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ミステリの祭典

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野獣の血

作家 ジョー・ゴアズ
出版日1985年07月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2023/05/05 16:48登録)
(ネタバレなし)
 1968年のサン・フランシスコ。19歳でハンサムな不良少年リック(リッキー)・ディーンとその同年代の仲間たち3人は、リックの気に障った男性を半殺しにし、重傷を負わせた。だがその現場を「ロス・フェリス大学」の人類学教授カーティス(カート)・ハルステッドの美人の妻ポーラに目撃される。リックはガールフレンドのデビー(デボラ)・マースティンが同大学に在籍する縁も利用してポーラの素性を探り出し、カートの不在中に仲間とともにハルステッド家に乗り込み、彼女を輪姦し、沈黙を言い含めて退去した。だが暴行を受けたポーラは自殺。帰宅して惨劇を認めた43歳のカートは、妻を死に追いやった犯人たちを暴き、復讐することを誓う。

 1969年のアメリカ作品。ゴアズの処女長編で、MWA最優秀新人賞受賞作品。
 ガーフィールドの『狼よさらば』とかロバート・コルビーの『復讐のミッドナイト』などの諸作(実はどっちも評者はまだ未読だが)に通じる(のあであろう)、ワルの少年(青年)どもに妻を凌辱された(そしてそれ以上の悲劇を被る)夫の復讐もの。
 
 この手のものが厳密な意味でいつ頃からあり、広義のミステリの中で、どの作家のど作品が本当の先駆、オリジンとなるのかは寡聞にして知らないが、おそらくは第二次大戦後、ハンター、マッギヴァーンやハル・エルスンあたりの不良少年ものが隆盛した1950年代以降の産物だとは思う。

 読者側の現実世界とさほど距離のない作中のリアルで起きるショッキングな悲劇と、読者に半ば強制的に強いられる、主人公の復讐の原動への共感(アア、オレダッテ、マンガイチ、コウイウタチバニナッタラ、ソレクライカンガエテシマウダロウナア……)。
 この2つのファクターが最強すぎて、よほど外さなければ読み物としては一定水準以上にオモしろくなるであろう主題で設定だが、その辺はさすがゴアズ。そこ(大設定の面白さ)だけには、決して終わらない。
 かつて大戦中に少年兵だった(が、今は象牙の城のなかで体がなまってる)主人公が体を再鍛錬していく図も、消極的な動きの警察などを脇目に少しずつ標的に迫っていく図もしっかり細部で読ませる。
 終盤の決着はもちろんここでは書かないが、たぶんこの時点ではこの手のものの定石を良い意味で微妙に外しながら、きっちりエンターテインメントとして幕を下ろす。いやまあ、刊行年度のMWA新人賞は当然であろう。
(そーいえばゴアズって、短編『さらば故郷』でもMWA最優秀短編賞とってるんだよな。あれも名作だった。)

 ちなみに悲劇の序盤ヒロイン、ポーラの文芸設定というかキャラクター造形については思う所もあるのだが……まあ、これは、読んだ人同士でいつか話しましょう。

No.1 6点
(2017/05/28 23:29登録)
このMWA新人賞を受賞したゴアズのデビュー作は、私立探偵小説ではありません。主役の大学教授に雇われる私立探偵も登場はするのですが、プロらしい聞き込みテクニックをちょっと見せるだけの役にとどまります。妻を自殺に追い込んだ4人組の若者たちへの大学教授の復讐物語ではあるのですが、その若者たちの視点から描かれた部分もかなりあります。最後の対決部分で、若者たちの一人が「あたかも、遊園地のぐるぐる回転するマシーンに乗っかっているようなものだった。そいつは回るたびにぐんぐんスピードをまし」ていくと考えるシーンがあり、エスカレートしていく犯罪行為の渦に彼等自身が翻弄されていく様もしっかり描かれているのです。
原題は “A Time of Predators”、1985年の翻訳作中では「捕食獣」と訳されていますが、翻訳が数年遅ければ、そのままプレデターとされていたかもしれませんね。

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