home

ミステリの祭典

login
満潮に乗って
エルキュール・ポアロ

作家 アガサ・クリスティー
出版日1957年01月
平均点6.58点
書評数12人

No.12 7点 虫暮部
(2022/07/16 11:59登録)
 基本設定が面白いし、状況の変化に応じた各人の対応も説得力がある。確かに題名通りの潮汐の流れ。もう少しロザリーン寄りで描いて欲しかったところ。お金の氾濫に飲み込まれても、人生に求めるものは人それぞれ。でもラスト、あの男でいいのかな~?

 第二篇の6章。“医学的検証というのが~まちがいだらけなんです”――謎解き用のデータとして、検死結果にミスは無いのが御約束なんだから、ミステリでソレを言うのは危険だよアガサさん。

No.11 4点 レッドキング
(2020/02/04 23:01登録)
アガサ・クリスティー十八番の二大トリック。
➀人間関係トリック・・・「あなたは人間関係に関心をもたれているわけですね?」「さよう・・・私の関心は、つねに、人間関係に向けられております」・・ポアロのセリフに暗示されているトリック。
➁キャラ一捻りトリック・・・プロット上、一番怪しい立場の人物のアクを一旦読者に印象付けて、その後にそれを薄めるか逆に誇張して幻惑させることで陰に隠してしまうトリック。
その十八番が、このいかにもな人々の遺産相続をめぐるいかにもな犯罪のミステリにも見事に展開。

No.10 6点 ボナンザ
(2019/09/07 09:22登録)
クリスティらしい小技が詰め込まれた一品。メロドラマ要素も盛り込まれているが、邪魔ととるか味わいととるかは人それぞれだろう。

No.9 4点 nukkam
(2018/01/02 06:42登録)
(ネタバレなしです) 第二次世界大戦中も安定した創作を続けていたクリスティー、戦時中の作品でも娯楽に徹した作品が多いのですが1948年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第23作の本書は珍しくも戦争の影響が作品背景に見え隠れしている本格派推理小説です。戦中戦後の混乱を巧妙に織り込んだプロットではありますが、りゅうさんや青い車さんのご講評でも指摘されているように複雑に過ぎて読者が完全正解するのは無理ではと思わせる真相なのが辛いです。また本国イギリスでは誰でも知っているのでしょうけどアルフレッド・テニスンの「イノック・アーデン」(1864年)を作品内容の紹介もなしに物語に絡ませているのも個人的には感心できませんでした。せっかく築き上げた重く暗い雰囲気とミスマッチのような幕切れもシリーズ前作の「ホロー荘の殺人」(1946年)と比べると少々見劣りするように思います。

No.8 8点 青い車
(2016/02/22 22:42登録)
読み返してみると、事件のプロットがけっこう入り組んでいることに気づきました。派手さはないものの、大小のトリック、意図せぬ偶然が絡み、すべての真相を見破るのはかなり困難と思われます(アリバイトリックはさらりと描かれていますが、なかなか巧妙)。若い男女のロマンスはクリスティーが得意としたテーマで、何度となくやっていることなのですが、飽きずに読ませることに成功しています。今回はとりわけローリイの頼りなさ、優柔不断さが目立ちますが、僕は同性として現実の男ってこんなもんですよ、と言いたいです。爽快で微笑ましい結末も素晴らしい秀作。

No.7 5点 クリスティ再読
(2015/08/16 22:12登録)
この作品ほど「ポアロ、あんた邪魔!」って思えたものはないなぁ...

前半の終戦直後の混乱期を舞台にしたメロドラマが、結構「風と共に去りぬ」調で面白く読めていたのに、第二篇でポアロ登場となると、ありきたりの探偵小説になってしまう....表面を取り繕いながら相互に陰険な闘争をしかける2つの陣営の中で、対立を越えて結ばれる恋愛感情。メロドラマ視点で「どうなるの?」って思っていると、殺人によってメロドラマがストップしてしまうのが評者はすごい不満だ。
戦後のクリスティの小説的な充実に向けての試行錯誤なんだろうけども、探偵小説としての部分と小説の部分の乖離が激しくて、ミステリが大ブレーキとしか思えない失敗作だなあ...

デイヴィッドとローリィの間で揺れるヒロインって構図はそもそも「イノック・アーデン」の前半の関係だから、戦後の帰還兵について「イノック・アーデン」(しかも性別逆で)をしようとして、それに重ねて、あたりが当初の狙いだったのでは。
あ、ミステリとしてはまあまあ。証言は嘘だと対決すればいいのに?というあたりのロジックは素敵。だけど大枠の仕掛けと、殺人などの真相があまり密接に結びついていないので、殺人の真相が「軽く」感じられてしまう。名探偵よりもリン主人公で動くうちにわかってくる、あたりの話で充分だったのでは?

No.6 8点 了然和尚
(2015/04/17 14:24登録)
クリスティーらしく前半はゆっくり各人視点で進み、真ん中ぐらいで殺人が発生し、ポアロ再登場です。その後、終わりに近づくにほど、話の展開が加速し、意外な結末が一気に明かされます。この素晴らしいリスムの推理小説は交響曲を思わせて感動します。
トリックや真相については手がかりはよく示されていて本格ですが、犯人の決め手は不十分と思うのですが、それを感じさせない傑作ですね。
本作でのクリスティーの談義は、戦争(あるいは戦後)談義でした。(あの爆弾が落ちなければこの事件は。。。)第二次世界大戦後の高揚感の中で冷静に戦争の影響を語っています。そういえば、横溝先生の作品も戦後感がベースにあったなあとか思います。

No.5 8点 蟷螂の斧
(2014/07/28 11:42登録)
大富豪ゴードン・クロードが空爆で死亡し、莫大な財産は若き未亡人が相続した。前半は、当てにしていた遺産相続がなくなってしまったクロード一族の心理(あの未亡人さえいなくなれば・・・)がサスペンスフルに描かれています。やがて一族にとって有利な存在の人物が殺される・・・。動機、意外な真相、恋愛(複雑な心理)、アリバイトリックと盛りだくさんの作品でした。有名作品が多いので、その陰に隠れてしまったのか?・・・。佳作であると思います。                                                                                     (ネタバレ注意)1948年、日・米・英において同じモチーフを扱った作品が同時発表されていることが興味深いです。英「本作品」、米「○○との○○」(W.I)、日「○○○殺人事件」(S.A)

No.4 7点 あびびび
(2012/07/25 01:34登録)
書評を書いた方が、「これを読む人はクリステイーの中毒患者」みたいな記述があったが、まさにその通り。他の小説がつまらなかった時は、その口直しにクリステイーが欠かせない。

ある一族があり、その中に飛び切りの大金持ちがいて、皆の面倒を見てくれる。しかし旅先である若い女性と結婚し、空襲で不慮の死に遭遇。

ちょうど遺書を書き変えていた最中であり、遺産はすべてその若い女性が相続することになった。しかもそれを指揮しているのが自称・兄である…。今まで安楽に暮していた一族が望むのは当然若き未亡人の死であることは言うまでもない…。

こんな分かり切った設定でもクリステイーは見せ場を作るのだから凄い。

No.3 8点 りゅう
(2011/11/22 20:46登録)
 クリスティーの作品の中ではあまり有名な作品ではありませんが、ストーリー、真相の面白さ、緻密に計算された伏線など、良く出来た作品です。遺産を巡る家庭内の愛憎を扱った作品で、登場人物間の人間模様が丁寧に描かれています。ポアロが途中で「この事件はまともな型をしていない(辻褄があっていない)」と言って、スペンス警視に禅問答のような説明をするのですが、最後はきっちりと辻褄を合わせてくれます。非常に入り組んだ真相で、ポアロが途中で調査して判明したある事柄が隠されており、手掛かりも不足気味なので、読者がこの真相にたどり着くのは困難だと思いますが、伏線があちこちに散りばめられていて、真相説明でそれらが鮮やかに回収される手際は見事と言えます。

(完全にネタバレをしています。要注意!)
 冒頭のポーター少佐の爆撃時の思い出話、ライター、汽車の煙、デスクの上にあった写真、睡眠剤など、伏線に込められた意味を真相説明で知り、その巧妙さに感心しました。動機と犯人の逆転という真相が面白い。時系列で起こった出来事の必然性や意外性も面白く、デイヴィッドがロザリーンをアーデンに会わせないままロンドンに避難させた理由にも納得しました。
 一箇所不明なところがあります。ローリイはポアロに依頼してアンダーヘイの知り合いを探してもらい、ポアロからポーター少佐を紹介されています。これはローリイの芝居で、ローリイは元々ポーター少佐を知っていて偽の証言をするように依頼済みであり、ポアロがポーター少佐の存在に気付くことを期待してやったことです。しかし、ローリイはポーター少佐のことをどうやって知り、また、ポアロがポーター少佐を知っている(あるいはこれから知る)ことがどうしてわかったのでしょうか(ポアロがポーター少佐以外の別の知り合いを探し出す危険もあります)。
 また、ポーター少佐のある一言から、ポアロはローリイの芝居を見抜いているのですが、これは読者にはわかりにくいと思います。

No.2 7点 seiryuu
(2011/01/14 19:51登録)
あまり有名でない作品だけど、ミステリー度が高めで凝っている作品で好きです。
ラストは驚きの連続でした。
リンとディヴィットとローリイの関係も読み応えがありました。
最後のリンの言葉が意味深w

No.1 7点
(2009/04/18 09:48登録)
1948年に書かれた作品で、クリスティーにしては珍しく、大戦中と戦後の時代における経済的、心理的状況がかなり取り入れられています。爆撃による富豪の死が一応発端となっていますし、特に主役と言ってよいリンが本当は何を求めているのかという点も、戦争をめぐって描かれています。
ポアロが登場する短いプロローグの後、第1部の殺人が起こるあたりまではいかにものパターン展開なのですが、第2部に入ってポアロが再登場してからはさすがにミステリの女王の面目躍如といったところです。恋愛要素もうまく組み合わせて、意外な結末を劇的に構成してくれています。

12レコード表示中です 書評