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ミステリの祭典

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女魔術師

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1961年01月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 8点 クリスティ再読
(2023/03/05 14:17登録)
評判のいい作品だから期待してたけど、大満足。ボア&ナルが自分たちの手の内を明かした、メタな小説でもあるあたりが面白い。

評者一時必要に迫られて、マジック関連書をいろいろ読んだことがあるんだけど、マジック書の中で強調されているのは「タネ以上に、演出と演技が大切」ということなんだよね。ミステリにこれを当てはめるのならば、トリック以上に、そのトリックを生かすためのシチュエーションやキャラ設定に力を注がなければいけない、ということにもなる。日本では乱歩以来の「トリック至上主義」がマニアの間で幅を効かせて、不毛な「オリジナリティ詮議」がされることが多いわけでね...ボア&ナルの「トリック」って実はたいしたものじゃないから、今一つパズラーマニアにウケが悪いけども、トリックをプロットに融合させること、という視点では素晴らしいものが多い。そうするとカー以上にマジメに「手品趣味」をミステリに応用したのが、ボア&ナルだ、ということにならないだろうか?

主人公の母オデットが、ロマンチックなミステリ劇の中にうまくマジックを融合させるプランで成功させるとか、主人公ピエールが最終的に到達したキャラ設定とスライハンドの妙技の悪夢的な(ディス)コンビネーションの世界であるとか、本書はそういうあたりにボア&ナルの「理想」を反映したマニュフェストだ、と読んでいたよ。

もちろん芸道小説としての迫力は素晴らしい。こっちに目を奪われて、ボア&ナルらしい双子を巡る幻想がやや説明不足になりがちなんだが、やはり本書の価値というのはこういった「ミステリ論」的な部分にあるように思われる。

No.2 7点 人並由真
(2022/06/22 06:19登録)
(ネタバレなし)
 人気奇術師で旅芸人「アルベルト一座」の代表アルベルト・ドウ-トルと、その妻で美貌の女芸人オデットの間に生まれた男子ピエール。彼は少年時代を修道院学校の寄宿舎で送っていた。だが20歳のとき、父の死を契機に、母オデットが新たな代表となったアルベルト一座に参加し、芸人の道を歩み出す。一座にはヒルダとグレタという美しい双子の女マジシャンがおり、彼女たちは二人一役でステージ上では共通の芸名「アンヌグレイ」を名乗り、観客の前で<超人的な早着替え>などの芸を披露していた。ピエールはこの姉妹の妖しい魅力に惹かれていくが、当の姉妹はあえて双方の個性をぎりぎりまで秘め続け、まるで同じ性格と容貌の同一の娘が二人いるように見せかけて、ピエールを翻弄した。そしてやがて、ある事件が起きる。

 1957年のフランス作品。(短めの長編『牝狼』もカウントして)ボワナロコンビの長編第六作目。

 一座の代表で人気マジシャンだった父アルベルトは物語の本筋が始まる前に死んでしまい、これじゃ人名一覧に名前を並べる必要はなかったんじゃないの? という感じ。

 さらにかつては美人だったが、今は50過ぎのデブ女になってしまった中年の母親オデットの悲哀なども語られ、なんかストーリーはミステリというよりは、小規模で落ち目の芸人一座のペーソス溢れる道中を主題にした普通小説という印象……と思っていたら、終盤の逆転で結構なサプライズを授けてくれた。

 あまり詳しくは書けないが、これは後年の我が国の、某「幻影城」作家の作風の先取りであろう。
 残酷で(誰にとって?)そしてあまりにも切ない動機が、胸にジワジワと染みてくる。
 うん、これぞフランスミステリ。ボワナルコンビの諸作の中では、個人的にそれなりに上位に置きたい、そんな一編かもしれん。

No.1 7点
(2009/04/07 23:27登録)
ミステリとしてどうだというより、主人公マジシャンの芸人魂の描き方がすごい作品です。後半彼が個性的な舞台演技を見出していくところは鬼気迫るものがありました。
邦題からはわかりませんが、原題は「女魔術師」の複数形です。複数であることがストーリーと謎解きにからんでくるわけですが、小説半ばで起こる事件は一応不可能犯罪なのですが影が薄く、ラストになって、そういえばそんな殺人も途中で起こったなあぐらいにしか感じません。だからといって、失敗作だとは思わないのですが。

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