空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1515件 |
No.1015 | 6点 | アンブローズ蒐集家 フレドリック・ブラウン |
(2018/02/27 23:53登録) フレドリック・ブラウンというと、どちらかと言えばSFの方が有名なように思えますし、自分自身もSFは2冊読んでいるのですが、ミステリは短編集『真っ白な嘘』しか読んだことがないという状況でした。しかし長編の数ではミステリの方がかなり多いわけで、最近翻訳されたこの作品を手に取ってみたところ、なかなか気に入りました。 エド・ハンターのシリーズ(彼の一人称形式とは言え伯父のアムと一緒に私立探偵をやっているのですから、エド&アム・シリーズと呼ぶべきかもしれません)の第4作です。ジャンルとしては本作の段階では2人は私立探偵ですし暴力的な場面もあるので一応ハードボイルドに入れてみました。 アム(アンブローズの愛称)伯父の失踪事件で、邦題は犯人の偽名アンブローズ・コレクターのことですが、原題 "Compliments of Fiend"(『悪魔より愛をこめて』)より内容に合っている感じがします。 |
No.1014 | 6点 | 地下街の雨 宮部みゆき |
(2018/02/24 23:27登録) 実は宮部みゆき初読です。 全7編、普通の犯罪事件が解決されるタイプのミステリは1編もありません。 冒頭の表題作はここまでしなくてもという気はしますが、意外なオチを持ったいい話という感じでした。『決して見えない』『混線』とホラーが2編、後者は平凡な出来で、怖いのは前者ですけど、これも多少もやもや感が残りました。『不文律』はよくわかりません。『勝ち逃げ』は誉めている人が多いのがうなずける秀作で、爽やかさを感じさせる種明かしの後のちょっといじわるなラストも好きです。警察官が主人公の『ムクロバラ』は、ミステリらしい設定だなと思って読んでいたら、これにもホラー的なところがあり、その点はそれほど感心しなかったのですが、オチをうまくまとめていました。これも好評な『さよなら、キリハラさん』はお婆さんの扱いに感心しましたが、論理的整合性に疑問を感じました。 |
No.1013 | 7点 | 猶太人ジリウク ジョルジュ・シムノン |
(2018/02/17 23:53登録) 『13の秘密』、『ダンケルクの悲劇』(13の謎)と同時期に書かれた、その2冊と同じくショートショートと言っていい長さの13の連作謎解き短編集です。原題は "Les 13 coupables"(13の犯罪者)。1937年に春秋社から出版されて以来新訳も出ず、日本では絶版状態が続いているもので、読んだのはそんな稀覯本ではなく、原書です。日本で永らく無視されていても出来栄えはなかなかのもので、他の2冊と比べて短くしやすい基本設定になっていて、「クイーンの定員」にも選ばれている短編集です。 主役はフロジェ判事。ただし裁判官ではなく、メグレ・シリーズでもお馴染みのコメリオ判事と同じく予審判事で、警察とも協力し容疑者を尋問して裁判に回すべきか否かを決定する役割です。表題作のジリウクを始めとして、様々な国籍の容疑者をフロジェ判事が尋問し、ほとんどがその場で事件解決となる構成で、ホワイダニットが中心となっています。 |
No.1012 | 6点 | 用心ぶかい浮気女 E・S・ガードナー |
(2018/02/12 15:21登録) ペリー・メイスン・シリーズは奇妙な依頼などで冒頭に意表外なシチュエーションを設定する場合が多いですが、本作は少なくとも既読作の中では最もとんでもない謎を提出してくれます。 ただし第1章は依頼人の登場ではありません。メイスンは既に交通事故の損害賠償に関する依頼を受けていて、ひき逃げした自動車を追っている状況から話は始まります。その自動車のナンバーについての匿名の手紙をドレイク探偵が受け取るのですが、これが何とも怪しげな手紙で、さらにメイスンの事務所に事故の目撃者なる女が現れて、その手紙の内容を否定する証言を行う展開には、さすがのメイスンも頭をかかえることになります。 真相は込み入っているようでいて意外に明快な筋が通っています。ただ、バーガー検事があまりにメイスンをやっつけることにばかり拘泥して本筋の殺人の証拠固めが疎かになっているのは、いかがなものかと思われますが。 |
No.1011 | 7点 | 悪いうさぎ 若竹七海 |
(2018/02/07 23:43登録) この作者を読むのは初めてで、タイトルからしても、うさぎがたくさんいるとぼけた味のカバーイラストからしても、ハードボイルドと言っても軽いタイプかと思っていたのですが、本当にハードな内容を持った作品でした。 プロローグの「前哨戦」から常軌を逸した男が登場して、ヒロイン葉村晶は乱闘の結果入院する羽目になってしまいます。この男はその後もさらに出てきますが、その嫌がらせは登場時の乱暴さからすると違和感があります。その男の話は脇筋ですが、もう一つ、晶の友人の恋愛話も脇筋になっていて、この恋愛の相手もそうとう病的な奴です。その上メインの失踪事件の依頼人がわけのわからない富豪という、変人オンパレードの作品になっています。 ここまで非常識人を揃えているからこそ、真相の異常さもそれなりに納得できる世界になっていると言えるかもしれません。最後説明不足な点はいくつかありましたが… |
No.1010 | 7点 | 赤く灼けた死の海 ジョン・D・マクドナルド |
(2018/02/03 08:33登録) 原題は "The Empty Copper Sea" ですから、ただの赤ではなく赤銅色です(以前に『赤い雌狐』があります)。色付きタイトルのシリーズなのですから、ただの「赤」は別出版社から出ていたにしても、全く同じ色は避けるべきじゃないでしょうか。 トラヴィス・マッギー・シリーズの中でも、邦訳があるものの中では最も新しい作品です。直前作の『レモン色の旋律』をminiさんはハードボイルドに投票されたと書かれていますが、本作も文章さえそれっぽくすれば、典型的なハードボイルドと呼べそうなストーリーです。まあバウチャーが、作者を取り違えて読んでも失望しないだろうと言っていたロス・マクみたいな深みを期待すれば、不満があるかもしれませんが、それでも結末には意外な哀しみがあります。真相はこんなところかなと予想できるものの、心理的な矛盾があり迷っていたのですが、なるほど、そういうオチでしたか。 |
No.1009 | 6点 | 孔雀の羽根 カーター・ディクスン |
(2018/01/30 22:28登録) 久々の再読ですが、メインの密室トリックだけはかなり細部まで覚えていました。それほど印象的な基本アイディアなのですが、今回気づいた不備もあります。物理的可能性を問題視する人が多いようですが、そうではなく、不可能犯罪を演出するには犯人が警察にその監視方法を強制できなければならないはずだという点が引っ掛かったのです。また、HM卿が第19章で言う「四番目の方法」には説得力がありません。 なお、この「方法」(手段)という言葉は変で(たぶん翻訳が)、実際には「理由、動機」です。H・M卿は『白い僧院の殺人』の時「殺人者が密室状況を作り出す手段は三つしかない」と言ったというふうに本書では訳しています(p.295)が、その『白い僧院』(同じ厚木氏訳!)では「不可能な状況を作り出した動機だ」(p.201)となっています。 トリックに疑問はあるものの、再度の謎の手紙以降一気に盛り上がる構成は気に入っています。 |
No.1008 | 5点 | 戸田巽探偵小説選Ⅰ 戸田巽 |
(2018/01/25 22:21登録) 巻末の解題によれば、作者は神戸に生まれ、関西で活動した人だそうで、選集Ⅰには、発表が1931年5月の『第三の証拠』から1936年3月の『ムガチの聖像』まで16編の小説の他に、評論・随筆もいくつか収録されています。 最初の『第三の証拠』はサスペンス調の犯罪小説で、結末に意外性のあるものになっていて、特にタイトルの証拠はちょっとしたアイディアです。ところが続く4編(内3編がショート・ショート)はミステリじゃない…『或る日の忠直卿』なんて変な時代小説です。どれもつまらなくはないのですが、「探偵小説選」と言えるのかと思っていたら、『目撃者』以後はちゃんとミステリになっていました。1編だけ中編と言える長さの『出世殺人』は3つの独立した事件を組み合わせたもので、ちょっと偶然が過ぎる気もします。たった2ページの『吸血鬼』はもっと長い小説の冒頭部分だけ取り出した感じで、拍子抜けでした。 |
No.1007 | 5点 | ベーカリーは罪深い J・B・スタンリー |
(2018/01/22 00:02登録) 作者のファースト・ネームのJは、どうやらジェニファーらしいですが、本作はその作者のダイエット・クラブ・シリーズの第1作です。のんびりした田舎町、殺人事件の捜査より「デブ・ファイブ」のメンバーたちのダイエット食品に筆を費やすところなど、まさにコージーという感じの作品になっています。各章の頭には、その章で出て来る食べ物(ダイエット食品とは限らない)の成分表が付けられているという徹底ぶり。あとがきで訳者は作中の鶏胸肉のハーブ・ローストを試したところ好評だったなんて書いてあります。「つぎはナマズのボンベイ風に挑戦してみよう」というのは、材料を手に入れるのが難しそうですね。ちなみにナマズは刺身を食べたことがあり、美味です。 評も殺人事件より食べ物中心にしちゃいましたが、実際謎解きとしてはたいしたことはありません。犯人が判明した後30ページぐらいはサスペンス風味になります。 |
No.1006 | 7点 | カリブの鎮魂歌 ブリジット・オベール |
(2018/01/16 22:48登録) 1作ごとに様々なジャンルを試みる(少なくとも6作目までは)オベールの5作目は、タフな中年私立探偵ダグ・ルロワがカリブ海の島々を飛び回って活躍するハードボイルドです。三人称形式ですが、ほとんどダグの視点から書かれているので、コンチネンタル・オプのパターンを踏襲して一人称形式でもかまわなかったのではないかとは思えます。また最後の方は冒険小説といった方がいいくらい派手な展開も見せてくれます。 カリブ海域の地理はほとんど知らなかったので、読んだついでに調べてみると、特に事件の中心となる「グアドループ島の北西約五十キロメートルのところに位置」するサント=マリー島は架空の島ですね。 サイコな感じの連続殺人をテーマにして、灰汁の強い登場人物たちを揃え、意外性にもあれこれ工夫を凝らしたところはこの作家らしく、軽快な筆致で楽しませてくれました。 |
No.1005 | 5点 | 火車と死者 高木彬光 |
(2018/01/12 22:57登録) 神津恭介シリーズの中でも、最初のうち捉えどころのない事件が続くという意味では珍しい作品ではないでしょうか。「火車」とは熊本に伝わる特殊な伝説(という設定)ですが、事件との関わり方はちょっとこじつけめいています。伝説通りに事件が進むのは最初から犯人の意図したものではなかったという解決は、悪くないと思うのですが、だからと言って火車伝説を持ち出す必要もなかったのではないでしょうか。それによって不気味な雰囲気が漂えばいいかもしれませんが、むしろ全体的にはシリーズ中でも軽めの現実的な作風になっています。 謎解き面では、事件が特異なものになった大きな偶然の使い方は鮮やかだと思います。しかしその他にも二重の伝説利用、切断された腕の件など、小さな偶然を重ねすぎているところは不満です。元になるアイディアはいいのに、仕上げが雑になってしまった作品という気がしました。 |
No.1004 | 6点 | 殺人(ころし)は血であがなえ ハドリー・チェイス |
(2018/01/08 09:52登録) ハドリー・チェイスにはハードボイルド系の作品はかなりありますが、私立探偵の一人称形式というハメット由来のパターンはめったにないようです。本作はその珍しいタイプで、しかも相棒が殺された事件の捜査という点だけ見れば『マルタの鷹』を連想させます。が、この作者ですから通俗的な暴力に徹し、冷血な大富豪、悪徳警察署長など典型的な登場人物を配して、殺人は繰り返されていきます。主役に本拠地を離れた観光都市で自由に捜査を継続させるため、途中で反現市政派の副検事を登場させたりもしますが、ラストの見せ場を作るためには、途中でこっそり退場してもらわなければなりません。 真犯人の正体はいかにも通俗ハードボイルドという感じで新味はありませんが、伏線はちゃんと張ってあります。しかし真相解明後のカーアクションになる流れが、チェイスらしいところで、一番の見どころでしょうか。 |
No.1003 | 5点 | 麻薬密売人 エド・マクベイン |
(2018/01/04 00:11登録) この87分署シリーズ第3作では、前作『通り魔』で功績をあげたクリング巡査が刑事になって、キャレラと一緒に死体発見現場に駆け付けるところから始まります。最初首吊り自殺と思われた少年はヘロインの過剰摂取により死んだことが判明し、タイトルの麻薬密売人による殺人と推測されます。検死で簡単にばれることは明らかなのに、なぜ縊死を装うことまでしたのか、というところが中心の謎になっています。本作は余計なものを入れずこの事件一本に絞った構成で、またキャレラが大変な目に会う事件でもあります。 しかし今回の主役は、一応ピーター・バーンズ警部と言っていいでしょう。彼の家族が事件に巻き込まれ、職務と家庭の問題の間で悩むのです。最後は彼が一人で犯人逮捕に赴き、「いっしょにきてもらおうか」と犯人に優しく言う結末になります。 ただ途中までの展開に比べて、この最後がスケール的に尻すぼみになってしまった印象は拭えません。 |
No.1002 | 6点 | 鳥少年 皆川博子 |
(2017/12/31 00:00登録) 表題作等13編の短編を収録。初出一覧によるとほとんどは70年台後半から80年台にかけて様々な雑誌に発表されたものですが、ショート・ショート『ゆびきり』だけは本短編集編集出版の1999年に書かれたものです。 大部分はミステリと言うより奇妙な味に分類できそうなもので、昔ながらの芝居に題材をとったものに代表されるように、古風な味わいがあります。科学技術系の物等にちょっと変更を加えれば戦前の「変格派」作品だと言われても信じてしまいそうになるぐらいで、異様な雰囲気は気に入りました。また、オチをはっきりと書かず、読者に推測させるだけに留める、あるいはその推測さえ不確定なものが多いのも本短編集の特長です。特に『滝姫』は冒頭部分と結末とがどうつながっているのか理解できません。また表題作のなんとも奇妙なラストは、小説テーマとしてわからなくはないのですが、この展開の最後で?という気はします。 |
No.1001 | 6点 | ハリウッド警察特務隊 ジョゼフ・ウォンボー |
(2017/12/25 21:58登録) 原題は “Hollywood Crows”。「鴉」って何だと思われそうですが、市警の一部局であるCRO(地域防犯調停局:Community Relation’s Office)所属の警察官を指すことが、作中で説明されています。生活環境に関する苦情等に対処する部門であり、「特務隊」というハードそうな語感とは全然違います。ただしCROメンバーだけの話ではありません。 『ハリウッド警察25時』の続編で、2人のサーファー警察官や、俳優になる夢を持ち続けていてCRO配属になった警察官など、前作の登場人物たちが再度活躍します。巻頭に、「警官話」を提供してくれた50人以上のロサンジェルス、サンディエゴ市警の警察官に対する謝辞があり、それらの人々から聞いたエピソードを多数入れているのだろうなと推測されるモジュラー型です。その中にメインの事件を犯人の視点も含めて配しているのは、前作と同じですが、前作に比べると多少落ちるかなという感じでした。 |
No.1000 | 8点 | 縞模様の霊柩車 ロス・マクドナルド |
(2017/12/21 19:27登録) 最初に読んだロス・マクが本作で、本当に久しぶりの再読です。初読当時は、特にラストのリュウと犯人との対話と、その後歩き始める「水の涸れた川床のような道」の情景に圧倒的な感銘を受けたものでした。 今回読み直してみると、事件の構成は意外にシンプルだと思いました。前後の作品のような大胆なアイディアもありません。まあ真相を知っているため、様々な出来事の裏の意味がわかるからというところもあるのでしょうが。それでも自然な形での結末の意外性は充分にあり、ミスディレクションも効いています。最初の方で出て来る縞模様の霊柩車が、ただ象徴的な意味を持つだけでなく、重要な手がかりを提供することになるのも、うまくできています。そしてストレートに突き刺さって来るアメリカの「家庭の悲劇」。 リュウが頭を枝から下がったマンゴーにぶつける場面などユーモラスなところも記憶に残っていました。 |
No.999 | 7点 | 塙侯爵一家 横溝正史 |
(2017/12/17 23:17登録) 読んだ角川文庫版には、戦前の中編が2編収録されています。 1932年7月から雑誌「新青年」に連載された表題作については、作者自身「何か本当のものを書きたい」という意気込みを予告の中で述べているぐらいで、確かにスケールの大きな気合の入った作品になっています。同年5月に犬養首相暗殺事件が起こった時代背景も取り入れられていて、クーデター的なことを企む組織の幹部の一人である畔沢大佐が、主人公を傀儡として使おうしている中、塙(ばん)侯爵殺人事件が起こる話です。とは言え、そこは横正、組織の政治的立場等については一切触れていません。組織の計画のどんでん返しより、殺人事件の犯人の意外性に驚かされます。論理的な穴はいろいろありますが、楽しめました。 女性雑誌に発表された『孔雀夫人』は、真相はわかりやすいですし、ラストはご都合主義ですが、すっきりまとまったサスペンスものになっていました。 |
No.998 | 6点 | 影と陰 イアン・ランキン |
(2017/12/12 23:37登録) リーバス警部シリーズ第2作―というより、『紐と十字架』の時はまだ部長刑事でしたし個人的な面の強い事件でもあったので、本作こそ後につながる本当の意味での第1作と言ってもいいでしょう。それにしても、そんなシリーズ化開始作から、作者はエジンバラの影の部分、有力者たちの秘密に大鉈をふるってくれます。そして後味のかなり悪い終わり方。国内作家であれば社会派に分類してもいいようなテーマですが、リーバス警部の孤独な個性の故もあり、全体的に粘つくような暗い雰囲気が漂っています。 巻頭と各章頭に『ジーキル博士とハイド氏』からの引用を置き、さらにリーバスが同書を再読中だとか、途中でハイドという名前の人物のことが出てきたり、その上脇役登場人物名を同じにするなど、執拗なまでの関連付けをしています。しかしアイディア、プロットについては『紐と十字架』の方がスティーヴンソンとの共通点がありました。 |
No.997 | 7点 | 消しゴム アラン・ロブ=グリエ |
(2017/12/08 22:58登録) 「難解」「散文詩的」等と評されがちなロブ=グリエですが、後の『覗くひと』や『迷路のなかで』に比べると、確かに新訳だからということも多少あるでしょうが、このデビュー作は非常に読みやすく、そのことに驚かされました。複雑緻密な文章による執拗な反復の中に閉じ込められたような気がするのを覚悟していたのですが、様々な人物の視点を次々切り替えながらどんどん話が進んでいき、とりあえずは普通におもしろいのです。反復性は、捜査官ヴァラスが特別な消しゴムを買おうとすることぐらい。この程度の難解さならカフカや安部公房並みで、普通のミステリ・ファンにも一応お勧めできます。 偶然を重ねたシニカルな結末にしても、巻末解説に安部公房の『燃えつきた地図』を引き合いに出して述べられている「謎解きを宙づりにする謎解きミステリー」パターンではなく、驚くほどまともです。まあ全然解決のついていない細部はいろいろありますけれど。 |
No.996 | 5点 | 山陰殺人事件 津村秀介 |
(2017/12/03 15:36登録) ルポライター浦上伸介シリーズ第1作だそうで、確かに彼はジャーナリストとしての腕はあっても、探偵役としてはまだ不慣れでもたついた感じがします。 タイトルの山陰が話に出てくるのは6割を過ぎてからです。最初に事件が起こるのは横浜で、2件の強姦未遂に続いて強姦殺人が2件、簡潔に紹介されます。その容疑者と見られる男が鳥取で殺されることになるという展開で、さらに浦上伸介がその記事を書きたがっている岡山の暴力団事件と、強姦殺人が関連してくることになります(このことは、早い段階で読者にだけは明かされるのですが、この事前説明はない方がいいでしょう)。そのようなプロットが本作の読みどころになっています。アリバイ崩し中心のものが多い作家ですが、本作ではアリバイは添え物です。『点と線』の時代じゃないんだから、すぐわかるでしょうというレベルで、時刻表に隠された列車や飛行機の意外な使い方もありません。 |