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ミステリの祭典

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唾棄すべき男
マルティン・ベック

作家 マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
出版日1976年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2021/04/23 19:34登録)
シリーズ中で一番シンプルな話なのではないのだろうか。
「やつは最低の種類の警官、権威を笠にきた、無頼漢も同然の男だ」とコルベリが酷評するニーマン主任警部が、入院中の病院で惨殺された。いやそれなりに優秀な警官ではあるのだが、権威的に他人に振る舞うマチズムの権化であり、治安維持にかこつけてサディスティックに暴力をふるう制服警官である。1950年代末にスウェーデン警察にも民主化の波が訪れて、軍隊調の組織運営が廃されたことでこのニーマンは出世の糸口を喪ったのだが、それでもしぶとく警察内に勢力を養っていた男だ。
だから市民とのトラブルも多く、ニーマンを恨む人は多い。しかし、捜査の中で明らかになるのは、よき夫であり、古風で父権的ではあるがよき父である普通の市民としての肖像である。しかし、ニーマンは私的には一切同僚とは交際せず「警察官にはおいそれと友人はできないものだ」と口癖のようにいって「警官の孤独」を漏らす。
これを聞き出したベックも、わが身に引き比べて耳が痛い。ベック自身の孤独と、ニーマンの孤独、そしてニーマンに人生を狂わされて復讐に走った犯人の孤独...これらが重なり合って、クライマックスの派手な銃撃戦のさなか、ベックはある「愚かな」行為をすることになる。ベック自身も犯人の復讐リストに載っていたのである。
というわけで、一気に派手な結末まで走り抜ける。ベックの良心も、世の暴力の中では役に立たないとするのなら、やるせない孤独と、暴力に満ちた、なんとも救いがない話になる。
(ちなみに準レギュラーの一人が殉職する。合掌)

No.1 7点
(2017/08/13 23:14登録)
タイトルの唾棄すべき男とは、冒頭銃剣でめった切りにされて殺された被害者のスティーグ・ニーマン主任警部のことです。スウェーデン語は全く分かりませんが、高見洽訳に載っている英題では “the abominable man”、 普通「いやな」とか「不愉快な」と訳される言葉です。ただ、ニーマンは賄賂を要求するようないわゆる悪徳警官ではありません。日本でも戦前には多かったと思われる、拷問等も法的にはともかく当然必要で有効な手段だと考えるような、悪い意味での軍隊式考え方の持ち主です。
警察小説というと、何週間も、時には1年以上もの期間の捜査を描く作品が多いですが、本作はたった1日の出来事です。深夜に起こった事件で、マルティン・ベックとルンは全然眠らないまま、特にルンは前日の仕事の疲労が溜まっている状態で、事件解決までなだれ込みます。また大いに楽しめるクライマックスのやたらな派手さも、警察小説には珍しいでしょう。

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