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ミステリの祭典

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わが兄弟、ユダ

作家 ボアロー&ナルスジャック
出版日1979年06月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2024/06/17 10:18登録)
後期ボア&ナルって、前期の心理主義が薄れて、奇抜なシチュエーションでのアイロニカルな右往左往を描いて、中にピリっとした仕掛けが仕込まれている...そんなナイスな作風に変わって評者は大歓迎なんだ。

本作の舞台はミトラ教(古代オリエント発祥の神秘主義宗教で、初期キリスト教のライバル宗教)を名乗る新興宗教団体。指導者のピキュジアン教授はまるっきりの浮世離れした神秘主義者であり、教団実務は主人公の銀行員アンデューズが仕切っていた。このアンデューズを含む7人が遭遇する交通事故が事件のきっかけとなる。この事故で生じたある錯誤を教団の利害の為に押し通すために、アンデューズは4人の信徒を殺す計画を立てた....

彼(ユダ)はペテロに、ヨハネにくってかかりました。"それじゃ、金庫をあずかってみてくださいよ。わたしはもうたくさんです。わたしが一方でせっせと集めてきたものを、あなたたちが他方で浪費しているのですからね" しまいに彼は疲れはてて、放り出してしまいました。

と後半に元司祭で異端視される信徒から、アンデューズはこんな寓話を聞かされて、まさに自分の立場がユダのものであることを示唆される...

うん、こんな話。このアンデューズ、昔のボア&ナルなら「冷静なor激情に駆られた殺人者」だったんだろう。このアンデューズはターゲットを誘い出して殺害を試みるんだけども、なんか優柔不断なんだよね。これが本作の味わい。ちゃんと殺せたかも実はよくわからない。こんな終始グダグダな殺人者を巡るブラックなコメディのように読んでいたなあ。

オウムで言えば「子ども集団の中で唯一の大人」と評された早川紀代秀氏に近い立場ということになる。まあユダというキャラ自体、グノーシス福音書の一つで「ユダの福音書」が書かれたりとか、昔からいろいろな空想を誘う人物でもある。小栗虫太郎の「源内焼六術和尚」でも本作と似たような解釈を披露していたりもする。まあだから、こういう発想を軸に「子供たちを守りたい、暴走した母性」といった雰囲気でユダ=アンデューズを描くというのは、よくわかる。

けどね、空さんのご講評でも「動機がすぐ見当がつく」とご指摘のように、ホワイダニットは形式的なもので、それをひっくりかえすほどの仕掛けがないのが残念。一種の寓話だと納得するしかないかな。

でもとっぴな舞台・キャラや展開は興味深いので、楽しく読める。
(そういやこのユダ観って、三田誠広の「ユダの謎 キリストの謎」と近いと思う。史実というより小説家的空想力の産物だけどもね)

No.1 6点
(2013/12/29 22:45登録)
殺人者の視点から描かれた犯罪心理小説です。それにもかかわらず、連続殺人の動機を隠すことでホワイダニットにもなっているのは、謎解き要素も忘れない作家らしいところと言えるでしょうか。ただ、クイーンのショートショートにちょっと似たアイディアを謎ではなく基本設定として使っているものがあり、そのため早い段階で動機の見当はついてしまいました。
もちろん、その謎だけの作品ではありません。タイトルのユダはもちろんイエスを裏切った弟子なわけですが、最後の方になってある登場人物によってユダに対する新解釈が語られます。それでタイトルの意味も明らかになるわけで、宗教団体に題材を採った理由もわかります。初期には心理ホラー的な要素が強かったコンビ作家ですが、本作は強烈なサスペンスよりも、自らが属する宗教団体の発展のためを思う犯罪者の苦悩を描いた作品として評価できる作品だと思います。

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