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ミステリの祭典

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転倒
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1976年03月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 tider-tiger
(2019/02/25 23:38登録)
サラブレッドの仲介を生業とするジョウナ・ディアラムはアル中の兄と二人暮らし。曲がったことが嫌いな性分で、違法ではないが職業倫理に反すると思える申し出を断ったばかりに競り落としたばかりの馬を手放すよう強要されたり、自分の厩舎から高価な馬を脱走させられたりと酷い目に遭わされる。

1974年イギリス作品
池上冬樹氏の採点で単独最下位(☆が2個半)だった『暴走』に次いで不出来(☆3個)とされた二作品のうちの一つです。ちなみに同じく☆3個の『試走』は未読です。
本作が(フランシス作品としては)不出来とされているのは、単純にメインの事件がしょぼいからだと思います。いじめられ、やり返すという単純なプロットではありますが、カタルシスを得やすい作りではあると思います。さらに当面の敵はやり口が手ぬるいうえに頭が悪いし、黒幕の正体もフランシスの「あるある」の一つのように思えます。
ただ、骨格部分はいまいち弱くとも肉付けがいい。冒頭の競売シーンから読ませます。競売の裏事情などなかなか興味深い背景が語られます。やはり馬周辺を描いているときは描写が輝きます。 
ジョウナの厩舎から脱走した馬が原因で事故を起こしてしまったソウフィとの恋、アル中の兄貴の御世話などサイドストーリーも楽しめます。個人的にはソウフィのおばや嫌われ者の坊ちゃんアマチュア騎手なんかをもっと物語に絡めて欲しかったなと思います。
ラストがモヤモヤするところは前作の『暴走』にも通ずるものあります。こちらもいまいちうまく決まっていないように感じます。

メインプロットはまあまあまとまっているが、サブプロットが皆無に近い『暴走』とメインはしょぼいがサブがなかなか面白い『転倒』比較が難しい二作です。採点は同じく5点としますが、面白さでは『転倒』が上でしょうか。
フランシス作品はメインのプロットが格段に優れているものはあまり多くないのですが、高確率でサブのプロットが非常にうまく仕込まれています。サブプロットの良さこそが、フランシスの最大の強みなのかもしれません。

No.1 6点
(2018/05/18 23:13登録)
ディック・フランシスの邦題には疑問を感じることがかなりありますが、本作でも "Knock Down"(普通に訳せば「打倒」でしょうか)を「転倒」ねえ。しかし原題の意味もよくわかりません。まあそれでもストーリー上必要なことではありませんし、レース中でもありませんが、一応馬が転倒するシーンはあります。
最後の犯人の意外性はさほどではありませんし、伏線も今一つですが、フランシスがこのような意外性を狙い、さらにクライマックスでしばらくは「彼」という代名詞しか使わずその正体を隠す手法を使ったことに驚かされました。意外と言えば、そのシーンである重要登場人物(犯人ではない方)がどうなるかという点も、フランシスには珍しいでしょう。その後の最後の1ページがまた、こんな不安定な終わり方にするのかと面喰いました。
途中はむしろ地味な展開ながら、さすがにフランシスらしいおもしろさでしたが。

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