home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.150 6点 黒の環状線
山村美紗
(2009/05/01 21:25登録)
作品全体を支えるアイディアは、第3の殺人事件が起こったところで、それまでにヒントが出されているので誰でも見当がつくでしょうが、それでもなるほどそう来たかと、タイトルを思い起こしてかなり満足の納得となるのではないかと思います。
その中心アイディアだけでなく、最初の事件の変り種「密室」は、犯人が特に複雑な細工をせず、しかもそこから犯人のある特性が絞り込めるという点が、なかなかよくできています。また、第4の殺人でのアリバイ・トリックも似たアイディアは以前にいろいろありそうですが、すっきりしていて悪くありません。
全体的な構造もきっちりできた佳作だと思います。


No.149 6点 一角獣殺人事件
カーター・ディクスン
(2009/04/29 14:03登録)
そんな大げさなかさばる凶器をわざわざ何のために用意してきたのか、犯人の立場に立ってみればあほらしいような話ではあります。作者の側からすれば、飛び道具を使ったのではないことが明白な傷を負わせられる凶器ということなのでしょうが、それは単なるご都合主義というものです。
しかし、その凶器を利用しての不可能としか思えない殺人のトリックはさすがによくできています。犯人の意外性も(名前だけは最初からわかっているのですが、それが実際に誰かが問題なのです)なかなかのもので、H・M卿の悪ノリぶりや冒険的要素など、楽しめる作品になっています。


No.148 4点 青列車の秘密
アガサ・クリスティー
(2009/04/28 21:26登録)
青列車を利用したトリックはなかなか巧妙ですし、犯人の意外性もあります。しかし、このプロットは…
高価なルビーをめぐるスリラー的な冒頭、アメリカ大富豪の家庭的問題、主役ともいえるキャザリン(セント・メアリーミード村に住んでいたという設定! ミス・マープルものが書かれる前に発表された作品です)の人生など、いろいろな要素を詰め込みすぎて、なんだかばらばらな印象があるのです。ポアロ登場作に本物の幽霊までちょっと出てくるなど、作者の狙いがどこにあるのか、よくわかりません。
最後に真犯人指摘のためポアロが事件の依頼者たちと再度青列車に乗らなければならない理由も全くなく、基になるアイディアはいいのですが、小説としてまとめそこなった失敗作という感じがします。


No.147 5点 夜の黒豹
横溝正史
(2009/04/26 11:49登録)
ある意味『ABC殺人事件』と共通するところのある筋書きなのですが、ABCに比べて無理があるところが気になりました。最初の事件で使われるトリックが最も意外であることを考えると、そこから全体を構成していったための不自然さかもしれません。横溝正史らしい通俗的な匂いがパズラーの企みを隠している点は評価できますが。
真相解明の推理が金田一耕介と等々力警部との間で行われた後、最後の70ページぐらいは、真犯人を罠にかけて証拠をつかむ話になってきますが、この最後の部分にあまり魅力を感じません。短編『青蜥蜴』を長編化したものだそうですが、ちょっと長くしすぎたように思えます。


No.146 7点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2009/04/25 13:00登録)
クイーンの全作品中、最も殺された人数が多い本作では、早々に「ABCの殺人理論」を持ち出してきて、クイーン警視にあっさり否定させることで、そのタイプではないことを示しています。被害者たちの隠された共通点は何か? これこそがミッシング・リンクということです(その意味では『ABC殺人事件』はミッシング・リンクではありません)。
大都会ニューヨーク全体を舞台にした恐怖の連続殺人が描かれる本作は、前作『十日間の不思議』以上にサスペンスが重視される一方パズラーからは遠ざかり、また名探偵エラリーの悩みも大きくなるという、重厚長大な読みごたえのある小説になっています。


No.145 6点 ダンケルクの悲劇
ジョルジュ・シムノン
(2009/04/23 21:34登録)
匿名探偵のG7という変名は、先進7か国の会議とは何の関係もなく、第1作で出てくるタクシーから採っています。『13の秘密』と同様、ほとんどショート・ショートといってよい短い作品の連作で(原題を直訳すれば「13の謎」)、かなり謎解きを中心とした短編集です。謎解きと言ってもシムノンですから奇抜なトリックを弄したものではありませんが、消えたけが人、溺死体の盗難、不可解な容疑者などの奇妙な事件をいずれもきれいにまとめてくれています。
なお、第3作の『引越の神様』という邦題は何のことかわかりませんが、要するにポルターガイスト(引越:移動、神様:霊)のことです。


No.144 5点 青銅ランプの呪
カーター・ディクスン
(2009/04/21 22:46登録)
「ミステリーの発端は人間消失の謎にまさるものはない」ですか、うーん(討論相手のクイーンには堅牢な家屋消失なんて魔術的作品もありますが)。
しかし要は消え方でしょう。確かにタイトルの呪いを利用した最初の消失状況は不思議な感じがして、なかなか魅力的ですし、さらに再度同じような人間消失を起こしてみせるところも、さすがにうまいと思います。ただ、やはりその2つの(異なった)消失方法については、どちらもあまり冴えず、そのわりに作品は長すぎる気がします。
確かに動機はなるほどと思わせられるのですが、H・M卿演出による最後の「キメ」の部分も含め、少々腰砕けの感じがしました。青銅ランプ自体が最後どう扱われたかはおもしろかったですが。


No.143 5点 旅人たちの迷路
夏樹静子
(2009/04/20 21:32登録)
女性刑事と嘱託医が主役の謎解き2中篇を収めた作品です。
『焼きつくす』は当然そこが問題になるだろうなというところをひねっています。犯人の設定は犯行現場との関係で納得いきますが、バッグの扱いと都合のよい偶然があまりに不自然かなと思いました。
『現場存在証明』では海外ミステリ巨匠の傑作のアイディアをひっくり返したようなトリックが使われていて、感心したのですが、この殺人方法にこのタイトルはやめてもらいたかったですね。
そう言えば、本のタイトルも内容とそぐわないと思います。
描写でなく説明になってしまっているようなところのある文章は気になりました。


No.142 7点 満潮に乗って
アガサ・クリスティー
(2009/04/18 09:48登録)
1948年に書かれた作品で、クリスティーにしては珍しく、大戦中と戦後の時代における経済的、心理的状況がかなり取り入れられています。爆撃による富豪の死が一応発端となっていますし、特に主役と言ってよいリンが本当は何を求めているのかという点も、戦争をめぐって描かれています。
ポアロが登場する短いプロローグの後、第1部の殺人が起こるあたりまではいかにものパターン展開なのですが、第2部に入ってポアロが再登場してからはさすがにミステリの女王の面目躍如といったところです。恋愛要素もうまく組み合わせて、意外な結末を劇的に構成してくれています。


No.141 8点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2009/04/17 22:39登録)
12年ぶりのブラウン神父ということで、冒頭作の『ブラウン神父の復活』はホームズの生還を意識していると言われていますが、これはほとんど冗談みたいなとんでもない復活劇です。『犬のお告げ』(密室というほどのものでもないでしょうが、お告げの意味が素晴らしい)、『ムーン・クレサントの奇跡』(この殺人方法のアイディア自体が奇跡的)等有名作の他、クリスティーあたりが使いそうな単純なトリックの『ギデオン・ワイズの亡霊』が好きです。


No.140 7点 死者の中から
ボアロー&ナルスジャック
(2009/04/15 21:57登録)
ヒッチコックの傑作として知られる『めまい』の原作ですが、サンフランシスコを舞台とした映画の明るいロマンチックな雰囲気とは全く違い、どろどろした感じが最初から漂っています。ヒッチコックと比べるなら『サイコ』の不気味さが本作の感じにむしろ近いでしょうか。真犯人がどうなるかは原作では映画と違っているのですが(というより映画ではほとんど無視)、小説の展開はちょっとした驚きでした。
それにしても最終的にトリックが明かされた後、ラストの主人公の確信には、悪夢もここに極まれりという感じです。


No.139 7点 三角館の恐怖
江戸川乱歩
(2009/04/14 21:30登録)
作者のロジャー・スカーレットは本作で(というか本作扉の原作タイトル及び作者名表記で)初めて知り、気になる作家になりました。とは言っても、創元からも出ている原作『エンジェル家の殺人』の厳密な翻訳は実は読んでいないのですが。エレベーターの密室殺人トリックや遺産相続をめぐる意外な動機など、パズラーとしてよくできています。
乱歩は原作のプロットをもちろん高く評価していたのですが、文章があまりよくないと感じたのではないかと言われているようです。この翻案(映画化なども一種の翻案です。本作のような翻案や映画化だけでなく忠実な翻訳も、原作著作権者の許諾が必要で、無断で行えば著作権法違反です)は乱歩自身の文章で書き直したということなのでしょう。謎の訪問者の不気味さなどの雰囲気作りが、さすがにうまいと思います。


No.138 5点 死者のあやまち
アガサ・クリスティー
(2009/04/12 15:07登録)
事件の裏に潜む秘密については、かなり強引な力技が使われています。それに関して途中はてなと思った証言があったのですが、その意味するところまでは推理できませんでした。その過去の秘密さえ暴かれればすべては単純明快ですが、ポアロが真相に気づき推理を披露するあたりのプロセスにちょっと唐突感があり、少女殺害の動機に明確な具体性が欠けるせいもあって、いまひとつすっきりしませんでした。
それにしてもクリスティーの分身ともいえる登場人物オリヴァー夫人が、最初の方で思いっきり重要な暗示的ヒントを、まさに手がかりとして述べているところは痛快です。オリヴァー夫人には後半ももう少し活躍してもらいたかったな。


No.137 4点 帝王死す
エラリイ・クイーン
(2009/04/11 11:31登録)
風変わりな設定と奇妙な事件。聖書とのアナロジーはクイーンらしいテーマだと思うのですが、やはり不可能性を前面に出したプロットが得意な作家ではないな、という認識を新たにさせられるできばえだと思います。途中で、トリックはそのうちわかるだろうとエラリーが言っているのでは、不可能興味は盛り上がりませんし、実際のトリックの出来もいまひとつです。しかもその事件では殺人が不成功に終わり、最終的には犯人がクイーン親子を利用した意味がない結末を迎えてしまうという、どうも釈然としない作品でした。


No.136 7点 超高層ホテル殺人事件
森村誠一
(2009/04/09 23:17登録)
3つの殺人事件のうち、超高層ホテルで起こるのは最初の1つだけです。この最初の事件で使われる密室トリックがなかなかとんでもない方法で、本当に大丈夫かと思えますが、そういうリアリティの問題よりもむしろ、それ以外の可能性を否定する段取が甘いところが気になりました。ただしこれは半分に満たないぐらいで解き明かされてしまいます。後の2つの殺人では、アリバイとチェーン・ロックによる密室がうまく組み合わされています。
それだけトリックを盛り込みながら、お得意のホテル業界を舞台とした企業戦争の顛末をいやらしく描き出す部分も、説明的になってしまっているところがあるのは少々不満ですが、さすがに迫力があります。


No.135 7点 女魔術師
ボアロー&ナルスジャック
(2009/04/07 23:27登録)
ミステリとしてどうだというより、主人公マジシャンの芸人魂の描き方がすごい作品です。後半彼が個性的な舞台演技を見出していくところは鬼気迫るものがありました。
邦題からはわかりませんが、原題は「女魔術師」の複数形です。複数であることがストーリーと謎解きにからんでくるわけですが、小説半ばで起こる事件は一応不可能犯罪なのですが影が薄く、ラストになって、そういえばそんな殺人も途中で起こったなあぐらいにしか感じません。だからといって、失敗作だとは思わないのですが。


No.134 8点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2009/04/06 21:27登録)
あまりにも有名な密室トリックは読むだいぶ前から知っていましたが、こういうふうに使われていたんですね。現実的には確かにちょっと無理もありますが、切れ味抜群なので許してしまいましょう。
トリックを知っていてもやはり事件の全容はさっぱり見当がつかなかったのですが、さまざまな謎が裁判の中で次々解き明かされていくところ、さすがに傑作の名に恥じない見事な構成の作品だと思います。怪奇趣味は全くなく、H・M卿が引き起こす笑いもひかえめで、冒険的要素も見られないという、この作者にしてはある意味まともすぎるほどの謎解きが堪能できます。


No.133 5点 砂の器
松本清張
(2009/04/04 11:59登録)
実は第2の殺人に使われたようなタイプのトリックが、目新しいものをあまりにも直接的に使っていて好きになれない上、重厚なテーマとの相性がよくないように感じました。そのため、後半は無理やり引き伸ばしたような印象を受けます。その後で映画を見た時にはうまくアレンジしたなと感心するとともに、まさに映画ならではの音楽(「宿命」)の扱いに感動しました。ちなみに小説と映画とでは、音楽の種類が違います。
前半は小説もおもしろいですし、方言の考察など小説だからこその謎解きの緻密さもあるのですが、個人的にはやはり長すぎると思います。


No.132 8点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2009/04/03 22:13登録)
『アクロイド』や『オリエント急行』のような驚天動地のアイディアもなく、『ナイルに死す』や『白昼の悪魔』のようないわば教科書的な巧妙なトリックもありません。それにもかかわらず、nukkamさん等本作を絶賛する人は多いですし、私も大好きな作品です。
16年も前に起こった殺人事件ということで、ポアロが当時の事件関係者たちに質問していき、関係者それぞれがポアロに事件の思い出を手紙に書き送るだけの地味な展開です。また、真犯人の正体を隠しているのはほとんど動機に関するワン・アイディアだけで、これといった殺人トリックもありません。ところが、それにもかかわらず読んでいて面白く、結末の意外性も満足のいくものなのです。関係者たちが同じ人物に対して全く異なる見解をしていて、それら証言の中から真実を見極めていく手際は、まさにクリスティーならではだと思います。ただ、犯人を見破るための伏線がもう少しあればなという感じもします。


No.131 5点 第八の日
エラリイ・クイーン
(2009/04/01 22:31登録)
ダネイ自身が後期の中で気に入っている作品として挙げていたのがこれですが、謎解きミステリとしてだけなら、後期のエラリー登場作の中でも特にあっけないものです。
しかし、『十日間の不思議』以来クイーンが何度か取り上げてきた宗教的なテーマということでは、最も充実した作品と言えるでしょう。完全に外界から隔絶されたコミュニティーの中で進むストーリーは、SF的な感じさえします。実際の執筆を担当したのはSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスンだということですが、この作品なら納得できます。誰でも指摘することでしょうが、最後の「聖典」が何だったかという点は、殺人事件の真相よりはるかに意外でした。

1530中の書評を表示しています 1381 - 1400