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ミステリの祭典

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恐怖への旅

作家 エリック・アンブラー
出版日1954年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2017/07/30 21:22登録)
軍需産業の技術者グレアムは、トルコ政府とのビジネスをうまくまとめて帰国の途に着こうとするのだが、風雲急を告げる1940年、トルコとイギリスとの軍事協力を妨害したい勢力が、グレアムをつけ狙っているようだ...グレアムは急遽トルコ秘密警察が用意した船で帰国することに変更するが、果たして無事帰国できるか?
という話なので、アンブラーにしては普通の巻き込まれスパイ小説という感じにはなる。あまり意地の悪い小説ではなくて、素直に書いている感じではある。それでもアンブラーなので、狙われた本人は特に最初は全然ピンと来てない状態だったりするので、「ディミトリオスの棺」にも登場するミステリマニアの秘密警察長官、ハキ大佐はしっかりネジを巻かなきゃいけなかったりする。

(以下少しバレ)
で船で敵のボスに取引を持ち掛けられたりするのだが、

平和の時に、自分が生れた国の政府に心身共に捧げようとするのは、熱狂的な国粋主義者だけが言うことです(略)あなたが運がいいのは、こういう芝居かかった英雄気どりの行為―愚者や獣人の感情過大―を、ありのままに見られる仕事に、偶然携わっているからです(引用者註、要するにグレアムが技術者なので、愛国心なしにスパイ合戦に巻き込まれた、ということ)。「国家愛!」奇妙な文句ですな(略)自国の文化を最もよく知っている人間は、通例最も知性があり、最も愛国心が少ないものです(略)国家愛は、つまり、無智と恐怖を土台にした感傷的な神秘主義に過ぎないものです

とまあ、このボス、ハリー・ライムばりの大正論をブチかましてくれるのだ。こういう敵の冷笑的ニヒリズムに対して、主人公を助けてくれるのが、愛国的だが役立たずのトルコのエージェントたちではなく、主人公に同情してくれる「空想的」社会主義者(かなり情けないのがイイ)だったりするあたり、アンブラーが本作に与えた色彩は、思想小説風のものだったのかもしれないね。

No.1 6点
(2016/12/04 21:33登録)
アンブラーの中でも、特に巻き込まれ型スパイ小説らしいというか、悪く言えば要するに型にはまった作品と言えるでしょう。発表されたのは1940年で、時代背景もまさに第二次世界大戦が始まった直後の同年1月。主人公のイギリス人技師グレアムはトルコで軍艦の装備を担当していて、その軍艦の早期装備を何とか食い止めたいドイツ軍によって、彼は命を狙われることになります。特殊な才能を持っているわけでもないただある程度優秀な技術者というだけで、殺されそうになるのが、リアルな感じです。
船客の中にまぎれていたある人間の正体は、早い段階で予想できたのですが、そんなところも型どおりというか。最初にグレアムが銃で撃たれながらかすり傷で助かるのは、さすがに殺し屋の腕が悪すぎるんじゃないか、ひょっとしたら故意に外したのではとも思ったのですが、そうではありませんでした。

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