲きの池田雄一(1937-2006)の第16作目にして最後のミステリー作品となった1994年発表の本格派推理小説です。シロウトまがいの女探偵(と叩き上げの刑事からライバル視される)、エリート警視正(女探偵ともちつもたれつの関係)、叩き上げの刑事(女探偵はヘボ刑事と見下す)のそれぞれの捜査が描き分けられています。乱れた人間関係を重点的に描いているからか、通俗的要素が非常に濃いのは好き嫌いが大きく分かれそうです。終盤に謎解きが盛り上がるところはそつがありませんが、騙しのトリックをピンポイントで成功させているところは好都合過ぎな気がします。皮肉たっぷりな幕切れにはちょっと笑いました。


No.2617 5点 ダルジール警視と四つの謎
レジナルド・ヒル
(2023/04/15 00:53登録)
(ネタバレなしです) レジナルド・ヒル(1936-2012)が生前に発表した短編集はわずか3作で、その第3短編集に当たるのが1994年出版の本書です。ダルジールシリーズの中短編を4作収めていてシリーズファン読者が喜びそうな内容ですが、その内「パスコーの幽霊」と「ダルジールの幽霊」は第1短編集の「パスコーの幽霊」(1979年)と重複しており、あちらを既読の読者にとっては2作しか新作が読めないということになって無条件に喜べないでしょう。ダルジールとパスコーの出会いを描いた「最後の徴収兵」は意外にも誘拐サスペンス。といっても2人のちぐはぐな行動のおかげでサスペンスとしてはゆるゆるですけど。ハヤカワ文庫版で200ページ近い「パスコーの幽霊」は1年前の失踪事件を扱い、幕切れはなかなか劇的ですが謎解きとして曖昧な部分が多く残ってしまってすっきりできません。1番短い「ダルジールの幽霊」は今の事件と昔の事件を詰め込んでますが、もう少しページを増やして丁寧に説明してもよかったかも。異色のSFミステリー(といっても作中時代の2010年ももはや過去になりました)の「小さな一歩」が案外とまとまった本格派推理小説でした(下品な締めくくりもこの作者らしい)。


No.2616 6点 千一夜の館の殺人
芦辺拓
(2023/04/11 01:51登録)
(ネタバレなしです) 森江春策シリーズ長編作品としては「グラン・ギニョール城」(2001年)以来となる2006年発表のシリーズ第11作の本格派推理小説で、私は光文社文庫版で読みました。巻末解説で横溝正史や江戸川乱歩作品の影響が指摘されていますがそれに加えて森江の助手の新島ともかを冒険サスペンスのヒロイン役に抜擢したり、アラビアン・ナイトの世界と融合させようとして幻の館探しまで織り込んだのが作品個性ではありますが、風呂敷を広げ過ぎた感が否めません。連続殺人事件の謎解きのアイデアがなかなか面白いだけにもっとこれに絞り込んだプロットの方がよかったような気がしました。


No.2615 4点 死とやさしい伯父
パトリシア・モイーズ
(2023/04/07 07:19登録)
(ネタバレなしです) 1968年発表の(警視に昇進した)ヘンリ・ティベットシリーズ第8作で英語原題は「Death and the Dutch Uncle」です。「死の会議録」(1962年)のように国際的組織絡みの作品でさえもきっちり本格派推理小説でしたが本書はシリーズ初の冒険スリラーです。本書以降のモイーズは本格派と冒険スリラーを書き分けていくことになりますので個人的にはここからがシリーズ後期だと思います。場末のバーで射殺された男の事件と国際紛争の調停役的な組織の連続怪死事件が結びつく展開なのですが、結びつけ方が強引にしか感じられませんでした。後半には舞台がオランダに移りますが過去作品のように旅行先でたまたま事件に巻き込まれたのならともかく、事件解決のために自ら乗り込むのに妻エミーを帯同させているのも不自然な展開です。それにしても私の知るオランダは小国ながら貿易国としてたくましい国家で国民の大半は英語が堪能なので、オランダ語ができないエミーが委縮しているのも不思議に感じました(まだオランダの英語教育が十分でない時代だったのでしょうか?)。


No.2614 5点 旅は道づれ死体づれ
辻真先
(2023/04/01 22:29登録)
(ネタバレなしです) 1984年発表のユーカリおばさんシリーズ第2作のユーモア本格派推理小説です。1980年代にちょっとした建国ブームだったミニ独立国の一つであるジパング国会津芦ノ牧藩(1983年建国?)にヒントを得て、本書の舞台は町全体を時代劇調に改装して観光客誘致を目論む温泉町にしており、剣劇芝居の最中に起こった殺人事件の謎解きに取り組んでいます。テンポのいい文章で軽快に描かれてはいますが、それなりの人数の登場人物が入り乱れるので登場人物リストを作成して読むことを勧めます。本格派の謎解きは丁寧に考えられており、それなりに論理的な推理で犯人と某英国女性作家の1950年代の某作品を連想させるトリックが説明されます。あまりに不幸な理由で犯人に狙われた者がいるなど能天気ばかりではなく、そのためかユーカリおばさんが犯人に対してある意味厳しい態度で臨んだのは当然でしょう。そこはアガサ・クリスティーのミス・マープルシリーズの某作品を彷彿させます。


No.2613 4点 優等生は探偵に向かない
ホリー・ジャクソン
(2023/03/29 08:35登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のピップ三部作の第2作で英語原題は「Good Girl, Bad Blood」です。文生さんのご講評で紹介さている通り、前作の「優等生は探偵に向かない」(2019年)の後日談的要素があってネタバレも豊富、そして何人もの事件関係者が本書で再登場していますので前作を先に読んでおくことを勧めます。前作は殺人事件があって殺人犯と目された容疑者の無実を晴らそうとする(真犯人探しでもある)本格派推理小説でしたが、本書は失踪人探しというハードボイルド小説的なプロットです。高校生のピップ自身はハードボイルド小説によくいるタフガイ探偵とは程遠いのですが、捜査が難航して悲劇的結末の可能性がじわじわと高まる展開はある種のハードボイルドを連想させます。犯罪がなかなか確立しない失踪事件で派手な場面もほとんどありませんが、500ページを超す創元推理文庫版の長さも退屈させない語り口は見事でサスペンスも十分にあります。しかし結末が個人的には残念です。あまりにも唐突に明かされる真相、しかも推理による解決ではありません。あれでは誰を犯人(というか陰謀者?)にしてもよかったようにさえ思えます。とはいえ本格派へのこだわりが強くない読者なら高評価してもおかしくない作品です。


No.2612 4点 巫女島の殺人
萩原麻里
(2023/03/24 07:58登録)
(ネタバレなしです) 赤江島を舞台にした「呪殺島の殺人」(2020年)で呪殺島が日本に複数あることが説明されていましたが、2021年発表の本書では別の呪殺島である千駒島が舞台になっています。呪術を信奉し、観光地でありながらよそ者を受け入れず、絶対的な絆のようなものが存在する島社会の描写に力が入っており、本格派推理小説ではあるのですがホラー小説要素の前に謎解きの面白さが減退してしまったように感じます。いかにも呪殺島秘録らしい作品ではありますが。


No.2611 5点 疑惑の入会者
アリソン・モントクレア
(2023/03/20 23:11登録)
(ネタバレなしです) 2021年発表のアイリス・スパークス&グウェンドリン(グウェン)・ベインブリッジシリーズ第3作です。過去の2作でもグウェンが家族の中で肩身の狭い思いをしていることが描かれていますが、本書では義父であるハロルドがアフリカから帰国したことでますます窮地に陥ります。前半はあまりミステリーらしくありませんがこの家族ドラマで退屈することはありません。そして中盤から巻き込まれ型サスペンスの展開になってますます目が離せなくなります。それでいながら創元推理文庫版の巻末解説で紹介されているように、論理的推理による謎解き場面もあります。もっとも最後が「証人の登場」による解決で締めくくられている上に誰が犯人でもよかったように感じられ、そこは本格派推理小説好きの私には物足りませんでしたが。

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