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ミステリの祭典

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煙に消えた男
マルティン・ベック、旧題「蒸発した男」

作家 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
出版日1977年05月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点 クリスティ再読
(2019/12/28 22:25登録)
マルティン・ベック第二作だが、今回ベックはハンガリー出張。いきなりの番外編みたいなもの。冷戦たけなわな時期でもあって「鉄のカーテンの向こう側」なんて言い回しがポピュラーだった時代だよ。まだから、ハンガリーに到着したベックが何者かの監視を受けている?となると、「秘密警察??」と疑心暗鬼するのをうまく補完して読まないと、「らしさ」が出ないだろう。東欧ネタはアンブラーもライオネル・デヴィッドスンもお得意なのだが、ここらの本格エスピオナージュと比較しちゃうとライトな味わい。ハンガリー警察のスルカ少佐も何かイイ奴だしね。どっちかいうと、国も体制も超えた「サツカン」同士の連帯感みたいなものが香るから、「警察小説」なのは間違いないか。
まあ一応トリックめいたものがあったりもするが、事件はリアルな手口と背景。意外性とか期待するわけじゃないが、全体に軽めの仕上がり。それにしても外務省の緊急の要請でバカンス中断→ハンガリー出張で、妻と気まずくなるベックが気の毒。バカンス台無し。

No.2 6点 E-BANKER
(2018/11/27 09:32登録)
処女作「ロセアンナ」につづき、マルティン・ベックを探偵役とするシリーズ第二弾。
スウェーデンの首都ストックホルム警察が舞台となる警察小説の金字塔的シリーズなのだが、今回の主な舞台はハンガリーの首都ブタペスト・・・
1966年の発表。

~夏休みに入った刑事マルティン・ベックにかかってきた一本の電話。「これは君にしかできない仕事だ」。上司の命令で外務大臣側近に接触したベックは、ブタペストで消息を絶った男の捜索依頼を受ける。かつて防諜活動機関の調査対象となったスウェーデン人ジャーナリスト。手掛かりのないなか、「鉄のカーテンの向こう側」を訪れたベックの前に、現地警察を名乗る男が現れる・・・~

ブタペスト・・・
確かに美しい街である。大河ドナウが街中をゆったりと流れ、北側の貴族が住む街・ブダと南側の庶民が暮らす街・ペスト・・・
もう訪れたのは20年以上も前になるから、かなり変わってるんだろうなぁー
その頃はまだ冷戦のなごりが残っていた頃だから、ウィーン行きの列車に乗ってると、国境近くで乗車してきた国境検査官らしき女性に財布とパスポートをひったくられるように取り上げられたっけ・・・
いやいや、自分の思い出話はどうでもいい。

ということで本題なのだが、今回はこのブタペストの街が実にいい味を出しているのである。
主役=マルティン・ベック、脇役=ブタペストの街と人々、って言ってもいいくらいだ。
で、プロットの軸は「人探し」となる。
ベックの捜査もむなしく煙のように消え失せた男は、ハンガリーに潜伏しているのか、国外に逃亡しているのか、はたまたすでに殺害されているのか、全く判然としない状況が続く。
慣れない東欧の街で苦戦するベックに助け舟を出すのが、ハンガリー警察のスルカ少佐。こいつがなかなかいい味出してる。

舞台がスウェーデンに戻ってから事件は急展開するんだけど、最後はちょっとバタバタ気味で終了してしまった。
こんな結末だったら、夏休みを返上させられたベックもかわいそう・・・って感じだ。
ベックと同僚とのやり取りもなかなか面白いし、さすがに堅実で安定感のある作品。
こんな評価に落ち着く。
(ベック以外のスウェーデン人の名前が実に覚えにくい・・・)

No.1 6点
(2016/11/01 22:16登録)
北欧警察小説の創始者である夫婦の第2作は、第1章(7ページ程度)こそいかにも警察小説的な感じですが、その後ブダペストで消えた男について、休暇に入ったばかりのマルティン・ベックが呼び出されて、当時のいわゆる「鉄のカーテンの向こう」の国で調査することになるという本筋は、最初のうちエスピオナージュかと思わせられます。実際そのように読者に誤解させるところは作者の狙いでしょう。あらかじめ007映画をちらりと話題にしています。まあ、ベックが襲われるというアクション・シーンもあるのですが。
全体の半分ぐらいはハンガリーが舞台で、トラベル・ミステリといった趣もあります。ハンガリー警察のスルカ少佐がなかなかいい味を出しています。後半スウェーデンに戻ってからの真相解明部分は、一度に紹介される容疑者の数が多すぎて、誰が誰やら分からなくなるのが難点とは言えますが。

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