空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1530件 |
No.930 | 6点 | 柩の中の猫 小池真理子 |
(2017/01/12 20:49登録) 後には直木賞、吉川英治文学賞など数多くの文学賞を獲ることになる作家の1990年作です。 大部分は20歳の住み込み家庭教師雅代の一人称で描かれています。時代背景は1955年ですから、ずいぶん昔の設定。猫のララをママのように思う桃子のキャラがさざ波のような不安を広げていく心理サスペンスになっています。何かが起こりそうな予感はかなり早い段階からあるのですが、実際にミステリ的な事件が起こるのは6割を過ぎてから。 しかし、現代のプロローグについては、読み終えてみると必要があったのかなと疑問に思えました。最後にもう一度現代に戻って、さらに何かを起こしてくれるのかなとも思っていたのですが、そんなこともなく終わってしまい、現代に出てくるララそっくりの猫も、雅代の回想の聞き手も、存在意義が感じられませんでした。また、現代では雅代は著名な画家になっていますが、それも事件とは何の関係もないのです。 |
No.929 | 5点 | 銃弾の日 ミッキー・スピレイン |
(2017/01/08 22:56登録) タイガー・マン・シリーズの第1作で、作中で彼は「おかしな名前でしょう? でも、おやじが、そうつけたんです」と自己紹介しています。綴りはTiger Mann。『ヴェニスに死す』の作家と同じ姓なんですね。ファースト・ネームの方は、今では確かにそういう名前の有名人もいるしね、といったところです。 タイガーは諜報機関に所属していて、国連で機密情報が東側に漏れている事件が話の中心にあります。一応国際政治を背景にした作品だけに、共産主義嫌いの作者らしさはマイク・ハマーものよりもはるかに露骨に表れています。ただしどんな機密なのかの説明などは当然ながら全く無視していて、謀略スパイ小説としてのおもしろさはなく、国際政治は派手なアクション・スリラーのための方便に過ぎません。 その一方で特にラスト・シーンなど、スピレインの官能的な甘さが存分に発揮された作品でもあります。 |
No.928 | 7点 | マイアミ・ポリス チャールズ・ウィルフォード |
(2017/01/05 23:29登録) 『マイアミ・ブルース』に続くホウク・モウズリー部長刑事のシリーズ第2作です。ウィルフォードはこのシリーズを1984年に始める前に、1950年代から10冊以上の小説を発表していますが、その中で翻訳されているのは『炎に消えた名画』のみ。ちなみに本書巻末解説に付されている作品リストには、何の注釈もありませんが、実は詩集やノン・フィクションも含まれています。ミステリだけの作家ではないんですね。 このシリーズは前作もまた次作も、複数の人物の視点から書かれた作品らしいですが、本作は三人称形式ながらホウクの視点だけに絞って警察小説らしい仕上がりになっています。中心になるのは麻薬常用者の死亡事件ですが、その他に過去の迷宮入り事件の再調査を命じられることになり、結果当然モジュラー型になっています。刑事たちの私生活にもかなりのウェイトが置かれていて、そこがいい味を出しています。 |
No.927 | 6点 | 追跡 高木彬光 |
(2016/12/30 23:59登録) 1957年に実際に札幌で市警警部が銃殺された白鳥事件をモデルにした作品で、高木作品の中でも同じ百谷泉一郎弁護士シリーズの『人蟻』と並んで社会派要素の強い作品です。 カッパ・ノベルズ版の作者あとがきに、松本清張の『日本の黒い霧』でも同事件が扱われていますが、清張とは別解釈であることが述べられています。共産党地区委員等の刑が確定したものの、冤罪事件なのかそうでないのか、今でも議論のある事件だそうですが、本作は上告審が最高裁で行われていた1962年に発表されました。清張ほどの政治性はありませんが冤罪説という点では共通していて、10年後に新たな殺人事件を起こすことによって、本作はエンタテインメント性を出しています。 百谷弁護士シリーズの中でも、謎解き要素は『人蟻』よりさらに少ないと言えるでしょうが、硬派な主張は伝わってくる作品です。 |
No.926 | 7点 | ファイナル・カントリー ジェイムズ・クラムリー |
(2016/12/26 23:13登録) クラムリーのハードボイルド・ミステリ第6作、今回はミロの出番です。ただし作中では「元相棒」としか書かれていませんが、要するにシュグルーのことも所々で語られていて、最後にはちょっとだけですが実際に登場します。 酔いどれ探偵の代表的存在だったミロですが、しばらく禁酒していていたりして、酒に溺れることがなくなってしまっていたのには驚かされました。コカインは最初の殺人時に密かにかっぱらっているのですが、吸うのもほどほどといったところです。その意味ではクラムリーらしい酩酊感がなくなったかなという気もします。しかしバイオレンスの方はてんこ盛りで、作品中で還暦を迎えたミロ、こんな無茶よくやるよなあと嘆息です。 じっくり読み進めるのを強要するような独特の重厚さはさすがですが、訳者あとがきでロス・マク調とされる構成の結末の意外性は、ロス・マクほどの鮮やかさはありません。 |
No.925 | 6点 | 始まりはギフトショップ シャーロット・アームストロング |
(2016/12/18 00:11登録) アームストロングを初めて読みました。この作家と言えば、マーガレット・ミラーやヘレン・マクロイ… しかし本作の巻末解説にも、代表作と言われている『毒薬の小瓶』についてその二人のような「サスペンスは希薄」と書かれていますが、特に本作の印象は全く違います。ミラーやマクロイが、謎をはらんだストーリーで本気で不安感をあおってくれるのに対して、本作は陽気なスリラーであり、伏線はあっても、推理可能な謎として提示されるものは全くありません。何しろ悪役が出てくれば、そいつが悪役だよということはその都度ちゃんと説明してくれるのです。どの豚の貯金箱にメッセージが入っているのか、それがどんなメッセージかなんて謎は、手に入れてみなければわからないこと。最初に訪ねた家族が買った豚が目当てのものだったなんてことは小説構成上当然あり得ない、そんな楽しい作品です。 |
No.924 | 4点 | 幽霊温泉 赤川次郎 |
(2016/12/14 22:02登録) 宇野警部と夕子のシリーズ第…Wikipediaによれば16作。といっても、このシリーズというか、赤川次郎の短編は読んだことがなかったのですが。こういう感じのが多いのだったら、この作者は長編とまでいかなくても長めの作品の方がいいかなと思えました。 表題作など5編が収録されていますが、いずれも宇野警部と夕子のデートや状況設定だけで半分ぐらいはかかってしまい、事件の謎提示とその解決が短くなりすぎていると思えたのです。表題作にしても、事件と関係ない列車乗り過ごしのエピソードはこの長さ(50ページ弱)なら不要と切り捨てたいところです。まあそこがなくなっては、作者らしさが消えてしまうとも言えるのですが。この作品も、あるいは最後の『見えない鉄格子』等も、結末にそれなりの意外性はあるのですが、もう少し読者に考えさせる余裕を与えないと、意外性として機能していないと思うのです。 |
No.923 | 7点 | 失踪当時の服装は ヒラリー・ウォー |
(2016/12/08 22:55登録) 2014年に出た新訳版で読了。巻末解説の最初にデクスターの『キドリントンから消えた娘』の一節が引用されていたのには、にやりとしてしまいました。なぜかは、miniさんのレビューをご参照のこと。しかし、解説の川出氏、当然そのことは知っていたと思えるのに、なぜそれを引用したのかは書いていません。わかる人がわかればいいということなのか… 後年の『冷えきった週末』についての評ではデクスターにも近いと思えるほどの推理が展開されると書きましたが、本作ではそんなことはないまでも、やはり謎解き捜査小説という印象がかなりありました。クロフツも好きな自分としては、楽しめました。もちろん結末にクロフツほどの意外性はありませんが、捜査過程の部分は、クロフツを本当の警察による捜査らしいリアリズムで書いた感じです。2/3あたりで手がかりをつかむところが謎解き的にはおもしろい部分。 |
No.922 | 6点 | 恐怖への旅 エリック・アンブラー |
(2016/12/04 21:33登録) アンブラーの中でも、特に巻き込まれ型スパイ小説らしいというか、悪く言えば要するに型にはまった作品と言えるでしょう。発表されたのは1940年で、時代背景もまさに第二次世界大戦が始まった直後の同年1月。主人公のイギリス人技師グレアムはトルコで軍艦の装備を担当していて、その軍艦の早期装備を何とか食い止めたいドイツ軍によって、彼は命を狙われることになります。特殊な才能を持っているわけでもないただある程度優秀な技術者というだけで、殺されそうになるのが、リアルな感じです。 船客の中にまぎれていたある人間の正体は、早い段階で予想できたのですが、そんなところも型どおりというか。最初にグレアムが銃で撃たれながらかすり傷で助かるのは、さすがに殺し屋の腕が悪すぎるんじゃないか、ひょっとしたら故意に外したのではとも思ったのですが、そうではありませんでした。 |
No.921 | 6点 | 凍雨 大倉崇裕 |
(2016/11/30 23:50登録) 大倉崇裕の山岳ハードアクション・スリラー。この作者は初めてですが、本サイトでの他作品評を見ても、こういうタイプは他になかったので、驚かされました。とにかくシビアな迫力に徹してくれていて、謎解き的な要素はほとんどありませんし、お笑いなど皆無です。 話自体はいたってシンプルです。福島県北部にあるという設定の嶺雲岳で、主人公の深江が亡き友人の奥さんと娘を助けるために、悪党どもを一人ずつ倒していくというだけ。悪役たちにはそれぞれ個性がありますが、アクションに意外な工夫があるのは、最後の二人との対決部分だけかなあ。深江がやたら強い理由は、途中で悪役の一人によって説明されます。悪役たちの過去を深江との決闘に際してそれぞれの視点から語るのは、かえって緊迫感を削ぐようにも思えましたが。 あと、1ページ目のプロローグ的部分は途中のシーンとうまく繫がらず、ない方がよかったでしょう。 |
No.920 | 6点 | 鉄の薔薇 ブリジット・オベール |
(2016/11/27 21:40登録) オベール初読ですが、他の作品の紹介文を読んでみると、この作者は得意なジャンルがあるというタイプではなく、様々な傾向の作品を書いているようです。で、本作はというと完全に荒唐無稽なアクション・スリラー。サイコロジカルなところもあり、ラストになって真相が明かされることになりますが、これについてはやっぱりねという程度です。登場する精神科医の扱いは無茶ながらおもしろくできていますが。 主人公ジョルジュとその妻マルタの設定がなかなかユニークです。最初の部分でジョルジュがマルタを二度にわたって見かけるのは、さすがに偶然が過ぎるので、二度目にはマルタがその場にいる必然性があるのかとも思ったのですが、何の説明もありませんでした。でもまあ、細かいことを言わず、次から次へと目まぐるしく様々なタイプのアクションを盛り込んでくれる嘘っぱちな展開を楽しむ作品でしょう。 |
No.919 | 7点 | 貴婦人として死す カーター・ディクスン |
(2016/11/22 21:35登録) 久しぶりに、今回は創元版新訳での再読です。 最初に読んだ時には、断崖に残された足跡のトリックは、わからなかったものの解説されてもそんなに感心するほどじゃないなと思ったのでした。しかし今回読み直してみると、時間差を利用したところがさすがにうまいと思いました。トリック後半部分は他にも方法がありそうですが、シンプルに決まっていますし、HM卿の観察による足跡の特徴などの伏線がさすがです。 また、本作のメインとなるあのアイディアには、そうだったのかとうならされたのでした。こちらの方は、知って読んでいると、リタの次の行動としては、そうならなければならないはずだから、その人物への疑惑が起こるのが当然だなと思えるところもありました。また小粒な謎ながら不可解な拳銃が道端で発見された原因についての伏線も会話の中でさりげなく出てきます。 あと、車いすに乗った暴君ネロのギャグ・シーンには笑えました。 |
No.918 | 6点 | 犯罪に向かない男 大村友貴美 |
(2016/11/19 21:40登録) 最初『共謀』のタイトルで発表された後、文庫本になった時に改題された作品です。確かに誰と誰の「共謀」なのかは読み終わってもはっきりしません。一方新タイトルの方は、最後の方になって、その男は「向いてないね、犯罪に」というせりふが出てきます。次作『存在しなかった男』と同じ田楽心太(たたらしんた)警部が登場する作品なので、それに合わせての変更なのでしょうが、こちらも内容を的確に表しているとはあまり思えません。 プロローグの殺人から、誘拐、さらに殺人、5年前の交通事故など、様々な要素を盛り込んだ作品で、テーマの逸失利益に対する考え方には賛同できない点もあります(死亡による逸失利益は死亡者本人のことではなく遺族の金銭的不利益に対する配慮でしょう)が、読みごたえはあります。しかし轢き逃げ殺人だけは他の部分との絡みもなく、いくらなんでも余計じゃないかと思えました。 |
No.917 | 6点 | 死体置場で会おう ロス・マクドナルド |
(2016/11/14 22:39登録) 『人の死に行く道』の後に書かれた、リュウ・アーチャーものでない作品です。一人称の主役ハワード・クロスは地方監察官、執行猶予になった者の監督官です。したがって本作は私立探偵小説ではありません。しかし犯罪に関係する公的機関に属してはいても、本来捜査官ではない彼が、警察やFBIをいわば出し抜いて、誘拐とそれに続く殺人事件の捜査をほとんど一人で進めていくという(なぜそこまで一人でやるかという気もしますが)話ですから、一応ハードボイルドとしていいでしょう。真相はいかにも作者らしいものになっています。 しかし、まさかロス・マクで文章が下手と批判しなければならない作品に出会うとは思いもよりませんでした。しゃれた比喩を使っているのに、文がぎくしゃくした感じで、時には主語と述語が対応していなかったりしているのです。同じ訳者でも前作はそんなことはなかったのですがねえ… |
No.916 | 5点 | サマータイム・ブルース サラ・パレツキー |
(2016/11/11 22:30登録) ヴィクを空手の達人とするシリーズ作品についての文章を時たま見かけていたものの、そんな場面には今までお目にかかったこともないしなと不思議に思っていたのですが、この第1作を今回初めて読んで、なるほどと納得しました。ヴィクに手刀をくらった悪党が「カラテの達人だってことまでは聞いてなかったぜ」と言っているのです。つまりあくまで彼の主観なわけで、実際のところ、本作のアクション・シーンを読む限りでは、ヴィクには空手の心得もあるといった程度です。それなのに本作のカバーでの紹介文を始めとして、勝手に事実みたいに書かないでもらいたいですね。 ハヤカワ・ミステリ文庫の訳者あとがきでも、筋書きは複雑でないし、特に目新しい領域に踏み込んでもいないなんて書かれているように、真相は初めから見えていて、ひねりが全然ありません。しかしハードボイルド的には、ラスト・シーンもよかったですし、まあまあでしょうか。 |
No.915 | 6点 | 札幌・仙台48秒の逆転 深谷忠記 |
(2016/11/08 22:19登録) 壮と美緒のシリーズでも初期のものだからでしょうか、後年ほど旅情たっぷりなトラベル・ミステリという感じではありません。タイトルにもかかわらず、むしろ函館の方が多少紹介されているぐらいで、特に仙台はほとんど通過するだけです。 カッパ・ノヴェルズ版の巻末解説や、森村誠一による紹介文ではアリバイ・トリックを褒めていますが、個人的にはむしろプロローグと殺人事件の関連性に関するアイディアの方に感心しました。どこかで結び付くことだけは最初からにおわせているのですが、自動車の扱いと絡めて、うまくまとめられています。その部分解明以前の勝部長刑事たちの捜査過程もなかなかのものです。 アリバイはというとかなり複雑なことをしていて、細かい部分では作中で壮も言っているように他にいくつか方法がありそうなのですが、中心アイディアとなっているある道具の意外な使い方がすっきりできています。 |
No.914 | 6点 | 煙に消えた男 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー |
(2016/11/01 22:16登録) 北欧警察小説の創始者である夫婦の第2作は、第1章(7ページ程度)こそいかにも警察小説的な感じですが、その後ブダペストで消えた男について、休暇に入ったばかりのマルティン・ベックが呼び出されて、当時のいわゆる「鉄のカーテンの向こう」の国で調査することになるという本筋は、最初のうちエスピオナージュかと思わせられます。実際そのように読者に誤解させるところは作者の狙いでしょう。あらかじめ007映画をちらりと話題にしています。まあ、ベックが襲われるというアクション・シーンもあるのですが。 全体の半分ぐらいはハンガリーが舞台で、トラベル・ミステリといった趣もあります。ハンガリー警察のスルカ少佐がなかなかいい味を出しています。後半スウェーデンに戻ってからの真相解明部分は、一度に紹介される容疑者の数が多すぎて、誰が誰やら分からなくなるのが難点とは言えますが。 |
No.913 | 7点 | 容疑者 ロバート・クレイス |
(2016/10/28 21:32登録) 私立探偵エルヴィス・コールのハードボイルド・シリーズが知られている作家ですが、まず手に取ってみたのはパトロール中に銃撃事件で相棒を失った警官スコットが主役の本作。それにもう一人…じゃなかった一匹、牝ジャーマン・シェパードのマギーがその相棒として活躍します。プロローグで語られるのはマギーが軍用犬だった時、ハンドラー(指導手)を失った事件です。 となるとまあ、似た境遇のその一人と一匹の新たな絆、トラウマの克服といったところがテーマになるのは当然のことです。中心となる銃撃事件の真相もよくあるパターンで、つまり作者は新奇なアイディアで読者を惹き付けることは最初から考えていません。細部の描きこみで読ませるタイプであり、そういうものとしてよくできています。登場人物の中では警察犬隊主任指導官のリーランドが特に魅力的です。またマギーの視点から書かれた部分もところどころ出てきます。 |
No.912 | 6点 | 追憶の殺意 中町信 |
(2016/10/24 22:38登録) 当時は『新人賞殺人事件』のタイトルだった『模倣の殺意』を鮎川哲也が絶賛していたので気になっていた作家の新作が出版されたというので、期待して読んだのでした。 章題にも使われている「密室」については、実は通常の意味での密室ではありません。脱出可能な出口はありましたし、しかもそれは犯人の策略であったにもかかわらず、章題で読者にだけはヒントを与えているところが、マニアックさを示しています。しかも解き明かされてみると、かなり危ういうえバカバカしいような発想なのですが、そこがチェスタトン的とも思えて、トリックに対するセンスのよさを感じたのでした。 後半のアリバイの方はいったん解けたと思わせた後、さらに複雑なのを用意しているという二段構えの凝ったものになっています。動機の意外性もありますし、全体構成もていねいにできていますが、事件解明きっかけ部分の盛り上げは今一つ。 |
No.911 | 6点 | 殺しあい ドナルド・E・ウェストレイク |
(2016/10/20 20:57登録) 久しぶりの再読です。ウェストレイク名義というと、1960年台後半以降はユーモラスな作品が多いようですが、実はそれらは読んだことがありません。本作は作者の第2作で、いかにもなハードボイルド、それも『赤い収穫』以来の大量殺人と宣伝されていたものです。それで期待して読み始めたら、主役の私立探偵が命を狙われる普通のハードボイルドじゃないか…と思っていたら、最後になって一気にやってくれたという作品でした。実際のところ、覚えていたのもこの最後のまさに殺しあい部分の派手さだけ。 なるほど、そこは確かに凄絶なものがありますし、クライマックスのお膳立て発想には『赤い収穫』と似たところもあります。しかし一方の陣営が実は悪玉じゃないというのは気になるところです。また、ハメットと比較するには文章表現に深みが欠けますし、謎解き要素もそれなりに論理的ではあるもののハメットほどではありません。 |