空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1515件 |
No.575 | 6点 | 完全殺人事件 クリストファー・ブッシュ |
(2012/11/22 20:07登録) ブッシュのミステリで邦訳されたのは現在5冊のみですが、著作は60冊以上もあるそうで、本作はその第2作です。1929年発表と言えば、アメリカではクイーンがデビューした年。 殺人予告状を警察と大手新聞社に送りつけるという芝居がかった犯人で、「完全殺人」という言葉もこの予告状の中で使われています。で、なぜ予告状を送りつけたのか、『ABC殺人事件』みたいに意味があるのかというと、ただ犯人(作者)のはったりというだけのことでした。 作者のはったり好みは、プロローグの中に手がかりが隠されているぞと冒頭で宣言しているところにも表れています。それにしては、実際に殺人が起こってからは容疑者たちの地味なアリバイ調査が続きます。ただクロフツや鮎川のようなトリックの意外性を期待すると肩すかしでしょう。むしろプロローグがアリバイ崩しとどう絡んでくるかが謎解き的な意味での読みどころです。 |
No.574 | 6点 | カオスコープ 山田正紀 |
(2012/11/20 20:57登録) 山田正紀は何冊か読んだことがあるのですが、それらは『神狩り』を始めすべて純粋なSFでした。で、本作はというと、書き出し部分からしてやはりSF的(精神医学中心)な感じがつきまとうミステリです。二つの視点から交互に描いていって、どう関連付けるかというタイプ。 一方の主役は記憶障害だということで、ほとんど支離滅裂な記憶の断片、それも実際の記憶かどうかも分からないことが語られていきます。この部分がカオス(混沌)的雰囲気を出しています。一方の刑事からの視点部分はもちろん一応まともですが、それでも彼のキャラクターはちょっと変。 最終的な結論には多少整合性に欠ける部分があるようですが、まあいいでしょう。それより真相説明部分と脱出の安易さが気になりました。最初にゴミ捨て場で出てくる老人の正体は、はっきりとは書かれていませんが、う~む、やっぱり山田正紀だ。 |
No.573 | 7点 | ハムレット復讐せよ マイケル・イネス |
(2012/11/16 20:18登録) 文学研究者J・I・M・スチュアート(イネスの本名)の、シェイクスピアを始めとするイギリス文学・演劇への薀蓄が満載の作品です。 『ハムレット』を近代的な劇場形式ではなく、古風な舞台形式により邸宅内の大広間で行うという企画で、上演中に起こった殺人事件ですが、最初のうちは芝居に関する説明描写が興味の中心。100ページ目ぐらいで殺人が起こるまでにも、文学引用による犯行予告(らしきもの)の謎はあるのですが。 初期のイネスは文章が難解だと言われていましたが、翻訳者滝口達也の手腕でしょう、日本語では凝った表現ではあるものの、それほど難解でもありませんでした。むしろ最初から紹介される登場人物の多さが読みづらさの原因でしょうか。 第2の殺人、さらに殺人未遂まで館内で起こってしまうのは、警察がちょっと間抜けな気もしますし、エピローグで犯人があわて出す原因は根拠が弱すぎますが、全体的には楽しめました。 |
No.572 | 6点 | メグレとリラの女 ジョルジュ・シムノン |
(2012/11/08 20:57登録) 健康を害して、湯治場ヴィシーに来たメグレ夫妻が、毎日ゆっくり散歩し、湯を飲んで静養する日々を送っているという状況がまず微笑ましい作品です。しかしもちろんそれだけではミステリにならないので、そこで目についたリラ色の服を着た周囲から孤立した感じの女が殺されるという事件。 地方警察の本部長がメグレの元部下だったという偶然を、メグレが捜査に関わるきっかけにしています。といっても休暇中で管轄外ですから、アドバイザー的立場を最後まで貫き、尋問には全然口を出しません。そういったことも本作の緩やかな雰囲気づくりに貢献しています。定石通りの捜査が進められ、当然のように容疑者が浮かんできます。容疑者は任意同行を求められ、ある程度覚悟もしていたのでしょう、すぐに自白して終りという、平凡と言えば確かにそうなのですが、そこがいい味を出している作品です。 |
No.571 | 5点 | 課長補佐殺人事件 斎藤栄 |
(2012/11/05 20:09登録) 新薬許可をめぐる薬品会社と厚生省官僚との間の収賄事件を扱うという、斎藤栄にしては意外なほど社会派的要素の強い作品です。汚職事件が背景にあるので、犯人の目星は最初からついています。 だからといってトリックの方がおろそかになっているわけでもありません。第2の殺人での密室の方はすぐに解明されてしまいますが、それでも現実性はともかく根本的なアイディアはそんなに悪くないと思います。しかし中心となるのは何と言っても第1の殺人におけるアリバイ崩しです。考えてみれば無駄に複雑なことをしているような気もしますが、手順はかなり凝っています。 ただし、プロローグには疑問を感じました。読了後読み返してみたのですが、叙述トリックと考えるにはあまり効果が出ていないし、無理な記述があるのです。また、被害者の妻による手がかり発見に大きな偶然を2回も使っているのは減点対象。 |
No.570 | 6点 | シャーロック・ホームズの事件簿 アーサー・コナン・ドイル |
(2012/11/01 20:13登録) 知名度抜群のミステリ古典と言えばやはりホームズ。何編かは子ども向け版で読んでいたのですが、本短編集12編を通して読むのは今回が初めてでした。 原題は、有名な『ソア橋』以外すべて、"The Adventure of ~" となっています。その『ソア橋』は "The Problem of Thor Bridge" ですから、後期作品中特にトリッキーな作品だけのことはあると納得の原題です。 確かに『三人ガリデブ』は二番煎じですし、平凡な話も多いし、といった不満はあります。むしろチャレンジャー教授向きと思えるのまで入っています。しかし、『白面の兵士』と『ライオンのたてがみ』をホームズ自身が執筆したという体裁にする(ホームズの言い訳が笑えます)など、語り方に変化を持たせてもいます。『マザリンの宝石』は三人称形式ですが、だからこそ可能なオチを用意しています。ワトソン手記では『サセックスの吸血鬼』、それに最後の『隠退した絵の具屋』も好きですね。 |
No.569 | 6点 | ケープ・フィアー 恐怖の岬 ジョン・D・マクドナルド |
(2012/10/30 21:07登録) ロス・マク好きであるからには、ロス・マクの筆名変更のせいで混同されたこともあったというこの人のも当然読んでいなければ、と思いながらも、Amazonの古本を買うほどではないかなという状態のままだった作家です。スコセッシ監督の映画は見ていたのですが、当時は原作者がこの作家だということにも気づかず。 そんなわけで今回やっとジョン・D初読ですが、まず意外だったのが、デ・ニーロ演じる悪役と、彼に苦しめられる弁護士との関係が全然違っていたことです。清張の『霧の旗』をも連想させ、悪役の異常さが際立っていたスコセッシ版に比べると、原作の設定は弁護士を始める前の被告人と証人というありふれた関係です。最初の映画化版『恐怖の岬』の粗筋を読むと、これは原作と同じでした。また、クライマックスは「岬」とは全く関係ありません。 弁護士夫婦のなれ初めの追憶まで入れるという、かなりじっくり描きこまれたサスペンスでした。 |
No.568 | 6点 | よろずのことに気をつけよ 川瀬七緒 |
(2012/10/27 19:59登録) 呪術をからめた殺人というので、横溝正史系統なのかと思っていたのですが、かなり違っていました。2011年度乱歩賞受賞作ですから、現代的なタッチがあるのは当然ですが、それはともかくとして。 まず、全体構造がパズラーになっていないのです。ノックスの十戒を引き合いに出すまでもなく、真犯人は巻半ばぐらいまでには登場してこなければならない、というパズラーどころか社会派やハードボイルドでもたいてい守られている法則を無視しています。呪術の扱いもホラー的というより、主人公が文化人類学者だけにアカデミックで厳密です。まあ京極夏彦によると呪術に対する認識に致命的と言えるほどの瑕疵があるそうですが。 主人公に相談に来る真由のキャラがなかなかユニークに描けていますし、後半地方を飛び回るようになってからは雰囲気とサスペンスがきいていて、なかなか楽しめました。 |
No.567 | 7点 | 直線 ディック・フランシス |
(2012/10/22 20:52登録) 直線ねえ、というのが読み終わって感じたことでした。と言っても原題”Straight”を内容に則した「実直」と訳したのでは、確かに冴えませんが。作中の言葉を使えば、主人公や冒頭で事故死する主人公の兄の「まとも」さということです。競馬の直線コースとは何の関係ありません。 騎手であるその主人公は最初から落馬で左足を骨折していて、動くのにも不自由ですから、彼自身はハードなアクションはほとんどできません。宝石商だった兄が死の直前に取り扱っていたダイヤの行方、強盗事件、さらに書き出し1段落で予告してある主人公が殺されそうになる事件、それらの謎の真相はどれもたいしたことはないのですが、うまく絡めてサスペンスもあり、最後までおもしろく読ませてくれます。 兄が様々なハイテク機器に興味を持って集めていたので、後になってそれらが活用されるのではと思っていたのですが、当然の一つだけだったのが、少々残念。 |
No.566 | 6点 | メグレの財布を掏った男 ジョルジュ・シムノン |
(2012/10/18 20:10登録) 早春のパリの明るい雰囲気から始まる作品です。タイトルどおり、バスの中でメグレが身分証明のメダルも入れた財布を掏られるのが事件の発端ですが、これもユーモラスな筆致で描かれています。 ところが死体が発見され検死が終わった後は、何となく初期作品を思わせるような雰囲気になってきます。メグレと顔なじみの男が経営するレストランでの食事風景にもそんなところがありますが、特にラストの中庭での会話から殺人事件のあったアパートに踏み込むあたりの情景に、雰囲気小説とも言われていた時期に近い味があるのです。これを後ろ向きと批判する人もいるでしょうか。 真相自体はオーソドックスなパターンにはまっている上、メグレも途中でそのことを気にしているので、すぐに見当がつくでしょう。まあ、意外性より犯人の心理に対するメグレの最後のセリフが印象に残るような作品ではあります。 |
No.565 | 7点 | 鬼畜の家 深木章子 |
(2012/10/14 14:10登録) 4章に大きく分けられたうち、第1章と第3章は証人たちが話した内容のみで構成されています。その最初の証人である医者の話で読者の興味を引きつけておいて、二人目の証人の話で、タイトルの意味が示されます。さらに三人称形式の第2章で私立探偵の依頼人が登場してくると、事件の全体像が見えてきます。ここまでが、異様な家族の人間関係を描き出していておもしろいのです。人によっては、こんな不愉快なのはいやだというかもしれませんが。 その後、それまで築き上げてきたものに疑問を持たせ、意外な結末を付ける段取りになってきます。読み進んできて面食らうのが、第3章における某証人の話。最後にこの証人の話が二重の意味でうまく回収されているところには、感心しました。 ちりばめられていた手がかりはあまり冴えませんが、元弁護士らしい相続や慰謝料の問題も絡めていて、全体的にはなかなかよくできていると思いました。 |
No.564 | 7点 | 偽りの契り スティーヴン・グリーンリーフ |
(2012/10/11 20:06登録) 私立探偵タナーのシリーズを読むのはこれが2冊目ですが、親しい人からはマーシュと呼ばれている理由が、このシリーズ10作目では説明されています。以前には触れられてなかったのでしょうか。 今回は代理出産に関わる事件で、タナーは代理母に選ばれた人物が本当に信頼できるかどうかの調査を依頼されます。しかし半分にもならないうちに明かされる事実からすると、タナーに調査を依頼する必要があったと思えないのが、疑問点として残ります。 チャンドラー、ケイン、スピレインの名前も引き合いに出されていますが、富豪家族の隠された過去が現在に影を落としているという構図からして、最も近いのはやはりロス・マクでしょう。似すぎて、しかも年代的にも近いのであえて名前は出していないのだと思われます。といっても、ロス・マクほど複雑ではありません。構造は単純だけれどもどんでん返しはある結末になっています。 |
No.563 | 6点 | 裁くのは俺だ ミッキー・スピレイン |
(2012/10/07 11:32登録) この作家もぜひ読んでおかなければとずいぶん前から思っていながらも、やっと初読したスピレイン。 意外だったのが、マイク・ハマーの女性に対するモラリストぶり。文章については、ハメットやチャンドラーとは比較できないとしても、ハドリー・チェイスほどの迫力が感じられないのは、ちょっとつらいところでしょうか。 ハマーを始めとする登場人物のキャラクターにしても文章にしても、まさに通俗ハードボイルドという呼称がふさわしい内容です。ただしストーリー展開は、miniさんも書かれているように意外に正統派ミステリっぽいところを持っています。 発表当時ブーイングを巻き起こすインパクトを放っていた作者の暴力や性に対する感性も、落ち着いてごく普通に楽しめるようになってしまったことには多少悲しみを感じながらも、このある意味「古典」にやっと接することができたことにとりあえず満足して… |
No.562 | 7点 | 仮面法廷 和久峻三 |
(2012/10/05 19:41登録) 土地売買をめぐる詐欺から殺人事件へと、事件は進展していきます。この最初の殺人事件の被害者が誰かという点もかなり意外ですし、刑事事件だけでなく民事訴訟もからめたところが、いかにも弁護士作家らしい発想です。当然殺人事件の裁判も読みどころの一つではありますが、むしろ民事訴訟の行方の方がおもしろいくらい。まあこれは、ミステリに何を求めるかによって評価がわかれるかもしれません。 密室殺人については合鍵の有無に関する議論が不足しているため、不可能性が明確でないのが少々不満ではあります。また針金のこういう使い方はあまり好きではないのですが、考えてみれば密室にした理由がそれでうまく説明できる点は、高く評価できます。 弁護士作家ならではの逆転の発想の意外性には、全く別の観点から犯人を特定できた後だったにもかかわらず、なるほどと感心させられました。 |
No.561 | 7点 | 別れの顔 ロス・マクドナルド |
(2012/09/30 18:54登録) 盗まれた金の函の捜査から始まる事件は、最初の殺人を手始めに、次から次へと関係者を増やしながら、意外な方向へ複雑な展開を示していきます。誰と誰がどうつながっているのだか、途中でストーリーを整理しながら読み進めないと、よくわからなくなってしまいます。最初の方で、これは重要な要素なんだろうなと思ったことがあったのですが、話が広がっていくうちにいつの間にか忘れかけていました。 そのややこしい事件も、最後にある登場人物の重要な秘密が明かされることによって、一気に解決していきます。ただし第1の殺人事件については、結局犯行の状況はあまり明確にされません。犯人は間違いなくこの人物だろう、ということにはなるのですが。犯人の最後の行動も、そうならざるを得ないかなあとは思うのですが、なんとなくもやもや感が残ります。とりあえずこの後、若い2人に救いのある未来を願って… |
No.560 | 6点 | メグレと賭博師の死 ジョルジュ・シムノン |
(2012/09/27 21:40登録) メグレの友人パルドン医師の奇妙な体験から始まる作品です。それが殺人事件と関連してくるところは、非常にあっさりしています。 作中で、「ナウール事件」として報道されたことが述べられていて、原題も「メグレとナウール事件」となっています。被害者の名前ですが、この男はルーレット等に対して数学的(確率的?)なアプローチをするプロの賭博師という設定です。しかし、ツキとかでなく数学的なことを言い出せば、カジノでの賭博なんてバカバカしいと思えるのですが。ともかく、そのナウールが自宅で殺された事件で、容疑者はほとんど最初から3人に限定されています。 犯人逮捕後、裁判でメグレが証言して有罪判決があるところまで、簡単にではありますが描かれているのは、シムノンに限らず珍しいことではないでしょうか。それにはテーマ的な理由があり、最後のメグレの一言が苦い味わいを出しています。 |
No.559 | 4点 | 「黒い箱」の館 本岡類 |
(2012/09/23 12:29登録) なんとも気楽に読める小説でした。田舎の旧家で起こる連続殺人で、3代にわたる呪いなんて話も出てきますが、作者自身意識していることを1ページ目から認めている横溝正史とは、全然雰囲気が違います。だいたいタイトルの「館」が新築の現代的な建物なのですから、ギャップ感は意図的です。 最初の「自殺」事件のトリックは、その道具を使うというアイディアは悪くないと思いますが、実現のための詰めがあまりに甘い。あれを切り取るというのが何を意味するか、考えてみてください。道具の置き場所も不明なままですし、計算根拠にも誤りがあります。 また第2の事件については、方法はわからなくても犯人は当然この人物だろうなとすぐに気づいてしまいます。犯人の狙いが見え透いているのです。 ところで探偵役の水無瀬が冒頭で読んでいた横溝正史の文庫本が何だったのか、ちょっと気になりますね。 |
No.558 | 7点 | スーパー・カンヌ J・G・バラード |
(2012/09/20 20:52登録) 現代社会病理をテーマとした小説が多いバラードですが、前作『コカイン・ナイト』と同工異曲という意見もある作品です。ただし読み終えてみると、むしろ本作の方が前段階と言ってもいいようにも思えました。登場人物の一人が、最後の方になって『コカイン・ナイト』的な台詞を言うのです。 バラードはある意味クローズド・サークルを描く作家です。とは言っても、彼が取り扱うのは一つの地域、コミュニティー全体。ミステリ界から強いて似た傾向を挙げれば、クイーンの『ガラスの村』や『第八の日』あたりでしょうか。 ラストについては、訳者あとがきによると「そうくるか!と膝を叩いた人と、これはどうしたことだ!と激怒した人に」評価が分かれたそうですが、早い段階から、この作家なら結局そうなるんじゃないかとは思っていました。いわゆる意外な結末を期待しているわけではないので、いいのですが。 |
No.557 | 6点 | 青列車は13回停る ボアロー&ナルスジャック |
(2012/09/17 08:29登録) パリとフランス南東部マントンとの間を走る特急「青列車」と言えば、クリスティーにもこの列車を舞台にした長編がありましたね。その青列車が停まる13の市を舞台にした短編集といっても、中にはただその町で事件が起こるというだけで、青列車どころか駅さえ出てこない作品もいくつかあります。また、その地方を舞台とする必然性を感じないものが多いです。 連作ではありますが、統一性よりもバラエティに富んだ短編集になっています。不可能犯罪の謎解きものならばトゥーロンとニースの2編、狂気の屁理屈がサスペンスを高めるリヨン、人情派風な後味がいいサン・ラファエルとカンヌ、皮肉なツイストが効いたマルセイユとモンテカルロなど、様々な趣向が楽しめます。 個人的には、どうということもないシンプルな内容ながら、夫の毒殺にゆれる人妻の心理を描いた、冒頭のパリが好みです。なお、メインの事件が実際に青列車内で起こるのはこの作品のみ。 |
No.556 | 6点 | 女郎蜘蛛 伊集院大介と幻の友禅 栗本薫 |
(2012/09/13 20:50登録) 伊集院大介シリーズは、だいぶ前に1冊番外編的なのを読んだことがあるだけ。 かなりの大作です。まあ、長いのが得意な作家ではあります。長くなっているのは、着物、その中でも当然友禅が中心になるわけですが、それに対する薀蓄が延々と書かれているからです。複数の登場人物が自分の言葉で似たようなことを語るのを積み重ねていくわけで、その意味では実にわかりやすい着物講座です。また、主要登場人物たちはなかなか個性的に描かれていて、そこも読みどころです。 タイトルにもなっている女郎蜘蛛になぞらえられる人物が事件の中でどんな役割を演じているのかについては、読み終えてみると、はぁそうなるんですねという感じですが、まあこれはこれで問題ないと思います。ただ最初の殺人の真相が、かなり安易です。なぜ安易なのかという点は納得できなくはないのですが、ミステリなんですから。 |