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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.955 7点 ドアは語る
M・R・ラインハート
(2017/05/09 23:07登録)
HIBK (Had-I-but- known) 派の代表作家と言われるメアリ・ロバーツ・ラインハートですが、少なくとも本作に関する限り、事件関係者の一人称形式によるフーダニットと言ってもいいのではないかと思えました。読んだのはポケミス1961年の初版で、訳者あとがきでも、「アメリカのクリスティーだなどと評されることがある」とか「伏線の張り方が用意周到である点は、特にクリスティーを思わせる」、ただしラインハートの方が先輩だといったことが書かれています。
雰囲気的には、確かにクリスティーなら『牧師館の殺人』のようなイギリスの地方を舞台にしたミステリっぽい感じがしますし、ハリスン警部の人柄もフレンチ警部あたりを思わせる穏やかさです。ただし伏線と言っても、読者への挑戦を挿入できるようなタイプの作品ではありません。また最後の銃撃事件については、動機がはっきりせず、不要だったのではと思えました。


No.954 6点 スタバトマーテル
近藤史恵
(2017/05/05 22:33登録)
通常はスターバト・マーテルと表記されるラテン語の "Stabat Mater"(嘆きの聖母)。キリスト教聖歌のひとつで多くの作曲家が曲を付けていることは、プロローグの後第1章が始まってすぐに説明されています。芸術大学の副手であるりり子の一人称形式で書かれた作品で、彼女がその部分で歌うのが、ペルゴレージ作曲のものなのです。また各章の頭には、この聖歌の一節が引用されていて、本作のテーマとなっていることが示されます。
しかし…この作品で描かれるのは、聖歌のわが子の崇高な死を嘆く母親の姿とは似ても似つかないおぞましい独占欲でした。サスペンスとしてのプロットと、その異様な話を軽快な文章で描きあげている点はよかったのですが、一方でりり子がオペラ歌手になることをあきらめた副手であるという特殊な設定は、聖歌と作品内容のギャップから見ても特に必要なかったかなと思えてしまいました。


No.953 4点 桃色の悪夢
ジョン・D・マクドナルド
(2017/05/01 23:23登録)
このトラヴィス・マッギーのシリーズ第2作は、タイトルの意味が明確です。実際にマッギーが桃色の悪夢を見る羽目に陥るという話ですから。
巻末解説では、A・バウチャーのシリーズに対する「プロットがずば抜けていいし、充分にサスペンスフルであって、しかも現代社会やそのほか諸々のことをわれわれの心に描いてみせてくれるし、批判もしている」という言葉を引用していますが、今までに読んだ後年の2作や、本作以前のシリーズ外作品と比べると、少々がっかりな出来栄えでした。もちろん作品によって出来不出来はあるでしょうし、実際本作のプロットは長編としてはちょっと単純すぎるでしょうが、それだけではないような気もします。マッギーの一人称形式で、接した様々な人物や物に対する寸評が書かれているのですが、一貫したテーマ性が感じられず鬱陶しいのです。会話の調子も、多少翻訳のせいもあるかもしれませんが、独りよがりに思えます。


No.952 5点 魔女が笑う夜
カーター・ディクスン
(2017/04/19 23:34登録)
久しぶりの再読で、覚えていたのは有名なバカミス・トリック以外には、中傷の手紙が本作の中心主題であることとH・M卿が「後家」の正体を見破る手掛かり、H・M卿が女の子にカード奇術を見せたりするくだりぐらいでした。7割を過ぎてからやっと殺人も起こるのに、それに関する記憶は全く残っていませんでした。
現象だけ見れば『黄色い部屋の謎』をも連想させる密室(殺人ではない!)トリックは、特にひどいわけでもないと思います。それよりも気になったのが、Tetchyさんも指摘されている、中傷の手紙の再開と密室の演出について動機の説明に説得力がないことでした。また、村に大探偵が来るという噂の出所が全く説明されていないこと、さらにカーにはよく出てくる無鉄砲な恋と冒険を演じる若者らしき人物が本作では2人もいることが、むしろストーリーの求心性を損なっていると思われる点が不満でした。


No.951 5点 中村美与子探偵小説選
中村美与子
(2017/04/15 11:51登録)
12編の短編に、たぶん中村美与子の作品と思われる2編、それにごく短いエッセイ1編を収録しています。
巻末の解題で横井司氏は1935年の中村美与名義作品『火祭』について、同一作者かどうか不明だが、「放火犯が科学に長けている点などに、中村美与子作品に通ずるものがある」としています。しかしアイディアよりも場面展開が飛躍して説明不足なところがある点、視覚的な描写が巧みな点等の表現の持ち味に、後の作品と共通するものがあると思いました。一方1927年の『獅子の爪』(中村美代子名義)は、後年の作品群との共通性が感じられません。
1939年7月の『火の女神(セ・カカムイ)』から1940年5月の『鴟梟の家』までの4編は、北海道や中国等を舞台にした、本格派とは言えないにしても謎解き度の高い作品。その後の軍事的国策に沿ったスパイ・冒険小説4編の中では『聖汗山(ウルゲ)の悲歌』がおもしろくできています。


No.950 7点 黒の殺人鬼
チェスター・ハイムズ
(2017/04/09 23:34登録)
棺桶&墓掘りコンビシリーズを読むのはこれが2冊目。前回読んだシリーズ第2作の『狂った殺し』では意外にまともに警察小説っぽい感じだった2人でしたが、この第5作では派手に暴れまくってくれます。と言うか、相手がとんでもないことをしでかすので、彼等も普通に対応をしてはいられないようなところもあります。事件の重要関係者を逮捕する場面の乱闘も相当なものですが、雪の街でのカーチェイスには驚かされました。映画『オーメン』の有名ショッキング・シーンにさらに途方もない状況を加えた出来事が起こり、しかも本作の方が10年以上早い! 2人の荒くれ刑事も、これには愕然としています。
終盤近くなるまで、こんな事件をどうまとめるのだろうと心配しいたのですが、突っ込みどころはいろいろあるものの、とりあえずまとまった説明をつけてくれていました。片岡義男の訳文(セリフ)は自然とは言えないのですが、味があります。


No.949 6点 絶叫
リンダ・フェアスタイン
(2017/04/02 22:50登録)
アレクサンドラ・クーパー検事補シリーズの第2作。通常はアレックスと呼ばれていて(仲の良いマイク・チャップマン刑事は「クープ」なんて呼んだりもしていますけど)、それだと巻末解説にも書かれているように、性別がはっきりしません。原題の "Likely to Die" は、たぶん作中で「"まず助からない" という状態」と訳されているものなのでしょう。
この作家、コーンウェルに絶賛されたそうですし、解説でもアレックスはケイ・スカーペッタ検屍官と比較されていますけれど、本作を読んだ限りでは、それは表面的な設定上の共通点に過ぎないと思えました。コーンウェルみたいないかにもなエンタテインメント小説ではなく、リアルなモジュラー型警察小説タイプで、じっくり型、そして文章も緻密です。
ただ犯人判明シーンだけは、唐突なご都合主義偶然(犯人がその日時まで待った理由が全く不明)なのががっかりでしたが。


No.948 5点 密室の訪問者
中町信
(2017/03/29 23:28登録)
惜しい作品だなあ、というのが読み終わっての第一印象でした。
タイトルの密室―というより密閉された庭でしょうか―での殺人のアイディアは、プロローグの明らかな叙述トリックをうまく生かして(この叙述トリックは誰でも気づきそうですが、さらにひねりを加えています)、切れ味があります。現実には時間的に問題がありそうですが、犬が鳴いた、また鳴かなかった理由もうまく説明されていて、発想には感心させられます。またその前に起こる「事故」の真相も意外で、関係者が事実を隠していた理由も納得できます。さらにダイイング・メッセージについては引き出しに関する推理が鮮やか。
と、アイディアについては褒めるところも多いのです。しかし「事故」のあまりの偶然、メッセージの不自然さ、密室殺人後に起こる連続殺人の安易さ、小説としての薄っぺらさなど、不満もまた満載なのです。


No.947 6点 ピアノ・ソナタ
S・J・ローザン
(2017/03/25 10:19登録)
邦題のピアノ・ソナタは、シューベルト最晩年の変ロ長調(第21番)で、本作の語り手であり中心探偵役のビル・スミスが練習している曲です。個人的にはピアノ曲ならむしろショパンなどの小曲を聴きたいところなのですが。そのショパンの演奏をビルは、殺人事件の捜査で表向き警備員としてもぐり込んだ老人ホームで聴くことになります。弾き手の老婦人アイダは、ビルの聴き方で彼がピアノを弾くことを見抜きます。邦題に加えそんなこともあり、音楽が何らかの伏線になっているのかと思っていたら、そうではありませんでした。ただアイダはなかなか魅力的な人物で、ビルが事件の背景を知るきっかけを作ることにもなります。
ハードさも穏やかさも兼ね備えた作品で、おもしろいことは間違いないのですが、真犯人を指摘するビルの「推理」が実際には根拠不足なのと、悪人たちが最初から悪人らしすぎるのは気になりました。


No.946 6点 守銭奴の遺産
イーデン・フィルポッツ
(2017/03/21 22:12登録)
「別冊宝石」に『密室の守銭奴』のタイトルで収録された抄訳(1953年3月)を読んだことはあるのですが、こんなストーリーだったっけ…
その旧題の密室トリック、巻末解説では、「この作の弱点ともいえる」とし、密室ミステリ研究科ロバート・エイディが酷評していることも述べていますが、原理的にはそんなにひどいとは思いません。最近本格黄金時代の某巨匠1930年代後半の大作を読んだ時にも、本作のトリックとの類似性を感じたものです。その某作品(密室ではない)では蓋然性と伏線に充分気を配っていたのに対し、本作では細部がおろそかで図版もなく説明不足のため、ほとんど実現不可能に思えてしまうのでしょう。
一方犯人の人格造形と動機は、非常に印象的です。ただ犯人の二面性ということについては、チャンドラーの『プレイバック』の名セリフだって、そう言えるのではないかとも思ってしまうのですが。


No.945 5点 雷鳥九号(サスペンス・トレイン)殺人事件
西村京太郎
(2017/03/16 23:36登録)
中編の表題作と短編4編を収録、光文社文庫ではトラベル・ミステリー傑作集となっています。
表題作は犯人にではなく、凶器の拳銃にアリバイがあるというアイディアを使っています。最初の(犯行時刻では後の)殺人の状況から、方法の原理は予測がつきますが、おもしろい効果はあります。とはいえ、もう一つの殺人の死亡日時推定にそんな正確さはあり得ないでしょう。また犯人は、クリスティーを始めとしていくつも前例のある企みを狙っているのですが、その企みがあからさまで、しかも法律的に危険極まりないと思われるのも、有名前例作に比べると、細部への配慮に欠けていると言わざるを得ません。
他の短編では『幻の特急を見た』が、十津川警部が普通とは逆に容疑者のアリバイを証明するという発想がおもしろいと思いました。『夜行列車「日本海」の謎』は十津川警部の直子夫人に殺人容疑がかかるのが楽しめます。


No.944 6点 狩りの風よ吹け
スティーヴ・ハミルトン
(2017/03/12 22:53登録)
元マイナーリーグのキャッチャーで、その後警察官の経験もある私立探偵アレックス・マクナイトのシリーズ第3作、ということになりますが、アレックスは人探しを依頼してきた30年ぶりの旧友ランディーに、自分が「本物の探偵じゃない」と言っています。私立探偵の許可証を持っていることを、しぶしぶ認めるハードボイルドの探偵役というのも、妙に笑えます。
そんなとぼけぶりが、ピッチャーだったランディーとの会話にも表れていて、ランディーの昔の恋人探しの二人旅はしゃれたハードボイルドらしく、大いに楽しめます。
それが途中から一転、ハードな内容になってきて、ランディーは散弾を受けて入院、その後意外な人間関係が明らかになってきます。ただ、真相がそうなら、以前のその人物の言動は不自然だったのではないかと思えるところが散見され、また終わり方があいまいさを残したままなところは気になりました。


No.943 5点 二度殺された女
ドロシー・ユーナック
(2017/03/09 23:12登録)
いかにも力作という感じはします。しかし…
夜のニューヨーク住宅街路上で看護師が「二度殺された」事件、そのタイトルが表す意味がテーマの作品かと思いながら読み進んでいったのですが、半分ぐらいで犯人が(別件で)逮捕されてからは話が妙な方向にねじれていきます。最後の方は、警察小説の分野には収まらないほど話が大きくなっています。最初の、深く掘り下げてもらいたかったテーマが霞んでしまい、おそらくそれ以上に深刻でありながら、むしろ平凡ともいえる問題にすり替えられ、さらにクライマックスはリアリティが希薄になってしまっているのです。
特にテーマがそれるきっかけになる第29章で突然明かされる内容は、そのことに今まで誰も気づかなかったなんて考えられず、ばかばかしくなってしまいます。主役の女刑事ミランダの最後まで毅然とした態度はいいのですが。


No.942 6点 伽羅の橋
叶紙器
(2017/03/04 18:09登録)
第2回ばらのまち福山ミステリ文学新人賞受賞作です。
選者の島田荘司は「この作者は、いうなれば下手糞なボクサーであった。…(中略)…しかし、目の覚めるような右ストレートだけを持っていた。」と評して、その破壊力を褒めています。しかしこの必殺パンチをトリックや意外性と勘違いしてはいけません。第11章の、ヘリコプターで空撮される大阪のある情景、その迫力ある描写とそれに続く場面こそが本作のハイライトです。これは確かに島田荘司が好みそうなシーンだと思えます。
登場人物たちに語らせる昭和20年終戦直前の出来事も生々しく伝わってくるのですが、受賞後にたぶんかなり手を加えられたと思われるのに、完成度の点ではまだかなり不満は残ります。謎解きシーンの挿入の仕方もそうですし、また主人公四条典座(のりこ)のキャラ、「あ、あの」の連発はコメディならいいのですが、この深刻なテーマには合いません。


No.941 5点 脅迫
ビル・プロンジーニ
(2017/02/28 21:34登録)
名無しのオプ第7作(共作含む)の原題は "hoodwink"、動詞で「だます」という意味です。少なくとも本作に関しては、邦題の方が内容に合っています。第3作『殺意』(未読)にも登場した作家ダンサーから、妙な脅迫のことを聞かされるところから話は始まるわけですから。この脅迫の意味が分かれば、事件全体の構造もある程度見えてくるという仕組みです。
第1回のシェイマス賞の受賞作ですが、パルプ・マガジンの大会が背景となっていて、パルプ・マガジンへのオマージュに満ちているところが特に好まれたのかもしれません。スペードやマーロウの名前が繰り返し出てきて、ほとんどハードボイルドのパロディと言ってもよさそうなぐらいです。まあ密室殺人ですから、カーへの言及もあるのですが。2つ目の密室トリックはアメリカ超有名作家の某作品と似た発想ですが、小屋内部の状態が読者にわかりにくいのが難点でしょうか。


No.940 5点 フレッチ/死の演出
グレゴリー・マクドナルド
(2017/02/24 22:46登録)
一応ユーモア・ミステリとして登録しましたが、人によって当然笑いのツボは異なるにしても、吹き出すとか大笑いするとかいった感じはありません。気の利いたセリフやリアクションでニヤニヤさせる、あるいは本来なら困った状況もユーモラスに捉えてみせるタイプと言えるでしょうか。まあ、フレッチがモクシーとその父親を一種の避難場所として密かに連れて行った家に、大勢の映画関係者が押しかけて来るはめになるあたりが最も単純に笑えるシーンでしょうか。
これまた一応ですが、メインになる殺人は不可能犯罪です。浜辺で数台のカメラに捉えられていた映画プロデューサーが刺殺されながら、刺された方法がわからないという謎です。ところがその不可能性が、あいまいな印象を受けるのです。途中で殺人方法についての議論も出てくるのですが、殺人状況設定が明確にされていないのが、トリック自体の出来よりも不満でした。


No.939 6点 パリ症候群
岸田るり子
(2017/02/20 21:58登録)
フランスを舞台にした5編を収めた短編集で、『砂の住人1―クロテロワ―』と『砂の住人2―依頼人―』とは、当然密接な関係があります。その2編と冒頭の表題作はシンプルな話で、特に表題作はミステリと言えるかどうか疑問なほどです。パリで自殺したいとこの動機は何だったのかということで、実に地味なのです。この表題作と『砂の住人2』は1冊の本にまとめるにあたっての書き下ろしで、『砂の住人2』は1の補完であるとともに、表題作のチョイ役を主役にした作品でもあります。
後の『すべては二人のために』と『青い絹の人形』は逆に、どちらも多少強引かなと思える真相が一応明かされた後に、さらにシニカルなひねりを加えています。どちらかというと、最初の3作のシンプルさの方が、個人的には好みではあります。
ちなみに、表題作で言及される日本語情報誌 "Ovni" とは、Objet Volant(英語のFlying) Non Identifié の略、つまり未確認飛行物体のことです。


No.938 6点 仕立て屋の恋
ジョルジュ・シムノン
(2017/02/16 19:56登録)
先に映画を見た後で読んだ作品の再読。
パトリス・ルコント監督による映画の原題は、"Monsieur Hire"(イール氏)で、小説の原題よりさらにそっけないものです。コメディー映画から出発したこの監督の才能を証明する作品として絶賛された映画は、仕立て屋イール氏を演じるミシェル・ブランとその店を映す冒頭からどきっとさせるような映像派ぶりを発揮してくれます。小説の方の職業設定には、臣さんも書かれているように、実はこの邦題は合いません。
本書カバー写真からもわかるとおり、主役のブランは禿ですがむしろエレガントな紳士的風貌なのに、小説では「変人で、落ちつきがない」人物に描かれています。また小説ではだらしなさそうなアリス役のサンドリーヌ・ボネールは清楚な感じで、どちらも小説の印象とはかなり違います。
なお、本作はデュヴィヴィエ監督により "Panique" のタイトルで1946年に最初に映画化されています。


No.937 5点 三つの道
ロス・マクドナルド
(2017/02/12 22:43登録)
最初ケネス・ミラー名義で発表された第4作は、まさにハードボイルドだった前作『青いジャングル』とは全く異なり、記憶喪失を扱ったプロットだけ見れば、書き方によっては奥さんのマーガレット・ミラー風にもなりそうな、サスペンスものでした。まあアクション・シーンもありますし、さらに主人公が愛より大切なものは「正義だ」と言ったりもするのですが、「本とか映画のなかをのぞいては、正義なんかどこにもないわ」と反論されています。
三人称形式で何人かの主要登場人物の視点を切り替えていく手法は、ミステリ的な狙いとしてはわかるのですが、全体的なまとまりという点では疑問です。かなり早い段階で、真相の見当はついてしまう読者が多いでしょうが、最終章のまとめ方は、意外でした。
なお井上勇の翻訳は、ヴァン・ダインやクイーンはかなり好きなのですが、ロス・マクについては相性が悪いように思えました。


No.936 5点 奥入瀬殺人渓流
梓林太郎
(2017/02/08 23:50登録)
梓林太郎を読むのは本作が3冊目ですが、初めてのアリバイ崩しものでした。トラベルミステリに多い時刻表の盲点を使ったものではありませんが、列車にどうやったら間に合うかという図々しいトリックもあります。
長野で山岳救助隊員である紫門一鬼(しもんいっき)を探偵役とするシリーズの第1作だそうで、北アルプスで起こった遭難事件に疑問を感じたことから、個人的に調査を進めていくという展開です。仕事の合間に少しずつ関係者に質問を重ねていくのですから、かなり長期間の調査です。
で、タイトルの奥入瀬渓流(青森県)での殺人は、その過程で関係ありそうな過去の事件として登場してきます。これは刺殺なのですが、他の事件は事故として片づけられていたもので、たとえ犯人の自白があっても、殺人として起訴できるかどうか疑問なほど不確実な殺人方法(未必の故意があると言えるか…)でした。

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