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ミステリの祭典

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暗いトンネル
チェスター・ゴードン

作家 ロス・マクドナルド
出版日1972年02月
平均点3.50点
書評数2人

No.2 1点 クリスティ再読
(2018/12/02 21:03登録)
そういえば本作とアンブラーの「暗い国境」って共通点が多い。1)巨匠の「らしくない」処女作、2)タイトル似てる、3)創元で出たスパイ小説、4)訳者が菊池光...なんだけど、「暗い国境」が「らしくない」マンガ調のアクションなのに、その「らしくなさ」に妙に醒めたアンブラーの知性を感じさせるところがあって、評者好きなんだけどねえ.....ロスマクの本作、「時流に乗っただけのB級スリラー」で政治センスも知性もあったもんじゃない。「三つの道」は未読だが、創元のロスマクって評者みたいなコンプ・研究をする気がないなら読まなくてホントいいと思う。
第二次大戦中ってね、たとえば「カサブランカ」だってそうなんだが、戦意高揚を狙った映画作りがなされたわけだし、とくに「防諜」を通じて戦争協力体制が形作られたのはアメリカでも同じだ。そういう背景で読み物としても「防諜スパイ小説」が結構書かれたり、映画になったりしたんだが、ここらへんホントにキワモノだから、戦後にはほとんど顧みられることがないわけだ。

この作品を読んでいろいろなことが頭にうかぶが、とくに感銘が深いのは、彼がこの作品を書いた前後、あるいはその後、数多くのミステリ作家が世に出たわけであるが、その大部分が、いわばこの作品のレベルで終始しているのに反し、ロス・マクドナルドはその後の二十七年間に非常な成長を続けてきた、という点である。

と「訳者あとがき」に書かれちゃってる。婉曲にだけどさ「あとがき」で訳者にケナされてるんだよ。そういう作品さね。
敵であるナチのスパイたちはホントに超人的(苦笑)に神出鬼没。親衛隊に身長制限があるのをお忘れでは?となるような変装もしちゃうぞ! で妙な密室殺人もしたりするし、主人公を殺すために延々アメリカの地方都市を追っかけ回す...そんな話。都合よく「騎兵隊」も救援に来る。
で、そのナチのスパイたち、同性愛で淫蕩な連中として描かれる...おいなあ史実に反してるよ。というか、アメリカ人の「道徳意識」を刺激して一山当てようという、時流におもねる低劣な意図しか感じないな。妙なレッテル張りを、「時節柄」なんて逃げゼリフで評者は許す気はないからね。

うん、いいよ、評者にとって、ロスマクの処女作は「人の死に行く道」だ。それ以前は全部無視、ということにしよう。

No.1 6点
(2014/06/20 00:14登録)
ハードボイルドの巨匠が本名ケネス・ミラー名義で1944年に発表したこのデビュー作は、リュウ・アーチャーものでないだけでなく、後年とは作風も完全に異なるスパイ・スリラーで、作者自身ジョン・バカンに影響を受けたと語っています。
とはいえ、最初の1文から、「使い古した汚い毛布のような雪」なんて表現が出てくるあたりからして、ロス・マクらしさの片鱗も感じられます。殺人トリックや犯人の正体など、ロジカルな意外性の工夫があってラストをきれいにまとめるのも、さほど変わることのないこの作者の持ち味だなと思わせられました。もちろん後の作品のような深みには欠けますが、かといってお手軽スリラーでもありません。アクションがかなり多く、それなりに読みごたえもあって、最後まで楽しめました。
展開にご都合主義なところがありますし、殺人に利用されたモノの構造が不明瞭なのは不満ですが、まあいいでしょう。

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