| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2945件 |
| No.2945 | 5点 | 怪しい店 有栖川有栖 |
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(2026/05/11 14:04登録) (ネタバレなしです) 2014年に発表された火村英生シリーズの中短編5作を収めて同年に単行本化されたシリーズ第15短編集です。倒叙本格派や日常の謎系もあり、全体的に小粒ですが作品の質は揃っているように思います。中編「古物の魔」では「辻褄が合う」で犯人扱いされてはかなわないと開き直る犯人に、論理的推理でないことを認めながらも自分の辻褄合わせは決定的な証拠にまっすぐつながっていると犯人を追いつめる火村が印象的です。変わり種の印象を受けたのが表題作の「怪しい店」で、ずばりその人物が犯人と(火村が)名指ししたわけではない解決となっています。この実験的な試みは読者の賛否両論かもしれませんが。 |
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| No.2944 | 4点 | 時計殺人事件 ルーファス・キング |
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(2026/05/08 17:37登録) (ネタバレなしです) 米国のルーファス・キング(1893-1966)は1920年代後半から1930年代までは全11作のヴァルクール警部補シリーズの本格派推理小説が創作の中心を占め、1940年代からはサスペンス小説系の非シリーズ作品や短編ミステリーに力を入れたそうです。1929年発表の本書がシリーズ第1作です。英語原題は「Murder by the Clock」でジョン・ディクスン・カーの「死時計」(1935年)を連想する読者もいるかもしれませんが、拍子抜けすると言っていいほど時計に重要な役割が与えられていません。ヴァルクールが容疑者の1人から「人の心の中にありもしないことを見たり読み取ったりしている」と批判されていますが、そういう容疑者たちだって何を言っているのかよくわからないことしばしばで、とにかく会話がぎくしゃくしています。論創海外ミステリ版の巻末解説で二階堂黎人が意外性を誉めていますけど、こうも読みにくいと意外性以前に読者の謎解き意欲が削がれてしまうのではないでしょうか。 |
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| No.2943 | 5点 | 憎悪の化石 鮎川哲也 |
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(2026/05/08 04:04登録) (ネタバレなしです) 1959年発表の鬼貫警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。容疑者全員にアリバイが成立するのですが犯人の正体については見当がつきやすいと思います。ちょっとしたどんでん返しもありますが意外性は感じませんでした。犯人のアリバイトリックは意表をついたアイデアで印象に残りますが、マニアックな知識頼りなので読者の評価が分かれそうです。余談ですけど私の読んだ創元推理文庫版には作者ノート(1975年)が巻末に付いていますが、「近い将来もう一本の星影物を書く予定でいるけれど(「朱の絶筆」(1977年)のことですね)、私のホームグラウンドは何といっても鬼貫物であった」とアリバイ崩しの鬼貫警部シリーズが創作の中心であることを再認識しています。個人的には王道の犯人当て本格派の方が好きなので複雑な気持ちになりました。 |
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| No.2942 | 5点 | 偽装を嫌った男 R・オースティン・フリーマン |
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(2026/05/07 04:02登録) (ネタバレなしです) 犯人の正体をあらかじめオープンにする倒叙本格派推理小説の創設者として有名なフリーマンですがその種の作品は案外と多くなく、長編2作と短編6作しかありません。1925年発表のソーンダイク博士シリーズ第8作の本書はその希少な長編の1つです。これが倒叙本格派の原典であり、後発のF・W・クロフツやヘンリー・ウエイドがどのような新趣向の倒叙本格派を書いたのかを比較してみるのも面白いかもしれません。一方で第8章でソーンダイク博士が何を考えているかを読者に対してオープンに描写しているところはフリーマンがクロフツの影響を受けているのかもしれません。登場人物たちがソーンダイク博士について「彼は法律家なのか、医師なのか、科学に携わる人なのかはっきりわからなかったのです」「彼はその三つを兼ねている」と会話していますが、殺された被害者が失踪中のように見せかける犯人の細工をかなり早い段階でソーンダイク博士は見抜くのですけど科学的には解決されても法律的には解決されていないと結着するまでに慎重な姿勢が続きます。そこが冗長に感じる読者もいるかもしれません。 |
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| No.2941 | 5点 | 六人の超音波科学者 森博嗣 |
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(2026/04/24 01:36登録) (ネタバレなしです) 2001年発表のVシリーズ第7作の本格派推理小説です。クローズドサークル状態の研究所で起こった事件を扱い、容疑者の大半が科学者という設定はS&Mシリーズの某作品を連想させます。私が読んだ講談社文庫版の裏表紙で「美しいロジック溢れる推理長編」と紹介されていますが推理の筋道があまり明快でないように感じられました。「そもそも最初がいけなかった」の「最初」をどうやって推理したのか私にはまるでわかりませんでした。冷静なようで意外と感情的だった紅子、活躍したとは言えないながら紅子への敵意を抑えた努力は評価してあげたい七夏などシリーズキャラクターはそれなりに描かれていますが、容疑者たちの描写は物足りず存在感が希薄です。 |
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| No.2940 | 5点 | ニューヨーク・クルーズにぴったりの失踪 ドーン・ブルックス |
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(2026/04/16 10:22登録) (ネタバレなしです) 本国ではRachel Prince Mysteryと宣伝されているシリーズの第2作で2018年に発表されました。豪華客船コーラル・クイーン号が再び舞台となり、航路はサウサンプトン発ニューヨーク着です。シリーズ第1作の「地中海クルーズにうってつけの謎解き」(2018年)では失恋の痛手がレイチェルのクルーズ旅行のきっかけでしたが、本書ではそれが払拭されてか気持ちが前向きになっています。ロシア人船員の急死と容疑者の失踪という事件が起きますが、船客の立場のレイチェルと船員の立場のサラが足並みを揃えての活動場面は案外と少ないです。正体不明の殺し屋が登場してサスペンス小説要素の濃かった前作に比べると犯人当て本格派推理小説らしさはありますが、レイチェルが第37章で説明した「それだけだったらなんでもないけれど(中略)いろいろと考え合わせたら」についてはもう少し詳しく説明してほしかったです。 |
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| No.2939 | 4点 | 「萩原朔太郎」殺人事件 草川隆 |
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(2026/04/14 18:37登録) (ネタバレなしです) 鉄道を題材にした本格派推理小説を多く手掛けてきた作者が「ひと味違った作品」を目指して1996年に発表した文芸を題材にした本格派で、ノン・ノベル版では「推理小説界デビュー後の第25作に当たる」と紹介されています。萩原朔太郎の詩に見立てた死体演出という趣向は内田康夫の「『萩原朔太郎』の亡霊」(1982年)を連想する読者もいるかもしれません。プロット展開は作者の他の作品と大差なく、読みやすいですけど劇的な盛り上がりに欠けており、アリバイトリックも感心できませんでした。関係者たちから情報を引き出すテクニックが冴えるアマチュア探偵役の女性以外は人物個性も感じられません。 |
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| No.2938 | 5点 | 奇妙な花嫁候補 アリソン・モントクレア |
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(2026/04/13 21:22登録) (ネタバレなしです) 2023年発表のアイリス・スパークス&グウェンドリン(グウェン)・ベインブリッジシリーズ第5作です。デビュー作の「ロンドン謎解き結婚相談所」(2014年)の作中時代は1946年でしたが本書の作中時代もまだ1946年で、あまりに短い期間に次々に殺人事件に巻き込まれる設定には思わず笑ってしまいました。英語原題は「Lady from Burma」で、ライト・ソート結婚相談所の新しい顧客の1人がビルマ(現在のミャンマー)出身であることに由来します。不治の病に冒されている彼女の依頼は自分の死後に夫に新たな伴侶を見つけてほしいという風変わりなもので、しかもその後謎めいた死を遂げます。なかなか興味深い事件ですが作者が力を入れたのはグウェンのプライヴェート問題の方で、精神疾患者という社会的レッテルを変更するための苦闘がたっぷりと描かれる上に新たな事件に巻き込まれてサスペンスが盛り上がります。シリーズ前作の「ワインレッドの追跡者」(2022年)のスパイ・スリラー要素はなく、どちらかといえば「疑惑の入会者」(2021年)に近い作風に感じました。本格派推理小説としては物証の少ない推理ですが、目まぐるしい展開の中で混乱しながらもグウェンが気づいた「筋が通らない」行動は手掛かりとして印象的でした。 |
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| No.2937 | 5点 | 生首に聞いてみろ 法月綸太郎 |
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(2026/03/31 06:26登録) (ネタバレなしです) 2001年から2003年にかけて雑誌連載され、2004年に単行本出版されました。法月綸太郎シリーズ長編としては「二の悲劇」(1994年)以来となるシリーズ第7作です。新本格派推理小説の作家がホラー作品を発表して新境地を開くのが珍しくなくなっていたので、パメルさんのご講評でも指摘されているようにタイトルからそういう種類の作品かと思ってましたがホラー要素のない本格派推理小説でした。個人的にはホラー系は苦手なのでその点ではありがたいのですが、展開はとても地味で殺人もなかなか起きません。綸太郎の捜査も確かな根拠もないままに複雑な人間関係の整理に苦心しており、登場人物から「きみの話は”かもしれない”ばかり」と批判される始末です。真相説明場面でも証拠に基づく論理的推理は少なく、事件関係者が何を理解し何を誤解していたかを都合よく解釈しての説明にしか感じられませんでした。事件の悲劇性の演出は上手いと思いましたが。 |
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| No.2936 | 6点 | ハレー彗星の館の殺人 ロス・モンゴメリ |
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(2026/03/16 21:59登録) (ネタバレなしです) 2013年にデビューした英国の児童小説家ロス・モンゴメリが2026年に発表した初の大人読者向け作品が本書です。角川文庫版の巻末解説で本書の魅力を時代背景、舞台設定、人物造形、そして謎解きと紹介している通りの本格派推理小説です。作中時代は1910年で、ハレー彗星が地球に近づき彗星の毒ガスで人類が滅亡するという迷信を信じる貴族が生き延びるために扉や窓を密閉工事させた館を舞台にして密室殺人事件が起こります。主人公2人も個性的です。1人は79歳の高齢で車椅子生活者ながら科学の知見があり毒舌家の貴族のミス・デシマ・ストッキンガム、もう1人が少年院出身でデシマの従僕になる語り手のスティーブン・パイクです。さまざまな制約を抱えながらのアマチュア探偵コンビぶりは読みごたえたっぷりで、終盤のサスペンスもなかなかの出来栄えです。動機についてはやや後出し気味の説明に感じましたが「英米黄金期探偵小説の香り」を漂わせることに成功した作品だと思います。 |
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| No.2935 | 5点 | angels 篠田真由美 |
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(2026/03/11 07:23登録) (ネタバレなしです) 「天使たちの長い夜」というサブタイトルを持つ2003年発表の本格派推理小説で、「センティメンタル・ブルー」(2001年)に続く「蒼の物語」です。「センティメンタル・ブルー」は4つの短編を収めた短編集でしたが本書は長編作品で、作中時代が「センティメンタル・ブルー」が1991年から2000年にかけてでしたが本書は1997年、薬師寺香澄が高校3年の時の事件です。登場人物リストには15人の高校生と被害者のみ、夏休中の事件ですが大人たちは食中毒で全員病院に運ばれているという強引な設定、しかも死体発見を警察に通報せず学生たちだけで事件捜査するというこれまた強引な設定です(笑)。群像ドラマを強く意識したようで、薬師寺も15人の中の1人という位置づけに留まり主人公不在です(或いは全員主人公?)。謎解き推理もありますが登場人物の屈折した心理描写に力を注いだ作品で、ミステリーだからといえばそれまでですが犯人以外の人物も明るいキャラクターがいないです(語り手の結城翳も役不足)。まあこの作者に東川篤哉の鯉ヶ窪学園探偵部シリーズみたいな愉快な雰囲気を求めてはいけないのですが。 |
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| No.2934 | 4点 | ブレンド・ティーは死を占う ローラ・チャイルズ |
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(2026/03/02 23:48登録) (ネタバレなしです) 2025年発表のお茶と探偵シリーズ第27作のコージー派ミステリーです。映画の撮影中に殺人事件が起きます。死因が何と感電死というのが珍しく、容疑者の中で電気に詳しいのは誰だろうというセオドシアの着眼点はなかなかだと思いましたが、31章で明かされる真相はがっかりでした。15章でセオドシアが「(被害者の)殺され方は、アガサ・クリスティの密室殺人の謎を彷彿させます」と語っていたので、期待して損した気分です(笑)。洗練された文章による舞台やお茶会の描写は相変わらずでいかにもコージー派な雰囲気が濃厚ですが、一方このシリーズとしてはかなりスリラー要素があります。27章でセオドシアが「やみくもにいろいろためしているだけ」と言っているように行き当たりばったりな捜査のまぐれ当たり的な解決で、本格派推理小説好き読者の満足は得にくいと思います。 |
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| No.2933 | 6点 | ハムレットの殺人一首 岩崎正吾 |
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(2026/02/28 19:37登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の本書はミステリー作品としては「風よ、緑よ、故郷よ」三部作の「恋の森殺人事件」(1989年)と「夜叉神山狐伝説」(1990年)の間に発表された本格派推理小説です。ハムレットと百人一首という異質の組み合わせの文芸ミステリでもあり、作者は「田園派ミステリ」の四冊目の長編ですとコメントしています。土地買収に揺れる山村を舞台にして名門一族の屋敷に百人一首が書かれた札が警告状のように次々と出現します。派手な仕掛けの殺人事件が地味な演出なのは少し惜しまれます。男女のイチャイチャ描写よりもそっちに注力してほしかったです(笑)。丁寧な捜査と推理の末に復讐犯の存在が浮かび上がるプロットは読者が自力で推理する楽しみがあまりなく、最後は推理で真相説明されるとはいえ多くの読者にとって予想の範囲内ではないでしょうか。「恋の森殺人事件」が意外性を追求し過ぎて怪作になってしまった反省かもしれませんけど(笑)。 |
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| No.2932 | 6点 | 修道女フィデルマの洞察 ピーター・トレメイン |
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(2026/02/25 15:36登録) (ネタバレなしです) 修道女フィデルマシリーズの短編本格派推理小説15作を収めた英国オリジナルの第1短編集「晩祷の毒人参」(2000年)を日本国内では創元推理文庫版で全3巻の分冊で出版されましたが、2巻目となる本書は「毒殺への誘い」(1998年)、「まどろみの中の殺人」(1993年)、「名馬の死」(1995年)、「奇蹟ゆえの死」(1993年)、「晩祷の毒人参」(1993年)の5作を収めています。歪んだ悪意が暴かれる「毒殺への誘い」、犯人の意外性はありませんが複雑な動機が印象的な「まどろみの中の殺人」、フィデルマが自分の推理を上書きするどんでん返しの「晩祷の毒人参」が個人的にはお気に入りです。 |
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| No.2931 | 5点 | 七つの棺 折原一 |
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(2026/02/24 18:49登録) (ネタバレなしです) 折原一(おりはらいち)(1951年生まれ)は当初は新本格派推理小説の作家として認知されていましたが、叙述トリックを駆使したサスペンス小説が高く評価されてそちらの方が主力作品となったので今では新本格派の作家と紹介されることはなくなりました。デビュー作が1988年発表の短編集「五つの棺」で当初は5作品を収めていましたが、2作品を追加して1992年に「七つの棺」に改訂されました。密室が大好きで密室事件に遭遇すると嬉しさを隠せない黒星(くろほし)警部を主役にしていますが、推理に当たり外れがあるのは(外れの方が多い?)ジョイス・ポーターのドーヴァー主任警部シリーズを彷彿させます。古典ミステリーのパロディー要素があるのも本書の特徴で、原典作品を知っている方が望ましいですけど知らなくてもそれなりに楽しめます。「密室の王者」(1989年)は追加2作品の1つで、1番シンプルな謎解きなので冒頭に配置したのかもしれませんが馬鹿トリックの一発勝負は由良小三郎さんやE-BANKERさんのご講評の通りくだらないとしか評価できず、後続作品を読むのが不安になりました。もう一つの追加作の「不透明な密室」(1990年)もトリックはかなりのご都合主義を感じさせます。よくできていると思われるのが「脇本陣殺人事件」で、どんでん返しの連続する謎解きを楽しめるし横溝正史の「本陣殺人事件」(1947年)のパロディーとしてもよくできています。「懐かしい密室」は作中作を用意した凝った作品で、作中作では読んだ黒星警部が怒ったのも当然のひどいトリックが使われていますけどこの作中作を謎解き推理に活かしているところが巧妙です。ただカーター・ディクスンの「ユダの窓」(1938年)のパロディーとして書かれたようですが密室からの消失を扱っているので個人的には同じ作者の短編「妖魔の森の家」(1947年)の方を連想しました。 |
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| No.2930 | 6点 | 完全不在証明 クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ |
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(2026/02/23 02:30登録) (ネタバレなしです) 英国のクリストファー・セント・ジョン・スプリッグ(1907-1937)がミステリー界にデビューしたのは1933年ですが、共産主義に傾倒してスペイン内乱に義勇兵として参戦し1937年に29歳の若さで戦場に散ってしまいました。わずか4年ほどの作家活動でミステリー作品を長編7作といくつかの短編を残して旺盛な創作力を見せていただけに早過ぎる死が惜しまれます。1934年発表の本書は新聞記者ヴェナブルズシリーズ第3作の本格派推理小説です。多彩な登場人物を揃えたことをドロシー・L・セイヤーズが誉めたそうですが、第19章でヴェナブルズがピーター・ウィムジイ卿の真似をするのをやめろと責められたと言及していたのもセイヤーズの心に響いたかも。容疑は転々とし、探偵役としてスコットランドヤードのブレイ警部、事件の起こった地元ペパリング警察の巡査、アマチュア探偵なども入り乱れて少しごちゃごちゃした感はありますが、F・W・クロフツの「ポンスン事件」(1921年)を連想させる第28章の追跡劇の末に第29章の最後でヴェナブルズが暴いた真相は非常に印象的です。第30章ではヴェナブルズが推理説明する前に「必要な事実や手掛かりはすべて、私たちの手に入っていたのです。(中略)この世で最もフェアな探偵小説の世界のようにね」と宣言します。 |
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| No.2929 | 5点 | 地獄の同伴者 楠田匡介 |
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(2026/02/12 20:55登録) (ネタバレなしです) 1958年発表の短編集で3つの作品全てに田名網警部が登場していますが、過去のシリーズ長編の「模型人形殺人事件」(別題「冷たい眼」)(1949年)と「いつ殺される」(1957年)でも無能ではないけれど名探偵役として脚光を浴びたのは別の人物という、微妙な役回りを演じていましたけど本書でも2作品がやはり似たようなパターンでした。「地獄の同伴者」は犯罪小説風なプロットで、殺人を計画した男がそれを息子に知られたことから思わぬ逃避行になるスリリングな展開で読ませます。作中でエラリー・クイーンの「Yの悲劇」(1932年)の犯人ネタバレがありますので注意下さい。最後は本格派推理小説として着地しており、ルーファス・キングの「不変の神の事件」(1936年)を連想しました。100ページ近い中編の「追いつめる」は第1章はホテルでの怪死事件の捜査という普通の本格派風ですが、第2章になると横領犯の逃亡劇という急変化に驚かされます。解決は読者が推理する余地のない後出し的な推理説明で残念。1番王道的な本格派なのが「雪」で、しかもついに田名網警部が文句なしの名探偵となります。密室トリックが古典的です。 |
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| No.2928 | 5点 | ブック・フェスティバルの殺人 キャロリン・G・ハート |
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(2026/02/11 04:21登録) (ネタバレなしです) 1992年発表のデス・オン・ディマンドシリーズ第9作の本格派推理小説で英語原題は「Mint Julep Murder」です。南部随一のリゾート島のヒルトンヘッドで作家、書店主、出版関係者など数千人の参加者を見込むブック・フェスティバルが開催されることになり、アニーも事務局の手伝いをします。殺人事件が起きて刑事から容疑者とみなされたアニーが憤慨するのはわかりますけど、犯人探しに乗り出したアニーの強引な捜査も容疑者たちを憤慨させるには十分で、刑事の推理の方が一応は状況証拠に基づいており説得力が高そうです(笑)。18章の最後でアニーが語った真相は魅力に欠け、19章での推理説明は人物の心理分析が中心で具体的な物証に乏しく、あまりすっきりできませんでした。 |
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| No.2927 | 5点 | 女囮捜査官 3 聴姦 山田正紀 |
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(2026/02/06 23:01登録) (ネタバレなしです) 1996年発表の囮捜査官シリーズ第3作の本格派推理小説ですが誘拐事件、政治家の贈収賄事件に発展するかもしれないある個人情報の漏洩、自分が多重人格者なのではという疑心暗鬼などサスペンス、社会派推理小説、サイコ・スリラーなど様々なミステリー要素を含んでいます。作中の時間軸も過去と現在を往復しており、北見志穂が誘拐犯の指示で身代金を運ぶ場面が誘拐事件の発生よりも先に描かれています。犯人の計画には強引な感もありますが細かく考えられており、複雑に絡み合った謎は最終章できれいに解かれています。 |
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| No.2926 | 5点 | セント・アガサが揺れた夜 ジル・ペイトン・ウォルシュ |
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(2026/02/03 20:30登録) (ネタバレなしです) 2007年発表のイモ-ジェン・クワイシリーズ第4作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です。第3章でドロシー・L・セイヤーズの「学寮祭の夜」(1935年)が長年、痛烈に批判されていたと紹介されていたのに驚きました(第20章でも言及されています)。それを意識したのか謎解きよりも大学生活の描写の方に力を入れたような印象を受けました。これが面白いかというと個人的には微妙で、序盤で大学のフェローが学寮の塔から転落死して事故死と判断されますが殺人ではないかと疑惑が持ち上がるまでにかなりのページを費やしており、前半はミステリーらしさが希薄に感じます。特任フェロー選任を巡るごたごたとか学生の失踪とかを挿入してモジュラー型のプロットになっていることや、真相を明確に説明して決着しないのも(ほのめかしてはいますが)読者の好き嫌いが分かれそうです。イモージェンの恋愛が(ページ数は少ないですが)描かれているのも「学寮祭の夜」の影響があるかもしれません。 |
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