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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2968件

プロフィール| 書評

No.2968 6点 幕が上がれば誰かが誰かに殺される
ベンジャミン・スティーヴンソン
(2026/08/18 16:34登録)
(ネタバレなしです) 2024年発表のアーネスト・カニンガムシリーズ第3作の本格派推理小説ですがクリスマスシーズン向けとして書かれ、ハーパーBOOKS版で300ページに満たない薄さです。とはいえプロローグで「ルールを遵守したフェアプレーのミステリーであることには変わりない」、「12月1日から24日まで一日ずつカウントダウンして(中略)二十四章のなかに、謎解きの助けとなる手がかりを二十四個ちりばめた」と堂々と宣言して謎解きの手抜きはありません。今回アーネストが巻き込まれたのは元妻のエリンが逮捕された殺人事件です。二階で寝ていた彼女が起きると両手もシーツも血まみれで、階下では恋人のライルが死んでいたという手ごわい事件です。中盤にはマジックショーでクレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」(1938年)やジョン・ガスパードの「秘密だらけの危険なトリック」(2014年)でも登場した銃弾受け止めマジックをトライしています。23章の終わりには「読者への挑戦状」に相当するコメントが挿入され、解決章では全容疑者をゴンドラに乗せてアーネストが推理を披露し、乗り場に着くたびに無実の容疑者を降ろしていくという、演出に凝りまくった作品です。殺害トリックもさることながらエリンを犯人に仕立てるためのトリックがとても印象的でした。


No.2967 5点 暗殺幻葬曲
水野泰治
(2026/08/18 14:22登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の本書の講談社ノベルス版の表紙には「本格推理」と記載されていますが個人的にはサスペンス小説でないかと感じました。両親を交通事故で亡くしたばかりの桜田真美は血液型から自分が実の娘でなかったことを知って衝撃を受け、恋人の康彦と喧嘩別れして実の親を探そうとします。一方康彦は謎の老人から今後桜田家に近づくなと警告されます。暗号の謎解きやトリックの謎解きには確かに本格派らしさも感じますが、多くの秘密は推理でなく関係者の証言で明らかになっていきます。犯人当てミステリーのように解くべき謎が最初から提示されてはいないので、どこかつかみどころのないプロットでした。康彦は真美から「非常識でひとり合点が多く、頼りがいもなさそう」と随分な評価をされていて、確かに空回りの行動が目立つのですけどそういう真美だって見知らぬ人物にほいほいついて行ったりしてどっちもどっちという気がしました。


No.2966 4点 名探偵ジェリコ
ウィリアム・ハッセー
(2026/08/17 17:04登録)
(ネタバレなしです) 英国のウィリアム・ハッセー(1977年生まれ)は事務弁護士出身で2010年に作家デビュー、ヤングアダルト向け作品を書いていましたが初の一般読者向け作品が2023年発表のスコット・ジェリコシリーズ第1作の本書です。ジェリコは元刑事で、ある事件の犯人に暴力を振るって投獄された経歴があり現在は父親の移動遊園地で働いています。そんな彼に三連続殺人事件の調査依頼が入ります。150年前に橋の落下で5人の芸人が死亡する事故がありましたが、今回の被害者はその芸人に見立てた死体となっていました。文春文庫版の千街昌之による巻末解説で「古典的本格ミステリの味わいと現代性が絶妙なかたちで組み合わされた」と絶賛されていて、動機不明の見立て連続殺人ということからヴァン・ダインの「僧正殺人事件」(1929年)の現代版本格派推理小説を期待して読みましたが全体的にハードボイルドの雰囲気が濃く、最後はかなりサイコサスペンス風になります。本格派ならではの謎解き推理もあるとはいえ、異様な動機については他人の説明に頼っています。昔ジャック・カーリイの「デス・コレクターズ」(2005年)を読んだ時と同じく、純然たる本格派として期待してはいけなかったという思いが残りました。


No.2965 5点 妖精島の殺人
山口芳宏
(2026/08/17 12:57登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表の本格派推理小説である本書は真野原という学生探偵が活躍しますが(名字のみで名前は不明です)、大冒険シリーズに登場した義手の探偵・真野原玄志郎の孫という設定です。とはいえ祖父について語られることもなく、大冒険シリーズを未読の読者が本書を先に読んでも支障はありません。事件を未然に防げてこそ名探偵という主張は斎藤肇の「思いがけないアンコール」(1989年)とは真逆です。前半は冒険スリラー小説色が濃く、城下町の消失に妖精界の出現というまさかの謎で読者を驚かせます。阿井渉介の列車シリーズ某作品を連想させますね。後半になると怒涛の連続殺人事件に読者は振り回されます。謎解き説明は非常に丁寧ですが、あまりに複雑に絡み合う事件に「他の人間は別の犯人が殺したとか」という意見に真野原が「1事件2犯人なんて、出来の悪い推理小説の中にしかあり得ないよ」と反論していますけど、あまりに好都合的に成立させたような真相は読者がどれだけ納得できるでしょうか。そこも列車シリーズと同様の問題点を抱えているように思いました。


No.2964 6点 斜陽館殺人事件
P・J・フィッツシモンズ
(2026/08/04 03:40登録)
(ネタバレなしです) 英国出身でフランス在住しているP・J・フィッツシモンズはゴーストライターとして長年活動していたようですが自作として書く作品は「P・G・ウッドハウスのスタイルによる不可能犯罪ミステリ」を目指したそうで、それが結実したのが2020年出版の自己名義によるデビュー作である本書です。私はウッドハウスが英国では誰でも知っているユーモア小説家であることを知識としては知っていますけど著作を1冊も読んでいないので本書がウッドハウス風かどうかは判断できませんが会話にはユーモアがにじみ出ており、名探偵役のアンティ・ブジュレー(Anty Boisjoly)の饒舌で飄々としたキャラクターはドロシー・Ⅼ・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿を連想しました。作中舞台は1928年の英国で、時代描写はそれほど濃厚ではありませんが印象的な不可能犯罪トリックは当時だからこそ成立したように思われます。容疑者たちの事件当時の位置関係の確認がメインとなる前半はやや地味な展開ですが(屋敷の見取り図は欲しかったです)、第11章で謎解きが大きく前進するあたりから一気に面白くなりました。「The Case of the Canterfell Codicil」という風変わりな英語原題も意味深で、何となくシリル・ヘアーの「英国風の殺人」(1951年)を彷彿させます。


No.2963 5点 ハイカラ右京探偵全集
日影丈吉
(2026/07/25 07:28登録)
(ネタバレなしです) 日影丈吉(1908-1991)は長編作品にはシリーズ探偵は登場しないようですが、短編ではハイカラ右京(右京慎策)や春日検事などのシリーズ作品があります。ハイカラ右京シリーズは1954年から1956年にかけて13作品が雑誌掲載され、「九つの顔」(1958年)と「仮面紳士」(雄山閣出版)(1961年)の2つの短編集、または「ハイカラ右京探偵暦」(1978年)で全作読むことができました。ところが「明治吸血鬼」(1984年)と「狼男の恋」(1985年)の2作が新たに発表されて全15作になったので、これから読もうとする場合は「ハイカラ右京探偵全集」(1996年)以降の単行本を探すことを勧めます。私は「仮面紳士」(光文社文庫)(2026年)で読みました。シリーズ第1作の「舶来幻術師」(1954年)では乱れた人間関係、第2作の「明治の青髭」(1954年)では少年連続殺人事件が描かれ、ハイカラどころかドロドロではないかとびびりましたが、後の作品になると余裕が出たのか「美人通り魔」(1956年)では右京に「読者はもう知ってるぜ」と語らせたり、「双児の復讐」(1956年)では人を食ったような自己紹介させています。本格派推理小説ではありますけど右京は真相はこうだったと説明しますが捜査や推理のプロセスについてはあまり言及しないので謎解きとしては物足りなく感じます。また作中時代を明治時代に設定したためか難解な文章表現が織り込まれていますので、それが時代を感じさせると好意的に捉えるか読みにくいと批判的に捉えるかは読者次第でしょう。個人的なお気に入りはどんでん返しの鮮やかな「当世錬金術」(1954年)とパロディー要素が印象的な「右京の閑日月」(1955年)です。


No.2962 5点 仮面劇場の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2026/07/17 21:06登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表のフェル博士シリーズ第22作の本格派推理小説で、イギリスからニューヨークへ向かう客船、37年前に劇の上演中に舞台で俳優が急死した劇場、そして最後は雷雨の遊園地と映像化したら見応えありそうな舞台が用意されています。事件も準密室状態のボックス席で(本書の英語原題は「Panic in Box C」です)鉄の矢で背中を貫かれての殺人、容疑者たちはアリバイあり(劇場の見取り図はほしかったですね)と凝った謎づくり、歴史の蘊蓄や第13章でのどんちゃん騒ぎもまたこの作者ならではの個性です。しかし会話が回りくどかったり、話の途中で腰を折られる場面が多くて読みにくいのが残念です。最終章のフェル博士の推理説明での「的外れのカード」は余計なミスリードだったと思いますし、空さんのご講評で指摘されているようにアリバイトリックも残念レベルだと思います(フェル博士が「そう、いや、ちがう」と苦しい言い訳)。殺害トリックが旧作トリックの使い回しなのは犯行状況を変えるなどの工夫で欠点とまでは思いませんけど。余談ですが序盤に「囁く影」(1946年)の後日談が語られていますが、まさかの内容の後日談でした。


No.2961 5点 歌人探偵定家
羽生飛鳥
(2026/07/16 19:56登録)
(ネタバレなしです) 平家物語推理抄シリーズでミステリーデビューした作者が2024年に発表した新シリーズの第1短編集(5作の短編を収めています)で、藤原定家を名探偵役にして平家物語推理抄で名探偵役だった平頼盛の息子の平保盛をワトソン役にしています。作中時代は1186年から1187年にかけてで平頼盛は既に世を去り、源平の争乱は終息したものの盗賊や放火などまだまだ平穏とは程遠い荒れた世界です。作者あとがきで藤原定家や百人一首が好きな読者は当時の文化風俗を、本格ミステリが好きな読者はバラバラ殺人、密室からの人物消失、見立て殺人、火事の出火原因、連続殺人の各種謎を楽しめるよう趣向を凝らしておりますと紹介しています。文学歴史に弱い私は後者を楽しみました。時代知識が必要な謎解きもあって読者が自力で真相を見抜くのは難しいと思いますが、説明は非常に丁寧でわかりやすいです。病弱の身ながら和歌を汚す行為にはたけり狂う定家のエキセントリックぶりが印象的です。


No.2960 6点 彼女たちの謎解きの夜
ニーナ・サイモン
(2026/07/12 05:54登録)
(ネタバレなしです) 様々な職歴を経た米国のニーナ・サイモンのミステリーデビュー作が2023年発表の本書です。創元推理文庫版の巻末解説で紹介されているように家族ドラマと本格派推理小説を主軸としています。文章はとても上手く、人物描写はきめ細かいし序盤のカヤックツアー描写は臨場感があります。500ページ以上の作品にしては読みやすいと評価するか、500ページ以上あって読むのに苦労したと評価するか微妙なところです。主人公である祖母ラナ(57歳)、母(娘)ベス(17歳で妊娠したと語られるので33歳か)、孫娘ジャック(ジャクリーン)(15歳)が織り成す家族ドラマは前半が一枚岩でないこともあって読み応えたっぷりです。エネルギッシュなファイタータイプながらガン治療の影響で時々衰弱してしまうラナの描写が印象的です。謎解きも潮の満ち引きによる死体の移動(地図は欲しかった)や、土地の権利を巡る駆け引きや思惑など結構手の込んだネタを放り込んでいますが犯人特定の推理が少し回りくどい感があります。


No.2959 5点 鳴き竜殺人事件
草野唯雄
(2026/07/08 19:16登録)
(ネタバレなしです) 1972年発表の本格派推理小説です。竜の絵が描かれた天井の下で柏手(かしわで)を打つと竜が鳴くような音が響く「鳴き竜」で知られる薬師堂が焼失し、その復元に関する研究記録が随所で挿入されているのが異色ですが、犯罪の方は女子大生暴行殺人に容疑者の怪死事件と通俗的です。27年前の1945年の戦争末期の軍隊で起きた殺人事件が回想されたり時には組織犯罪的な事件が起きるなど予想を超える展開を見せ、巧妙なミスリーディングやとんでもないトリックが使われるなどアイデアは豊富です。説明は丁寧ながらかなり強引さを感じさせる謎解きではありますけど、それもこの作者らしいです。


No.2958 5点 イスタンブールの殺人
エリカ・ルース・ノイバウアー
(2026/07/08 09:15登録)
(ネタバレなしです) 2023年発表のジェーン・ヴンダリーシリーズ第4作です。アメリカ人のジェーンが過去作品でエジプト、イギリスと続いた旅もようやく終わって帰郷と思ったら、多額の借金を抱えて失踪した父ヘンリーを探しにトルコへ行く羽目になります。ヘンリーはスレイマン大帝にまつわる秘宝をさがしているらしく、手掛かりを求めるジェーンとレドヴァースの前に怪しい人物がぞろぞろ登場する冒険スリラーです。父の安否を危惧するジェーンの乱れる心理描写がよく描かれており、サスペンスを盛り上げます。トルコの旅情描写も抜かりありません。


No.2957 5点 コンピューター殺人事件
藤村正太
(2026/07/07 15:38登録)
(ネタバレなしです) 1971年発表の社会派推理小説と本格派推理小説のジャンルミックスタイプで、私の読んだ講談社文庫版の山村正夫による巻末解説では「数ある代表作中でも、いまなお随一に挙げ得る力作として世評に高い」と激賞しています。コンピューター導入のシステム化を巡って推進派と反対派が対立する企業で起きた殺人事件というプロット設定はいかにもな社会派で、当時としてはモダンだったと思います。半世紀以上前の作品ならではの古さを感じさせる部分もありますけど第8章での合理化を巡る議論や第12章でのコンピューター公害に関する意見などは現代の読者でも共感するところがあるかも。本格派としてはアリバイ崩しと犯人特定を両立させた謎解きが特徴です。第1の事件ではやや専門的ながら印象的な小道具が使われています。一方で第2の事件のアリバイは証人の勘違いに頼って成立させているような危うさが気になりました。


No.2956 6点 楽員に弔花を
ナイオ・マーシュ
(2026/07/04 10:59登録)
(ネタバレなしです) 1949年発表のロデリック・アレンシリーズ第15作の本格派推理小説です。ジャズ・バンドの演奏会で奏者に向かって空砲で銃撃し、曲が葬送行進曲に切り替わり、倒れた奏者を担架で運び出すという演出が企画されます。ところがこれが殺人事件に発展します。個性的な登場人物、機会・手段・動機の丁寧な捜査、巧妙なミスリーディング、人並由真さんのご講評でも指摘されているように読みやすいストーリー展開と作品としての完成度はなかなかのものだと思います。もっとも殺人手段についてのアレンの説明を読むとそれって本来は初期捜査段階で明らかになっていないとおかしいのではと気にはなりましたが。


No.2955 6点 狂骨の夢
京極夏彦
(2026/07/03 10:10登録)
(ネタバレなしです) 1995年発表の百鬼夜行シリーズ第3作の本格派推理小説で、講談社文庫版で950ページを超します(全3巻の分冊文庫版もあります)。「何度も妻に殺されては復活する夫」という事件が記憶のあやふやな証言で語られたり、時系列が逆転してどくろに肉がつき生首になる怪現象が起きたらしいなど非常に幻想性の強い作品です。妖怪要素はそれほど濃厚ではありませんが、宗教要素、哲学要素、神話要素が濃厚です。巻末解説を山田正紀が書いていて、このシリーズは一般には幻想的な探偵小説と解されているが実ははなはだしいまでにリアルと主張しています。そして探偵小説にリアリティを持ち込んだ作家として松本清張を紹介していますが、京極夏彦は清張とは異なるリアリティを持ち込んだと評価しています。この解説も私には難解でよく理解できませんけど、本書での幻想を解き明かして真相に導く京極堂の推理は圧巻です。


No.2954 5点 公爵さま、謎解きディナーです
リン・メッシーナ
(2026/07/03 03:34登録)
(ネタバレなしです) 2020年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第7作のコージー派の本格派推理小説です。「公爵さま、執事には負けません」(2020年)の事件でベアトリスが切られた首を調べていたと新聞記事になってしまいます(実際は死体は片付けられていて触れてもいないのですが)。公爵夫人としての面目を保つために謎解きディナーパーティーを開催するという流れになりますが、そこで本当に殺人事件が発生します。早く帰ろうとする社交界でもトップクラスの貴族たちをベアトリスが阻止したところからがとても面白く、想像以上の批判と非難をあびながらの事情聴取がスリルにあふれています。余談になりますがコージーブックス版のカバーイラストのベアトリスのスプーンの持ち方が変です(どうでもいい指摘)。


No.2953 5点 龍臥亭幻想
島田荘司
(2026/07/03 02:49登録)
(ネタバレなしです) 御手洗潔シリーズ番外編の「龍臥亭事件」(1996年)の続編として2004年に発表された本格派推理小説で、作中時代も「龍臥亭事件」の8年後の設定です。光文社文庫版で1100ページを超す「龍臥亭事件」には及ばないものの本書も上下巻合せて750ページを超す大ヴォリュームです。前半は不思議な現象の謎はありますが犯罪性が希薄なためか盛り上がりに欠けた感がありますが、後半は巻き返します。あまりにも忍耐力を求めるトリックには唖然とさせられます。なお光文社文庫版の巻末解説で「ファン待望!御手洗潔と吉敷竹史の推理が、いま初めてクロスする!」と紹介されているので大きく期待される読者もいると思いますが活躍は極めて限定的なのでシリーズ番外編作品と評価すべきと思いますし、両者が邂逅するわけでもありません。「龍臥亭事件」と同じく主人公は石岡和己が務めます。


No.2952 5点 上流の一族でも
レックス・スタウト
(2026/07/03 02:06登録)
(ネタバレなしです) 1950年発表のネロ・ウルフシリーズ第13作で、アーノルド・ゼック三部作の最終作となった作品です。大富豪の夫人から7ヶ月も夫に金を渡していないのに以前よりも大金を使っているらしいので調べてほしいと依頼されたのがきっかけで殺人事件とゼックからの脅迫に直面することになります。第5章の終わりで衝撃の出来事があり、助手のアーチー・グッドウインがてんてこ舞いする展開が本書のセールスポイントになっています。反面、警察も手出しできないほどの犯罪組織の大物という三部作を通じての設定の割にはゼックとの決着場面はあっけなくて物足りませんが、ではアガサ・クリスティーの「ビッグ4」(1927年)みたいな派手派手な演出の方がよかったかというとそれも微妙ではあります。証拠が強力ではないようにも思えますが、きちんと推理で殺人事件を解決して本格派推理小説として着地しているのはよかったです。


No.2951 5点 天帝のはしたなき果実
古野まほろ
(2026/07/03 00:20登録)
(ネタバレなしです) 新本格派推理小説の発展に力を注いだ編集者として知られる宇山日出臣(1944-2006)が最後に発掘した新人と言われる古野まほろのデビュー作が2007年発表の本書で、私の読んだ幻冬舎文庫版で750ページ近い大作です。裏表紙で「青春×SF×幻想の要素を織り込んだ」と紹介されていますが、SFらしさを感じさせたのは自然界に存在しない青いバラの栽培に成功したくだりぐらいでした。とはいえ作中時代は1990年秋ながら舞台は架空の「日本帝国」となっており、登場人物には貴族の子供がいます。冒頭で中井英夫の「虚無への供物」(1964年)が引用されていることからかなり癖のある作品かと思っていましたがその予想は当たりました。難解な用語多数、意味不明な会話も多くてとても読みにくいです。それでも事件が起きてからは謎解きにまともに取り組み、推理合戦や2度に渡る「読者への挑戦状」など本格派らしさを十分に楽しめました。しかし第4章での犯人との対決場面はまるで悪魔と天使のいる異世界のようで、普通の本格派の枠組を超越しています。


No.2950 6点 水面の弔花
アン・クリーヴス
(2026/06/23 10:57登録)
(ネタバレなしです) 2007年発表のヴェラ・スタンホープ警部シリーズ第3作の本格派推理小説で、英語原題は「Hidden Depth」です。母親が自宅に帰って浴槽に沈んだ息子の死体を発見します。死体の周辺に花がばら撒かれているところはジューン・トムスンの「ローズマリーの追憶」(1988年)を彷彿させます。そして海辺でやはり花をばら撒かれた死体が新たに見つかりますが被害者同士の関連がわかりません。ヴェラだけでなく事件関係者たちの視点での心理描写も織り込まれ、人間関係に潜む秘密が少しずつ見えてくる展開は地味ですが終盤にはサスペンスを盛り上げる演出があります。真相はアガサ・クリスティーの某作品を連想させます。


No.2949 6点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2026/06/12 17:49登録)
(ネタバレなしです) SF設定本格派推理小説の「此の世の果ての殺人」(2022年)で作家デビューした荒木あかね(1998年生まれ)の第2作が2023年発表の本書で、講談社文庫版で550ページ近い大作です。二部構成となっており第一部では孤島を舞台にした連続殺人事件というアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)や綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)を連想させつつも、殺人を企む男を語り手にしながら別人が殺人を犯していくという設定で読ませる本格派推理小説として楽しめます。第二部はその三年後、舞台も都会になり登場人物リストも第一部と総入れ替えになります。こちらは新たな語り手が無差別連続殺人事件の次の犠牲者になるかもしれないという巻き込まれ型サスペンススタイルで、物語が進むにつれ複雑な人間模様が明らかになっていく展開は社会派推理小説的でもあります。個人的にはこの第二部、本格派要素が薄まったことや重要人物が登場人物リストに載っていない点などは不満ですが、ジャンルミックス型が好きな読者ならむしろプラス評価するかもしれません。裏表紙の「伝統と革新が詰まった」という紹介はなるほどと思いました。余談ですが作中でアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)のネタバレしてますがせめて作品名は伏せてほしかったです。「ネタバレしてもいいですか?」(中略)「わたしネタバレ全然平気」って自分勝手に進めないでほしかった(涙)。

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