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ミステリの祭典

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罪火

作家 大門剛明
出版日2009年12月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 パメル
(2021/12/24 08:43登録)
事件は、伊勢神宮奉納全国花火大会の夜に起こった。派遣社員の若宮忍は、中学二年生の町村花歩を殺した。しかし、警察が逮捕したのは別の人物だった。花歩の母親である町村理絵は、娘の事件を追い続け、ようやくその真相に辿り着いたのだが...。
本作で扱われている社会的テーマは、修復的司法というもの。犯罪の被害者と加害者が話し合うこと(VOM)により問題の解決を図るという試みである。そのVOMの仲介者だった町村理絵は、娘が殺されたことで自分も被害者の立場に立たされてしまい苦悩する。一方の若宮忍は、少年時代に殺人を犯した過去があった。
事件当時者の和解、加害者の更生など、登場人物のそれぞれの過去と現在が描かれ、人間模様が絡み合う。複雑な心理や人間の裏側も巧みにストーリーに取り込まれている。修復的司法のあり方について深く考えさせられるような事件が起こり、問題意識を自然と心に植え付けられていく。
残り数ページになるまでは、普通の社会派小説だと思っていた。しかし、驚きのどんでん返しが待っていた。それまでの世界観が崩れるほどの、どんでん返しのある作品はいくつか読んできたが、このパターンは初めてで良い意味で、しばし放心状態となった。タイトルの意味が分かるとともに、ある人物の名誉を守るための隠蔽工作があまりにも切ない。

No.1 8点
(2014/03/07 23:25登録)
横溝正史ミステリ大賞を獲った『雪冤』はひねり過ぎの感はありながらも、読み応え十分な作品だったので、第2作も期待して読み始めたのでした。ところが非常にシンプルに、殺人者の視点と探偵役の視点を切り替えていく犯罪小説(倒叙とはちょっと違うと思います)になっていて、意外な気がしました。ただし第1作が冤罪を扱っていたのに対して今回は修復的司法という、やはり犯罪者対被害者の関係を多角的に考えていく作者の真摯な態度は健在です。
プロットも一筋縄ではいかない作者であることを意識していると、冒頭章、そして途中に、明らかに伏線だなとわかる記述がありますし、殺人者の視点から書かれたある部分に違和感も覚えるのですが、その意味が分からないままに読み進んでいくと、最後にはこんな意外性もあるのかと驚かされました。ある意味クイーンの某中期作品にも通じる気持ちを味あわせられた作品です。

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