home

ミステリの祭典

login
五匹の子豚
エルキュール・ポアロ

作家 アガサ・クリスティー
出版日1957年01月
平均点7.26点
書評数23人

No.23 8点 take5
(2022/08/20 17:57登録)
十年ぶりに再読。クリスティー女史はやっぱり凄いや!
1942年の昔に、男女、夫婦、姉妹、友人、師弟を
(↑様式美に則って関係を五つ書きました)
人情味溢れる描き方をしながら、
その全ての人の回想にダブルミーニングを
潜ませるという離れ業。
いわゆる回想の殺人というもので、
人がいかに主観的にものを捉えるか
(5人もそして読み手の私も)。
個人的に『春にして君を離れ』と
同じ位好きな作品に昇格しました。
こちらのサイトは皆さんの書評でまた読みたくなる、
感謝します。
10人読んだら8人は、私のように途中では、
二行目に書いた●●関係が真相と思うはず。
女史さすがです。

No.22 6点 虫暮部
(2022/03/16 12:06登録)
 ミスリードには引っ掛かってたので最後の最後で驚いた。
 しかし「藪の中」な構成のせいで話がくどい。手記があるなら対話はいらないな~。

 曖昧な記述ながら “被害者の遺産を自動的に妻と子供が相続” とあるが、妻は欠格では。英国の法律では違うの?
 十五歳にしては彼女が幼稚だと思うのは偏見だろうか? 飲食物絡みの悪戯は洒落にならない度合いが高い、と言うことは弁える年齢だと思うのだが。真相に関わる要素だから、作者の都合で変なキャラクターにされちゃったような印象も……。

No.21 8点 斎藤警部
(2021/02/12 18:09登録)
くっきり魅力的な目次構成は、見立て容疑者の趣向自体まさかの欺瞞じゃなかろうかと、愉しい疑義も唆しました。 十五年前の殺人事件(?)、死んだ父と、犯人とされた母の間に生まれた娘。。事件当時は幼い子供で今は成人。。が、その真相を改めて究明して欲しいとポワロに依頼、ポワロは容疑者を五人に絞って直接に話を聞きに赴き、また後日には文書に纏めて送らせます。文書を読み再検討した上で、も一度、各人に最後の質問を投げかける。。締めには依頼者を含め一同六人集めて大団円。。。。。。 無駄なく厚みある中盤を惜しみながら読み進み、なかなか顔を見せない終盤へゆっくりと入るにつれ、いっそいつまでも物語よ終わらないでくれと、人生最終読のミステリはこれくらい趣深い謎を残して読書中絶のまま死んでしまったらそれも良いなどとあらぬことを考えてみたり。 終わってみれば、向く方向が全く異なる二人の「永遠の■■」が生成された物語、だったというわけですか。。。 嘘を吐き通した筈の真犯人が実は漏らしていた心情吐露の部分、振り返るとディープ過ぎて泣けて来ます。真犯人は勘で薄っすら疑ってた人物で正解でしたが、真相全体像は、まさかの想像範囲外でしたね。。。。(「●●い」が鍵になってるんだろうな、というのはその通りだったけど、まさかここまで深く爪刺す要因だったとはね。。) 味覚と嗅覚がポイントとなる話でもありました。 tider-tigerさんもご指摘ですが、人情ドラマを隠れ蓑に(?)パズル性で押した凄みがある一篇ですね。 最後にポワロが指摘した「それ」の怖さ、連城の某短篇が頭をよぎりました。

No.20 6点 ミステリ初心者
(2020/01/31 18:49登録)
ネタバレをしています。2010年に出らたしい新訳版を読みました。

 訳が新しいかつ、アガサ・クリスティーの作品のため、非常に読みやすい文です。途中、展開的に重複した部分もあり、ダレてしまうのですが、それでも読了までに時間はかかりませんでした。

 今回のポアロは、結構昔に起こった事件を再検証する流れです。主に5人の関係者から話を聞き、徐々に事件の全容が明らかになるタイプです。どちらかというと、警察が主人公のミステリのような感じがありました。
 構成だけでなく、話もよく練られていました。事件自体は一見単純に見え、犯人がなにかトリックを使ったというわけではありません。しかし、5人の証言者の、ちょっとした出来事などを細かく検証していき、真相を推理していくポアロは説得力がありました。

 自分はまるで真相にたどり着けませんでした(涙)。物語的にはアンジェラがあからさまに臭く、ちょっと無理をしてカーラという可能性も考えましたが、アガサ・クリスティーの作品でそんな凡庸な結末はありえません(笑)。

 以下、好みではない部分。
・証言があいまいな部分があります。16年前の事件なので忘れていても仕方がないのですが。あとは、勘違いなどもあります(この人の作品はこれが多めですが)。
・様々な偶然が起きすぎていると思います。

 本格推理小説としてではなく、広義でのミステリーとして読めばよい作品だと思います。私はアリバイトリックや犯人当てが好きなので、この作品は好みではありませんでしたが、質が高かったと思います。

No.19 8点 tider-tiger
(2019/10/17 20:52登録)
1942年イギリス。ミステリとしても小説技術的な意味でも非常に好印象。クリスティの職人的な凄さ満載の作品だと思います。
トリックらしきものはありませんが、誤誘導が極めて巧妙です。繊細な罠(翻訳がついていかれないほどに)があちこちに張りめぐらしてあって、それらにいちいち引っ掛かってしまった読者(自分含む)こそがもっとも幸福かもしれません。

本作は人物描写についても高評価が得られているようですが、もちろんこれは人物を軸にプロットを練った作品ではないでしょう。むしろ極めてゲーム性が高い。すなわち、プロットに合わせ、さらに奥行きを持たせることを計算しながらの人工的な人物描写、でありながら、性格、思考、行動などが直結しています。凄い技術だと思います。
証言者たちは十五年前の殺人事件の話をしろと迫られて、困惑したり、警戒したりしています。そこでポワロは相手によって出方を変えて話を引き出すのですが、相手の困惑や警戒が消失していく瞬間がしっかり書かれていて、そこがその人物の個性であり、それがプロットにも活かされていったりします。
ただ、桂文珍のエピソードはちょっと強引かなという気がしました。心理的な縛りを設けるのに必要なパーツですが、あの人物がカッとなったとはいえそんなことをするとは思えないんですよね。

ある一点だけですが、セイヤーズの『学寮祭の夜』に通ずるものを感じます。学寮祭の場合はそこがいまいち驚きに繋がっていないのですが(驚きを狙っていない)、こちらはその点で驚愕させられました。
クリスティが好きで、次にライバルと言われているセイヤーズを読んだらガッカリということがしばしばあるそうですが、クリスティとセイヤーズは読みどころがずいぶん違います。イチローにテニスをさせても彼の凄さはわかりません。

>>ポアロの絵の最終的な評言がクリスティらしいクールな恐怖感があって極めて印象的。評者だったらこのポアロの言でカーテン静かに閉まる、かな(クリスティ再読さん)。
まったく同感です。それから、真相と結末の二つの章に分けているところ、分ける必然性がないというか、むしろ不自然に感じます。これは章を五つで一つのかたまりにする構成に拘ったんでしょうね。こういうところも職人的な名作を感じさせます。
個人的にはクリスティのベスト5入り、客観的に見てもベスト10には入る作品ではないかと思います。

No.18 6点 レッドキング
(2019/08/04 10:52登録)
16年前に完結している殺人事件の再検証。タイトル通り容疑者は5人。プロットと人物設定から犯人これしかないだろうってのはダミーで、キャラ的にこれだと一番つまらんなってのが真犯人だった。
ところで容疑者は5人だが、新本格以降の作家ならば、登場人物の3人をさらに「容疑者」に加えられるかな。自分としては依頼者=真犯人ての期待する。

No.17 6点 いいちこ
(2018/09/19 15:10登録)
一番底の真相があまりにも容易に推測できることが、却って二番底を深くしている非常に巧妙なプロット。
ただ惜しむらくは、二番底の前提となっている「被害者と容疑者の会話」に仕掛けられた罠がもたらす衝撃が、翻訳によって相当に弱められていると推察されることであるが、これは当然著者に帰責する訳ではない。
一方、本作のプロットを事後的に俯瞰すれば、真犯人はどうしても一定の条件を満たす人物に絞り込まれてしまう点で、傑作とまでの評価は難しい

No.16 10点 青い車
(2016/02/05 22:19登録)
クリスティー作品を「素人が読むもの」とちゃんと読みもせずに軽視しているような人にお薦めしたい名作です。容疑者がわずか五人に絞られているためフーダニットとしての意外性はほとんど捨てていると言ってよく、代わりに彼らそれぞれの描写が非常に丁寧です。これを読めばアガサが単なるトリック・メイカーではなく、むしろストーリー・テリングに秀でていることがよくわかるでしょう。登場人物全員に何かしら魅力があるのですが、すべてが明らかになったとき浮かび上がる犯人の心情が特に輝きます。

No.15 8点 クリスティ再読
(2015/11/03 21:03登録)
本作にはいろいろ美点があるが、最大のものは形式的・幾何学的な均整美だろうね...5人の容疑者それぞれを均等に扱って、前置きのあと(法曹関係者も5人で揃えてある..)それぞれのインタヴュー/手記/質問1つ、で全員集合という構成の美が素晴らしい。

でその中である夏の一日に絡み合う群像が再現されていくわけで、それぞれがそれぞれの視点で記述していくために、微妙にニュアンスが変わって聞こえていく..その多面的で立体的な再現感がいい。なので、評者なんぞは「5人のうち誰が犯人でも、もったいない...」とまで感じていたよ。

まあ真相が5段構え...ではないのが残念だが、それでも第1段目の真相までは結構楽に推測できるだろうと思う。二段腰の真相の方は...まあ、こういう解決もあるよね、くらいのつもりで読むつもりだ。ある意味、ポアロのしていることは解釈に次ぐ解釈でしかないわけで、こうなってくるとどんな到達点も「相対的に一番収まりのいい(暫定的な)解決」でしかないのでは...と思わせるところがある。ちょっとオープンエンドな「藪の中」的な迷路を示唆するが、本作はそれが狙いではない。そういう多面的な描写が作り出すリアリティの中によって、悲劇的な人物像を際立たせるのが狙いだろうね...ジャスミンの香りの件はすばらしいな。

本作芝居にしたら素晴らしいだろう(実際本人が芝居にしてる「殺人をもう一度」)。演出が目に浮かぶよう。完全にネタバレるので引用したいけどやめとくが、ポアロの絵の最終的な評言がクリスティらしいクールな恐怖感があって極めて印象的。評者だったらこのポアロの言でカーテン静かに閉まる、かな。

No.14 8点 Toraneko
(2015/04/19 20:28登録)
オリエントとかアクロイドに比べると、比較的マイナーな部類になるし、そこまでの大仕掛けといったものもないが、堅実に作り上げられたミステリー。

クリスティは何故かアクロイドとかオリエント急行のような奇策系が大々的に知られているけど、王道もしっかり上手いのは流石ミステリーの女王といったところか。

No.13 8点 了然和尚
(2015/03/10 17:14登録)
最高の本格推理小説。16年前の事件について読者とポアロは同じ立場で同じものを見聞きする。5人の証言と手記の中から推理可能なパズルになっている。ただ、燻製ニシンの匂いが強すぎて、これは違うとわかっていながらも他の思考が止まってしまうのは我ながら情けない。このような見事な本格小説にもかかわらず、手がかりを探そうと読んでいると苦痛なまでに退屈である。(実際の警察官さんはこんな感じなのかなとか思ってしまう。)でも、ミステリーの1代表作として必読。

No.12 6点 ボナンザ
(2014/04/08 17:41登録)
これも秀逸。
最後までおもしろく読めた。

No.11 7点 蟷螂の斧
(2012/09/07 18:16登録)
夫を毒殺した罪で捕らえられ、獄中で亡くなった妻。その行動(毒を盗んだ)、言動、動機などにより、どうしても妻が犯人としか考えられない。そして当事者5人の証言は、いずれも食い違いがない。しかし、その証言を繋ぎ合わせていくと、ひとつの絵が浮かび上がってくるというもの。解説にある「ダリのだまし絵のように」は言い得て妙です。妻の毒を盗んだ動機が、死亡しているため不明のままなのが残念です。

No.10 10点 nukkam
(2012/06/17 11:25登録)
(ネタバレなしです) 1942年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第21作の本格派推理小説です。既に有罪判決まで出た16年前の事件の再調査という難題にポアロが挑みます。ポアロはそれぞれの事件関係者(容疑者でもある)に事件の再構成をさせているのですが、ある意味繰り返しの連続です。しかしこれが全く退屈しないのですからすごい筆力です。味気のない証言ではなく、登場人物の心理状態もたっぷり織り込まれた物語となっているので読者が感情移入しやすくなっているのが成功の理由の一つでしょう。プロット、人物描写、謎解きと三拍子が揃った完成度の高い大傑作で、最後の一行も何とも言えぬ余韻を残して印象的でした。

No.9 5点 mini
(2011/11/29 09:57登録)
例の森事典で森英俊氏がすごく誉めていた作品
森氏曰く、”人物描写が弱いと言われるクリスティだが、人物が描けなかったのではなくて敢えて深くは描かなかったのではないか”、とこれまでのクリスティ評価を覆す人物描写に深みのある作という事だ
たしかにその通りではある、ただそういう意味では「ホロー荘の殺人」も同等の評価は出来ると思うな
もちろんこの「五匹の子豚」を好きか嫌いかと問われればそれは好き、前半だけなら・・
地道な捜査小説が好きな私の嗜好から言えば、前半のポアロによる事件の聞き取り再調査の件はメチャ好きだ
このスタイルを最後まで貫く構成だったならば多分8点以上は進呈したと思う
しかし後半になると過去回想ではなくて実際に登場人物達が眼前に現れてくるわけだよな、これだと結局は他のクリスティ作品とさして変わらなくなってしまうのではないだろうか
ネタバレになるから詳しくは書けないが、「五匹の子豚」は「ホロー荘」と似た発想を持っているが、「ホロー荘」の方が首尾一貫してテーマを掘りさげている分、私には「ホロー荘」の方が好感が持てた

No.8 7点 take5
(2011/08/18 17:52登録)
様々な視点がそれぞれの立場によって示されるのですが、
真相は『藪の中』にはなりません。
クリスティーの作品がなぜ今も多く読まれるかといえば、
そこに書かれる人物の何れかに、
読者自身が投影されるからではないでしょうか。
生活がよく書かれていると思います。

No.7 8点 あびびび
(2011/05/13 16:24登録)
16年も前の事件を回想して心理的局面から事件を解決に導く。以前、ミステリチャンネルでずっとボアロを見ていたせいか、俳優のスーシエばかり思い出したが、それが決して邪魔にならないのが不思議だった。

いかにも手順がクリスティーで、自分は良いミステリを読んだ…と満足した。

No.6 8点 りゅう
(2011/04/30 16:18登録)
 個人的には好印象の作品です。ポアロが、16年前の事件を関係者との面談や手記に基づき解決する話です。特にこれといったトリックが使われているわけでもないし、物証に基づく精緻なロジックがあるわけでもありません。ポアロが、犯人の心理のみならず被害者・容疑者の心理をも考察した上で真相を推理する、「心理ミステリ」といった趣のある作品で、こんなミステリもありかなと思いました。私は、最終的な真相の1つ手前の真相までは予測出来ていたのですが、最終的にはうっちゃられてしまいました。ポアロの推理には、いささか当て推量も含まれていて、厳密な意味では必然性がないようにも思いますが。被害者と容疑者の間の会話の意味が、真相を知ることによって反転する構図を持っているのも面白いところです。
 事件の本筋からは外れますが、事件時の関係者の証言や手記の中に、当時5才だったカーラに関する記述が全くないのは何故だろうと、読みながら思っていました。

No.5 6点 seiryuu
(2011/01/12 23:32登録)
解決編までは単調で退屈でした。
でも鮮やかな心理トリックに見事に騙されました。
人に対する思いやりや自制心について考えさせられた。
16年前のことだからポアロの捜査に強引なところがあるのは仕方ないかな。
トリックは好きだけど構成は好きではないです。
この作品は読後にじわじわときますね。

No.4 7点 toyotama
(2010/10/07 13:36登録)
マザーグースの唄ものだと、すぐにどんな唄か調べてしまいます。どうやら数え唄のひとつのようです。
妹のイタズラが殺人を引き起こしたと思ったカロリンが、口を噤んでいたために罪を被った形になった、というのが真相のようです。真犯人はありがちな結末ですが、16年も前の事件を当初は手紙のみで解決しようなんて、ポアロさん無茶です。

23中の書評を表示しています 1 - 20