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ミステリの祭典

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真昼の翳
アーサー・シンプソン

作家 エリック・アンブラー
出版日1963年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2017/03/26 17:35登録)
本作はスパイ小説の手法によるケイパーもの、という感じ。ただし、そのスパイがアンブラーらしいというのか、一種のマージナル・マン、というあたりにポイントがある。
主人公のアーサー・シンプソンは、ていうといかにもイギリス人っぽい名前なんだが、ミドルネームはイスラム系の「アブデル」だったりする..出自自体がイギリス軍の下士官の現地妻の子供で、イギリスで教育を受けはしたが、実質無国籍でアテネで燻っている小悪党である。冴えない中年男で、手癖も悪いし、口癖は今亡き父親の(結構ショボい)人生訓...話の中で明らかになるさらにカッコわるい弱点もあったりする。およそお話の主人公に向かないキャラである。
で、ある計画を持った悪党に脅されて、車をイスタンブールに回送するのだが、その車には実は武器が隠されていた。税関でそれが見つかり、秘密警察のスパイとなることを強制されるが....で始まる話は、最終的に大掛かりなトプカピ宮殿からの宝物略奪計画に膨らむ(というか、映画は宣伝上これを最初からバラしてるから、隠す意味ないでしょう?)。
けどね、このシンプソン、カッコ悪いなりに読んでいると何となく憎めなく、愛着もわいてくるようなショーモない奴である。まあアンブラーのテーマって、「スパイ業界にマトモな奴は一切いない!」ってことだから、無能だけど悪知恵だけはあるシンプソンは、悪知恵だけでうまくサバイバルしていくわけだ...「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」というのは早川義夫の名言だが、シンプソンはそのウラで「かっこワルイことはなんてかっこいいんだろう?」という命題を地で行こうとする。こういうアンブラーのヒネクレ具合を楽しめないと、本作は難しいかもね。
あと少し映画について。本作の映画化「トプカピ」は見る価値あり。監督のジュールス・ダッシンって評者は犯罪映画の巨匠のひとりだと思うよ。でしかも、この人赤狩りにひっかかってヨーロッパに亡命し、最終的にギリシャに落ち着いて「トプカピ」でも主演をするメリナ・メルクーリ(のちに左翼政権の大臣にまでなっちゃう女傑だよ)と結婚する...という、小説の主人公シンプソンと少し重なる経歴を持ってたりする。まあ映画はメルクーリの妙な迫力が面白いし、昔風に言えば「スパイ大作戦」な映画がネタを頂いたのを楽しむのも一興。

No.1 6点
(2014/02/27 23:01登録)
1964年のエドガー賞を受賞した作品。ただし、アンブラーの代表作の一つとは言えなさそうです。全体的な出来ばえも、特に優れているとは思えないのですが、それよりリアリズムなスパイものを得意とする作者にしては、ポケミス版あとがきにも書かれているように意外な一面を見せてくれた作品だからです。
アンブラーらしい丁寧な文章がなければ、コメディと言ってもいいようなところがかなりあります。特に謎の一味に対する潜入捜査を余儀なくされた小悪党の主人公が最後になんとか窮地を脱するシーンは、こんなことで決着がついてしまうのかとあきれるくらいすっとぼけています。本作の映画化である『トプカピ』は見ていないのですが、一般的にはコメディ・サスペンスと評されているようです。ただし映画では粗筋を読む限り、原作で意外性演出に使っていた一味の秘密計画を、最初から明かしてしまっています。

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