home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.690 5点 丸裸の男
ジョルジュ・シムノン
(2014/03/16 15:54登録)
O探偵事務所の事件簿第3巻に収録されている4編中、事件調査を依頼されて始まるのは最後の『ミュージシャンの逮捕』だけです。それさえ、所長のトランス元刑事の知人であるミュージシャンが逮捕されそうだと緊急の助けを求めてきたものです。この作品の真相は最初から明らかなのですが、証拠隠滅を図ったとしてトランスがパリ警視庁局長に呼び出しをくらい、冷や汗をかくことになるという、サスペンス系な展開です。
最初の表題作は有名な弁護士が一斉取り締まりで検挙された連中の中にいることにトランスが気づく、という出だしは魅力的ですが、解決はまあまあ程度。次の『モレ村の絞殺者』が同名を名乗る二人の老人が同夜に絞殺されるという冒頭の謎も、その謎解きもよくできています。ただし、かなり複雑な事件なので、もっと長くした方がよかったでしょう。『シャープペンシルの老人』は、まあこんなものかな、という程度でした。


No.689 6点 女の顔を覆え
P・D・ジェイムズ
(2014/03/11 23:18登録)
本作が初読の作家ですが、P・Dがフィリス・ドロシーの頭文字であることを知るためには、疑問を持って調べなければならないでしょう。本作の巻末解説にも書いてありません。
さて、その「ミステリの新女王」の第1作ですが、巻末解説ではロマンス作家クリスティーと比較して、作者がリアリストであることを強調しています。でも、どうなんでしょうね。まあ、世代の違いは感じさせられます。田舎地主の館を舞台にしているとはいえ、まず被害者が住み込みのメイド1人だけだということ、またそのメイドの考えていることがつかみにくいこと等、明らかに古典的パターンから外れています。
謎解き的には、様々な偶然の出来事が重なって真犯人がわかりにくくなっていたことが、最後に明らかにされていくところに、感心しました。また殺人動機は非常に納得できるのですが、明確に分類定義できるようなものでないのも、おもしろいところです。


No.688 8点 罪火
大門剛明
(2014/03/07 23:25登録)
横溝正史ミステリ大賞を獲った『雪冤』はひねり過ぎの感はありながらも、読み応え十分な作品だったので、第2作も期待して読み始めたのでした。ところが非常にシンプルに、殺人者の視点と探偵役の視点を切り替えていく犯罪小説(倒叙とはちょっと違うと思います)になっていて、意外な気がしました。ただし第1作が冤罪を扱っていたのに対して今回は修復的司法という、やはり犯罪者対被害者の関係を多角的に考えていく作者の真摯な態度は健在です。
プロットも一筋縄ではいかない作者であることを意識していると、冒頭章、そして途中に、明らかに伏線だなとわかる記述がありますし、殺人者の視点から書かれたある部分に違和感も覚えるのですが、その意味が分からないままに読み進んでいくと、最後にはこんな意外性もあるのかと驚かされました。ある意味クイーンの某中期作品にも通じる気持ちを味あわせられた作品です。


No.687 6点 老婦人クラブ
ジョルジュ・シムノン
(2014/03/04 23:02登録)
赤毛のエミールが活躍するO(オー)探偵事務所の事件簿シリーズ第2巻には、3編が収録されています。
最初の『むっつり医者と二つの大箱』では、メグレもの常連のリュカ部長刑事がこのシリーズでは初登場して、司法警察での容疑者尋問という、それこそメグレものでは毎度おなじみのシーンも出てきます。この作品は、3編の中では最も正統的な謎解きパターンと言えるでしょう。真相はごく単純ですが、タイトルの医者のキャラクターが際立っています。
『地下鉄の切符』は探偵事務所を訪ねてきた男は既に瀕死の状態で、ダイイング・メッセージを残して死んでしまうという、期待を抱かせる発端ですが、解決は今ひとつでした。魅力的な発端と言えば、『老婦人クラブ』も奇妙な事件で、「犯人」は最初からわかっているホワイダニット系作品です。エミールが過去に会ったことのある人物が登場したりして、展開の意外性があり、なかなか楽しめました。


No.686 6点 真昼の翳
エリック・アンブラー
(2014/02/27 23:01登録)
1964年のエドガー賞を受賞した作品。ただし、アンブラーの代表作の一つとは言えなさそうです。全体的な出来ばえも、特に優れているとは思えないのですが、それよりリアリズムなスパイものを得意とする作者にしては、ポケミス版あとがきにも書かれているように意外な一面を見せてくれた作品だからです。
アンブラーらしい丁寧な文章がなければ、コメディと言ってもいいようなところがかなりあります。特に謎の一味に対する潜入捜査を余儀なくされた小悪党の主人公が最後になんとか窮地を脱するシーンは、こんなことで決着がついてしまうのかとあきれるくらいすっとぼけています。本作の映画化である『トプカピ』は見ていないのですが、一般的にはコメディ・サスペンスと評されているようです。ただし映画では粗筋を読む限り、原作で意外性演出に使っていた一味の秘密計画を、最初から明かしてしまっています。


No.685 5点 影の地帯
松本清張
(2014/02/23 18:53登録)
『霧の旗』『黒い福音』『砂の器』等と同じ1961年に発表されたかなりの大作です。ともかく膨大な量のミステリを書きまくっていた時期で、それぞれ強烈な個性を感じさせるそれらの有名作と比べると、本作は大作感はありますし、死体処理トリックが工夫されているものの、特に際立った印象は残りませんでした。全体的には、社会派冒険スリラーとでも呼びたいような、リアリズムの中にご都合主義的な荒唐無稽さをミックスしたタイプと言えそうです。
フリーのカメラマンが主役ですが、途中で視点が新聞記者に替わり、探偵役交代かと思っていたら、70ページぐらいしてまた元に戻るという構成になっています。しかし、この新聞記者の部分は手紙だけで済ませた方がよかったように思えました。ラストの決着のつけ方も、唐突かつ安易な感じがぬぐい切れません。それに松本清張にしては、文章が多少雑な感じがするのも気になります。


No.684 6点 ドーヴィルの花売り娘
ジョルジュ・シムノン
(2014/02/18 23:37登録)
4分冊になった14の短編からなるO(オー)探偵事務所の事件簿シリーズその1で、4編が収録されています。全部まとめたずいぶん分厚い原書が、Amazonで売られていたのを見た記憶もあります。しかしこんなに小分けにしなくてもという気もします。
探偵事務所の所長は元刑事のトランス。メグレ警視の部下だった人で、そのことは作中で何度も繰り返されます。ただし翻訳版のシリーズ・タイトルからもわかるように、名探偵役はエミール(姓は不明)という赤毛の男で、彼が実質的な探偵事務所長。
最初の『エミールの小さなオフィス』は主要登場人物紹介にかなり筆を費やしています。ストーリーは全く違いますが、シリーズの最初に持ってくる作品としては、ドイルの『ボヘミアの醜聞』と共通するものがあります。続く3編ともあっさりめのパズラー系で、特に『入り江の三艘の船』はシムノンと思えないほど動機は付け足し程度でした。


No.683 5点 殺戮の天使
ジャン=パトリック・マンシェット
(2014/02/13 23:41登録)
フランスのミステリは、メグレ・シリーズを始め短めのものが多いですが、本作は中編と言っていいでしょう。女殺し屋を描いた作品だというので、全編にわたって次から次へと冷血に殺人を繰り返していく話かと思っていたら、全然違っていました。第1章こそ、突然獲物の前に現れてあっさりと撃ち殺すという、非情なクライム・ノベルらしいオープニングですが、その後しばらくは、過去における殺人が説明されはするものの、彼女が新しく来た町で、町の「金持ち」たちが紹介され、仕事のあたりをつけていく過程が描かれていくのです。そして2/3ぐらいのところでやっと起こる殺人の顛末とその直後の彼女の行動は、予想外で困惑させられます。
しかしその後はまさにタイトルにふさわしい急展開になってきます。救いのない結末で、それは最初から当然だろうとは思っていたのですが、それにしても最後の1ページの文章には、また困惑させられてしまいました。


No.682 7点 ハルビン・カフェ
打海文三
(2014/02/09 12:14登録)
2002年に発表された本作の時代設定は、携帯電話や登場人物の世代からすると、たぶん2019年頃だと思われます。あいまいな書き方のわりに、中途半端な年だと言われるかもしれませんが、実は有名なSF映画『ブレードランナー』の設定年だからです。異文化が混在する猥雑で暗い感じのハードボイルドな雰囲気には、共通するものがあると思います。ただし、本作ではSF的ガジェットは全く出てきません。
章ごとにさまざまな登場人物の視点から、少しずつ明らかにされていくのは、北陸の架空都市「海市」を中心に起こった約20年間にわたる様々な事件の相互関連です。そしてそれらの事件の影から浮かび上がってくる一人の男の実像。彼がルトガー・ハウアー演じるロイ以上に超人的に見えるのは、さすがにちょっとどうかとも思えますが。
腐敗した警察とギャング世界を重厚なタッチで描いた大作で、読みごたえ十分でした。


No.681 7点 マンハンター
ジョー・ゴアズ
(2014/02/05 23:22登録)
麻薬の取引仲介相手を殺してヘロインとその支払金の両方を持ち逃げした男と、その彼を追う側の視点を交互に描く手法をとった作品です。読み始めてすぐ、なんだか通俗ハードボイルド系な書き方だなあという印象を持ったのでした。ゴアズはこんなタイプも書くんだ、と少々びっくりしたのですが、半ばあたりで何となく全体構想の見当がついてきてから、かえっておもしろさが増してきました。後半、迫力の格闘、カーチェイスと話は盛り上がっていきます。そして読み終えてみると、確かにハメット系のシリアスな描き方では、結末がしらじらしく感じられてしまうだろうと納得できました。粗を探せばいくらでも疑問点が出てくる解決ではありますが、通俗っぽいからこそ、そんな細部は気にせず楽しめるのだと思えたのです。
原題は ”Interface”(取引の仲介役を意味していると思われます) で、現代ならそのまま邦題になるかもしれません。


No.680 7点 ポンスン事件
F・W・クロフツ
(2014/01/31 22:54登録)
クロフツ第2作で活躍するのはタナー警部で、たぶん後のフレンチ警部もの『スターヴェルの悲劇』で言及される人と同一人物でしょう。ただし、別の素人探偵役によって捜査の不備が指摘されるのは前作と似ています。
今回は、殺人容疑者が2人いて、その両方にアリバイがあるのですが、そのそれぞれを別の探偵役が崩してしまいます。一方は足跡利用、もう一方は時刻表タイプと変化をつけていますし、鮎川哲也の某作品のような偶然の重なりではないところが、うまく考えられています。さらにその後3人目の容疑者まで出してきて、逃亡したこの容疑者をタナー警部が様々な乗物を駆使して追跡していくところは、サスペンスもあります。
クロフツらしい試行錯誤捜査の果てにたどりつく真相については、肩すかしだと言う人がいるのもわかるタイプではありますが、個人的には論理的に納得のいく解決でした。


No.679 6点 日蝕の檻
小林久三
(2014/01/28 00:20登録)
映画の助監督や脚本家の経験もある小林久三が、第二次世界大戦後の日本映画界の影の部分を描いた大作です。
作中では、日本映画がどん底状態だという見方が常識であるように書かれていますが、1977年発表ということは、たとえばその前年に『犬神家の一族』が公開され、むしろ上向きになってきた時期のように思えます。また作者の言うごく一部の「良心的な映画」には寅さんも入りそうにないのですが、まあそこはテーマを明確にするための誇張なのでしょう。事件の黒幕の正体は最初からわかり切っていますが、社会派的な部分は充実しています。
ただ構成的に見ると、ベテラン刑事、若手のプロデューサー、脚本家の妻の3人の視点を切り替えていく手法とか、フラッシュバックで捜査過程を説明する手法など、さほど効果がないように思えます。シリアスな作風だけに、もっとストレートに書いてもらった方がいいような気がしました。


No.678 5点 ひきがえるの夜
マイクル・コリンズ
(2014/01/23 22:50登録)
片手の探偵と言えばディック・フランシスのシッド・ハレーがまず思い浮かびますが、マイクル・コリンズ描くニューヨークの私立探偵ダン・フォーチューンは左腕がないのです。本作はそのハードボイルド・シリーズ第3作ですが、シッドに比べると片腕であるハンディキャップは強調されていません。
演劇界の人気俳優兼演出家を中心とした展開ですが、話を広げていきにくい事件と感じました。結局は3人の人間が死に、フォーチューン自身も死にかける爆発まで起こるのですが、全体的にはこじんまりとまとまった印象なのです。それはそれでいいのですが。
文章的には、表現に多少不器用なところがあると思いました。ただこれは翻訳のせいかもしれません。実際、この翻訳には明らかな疑問があります。テイブル、コウト等、確かに英語の発音に近いでしょうが、あえて外来語として定着した表記と異なる書き方にする意味があるとは思えません。


No.677 7点 鉄の門
マーガレット・ミラー
(2014/01/19 22:38登録)
なぜだかわかりませんが、この作品は以前に読んだことがあるはずなのに、内容を全く覚えていないのです。『殺す風』に比べるとシンプルな構成で明らかに覚えやすいにもかかわらず。この記憶の喪失はミラー的な不安を感じさせるほどに…
忘れてはいたのですが、読み始めてすぐ、フェイクなのか真相なのか明確にはならないにしても、ともかく一つの仮説は思いつきました。実際、これはほとんどの人が考えるのではないでしょうか。そして結局それが真相の一部ではあるのです。しかし、大きく3部に分かれたこの小説の第2部に入ってタイトルの意味がわかるあたりからの展開には驚かされます。奇をてらった意外性ではなく、人間関係の歪みや思い込みから自然に発生してくることが納得できるけれども、型にはまった小説とは異なる展開になるところが意外なのです。
サンズ警部による事件の締めくくり方にも、驚かされました。


No.676 4点 ハードフェアリーズ
生垣真太郎
(2014/01/16 22:47登録)
舞台はニューヨークで登場人物たちはアメリカ人という小説。提出される謎と、20年後に明かされるその真相は、偶然が過ぎると思えるところもありますが、悪くありません。しかし…
この作者の、一人称形式で事件と無関係なとりとめのない思考をひたすら長々と(ただしやたら改行を入れながら)連ねる文章には辟易させられました。通俗的な意味での「詩的抒情性」に満ちた文体です。探偵役の一人称形式と言えば、内面描写を避けるハードボイルドもそうですが、この作者の感覚はまさにその対極。ハードボイルドっぽく簡潔に描けば、小説の長さは1/3程度で済みそうです。
作中の映画評論家はルイ・マル監督をどうでもいいとか言っていましたが、私自身マルの中ではその甘さがあまり好きでない『恋人たち』を、さらに引き延ばして何十倍も甘ったるくしたような作品です。


No.675 7点 第八の地獄
スタンリイ・エリン
(2014/01/11 12:28登録)
エリンというと異色短編作家としてのイメージが強いですが、長編も10冊以上あり、特に本作は1959年のエドガー賞を受賞した代表作です。
ニューヨーク現代社会(1958年当時)の腐敗ぶりをダンテの描く第八の地獄になぞらえているわけで、テーマ的にも、主役が私立探偵社の社長であることからしても、正統派ハードボイルド系という感じがします。ただし、エリンの文章は古典文学の素養をちりばめていて、ハメット等の簡潔な文章とはかなり違います。ストーリーは平の巡査が賭博師から賄賂を受け取った事件について、理想主義の弁護士からの依頼で、主人公が冤罪証明調査に乗り出す(冤罪であると信じないまま)というもので、地味な内容ですが、最後まで飽きさせません。
ただし訳文は、小笠原豊樹にしては、同じ人物の会話の調子が丁寧だったりぞんざいだったり統一されていなくて、気になるところもありました。


No.674 3点 心地よく秘密めいた場所
エラリイ・クイーン
(2014/01/07 22:25登録)
マンフレッド・リーの死去によって結局クイーン最後の長編となった本作、構成は凝っていますし、最初のうちは、左右の問題とそれに対する解答など、なかなかおもしろく読ませてくれます。
ところが、最初の殺人事件が疑念を残したまま「一応」片付いた後、しばらくして第2の殺人が起こってからが、どうにも冴えません。パターン的には『最後の一撃』と似た、ミッシング・リンク的な謎なのですが、それほどと思えなかった『最後の一撃』と比べても、謎そのものに魅力がありませんし、その解決にも説得力がないのです。元々登場人物が少なすぎて、犯人には『真鍮の家』『最後の女』のようなそれなりの意外性もありませんし、かといって犯行計画もそんなに巧妙と思えません。そんなたいしたことのない計略にひっかかるエラリーの論理ミスも、ちょっといただけないものです。
どうも残念な出来の最終作でした。


No.673 5点 黄金流砂
中津文彦
(2014/01/04 15:59登録)
高木彬光の『成吉思汗の秘密』でも扱われていた、源義経は平泉では死んでいなかったという言い伝えの紹介から始まるミステリです。盛岡で起こった歴史学者殺害事件を、新米新聞記者と、その学者の弟子だった高校教師が探っていきますが、義経北行説よりもむしろ、義経を匿った藤原家にまつわる歴史的謎の方が、現在の殺人事件と重要なつながりを持ってきます。
第28回乱歩賞を岡嶋二人の『焦茶色のパステル』と分け合った作品。前半が退屈だという審査員の意見もありますが、個人的にはむしろ前半の地味な展開を最後まで続けてもらいたかったように思いました。半ばで藤原家関係の、判読不能文字文書が出てきてからは、高木彬光のような歴史考証から虚構世界に移行していき、最後の現在の事件の全貌が明かされるシーンは、もう伝奇冒険小説と言ってもいいほどです。全体的なバランスを失していると思えます。


No.672 6点 わが兄弟、ユダ
ボアロー&ナルスジャック
(2013/12/29 22:45登録)
殺人者の視点から描かれた犯罪心理小説です。それにもかかわらず、連続殺人の動機を隠すことでホワイダニットにもなっているのは、謎解き要素も忘れない作家らしいところと言えるでしょうか。ただ、クイーンのショートショートにちょっと似たアイディアを謎ではなく基本設定として使っているものがあり、そのため早い段階で動機の見当はついてしまいました。
もちろん、その謎だけの作品ではありません。タイトルのユダはもちろんイエスを裏切った弟子なわけですが、最後の方になってある登場人物によってユダに対する新解釈が語られます。それでタイトルの意味も明らかになるわけで、宗教団体に題材を採った理由もわかります。初期には心理ホラー的な要素が強かったコンビ作家ですが、本作は強烈なサスペンスよりも、自らが属する宗教団体の発展のためを思う犯罪者の苦悩を描いた作品として評価できる作品だと思います。


No.671 6点 酔いどれの誇り
ジェイムズ・クラムリー
(2013/12/22 23:49登録)
巻頭に短い引用を置く小説は多いですが、本作は、リュウ・アーチャーの言葉を載せています。しかし、ロス・マクと同じハードボイルドといってもタイプはずいぶん違います。
ストーリーの骨格そのものは非常にシンプルですが、主人公のミロが自分の過去を語る部分が多く、そこが読みどころでもあると同時に、複雑な構成を期待するミステリ・ファンには物足らないところでもあるのでしょう。実際、真相はあまりに地味すぎて、ダミー解決ではないかと疑ってしまったほどでした。
また、本作はクラムリー最初のミステリということで、後の作品に比べるとクラムリー節が未だ確立されきっていないと感じました。まず各シーンの印象が、後年ほど強烈ではないのです。ミロを始めとする酔いどれぶりにも今ひとつ説得力が感じられません。登場人物たちは魅力的ですし、ラストの意外性もチャンドラーには及ばないものの、衝撃力はあると思うのですが。

1530中の書評を表示しています 841 - 860