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ミステリの祭典

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恐怖の掟
私立探偵ダン・フォーチュン

作家 マイクル・コリンズ
出版日1979年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2018/11/19 08:08登録)
ネオ・ハードボイルドの片腕探偵として有名なダン・フォーチュンの第1作。作者的に「こういうの、書きたかった」がよく窺われる力作である。フォーチュンのキャラ付けもイロモノではなくて、若気の至りでバカやって、自業自得で屈折してるから、「片腕」のワケも大ホラ吹くことあり。なので独白は饒舌で、カジュアルで辛辣なもの。やや煩く感じるときもあるが、気取りがなくてストリート感覚があるから印象は悪くない。黒人じゃないがご当地ラッパーみたいな元B系のセンスと言ったらいいのかな。根城のチェルシーは港湾荷役があってガラの悪い地帯らしい。ご当地ギャングのボスのパパスとは幼な馴染みだが、行きがかりがあり過ぎて疎遠、というようなキャラだ。
失踪した友人ジョ=ジョを探してほしい、という堅気の少年の依頼で、フォーチュンは調査に動く。パトロール警官が身ぐるみ剥がれた小事件、ギャングのボス・パパスの愛人が殺された事件など、関係があるのかないのか不明な事件がその周囲に漂っていた。依頼人の少年がヤキを入れられ、フォーチュンも襲われた。そのうち失踪した少年が付き合っていた女の死体も見つかる....事件ばかりが起きるが、そのつながりは依然まったく不明のままだ。一体何が起きているのか???
というような話。

(ややバレ)
背景にはいわゆる「沈黙の掟(オメルタってヤツ)」があって、そのシガラミから逃れようとした少年の話。これがわかってくるのが終盤で、フォーチュンの過去とも絡めたドラマを作ってるのは重々承知の上だが、これだったら不良少年モノできっちりジョ=ジョ視点で描いた方が深みが出ていいようにも思うな。そしたらシムノン風の話になるようにも感じる(「リコ兄弟」+「雪は汚れていた」)。フォーチュンも魅力ありだし、ちゃんと推理して名探偵なんだが、「探偵小説」にしたために何か損してる印象がある。まあそれでも充分な力作。ストリートの臭いがあるのが、他のネオ・ハードボイルドに勝る長所。
ハードボイルドってさ、もともと「作家が頭でコネた話より、ストリートで起きてる事件のが面白い!」というあたりで始まったと見ていいのかもしれないから、「ハードボイルドは、ヒップホップだ!」なんて言ったらカッコイイ?

No.1 7点
(2014/07/31 00:45登録)
マイクル・コリンズのデビュー作の原題はAct of Fear。確かに”Act” には法令の意味もあり、作者自身その意味も含めているのかもしれませんが、読み終えてみると、やはりこれは基本的には通常使われる「行為」のことでしょう。最終章では、犯人の恐怖ゆえの行為についてじっくり考察されています。
最初のうちは、社会的な問題などに対する言及が多少うるさい感じもしたのですが、そういったタイプの描き方が最後の動機考察とも結びついていたわけで、巻末解説にはロス・マクによる絶賛が掲載されていますが、それも納得できます。事件の大部分に対する解答(それ自体かなり満足できるもの)が出てしまった後、早川ポケミスで後50ページも残っているのです。いったいこの後何を書くのだろうと思っていたら、そこからが本作のテーマを語る部分になっていたわけで、私立探偵ダン・フォーチューンが片腕であることも活かされています。

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