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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1521件

プロフィール| 書評

No.721 7点 渇きの街
北方謙三
(2014/07/26 18:59登録)
1985年度の日本推理作家協会賞受賞作(皆川博子『壁・旅芝居殺人事件』と同時受賞)で、作者自身は受賞の言葉の中で「クライム・ノヴェル、青春小説として書いたものだ」と述べています。
確かに青春小説系ではあるのですが、あまりクライム・ノヴェルらしくありませんでした。殺人を犯しても、刑期が「五年ってとこ」と警察官が言うような状況であっては、犯罪性が薄いと思うのです。その意味では、暴力は満載であるもののミステリ度は低い作品です。北方謙三は初めて読んだのですが、こういうハードボイルドもあるのかな、という感じでした。作者の簡潔な、体言止めを多用する文体にしても、たとえば高城高がヘミングウェイから学んだという意味でのハードボイルド文体とは違うと思います。
しかし当然ジャンル云々で小説の出来が決まるわけではなく、主人公高志の描き方、最後のまとめ方など、さすがに良くできていました。


No.720 7点 狙った獣
マーガレット・ミラー
(2014/07/22 23:07登録)
今まで読んだミラーの3作の中では、最もシンプルで、いかにも心理サスペンスといった趣の作品です。最初に読むミラー作としてはこれがいいでしょうか。
人間性をまるで理解していない駆出し作家ならともかく、これだけ登場人物の心理が克明に描かれている小説としては明らかに納得できないところがあることには、途中で当然気づくでしょう。実際のところ、クライマックスは説得力のあるもので、まあ当然こうならなければならないだろうと思わせられました。最終章の開始部分に起こった出来事が、その結末を急がせる要因になったのだろうなとも推測できます。また最初の方に非常に大胆な伏線があるのですが、すっかり忘れていたところ、最後にそれを指摘されて感心してしまいました。
ただ、第6章の終わりの方と第9章の最初の方に書かれたあることの符合は気になり、そちらの可能性も考えてはいたのですがね…


No.719 6点 マハーラージャ殺し
H・R・F・キーティング
(2014/07/16 22:39登録)
1980年に発表され、2度目のゴールド・ダガー賞を受賞した作品です。1回目の受賞作『パーフェクト殺人』から始まるゴーテ警部のシリーズは20冊以上あるそうですが、今までに翻訳されたのは4冊のみですから、知名度の割に紹介作の少ない作家です。まあ本作を読む限り、じっくり系フーダニットですから、派手な仕掛けを好む本格派ファンには受けないでしょう。
シリーズの「前日譚」(訳者あとがき)とも言うべき本作は1930年のインドが舞台で、『七つの時計』(1929作)を登場人物が読んでいたり、ポアロについて語られたりと、明らかにクリスティーを意識しているのですが、それにしてはハワード警視の消去法推理にはあまり説得力がありません。また決定的な手掛かりは、その事実が以前の事情聴取で明らかにされていなかったことが意外なくらいです。それなのに、さほど不満を感じなかったのは、作者の小説家としての腕ということでしょうか。


No.718 6点 暗い海 深い霧
高城高
(2014/07/12 16:07登録)
創元社の高城高全集3に収められているのは、表題作など13の短編です。その表題作と『海坊主作戦』は当時のソ連とアメリカの関係を反映したエスピオナージュです。『微かなる弔鐘』もスパイ活動がらみの作品。いずれも当時の北海道北部の海沿いならではのプロットです。その3編だけでなく、今回は収録作のほとんどが北海道を舞台にしていることを明示していて、その地方の雰囲気が魅力になっています。
チンピラ二人組の犯罪小説『ノサップ灯台』、倒叙もの『死体が消える』、ユーモラスな小品『アリバイ時計』など、さまざまな作品が並んでいますが、解説に紹介されている作者の「ハード・ボイルドとは、私がヘミングウェイから学んだかぎりでは、対象をいかに目をそらさず直視し、それをいかに無駄のない言葉で記すかということ」という定義からすれば、ほとんどの作品がハードボイルドと言えるでしょう。


No.717 6点 暗い鏡の中に
ヘレン・マクロイ
(2014/07/07 23:03登録)
再読だから特にそう感じたということを割り引いても、本作はハウダニットとは言えないでしょう。超常現象を起こす方法は、事件の詳細が目撃者によって語られた時点であまりに明らかとしか言えず、むしろ誰がなぜ、ということの方が謎の中心でしょう。
女学校の教員が突然解雇された理由をすぐには説明せず、読者を焦らせるところとか、その教員の以前の職場のことを途中で明かしてみせるタイミングとかは、さすがです。また、匂いに関するアイディアや、超常現象のきっかけなども、なかなかいいと思います。
ベイジル・ウィリング・シリーズの1冊で、ジャンルとしてはサスペンスよりカー系統の本格派と見るべきでしょうね。ただ、その解決部分に盛り込まれた趣向については、某有名作との共通点が、創元版の解説では指摘されているらしいですが、本作はその趣向のためかえって幕切れの鮮やかさに欠けると思いました。


No.716 6点 サボイ・ホテルの殺人
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2014/07/02 22:34登録)
本作の殺人事件が起こるサボイ・ホテルはストックホルムではなく、スウェーデン南部のマルメにあります。この町から最も近い大都会は何と言ってもデンマークのコペンハーゲンで、海を隔てること30km程度。マルメからストックホルムに短時間で行くには、外国経由で飛行機を利用するのが当然なのです。殺されたのが経済界の重要人物ということで、マルティン・ベックが単身、マルメに出張して捜査の指揮を執ることになります。ただしストックホルムでも捜査は行われ、お馴染みのメンバーが活躍します。
今回の特徴は、対比でしょうか。被害者を始めとする金持ちと、彼等に搾取される側との対比が中心で、あとがきにも社会派的作品であると指摘されています。しかしそれだけでなく、常連警部たちの有能さと、彼等に命令されて働く制服警官たちの間抜けぶりも対比されているのですが、これはあまりに型にはめすぎている感じがしました。


No.715 7点 心に雹の降りしきる
香納諒一
(2014/06/28 16:28登録)
本作の舞台は山下県。その架空の県名は殺人(むしろ傷害致死?)事件が発生してからしばらくして、さりげなく紹介されます。主役は県警のはぐれ刑事都筑で、その一人称形式で話は語られていきます。
警察小説と紹介されることも多いようですが、個人的には、このジャンルは三人称で警察官たちの捜査過程を客観的に描いていくのが基本形式と考えていますので、本作はやはり違うかなと。一方雰囲気からすれば、地味な捜査の前半からハードボイルドであるのは間違いありません。
後半になって都筑刑事が何度も窮地に陥り、傷だらけになりながらも事件すべてを解決するのは、ホントにお疲れ様ですという感じです。最後に実際に雹が降る場面とその後のエピローグの感動でつい絶賛したくもなってしまうのですが、様々な事件を詰め込み過ぎで、具体的な細部が説明されていないところがいくつかあったので、とりあえずこの点数。


No.714 6点 エラリー・クイーンの事件簿2
エラリイ・クイーン
(2014/06/23 22:58登録)
ラジオドラマ2本と映画1本のノベライゼーションですが、そのうち最もいいと思ったのはTetchyさんと同じく『<生き残りクラブ>の冒険』。実はこのアイディアを、クイーンは長編で2回部分的に、また短編でも使っていますが、今回はなかなか鮮やかです。訳者あとがきで、日本人には予備知識がないことが手がかりになっているとしているのはそのとおりですが、推理が明確で、さほど気になりません。むしろ、動機なき殺人の『殺された百万長者の冒険』の手がかりの方が、現代の日本人にはピンとこないでしょう。
元が映画の『完全犯罪』は、人間関係や犯人の設定については以前の某長編とほとんど同じです。しかし、犯行方法や手がかりなどは全く変えていて、むしろ本作の方がすぐれていると思えるところもありました。これは『事件簿1』の『消えた死体』が別の某長編のトリックを全く別設定で利用していたのと好対照と言えるでしょう。


No.713 6点 暗いトンネル
ロス・マクドナルド
(2014/06/20 00:14登録)
ハードボイルドの巨匠が本名ケネス・ミラー名義で1944年に発表したこのデビュー作は、リュウ・アーチャーものでないだけでなく、後年とは作風も完全に異なるスパイ・スリラーで、作者自身ジョン・バカンに影響を受けたと語っています。
とはいえ、最初の1文から、「使い古した汚い毛布のような雪」なんて表現が出てくるあたりからして、ロス・マクらしさの片鱗も感じられます。殺人トリックや犯人の正体など、ロジカルな意外性の工夫があってラストをきれいにまとめるのも、さほど変わることのないこの作者の持ち味だなと思わせられました。もちろん後の作品のような深みには欠けますが、かといってお手軽スリラーでもありません。アクションがかなり多く、それなりに読みごたえもあって、最後まで楽しめました。
展開にご都合主義なところがありますし、殺人に利用されたモノの構造が不明瞭なのは不満ですが、まあいいでしょう。


No.712 6点 酒井嘉七探偵小説選
酒井嘉七
(2014/06/15 14:36登録)
論創ミステリ叢書のタイトル形式に沿って『探偵小説選』としてありますが、むしろ酒井嘉七作品全集と言うべきでしょう。以前に本や雑誌に載ったことのある完成された15作品だけなら全体の2/3程度。その他に、誤字脱字がかなり残っている未定稿もあれば、ミステリ随筆、さらには身辺雑記や短歌23首までをも含んでいるのです。
巻末の解題には「大庭武年と並ぶ戦前本格探偵小説」作家と紹介されていますが、大庭ほど厳格な謎解きではありません。むしろ叙述トリック系を使った、気の利いたオチを持った小品といった感じの作品が多く、個人的意見では厳密な意味での「本格派」完成作は4編のみ。そのうち2編、貿易会社に勤め、英語が堪能であった作者としては意外にも純日本風な『ながうた勧進帳』と『京鹿子娘道成寺』が、良くできています。
また、未定稿の全然ミステリでない『異聞 瀧善三郎』も気に入りました。


No.711 5点 黄金の灰
F・W・クロフツ
(2014/06/12 00:06登録)
構成的には『二つの密室』と似ていて、最初の4割ぐらいは旧家の邸宅に雇われた家政婦の視点から描かれます。その後フレンチの視点になるわけですが、保険会社調査員と協力して捜査を進めていくことになります。
その調査員が扱っている邸宅の火事については、当然真相の予測はつきますし、フレンチ自身火事の詳細を聞くや否や察してしまいます。ただし具体的方法については鉄道技師だったクロフツらしいトリックでしょうが、専門的すぎて、良く理解できません。
明らかな本命の他にも2人容疑者を用意していますが、今回はあまり効果的とは言えません。で、最後は結局お得意のアリバイ崩しになって、解答は「読者にも出せるはず」と、読者への挑戦まで入れてくれています。
なお、本書では「フレンチ警視」となっていますが、『フレンチ警視最初の事件』の8年前、1940年の作品であり、これは階級をどう翻訳するかの問題でしょう。


No.710 5点 ビロードの爪
E・S・ガードナー
(2014/06/08 16:08登録)
内容は全く記憶になかった作品ですが、再読してみると、シリーズ第1作らしく、ペリー・メイスンが弁護士としての自分の信念を語るところがかなりあります。他の作品でも自分を闘士だと言うことはあるのですが、これほど闘志をむき出しにして、人をぶんなぐることまでする(話の展開としては意味のないところで)のは、他に思い当りません。
タイトルはデラが依頼人を評した言葉で、その嫌な性格がりゅうさんも書かれているようにうまく活かされています。ストーリーは快調ですし、読み終えてみると彼女の言動に説得力があるのは高く評価したいのですが、実はメイスンの最後の推理には矛盾点があります。手がかりの一つ、読者の記憶にもはっきり残る方が、犯人の行動を辿ってみればあり得ないことがわかります。凶器について指紋が全く問題にされていないのも、論理的には不満なところです。


No.709 5点 矩形の密室
矢口敦子
(2014/06/03 23:04登録)
『家族の行方』の作者なので、「密室」と言っても不可能犯罪の密室のことであるはずがないと思っていたのですが、密室殺人ではないものの、それに近い事件が起こるのにはびっくりしてしまいました。ただしタイトル自体は作中作の短編『四角い狭い部屋』を始めとしていくつかの意味にとれます。
まだ本作が2作目なので、はっきりとは言えませんが、すっきりとしない不確定な感じが残るところは、この作者らしいのではないでしょうか。しかし本作は基本的には本格派仕立てになっています。実際に殺人らしき事件が起こるのは、全体の2/3を過ぎてからですが、最後に登場人物たちが集合して謎解きが始まるなんて、いかにもな感じです。
思わせぶりなプロローグの後、第1章からはほぼ一貫して40歳ぐらいの女性の視点から語られますが、この人があれこれ推測をめぐらすのは、鬱陶しいだけという気がしました。


No.708 7点 仮面の男
ボアロー&ナルスジャック
(2014/05/30 22:54登録)
創元タイトルページの作品紹介は、先に読まないことをお勧めします。本作ではこのコンビ作家にしては珍しく、すべての秘密をかなり早い段階(100ページぐらい)で明らかにしているのですが、それまで作者が隠しておいたことを、作品紹介では完全にばらしてしまっているのです。
実はこの秘密が明かされるまでが、あまりこの作者らしくない嘘っぽいありきたりな設定なのです。それでもさすがの心理描写の巧みさで読ませてくれているのですが、秘密を読者に明かしてからが俄然おもしろくなってきます。原題の ”Maldonne”(誤配)は比喩的な意味で、読み終えてみると哀しみを持って納得できます。
主人公は不遇なヴァイオリニストだというのが、『女魔術師』のマジシャンや『思い乱れて』のピアニストと同じ芸術家設定なのも、この作者らしいと言うべきでしょうか。


No.707 8点 黄昏に眠る秋
ヨハン・テオリン
(2014/05/26 22:41登録)
北欧ミステリと言えば、同じスウェーデンのシューヴァル&ヴァールーの警察小説が思い浮かぶぐらいのものでしたが、テオリンはこの第1作からその巨匠夫妻以上に北欧的な雰囲気が感じられます。舞台がストックホルムや本作でもちょっと出てくるイェテボリのような都会ではなく、バルト海にあり本土とは橋でつながっているエーランド島だから、ということはあるでしょう。夏の間こそ観光客でにぎわいますが、タイトルどおりの晩秋の、過疎化した村の人気のない寒々とした風景が非常に印象的です。
2007年発表品ですが、時代背景は1990年代中頃。20年以上前に起こった子どもの失踪がメインの事件で、さらに1936年からのある人物についての短い章が少しずつ挿入されます。文庫本で600ページもある大作で、じっくり型のサスペンスは、せっかちな人には退屈かもしれませんが、読みごたえ十分で、ラストの意外性もかなりのものです。


No.706 6点 迷路の花嫁
横溝正史
(2014/05/22 22:38登録)
真相は微妙でした。小説構成から考えると、意外であると同時に非常に納得できるものになっているのですが、論理的に考えると、ずいぶん安易なのです。まず問題なのは最初に起こる殺人事件で最も疑問を感じさせる部分と、被害者が飼っていた犬の毒殺。カーの某有名作と似たパターンで、実際その可能性もすぐ思い浮かべはしたのですが、本作ではカーと違い動機面の説明が説明になっていません。もうひとつこれがメイントリックというアイディアも、犯人の犯行後のある行動がいかにもご都合主義です。
その解決の説明をする金田一耕助の登場シーンが非常に少ない作品でもあります。全体の2/3以上は主人公の作家による新興宗教教祖への復讐譚になっていて、いつの間にか最初の殺人は脇に追いやられ、スリラーとしての面白さがメインになってきます。そういう作品ですので、真相の不自然さには目をつぶって、この評価。


No.705 5点 夜に目覚めて
ブレット・ハリデイ
(2014/05/18 22:33登録)
本作は日本で初めて翻訳されたブレット・ハリデイだそうですが、早川書房、よくもこんな異色作を1回目に選んだものです。まあずいぶん前に『死の配当』を読んだだけの作家なので作風を把握しているとは言えないのですが、
マイケル・シェーン・シリーズ第25作記念で、ハリデイ本人が登場して殺人事件に巻き込まれる話であることは前から知っていたのですが、設定の意外性はそれだけではありませんでした。作中のハリデイに作家志望の女性が書きかけの原稿を見てもらうのですが、その内容が実際に自分自身経験した事件を基にしているというのです。で、その作中作は心理サスペンス調で、全体の1/3近くもあります。
全体の6割ぐらいでマイケル・シェーンが登場してからは、やっとハードボイルドな捜査が開始されますが、前半の作中作では文体を変えるなど、全体的にはあまりハードボイルドらしくありません。


No.704 4点 ウインター殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2014/05/14 23:49登録)
ヴァン・ダインの第12作は創元推理文庫版で150ページぐらいですが、「まえがき」にも書かれているように、小説としての体裁だけは整えているものの完成形ではなく、登場人物の性格付けや情景雰囲気を描きこむ前の段階です。
今回久々に再読してみると、犯人の意外性とか全体的な事件構造は悪くないと思いました。ただしこの段階では、小説としての盛り上げ等の面白さに欠けるのはともかく、ミスディレクション用登場人物の扱いも、本来の目的を達成できていません。まだ小説としての体裁もできていない梗概段階だったクイーンの『間違いの悲劇』がそのような効果をすでに意識した作りだったのと比較してみると、ヴァン・ダイン流の小説作法が窺えます。
有名な20則と、本名で1927年に発表された「推理小説論」が付いていますので、これらの主張と上述の小説作法を考え合わせてみるのも、一興でしょう。


No.703 6点 橋本五郎探偵小説選Ⅰ
橋本五郎
(2014/05/10 11:20登録)
1926年のデビュー2作『レテーロ・エン・ラ・カーヴォ』(英訳すればLetters in the Cave)・『赤鱏のはらわた』からは、アイディア、ブロットよりも語り口で読ませる作家かなという印象だったのですが、その後は様々なタイプの作品が並んでいて、全16編、楽しませてくれました。
『青い手提袋』が構成的には最も正統的な謎解き系ですが、論理的不備が多いのが気になりました。トリック小説としてなら『疑問の叫び』、『撞球室の七人』がまとまっていますが、この2作も全体的構成は古典的作法から逸脱したところがあります。
奇妙な味系『地図にない街』、心理サスペンス『眼』等も悪くありませんが、『探偵開業』、『ペリカン後日譚』の2編のとぼけたユーモアがこの作者の持ち味を最も発揮できていると思えました。歴史もの『美談の詭計』の皮肉な結末も印象に残ります。
巻末の解題にも書かれていますが、大下宇陀児と多少の共通点も感じさせます。


No.702 7点 沈黙のセールスマン
マイクル・Z・リューイン
(2014/05/07 00:09登録)
次作『消えた女』では間近な問題となっていた事務所兼自宅のある建物取り壊しは、本作でもすでに予定されていたんですね。今回の話に華を添えるのはサム。アルバート・サムスンの娘(の愛称)です。12年ぶりの再会という設定で、私立探偵の認可も受け(簡単に受けられるものなんですね)、助手を務めることになるのですが、なかなかチャーミングに描かれています。
そういった華だけでなく、本作では事件そのものも病院の研究施設を舞台に、おもしろく仕上がっています。悪役はほとんど最初からわかっているのですが、事件の蔭に隠されていた秘密は意外で、途中でその一端を明かしてみせた後のひねりなど、良くできていると思いました。
むしろソフトボイルドな探偵サムスンが、自分自身でその行動に「愕然としていた」というほど彼らしからぬ無茶なことをしてくれるシーンもあります。

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