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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.945 5点 雷鳥九号(サスペンス・トレイン)殺人事件
西村京太郎
(2017/03/16 23:36登録)
中編の表題作と短編4編を収録、光文社文庫ではトラベル・ミステリー傑作集となっています。
表題作は犯人にではなく、凶器の拳銃にアリバイがあるというアイディアを使っています。最初の(犯行時刻では後の)殺人の状況から、方法の原理は予測がつきますが、おもしろい効果はあります。とはいえ、もう一つの殺人の死亡日時推定にそんな正確さはあり得ないでしょう。また犯人は、クリスティーを始めとしていくつも前例のある企みを狙っているのですが、その企みがあからさまで、しかも法律的に危険極まりないと思われるのも、有名前例作に比べると、細部への配慮に欠けていると言わざるを得ません。
他の短編では『幻の特急を見た』が、十津川警部が普通とは逆に容疑者のアリバイを証明するという発想がおもしろいと思いました。『夜行列車「日本海」の謎』は十津川警部の直子夫人に殺人容疑がかかるのが楽しめます。


No.944 6点 狩りの風よ吹け
スティーヴ・ハミルトン
(2017/03/12 22:53登録)
元マイナーリーグのキャッチャーで、その後警察官の経験もある私立探偵アレックス・マクナイトのシリーズ第3作、ということになりますが、アレックスは人探しを依頼してきた30年ぶりの旧友ランディーに、自分が「本物の探偵じゃない」と言っています。私立探偵の許可証を持っていることを、しぶしぶ認めるハードボイルドの探偵役というのも、妙に笑えます。
そんなとぼけぶりが、ピッチャーだったランディーとの会話にも表れていて、ランディーの昔の恋人探しの二人旅はしゃれたハードボイルドらしく、大いに楽しめます。
それが途中から一転、ハードな内容になってきて、ランディーは散弾を受けて入院、その後意外な人間関係が明らかになってきます。ただ、真相がそうなら、以前のその人物の言動は不自然だったのではないかと思えるところが散見され、また終わり方があいまいさを残したままなところは気になりました。


No.943 5点 二度殺された女
ドロシー・ユーナック
(2017/03/09 23:12登録)
いかにも力作という感じはします。しかし…
夜のニューヨーク住宅街路上で看護師が「二度殺された」事件、そのタイトルが表す意味がテーマの作品かと思いながら読み進んでいったのですが、半分ぐらいで犯人が(別件で)逮捕されてからは話が妙な方向にねじれていきます。最後の方は、警察小説の分野には収まらないほど話が大きくなっています。最初の、深く掘り下げてもらいたかったテーマが霞んでしまい、おそらくそれ以上に深刻でありながら、むしろ平凡ともいえる問題にすり替えられ、さらにクライマックスはリアリティが希薄になってしまっているのです。
特にテーマがそれるきっかけになる第29章で突然明かされる内容は、そのことに今まで誰も気づかなかったなんて考えられず、ばかばかしくなってしまいます。主役の女刑事ミランダの最後まで毅然とした態度はいいのですが。


No.942 6点 伽羅の橋
叶紙器
(2017/03/04 18:09登録)
第2回ばらのまち福山ミステリ文学新人賞受賞作です。
選者の島田荘司は「この作者は、いうなれば下手糞なボクサーであった。…(中略)…しかし、目の覚めるような右ストレートだけを持っていた。」と評して、その破壊力を褒めています。しかしこの必殺パンチをトリックや意外性と勘違いしてはいけません。第11章の、ヘリコプターで空撮される大阪のある情景、その迫力ある描写とそれに続く場面こそが本作のハイライトです。これは確かに島田荘司が好みそうなシーンだと思えます。
登場人物たちに語らせる昭和20年終戦直前の出来事も生々しく伝わってくるのですが、受賞後にたぶんかなり手を加えられたと思われるのに、完成度の点ではまだかなり不満は残ります。謎解きシーンの挿入の仕方もそうですし、また主人公四条典座(のりこ)のキャラ、「あ、あの」の連発はコメディならいいのですが、この深刻なテーマには合いません。


No.941 5点 脅迫
ビル・プロンジーニ
(2017/02/28 21:34登録)
名無しのオプ第7作(共作含む)の原題は "hoodwink"、動詞で「だます」という意味です。少なくとも本作に関しては、邦題の方が内容に合っています。第3作『殺意』(未読)にも登場した作家ダンサーから、妙な脅迫のことを聞かされるところから話は始まるわけですから。この脅迫の意味が分かれば、事件全体の構造もある程度見えてくるという仕組みです。
第1回のシェイマス賞の受賞作ですが、パルプ・マガジンの大会が背景となっていて、パルプ・マガジンへのオマージュに満ちているところが特に好まれたのかもしれません。スペードやマーロウの名前が繰り返し出てきて、ほとんどハードボイルドのパロディと言ってもよさそうなぐらいです。まあ密室殺人ですから、カーへの言及もあるのですが。2つ目の密室トリックはアメリカ超有名作家の某作品と似た発想ですが、小屋内部の状態が読者にわかりにくいのが難点でしょうか。


No.940 5点 フレッチ/死の演出
グレゴリー・マクドナルド
(2017/02/24 22:46登録)
一応ユーモア・ミステリとして登録しましたが、人によって当然笑いのツボは異なるにしても、吹き出すとか大笑いするとかいった感じはありません。気の利いたセリフやリアクションでニヤニヤさせる、あるいは本来なら困った状況もユーモラスに捉えてみせるタイプと言えるでしょうか。まあ、フレッチがモクシーとその父親を一種の避難場所として密かに連れて行った家に、大勢の映画関係者が押しかけて来るはめになるあたりが最も単純に笑えるシーンでしょうか。
これまた一応ですが、メインになる殺人は不可能犯罪です。浜辺で数台のカメラに捉えられていた映画プロデューサーが刺殺されながら、刺された方法がわからないという謎です。ところがその不可能性が、あいまいな印象を受けるのです。途中で殺人方法についての議論も出てくるのですが、殺人状況設定が明確にされていないのが、トリック自体の出来よりも不満でした。


No.939 6点 パリ症候群
岸田るり子
(2017/02/20 21:58登録)
フランスを舞台にした5編を収めた短編集で、『砂の住人1―クロテロワ―』と『砂の住人2―依頼人―』とは、当然密接な関係があります。その2編と冒頭の表題作はシンプルな話で、特に表題作はミステリと言えるかどうか疑問なほどです。パリで自殺したいとこの動機は何だったのかということで、実に地味なのです。この表題作と『砂の住人2』は1冊の本にまとめるにあたっての書き下ろしで、『砂の住人2』は1の補完であるとともに、表題作のチョイ役を主役にした作品でもあります。
後の『すべては二人のために』と『青い絹の人形』は逆に、どちらも多少強引かなと思える真相が一応明かされた後に、さらにシニカルなひねりを加えています。どちらかというと、最初の3作のシンプルさの方が、個人的には好みではあります。
ちなみに、表題作で言及される日本語情報誌 "Ovni" とは、Objet Volant(英語のFlying) Non Identifié の略、つまり未確認飛行物体のことです。


No.938 6点 仕立て屋の恋
ジョルジュ・シムノン
(2017/02/16 19:56登録)
先に映画を見た後で読んだ作品の再読。
パトリス・ルコント監督による映画の原題は、"Monsieur Hire"(イール氏)で、小説の原題よりさらにそっけないものです。コメディー映画から出発したこの監督の才能を証明する作品として絶賛された映画は、仕立て屋イール氏を演じるミシェル・ブランとその店を映す冒頭からどきっとさせるような映像派ぶりを発揮してくれます。小説の方の職業設定には、臣さんも書かれているように、実はこの邦題は合いません。
本書カバー写真からもわかるとおり、主役のブランは禿ですがむしろエレガントな紳士的風貌なのに、小説では「変人で、落ちつきがない」人物に描かれています。また小説ではだらしなさそうなアリス役のサンドリーヌ・ボネールは清楚な感じで、どちらも小説の印象とはかなり違います。
なお、本作はデュヴィヴィエ監督により "Panique" のタイトルで1946年に最初に映画化されています。


No.937 5点 三つの道
ロス・マクドナルド
(2017/02/12 22:43登録)
最初ケネス・ミラー名義で発表された第4作は、まさにハードボイルドだった前作『青いジャングル』とは全く異なり、記憶喪失を扱ったプロットだけ見れば、書き方によっては奥さんのマーガレット・ミラー風にもなりそうな、サスペンスものでした。まあアクション・シーンもありますし、さらに主人公が愛より大切なものは「正義だ」と言ったりもするのですが、「本とか映画のなかをのぞいては、正義なんかどこにもないわ」と反論されています。
三人称形式で何人かの主要登場人物の視点を切り替えていく手法は、ミステリ的な狙いとしてはわかるのですが、全体的なまとまりという点では疑問です。かなり早い段階で、真相の見当はついてしまう読者が多いでしょうが、最終章のまとめ方は、意外でした。
なお井上勇の翻訳は、ヴァン・ダインやクイーンはかなり好きなのですが、ロス・マクについては相性が悪いように思えました。


No.936 5点 奥入瀬殺人渓流
梓林太郎
(2017/02/08 23:50登録)
梓林太郎を読むのは本作が3冊目ですが、初めてのアリバイ崩しものでした。トラベルミステリに多い時刻表の盲点を使ったものではありませんが、列車にどうやったら間に合うかという図々しいトリックもあります。
長野で山岳救助隊員である紫門一鬼(しもんいっき)を探偵役とするシリーズの第1作だそうで、北アルプスで起こった遭難事件に疑問を感じたことから、個人的に調査を進めていくという展開です。仕事の合間に少しずつ関係者に質問を重ねていくのですから、かなり長期間の調査です。
で、タイトルの奥入瀬渓流(青森県)での殺人は、その過程で関係ありそうな過去の事件として登場してきます。これは刺殺なのですが、他の事件は事故として片づけられていたもので、たとえ犯人の自白があっても、殺人として起訴できるかどうか疑問なほど不確実な殺人方法(未必の故意があると言えるか…)でした。


No.935 8点 忙しい蜜月旅行
ドロシー・L・セイヤーズ
(2017/02/03 21:45登録)
ポケミス版の深井淳訳での読了ですが、初版1958年という古さにもかかわらずこなれた訳は気持ちよく読めました。しばしば引用されるシェイクスピア等で使われる古語もかえってアクセントになっていると思えます。
実はセイヤーズ、恥ずかしながら初読です。それなのに最終作からというのも、単なる気まぐれでして。食わず嫌いだったわけではなく、セイヤーズが次々に創元から翻訳されていたのが、個人的にミステリから離れていた時期にちょうど重なっていたせいなのです。
「推理によって中断される恋愛小説」というサブタイトルを付けたり、作者前書きの中で「この恋物語は探偵小説にはまったくの余計な筋だという人もありました。わたしもその一人です」なんていうふざけた調子を楽しんでいたら、真相解明後の祝婚後曲ではぐっとシリアスになってくれます。Tetchyさんみたいにシリーズをずっと追っていなくても、充分楽しめました。


No.934 6点 ドリンダが踊るとき
ブレット・ハリデイ
(2017/01/30 22:20登録)
マイケル・シェーンのシリーズ第20作。まあそれまでの作品で邦訳があるのは6割程度ですが。
前半は、ヌード・ダンサーをしているドリンダをめぐり、調査というよりトラブル解決にシェーンが奔走する話で、ハードボイルドらしい感じで進んでいくのですが、その事件が解決しないまま、巻半ばでドリンダとは無関係な殺人事件が起こるという筋書きになっています。だからと言って単なるモジュラー型ではないのは、謎解き要素にもこだわる作者らしい企みです。
トリックそのものにはかなり早い段階で気づいてしまったのですが、これは古典的なパターンに則っているからであり、出来は悪くありません。ただし、シェーンによる最後の推理部分より前に、これでは誰でも真相の見当がすぐについてしまうのではないかと思えるようなことが書かれているのは気になりました。その部分は入れる必要はなかったでしょう。


No.933 6点 鷗外の婢
松本清張
(2017/01/26 17:58登録)
収められた2編どちらも160ページぐらいで、長編と呼ぶにはちょっと短い作品です。
『書道教授』は犯罪小説で、中心となるのは浮気をした挙句、相手の女を殺してしまうという、ごくありふれた話です。かなり早い段階から、彼が後に警察に語った内容を書いていて、その点ではひねりなどないことを作者は明示しています。ところがそこに書道教授を登場させることによって、謎解き的な要素も盛り込み、またずうずうしい死体処理のアイディアを入れているところがおもしろくできているのです。
一方表題作は、それとは全く異なるタイプの作品です。「婢(ひ)」の訓読みは「はしため」、作中で「いまでいうお手伝いさん」であると説明されています。鴎外か小倉に軍医部長として赴任していた時の女中のことを主人公が調べていくうちに、古代史がらみになり、事実と虚構の境がはっきりしないところがおもしろい作品でした。


No.932 6点 揺りかごが落ちる
メアリ・H・クラーク
(2017/01/22 22:38登録)
メアリ・H・クラークの第3作。この作家は初読ですが、本書はいかにもサスペンス小説らしい作品でした。
タイム・リミット、ご都合主義が過ぎない程度の偶然、捜査側と殺人犯側、両方の視点を交差させて描きながら、とりあえず謎(犯人の過去の秘密)を終盤まで保持する構成、それに絡む当時のたぶん最先端技術についての問題提起などが盛り込まれています。安易に何でも適当に取り込んでというのではなく、程よくブレンドされていて、前半はむしろじっくり、その後タイム・リミットに向けてのサスペンス盛り上げと、とりあえず文句はありません。
ジャンルは違いますが、どことなくコーンウェルにも通じるような小説技巧が感じられます。miniさんが第2作『誰かが見ている』について、完璧すぎて欠点がないのがかえって弱点と書かれていますが、確かにそう言えるかもしれないような作風です。


No.931 5点 黒い金魚
E・S・ガードナー
(2017/01/16 23:46登録)
原題は "The Case of the Golddigger's Purse"。 金鉱探しと何の関係があるのだろうと思っていたのですが、辞書を引いてみると、gold digger には金目当ての女の意味もあるんですね。なるほど、それならメイスンが弁護することになる被告人のことで、納得いきます。
その女を弁護することになるまでの展開がかなり複雑な事件です。邦題の黒い金魚に関する最初の依頼は殺されることになる男からのもので、さらに殺人事件の後もいろいろあって、メイスンとしては逮捕されたその女の弁護を、依頼を受けたからでなく自ら買って出ざるを得なくなるのです。そこまでは充分楽しめるのですが、予備審問が終わる前に結局解き明かされる事件の真相はさすがに複雑にし過ぎです。
また、決定的証拠と思える被告人の指紋の件も、またもう一つ被告人に不利な時刻の件も、このようないい加減なご都合主義はいただけません。


No.930 6点 柩の中の猫
小池真理子
(2017/01/12 20:49登録)
後には直木賞、吉川英治文学賞など数多くの文学賞を獲ることになる作家の1990年作です。
大部分は20歳の住み込み家庭教師雅代の一人称で描かれています。時代背景は1955年ですから、ずいぶん昔の設定。猫のララをママのように思う桃子のキャラがさざ波のような不安を広げていく心理サスペンスになっています。何かが起こりそうな予感はかなり早い段階からあるのですが、実際にミステリ的な事件が起こるのは6割を過ぎてから。
しかし、現代のプロローグについては、読み終えてみると必要があったのかなと疑問に思えました。最後にもう一度現代に戻って、さらに何かを起こしてくれるのかなとも思っていたのですが、そんなこともなく終わってしまい、現代に出てくるララそっくりの猫も、雅代の回想の聞き手も、存在意義が感じられませんでした。また、現代では雅代は著名な画家になっていますが、それも事件とは何の関係もないのです。


No.929 5点 銃弾の日
ミッキー・スピレイン
(2017/01/08 22:56登録)
タイガー・マン・シリーズの第1作で、作中で彼は「おかしな名前でしょう? でも、おやじが、そうつけたんです」と自己紹介しています。綴りはTiger Mann。『ヴェニスに死す』の作家と同じ姓なんですね。ファースト・ネームの方は、今では確かにそういう名前の有名人もいるしね、といったところです。
タイガーは諜報機関に所属していて、国連で機密情報が東側に漏れている事件が話の中心にあります。一応国際政治を背景にした作品だけに、共産主義嫌いの作者らしさはマイク・ハマーものよりもはるかに露骨に表れています。ただしどんな機密なのかの説明などは当然ながら全く無視していて、謀略スパイ小説としてのおもしろさはなく、国際政治は派手なアクション・スリラーのための方便に過ぎません。
その一方で特にラスト・シーンなど、スピレインの官能的な甘さが存分に発揮された作品でもあります。


No.928 7点 マイアミ・ポリス
チャールズ・ウィルフォード
(2017/01/05 23:29登録)
『マイアミ・ブルース』に続くホウク・モウズリー部長刑事のシリーズ第2作です。ウィルフォードはこのシリーズを1984年に始める前に、1950年代から10冊以上の小説を発表していますが、その中で翻訳されているのは『炎に消えた名画』のみ。ちなみに本書巻末解説に付されている作品リストには、何の注釈もありませんが、実は詩集やノン・フィクションも含まれています。ミステリだけの作家ではないんですね。
このシリーズは前作もまた次作も、複数の人物の視点から書かれた作品らしいですが、本作は三人称形式ながらホウクの視点だけに絞って警察小説らしい仕上がりになっています。中心になるのは麻薬常用者の死亡事件ですが、その他に過去の迷宮入り事件の再調査を命じられることになり、結果当然モジュラー型になっています。刑事たちの私生活にもかなりのウェイトが置かれていて、そこがいい味を出しています。


No.927 6点 追跡
高木彬光
(2016/12/30 23:59登録)
1957年に実際に札幌で市警警部が銃殺された白鳥事件をモデルにした作品で、高木作品の中でも同じ百谷泉一郎弁護士シリーズの『人蟻』と並んで社会派要素の強い作品です。
カッパ・ノベルズ版の作者あとがきに、松本清張の『日本の黒い霧』でも同事件が扱われていますが、清張とは別解釈であることが述べられています。共産党地区委員等の刑が確定したものの、冤罪事件なのかそうでないのか、今でも議論のある事件だそうですが、本作は上告審が最高裁で行われていた1962年に発表されました。清張ほどの政治性はありませんが冤罪説という点では共通していて、10年後に新たな殺人事件を起こすことによって、本作はエンタテインメント性を出しています。
百谷弁護士シリーズの中でも、謎解き要素は『人蟻』よりさらに少ないと言えるでしょうが、硬派な主張は伝わってくる作品です。


No.926 7点 ファイナル・カントリー
ジェイムズ・クラムリー
(2016/12/26 23:13登録)
クラムリーのハードボイルド・ミステリ第6作、今回はミロの出番です。ただし作中では「元相棒」としか書かれていませんが、要するにシュグルーのことも所々で語られていて、最後にはちょっとだけですが実際に登場します。
酔いどれ探偵の代表的存在だったミロですが、しばらく禁酒していていたりして、酒に溺れることがなくなってしまっていたのには驚かされました。コカインは最初の殺人時に密かにかっぱらっているのですが、吸うのもほどほどといったところです。その意味ではクラムリーらしい酩酊感がなくなったかなという気もします。しかしバイオレンスの方はてんこ盛りで、作品中で還暦を迎えたミロ、こんな無茶よくやるよなあと嘆息です。
じっくり読み進めるのを強要するような独特の重厚さはさすがですが、訳者あとがきでロス・マク調とされる構成の結末の意外性は、ロス・マクほどの鮮やかさはありません。

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