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ミステリの祭典

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可視える
私立探偵・槇野康平&刑事・東條有紀/改題『凶眼の魔女』

作家 吉田恭教
出版日2015年10月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点 虫暮部
(2024/04/16 12:38登録)
 文章にせよ構成にせよ、何か硬くて大味で損をしていないか。警察の捜査を描くこういう話はこういう書き方、みたいな不文律に安易に従っている感じ。槙野は人肌を感じさせるが、東條刑事の特殊な設定は記号的であまり効いていないと思う。
 “絵心がある×××だからこそ、あの肖像画の秘密に気付いた” と言うちょっと合理的ではない理屈は、とても良い。

No.2 5点 nukkam
(2024/03/24 22:19登録)
(ネタバレなしです) 向井俊介シリーズ作品を3作発表した作者が2015年に新たなシリーズ作品として発表したのが本書で、後年に「凶眼の魔女」に改題されました。暴力団との癒着がきっかけで警視庁を懲戒免職になった元刑事の私立探偵・槇野康平と性同一性障害という心の傷を持つ刑事・東條有紀が主人公です。本格ミステリー・ワールド・スペシャル版の巻末解説で作者が「オカルトミステリーを何作か書いてみたいと思っている」とコメントしていますが、槇野が悪夢にうなされるほど衝撃を受ける幽霊画の調査が重要な意味を持つものの、有紀が手掛ける連続猟奇殺人事件の方がより強烈な印象を残します。特に終盤の事件のおぞましい描写と犯人の残虐性はホラー小説が苦手な私には辛かったです。これまでの作品に比べるとトリックの種類は減っているし、その1つは横溝正史の某作品で既に使われたものですがトリックを成立させるための工夫を細かく説明しています。

No.1 6点 メルカトル
(2020/01/19 22:12登録)
「幽霊画の作者を探して欲しい」画商の依頼を受け、島根県の山奥に佇む龍源神社に赴いた探偵の槇野康平は、その幽霊画のあまりの悍ましさに絶句する。そして一年が過ぎ、警視庁捜査一課の東條有紀は、搜査員の誰もが目を背ける残虐な連続猟奇殺人事件を追っていた。不祥事から警察を追われて探偵となった男と、自身の出生を呪う鉄仮面と渾名される女刑事が難事件を追う!
『BOOK』データベースより。

実業之日本社文庫版改題タイトル『凶眼の魔女』にて読了。
警察小説、本格ミステリ、ホラー、ハードボイルドなど様々な要素を含んだサスペンス小説。連続猟奇殺人事件を扱った作品で、接点のないまま女刑事と探偵が同じ事件を別角度から追うという構成になっています。両者ともに人物造形はしっかりと出来ており、すべての登場人物が個性的に描かれています。一方で事件の被害者の殺害状況は一貫して悲惨なもので、特に三人目の被害者の惨状は目を瞠るものがあります。淡々と見た儘を書かれていますが、結構グロいですので念のため注意してください。

二転三転するプロットはなかなか読み応えがあり、グッと惹きつける魅力を持っています。最後まで犯人像が見えてきませんが、結局はなるほどそう来たかと感心させられました。ラストの○○と●●の対決には不自然さが付き纏う気もします。何故●●が親切にあれこれ語るのかが疑問ですし、真犯人に人間性の欠如というサイコパスらしい不気味さがなく真実味が感じられないのも気になりました。そこまで残酷になれるのかという暗い情念と、緻密な計画性が相反するように思えてなりません。
しかし、総じて力作であり異色作だとは思います。これでもかと詰め込み過ぎなのは、作者なりの読者サービスなのでしょう。

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