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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.1055 7点 ねじれた奴
ミッキー・スピレイン
(2018/10/22 20:19登録)
今までに読んだスピレインの中でも、特に話が複雑に入り組んでいて、結末の意外性もある作品です。様々な登場人物の思惑が、事件をややこしくしています。kanamoriさんの評を先に読んでいたため、真相は最初からわかっていましたが、現代では、元ネタよりも直感的に当てにくいでしょう。一人称私立探偵小説であることが、ミスディレクションにもなっています。
タイトルにも二重の意味があります。ひとつは事件そのもので、大詰めで「これほどひねくれたケースはおがんだこともないくらいだ」という文が出てきます。またラスト・シーンで犯人のセリフの中にも「ゆがみ、ねじれたもの」という表現があります。さらに最終ページのオチのつけ方が、このシリーズとしては意外で衝撃的です。
そんな異色作だからといって、アクションの方にも手抜きはなく、ハマーは市警の悪徳刑事たちを相手どって派手に活躍してくれます。


No.1054 6点 ヴィク・ストーリーズ
サラ・パレツキー
(2018/10/18 23:29登録)
1983年から1992年にかけて発表されたヴィク・シリーズの短編8編を収録した日本独自の…というか、本国ではさらに1編追加して出版される前に日本で出してしまった短編集です。長編よりも謎解き的な要素の強い作品もかなりあるのが、少々意外です。
『高目定石』はタイトルからもわかるとおり、碁を扱った話で、ヴィクと同じ建物に住んでいる日本人老夫婦が登場します。非常に珍しい題材だと思ったら、訳者あとがきによると、作者の夫君が碁をやっているそうです。『ピエトロのアンドロマケ像』は三人称形式をとっていて、長編でもお馴染みの医者ロティが働く病院の理事長マックスの視点からほぼ描かれています。ヴィクを客観的に見る作品もたまにはあっていいかなと思えました。『マルタの猫』のタイトル元は言わずと知れたあの作品。ただし本作の方は本物の生きた猫です。これは殺人かと思わせて肩透かしを食わせる犯罪のからまない話。


No.1053 5点 大東京三十五区 夭都七事件
物集高音
(2018/10/13 08:29登録)
最初のうちは昭和初期という時代設定にふさわしい古風な文体を楽しめていたのですが、同じパターンの文章が延々続くと、さすがに途中から飽きてきました。やはり自然に形成されたるスタイルにはあらずというわけで。
トリックがまた現実性のないものが多く、たとえば第1話はそんなもの本物の観音様に見えないでしょうし、第2話のタネのブラックアートは、ただ暗いのでは白いものも見えないだけであり、照明の当て方が重要なのです。バカミス系にもなっていず、設定時代の通俗変格探偵小説を思わせるトリックと言えるでしょう。
…と悪口ばかり書いていますが、それらすべてにおいてレトロな雰囲気はなかなか楽しめます。
店子の阿閉万(あとじよろず)が持ち込む奇怪な事件を解決してみせるのは、安楽椅子ならぬ縁側探偵の玄翁(げんのう)先生。ただし第3話だけは阿閉君の恩師鏑木教授が探偵役デス。


No.1052 5点 駈け出した死体
E・S・ガードナー
(2018/10/09 23:46登録)
2人そろって現れた依頼人(実際にはその1人は依頼人ではないということが後で法律的な問題を提起することになるのが、興味深い点です)の話はこのシリーズとしてはたいしたことはない感じでした。それであまり気乗りしないまま読み進んでいったのですが、タイトルどおりの出来事が起こってからは、一気におもしろくなります。なお原題で使われている言葉Runawayの直訳「逃げ出した」の方が内容に合っています。
法廷(予備審問)場面が長く、2/3にもならない時点で予審が始まってしまい、また地方検事がメイスンの言葉によれば「ハッタリをやらない」「正直者」であるのは、本作の特長です。法廷で2人の医師が死因となる毒薬について完全に食い違う意見を陳述するところが、非常に意外です。ただしその謎の解決には少々失望しました。冷静に考えてみると犯人の計画に首尾一貫性がないのも不満です。


No.1051 6点 死体置場は花ざかり
カーター・ブラウン
(2018/10/04 23:47登録)
カーター・ブラウン初読。
パイン・シティのアル・ウィーラー警部が活躍するシリーズといっても、警察小説という感じはありません。個人的な感覚では、警察小説は三人称で書かれるものです。一人称形式で、しかも最後にはウィーラー警部はハメットのあの作品を思わせる策略をめぐらし(ハメットのスケールの大きさは全くありませんが)、ラストを「レイヴァーズ保安官には、いったい、なんと報告したらいいだろう」という文で締めくくる結末にしてしまうのですから、まともな警察官ではありません。
また作品紹介には「ミッキー・スピレインの再来といわれる」なんて書いてありますが、本作のコミカルなノリに比べればマイク・ハマーはずいぶんヘヴィで真面目(特に女性に対する態度が)です。こっちはまさに「軽」ハードボイルド。
それでもkanamoriさんご指摘のとおり意外に謎解き要素はありますし、この気楽さもなかなか楽しめました。


No.1050 6点 影の肖像
北川歩実
(2018/09/30 23:06登録)
性別さえ明かしていない覆面作家が今回選んだテーマはクローン。作中の『クローン人間が生まれた日』という小説が、ある意味殺人事件を引き起こす元になっていると言っていいでしょう。どんな意味でかを書くのはネタばらし気味になるので、やめておきますが。それに白血病治療のための骨髄移植を絡めた話です。
少しずつ修正しながら過去の秘密を明かしていく手順は、ただもったいぶって手の内を小出しにしているだけに思えて、あまり印象はよくないのですが、終盤になってその秘密の大部分が明らかにされてきてからは、なかなかサスペンスフルな展開になります。最終的な過去の真相は、クローンなど持ち出さなくてもよい説得力のあるものになっていますが、伏線があったわけではありません。またどんでん返しは意外なのはいいのですが、最後の展開が少々無理やりな感じがしました。


No.1049 5点 嫉妬
ボアロー&ナルスジャック
(2018/09/28 23:13登録)
1970年発表作で、訳者あとがきによれば、フランスでは「ボアロー、ナルスジャックの近来にない傑作」と絶賛されたそうですが、それほどの出来とも思えませんでした。まあ長編では直前の4冊は読んでいないので、比較はできないのですが。
なにより、本作の文章があまり好きになれないというのがあって、これは一人称を通常「ぼく」としているのに時たま意味なく「私」になったりする翻訳のせいも当然あるでしょう。この一人称の不統一には、まさか叙述トリックではないだろうし(フランス語にはそんな区別表現はないはずですから)とまで思ってしまいました。異常なまでの嫉妬深さから殺人を犯す主役セルジュの思い込みぶりにも、最初のうちかなりうんざりでした。
それでも、殺人の後に起こった皮肉な状況には、感心させられます。最終ページで明かされるある人物の行動の動機もなかなか意外でした。


No.1048 6点 薔薇の輪
クリスチアナ・ブランド
(2018/09/14 23:50登録)
チャッキー警部が前回登場した『猫とねずみ』はゴシック・サスペンス系だったようですが、その27年後に書かれた本作も、ブランドお得意の緻密かつ大胆なフーダニットとは違った味があります。容疑者の数はごく限られているというか、事件が起こる前から4人が共犯で何か企んでいることはわかりきっています。中心の謎はスウィートハートがどうなったのかということ、それにシカゴのギャング2人の死亡事件がどう関係しているのかということです。2/3を過ぎたあたりで、チャッキー警部が語る仮説は、読者も既に思い付いていることだろうことくらい、作者も当然承知の上で、だからその仮説では説明のつかない記述をその少し前から散りばめています。ただ、その仮説と真相との距離感が、この作者にしてはどうも弱いのです。
E-BANKERさんも書かれているように、ギャングの描き方がパロディーっぽいのも気になりました。


No.1047 6点 リンゴォ・キッドの休日
矢作俊彦
(2018/09/10 23:08登録)
あまり刑事らしく見えないらしい二村刑事の一人称形式で書かれた作品2編を収録していますが、どちらも彼の休暇日1日だけで済んでしまう事件です。したがって基本的には単独捜査で、なるほど、警察官が主役でありながら、警察小説ではなくハードボイルドにする、こんな手法があったかと感心させられました。文体や雰囲気はまさにハードボイルド、と言うかいかにもという感じの警句や比喩表現が過剰なまでに使われていて、疲れてしまうほどです。
表題作は200ページぐらいですから、短い長編と言っていいでしょう。真相は明かされてみるとごく単純なのですが、脇筋をごちゃごちゃと入れてわかりにくくなっているところ、tider-tigerさんが『真夜中へもう一歩』評で書かれているように、プロットの組み立て方も初期チャンドラーっぽいですね。約150ページの『陽のあたる大通り』の方がすっきりできています。


No.1046 6点 焼殺魔―フロリダの悲劇―
ジョン・ラッツ
(2018/09/05 23:18登録)
私立探偵史上最も臆病な探偵と評されたアロー・ナジャー・シリーズの作者が新たに創造した私立探偵フレッド・カーヴァーは、身体障害者です。マイクル・コリンズのダン・フォーチュンは片腕でしたが、カーヴァーは警察官だった頃左脚を撃たれて使えなくなり、杖をついているのです。しかし走ることこそできなくても、ナジャーと違い激しいアクションにも怯むことはありません。
連続焼殺事件の容疑者は早い段階で浮かんできます。ただ手作り火炎放射器を使う殺人手口は、精神分裂病(統合失調症)の若い容疑者には合いそうもないという点は最初から明らかです。で、予想どおりというか予想よりも遅くなって、事件の様相ががらりと変わるや否やクライマックスのアクションとなります。
エドウィナ(現恋人)とローラ(前妻)、デソトとマクレガー(どちらも警部補)といった人物対比も、うまく考えられた作品でした。


No.1045 6点 時のかたみ
ジューン・トムスン
(2018/09/01 10:07登録)
ホームズのパスティーシュのみが知られている作家のようで、本サイトだけでなくAmazonでも、現在レビューがあるのは贋作ホームズだけです。さらに20冊ほどの長編のうち邦訳があるのは2冊のみ。
では、長編には見るべきものがないのかと言うと、そうでもありません。確かにマニアを喜ばせるようなトリックや論理はありませんし、サスペンスに富んでいるわけでもありません。実際のところ、メインの二つの「病死」が起こった時点で、隠された秘密の予測は簡単についてしまいました。平凡なアイディアなので、何かひねりを加えてくるのかと疑ったのですが、そんなこともなく、ただ法律の規程に基づいた動機がわからなかっただけでした。それにもかかわらず、小説としては読んでいて気持ちのいい作品で、結末もかなり満足できるものになっているのです。特に最初に出て来るお婆さんがいい味を出していました。


No.1044 4点 京都貴船川殺人事件
山村美紗
(2018/08/29 00:03登録)
京都を舞台にした狩矢警部もの3編の中編集。
そのうち最初の表題作が、謎解きとしては最もよくできています。タイトル通り川辺で起きた殺人事件で、容疑者を何人か並べておいて、意外な犯人を指摘してくれます。ただ80ページほどの間に3人も殺され、その1つを密室殺人にしているのは、欲張りすぎでしょう。密室も筆を急がせすぎて不可能性が伝わって来ず、またトリック自体どうということもありません。殺人相互の関係性に謎の焦点を絞った方がよかったと思えます。
『京都保津川殺人事件』は殺人の動機が中心で、それにちょっとしたアリバイトリックを加味しています。しかしあまり印象に残らない作品。『京都鴨川殺人事件』は幼女誘拐殺人が2件続けて起こるミッシング・リンク・テーマの作品ですが、真相は平凡でした。
しかしプロットの出来より小説として薄味すぎ、最低限の登場人物像も描かれていないのが一番の不満でした。


No.1043 7点 警官殺し
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー
(2018/08/24 23:24登録)
タイトルに偽りありの作品です…少なくとも一応は。
シリーズ第9作、というより最後から2番目の本作では、以前の作品が回顧されています。第1作の殺人犯が再度登場し、田舎で起こった殺人と思われる女性失踪事件の容疑者になるというストーリーですが、もちろん今回も彼が犯人でしたで終わるはずはありません。田舎の警察官オーライがいい味を出しています。さらに第2作の犯人も誠実な新聞記者として再登場します。
この再登場者以外のジャーナリストは、おおむね批判的に描かれていますが、それ以上に否定的に描かれているのが、マルティン・ベック等の上司マルムです。あきれるような間抜けぶりで、豪放なラーソンは面と向かって上司を罵倒しています。上述事件が、途中から並行して描かれるストックホルムでの泥棒と警官3人との銃撃戦事件(その最中に警官1人が事故死)とつながってくるところがうまくできていました。


No.1042 6点 ルウィンターの亡命
ロバート・リテル
(2018/08/20 00:02登録)
作者のデビュー作にして、1973年のゴールド・ダガー賞を受賞したスパイ小説。
新聞書評などでチェスの試合にも例えられた本作は、章見出しが「Ⅰ 序盤戦」から「Ⅵ 捨て駒」までチェスの用語になっていて、ソ連人のチェス・プレイヤーも登場します。このプロ棋士、それに登場時には話に華を添えるぐらいに思えた二人の女性も、終盤近くなってから全体構成に不可欠な役割を演じることになってきます。そのように様々な要素が絡み合ってくるところは、計算しつくされた構築美を感じさせことは確かなのですが、個人的にはむしろご都合主義にも思えてしまいました。
結局ソ連への亡命者ルウィンターのある特技が本物なのかどうか、最後まで立証されず、亡命理由もまたアメリカ側の推測だけに留まる点、また最後の「事故」後の両大国の対応が明確に描かれていない点など、あいまいさが残るのも不満でした。


No.1041 7点 黒地の絵
松本清張
(2018/07/28 10:19登録)
同じタイトルの短編集は光文社からも出ていますが、それは新潮文庫版とは、表題作以外は全く異なっています。で、この評は新潮文庫版の方に対するものです。
暗く異様な感じの表題作は、今回再読してみると、現代では表現にもテーマにもかなり問題がありそうですが、迫力のある作品であることは間違いありません。
これも評判のいい中編『真贋の森』は唐突なオチが気になる人もいるかとは思いますが、やはり傑作。この作品を、或る日本美術史教授が絶賛していたとことが記憶に残っています。ちなみに「竹田」という画家のことがちょっと出てきますが、美術に詳しくない人は「たけだ」と読みそうです。これは江戸時代後期の田能村竹田のこと。
ALFAさんも好きだという『拐帯行』もいいですが、偶然が過ぎるとも思えます。雑誌か何かで紹介されたルートだという説明でもあれば、納得できるのですが。


No.1040 7点 目撃者失踪
ジョー・ゴアズ
(2018/07/13 23:47登録)
DKAシリーズ第3作は、やはりダン・カーニー探偵事務所の探偵たちが共同で活躍することは確かですが、今回はそれぞれが個別に自分の分担部分を追っていくのを並行して描いていて、チームワークという感じはあまりせず、それだけハードボイルドっぽい感じになっています。
原題 "Gone, No Forwarding" は「転居先不明」とでも訳せるでしょう。邦題の「失踪」は意図的なものですから意味が違います。ローン未払金の集金について証人になりそうな4人の元DKA所員の行方を突き止めていくストーリーです。3人は巻半ばまでで見つかるのですが、最も重要な証人である最後の1人の行方がなかなかわからず、やきもきさせます。
途中のサスペンス、クライマックスと、これまで読んだシリーズ中では最もおもしろいと思いました。


No.1039 6点 21のアルレー
カトリーヌ・アルレー
(2018/07/10 00:08登録)
邦題どおり21の短編を集めたもので、長さもジャンルも様々です。
SF、ファンタジー系もいくつかありますし、2編はミステリやSFとは全く縁のない話です。というか最後の『理想の相手』はただ理想の結婚観を40歳の女が語るだけのもの、もう1編の非ミステリ『雌鶏と死』は実話だそうですが、ほのぼのした話で、意外に気に入りました。最も長いのはこれも実話の『地獄へのツアー』という50ページほどの無謀な砂漠横断の旅が悲惨な結果を迎える作品で、生存者の証言と捜索結果からの推測を基にしているのでしょうか。やはり実話の『片腕の男』は、その人物がそんな間抜けなことをするなんて、ほんまかいなと思えました。『樅の木 エドガー・ポーに捧ぐ』は、死後の世界の描写から始まりますが、あの作品が元ネタですか、どうもねえという感じです。
『人情の問題』『阿呆は誰だ?』あたりの奇妙な味わいが特にいいと思いました。


No.1038 6点 いかさま
矢月秀作
(2018/07/03 21:46登録)
大阪で藤堂よろず相談所をやっている藤堂廉治が活躍する4編のバイオレンス・アクション連作です。廉治はやたら喧嘩の強い直情的な男で、相棒と言うか部下の江尻三吾と依頼人との会話で、「豪快な方ですね」「ただの調子のええオッチャンですわ」と言われる難波ヒーローです。3編では東京にも行くのですが、大阪弁まる出し。その東京の方にいるのが三吾のメル友であり、廉治が「わしより無茶やりよるで」と驚くような暴力派元女刑事の中島満留。
最初の『猥褻ファイル』の話はあまりにストレート、最後の『錆びついた糸』は廉治の過去と絡めて大仰なメロドラマを展開して集中最長ですが、これも筋書きはごく単純です。中間2編はひねりを加えていて、『ダブルフェイク』では第1章の後依頼があった時点で、これは意外性狙いかなとわかります。『オヤジ狩り』はクライマックスになる経緯にちょっと無理があるかな。


No.1037 8点 ポンド氏の逆説
G・K・チェスタトン
(2018/06/29 23:25登録)
昨年出た新訳で再読。今回タイトルが変更された短編もいくつかあります。またポンド氏の相方の大尉の名前がガーガンからガヘガンに変わっているので、綴りを確認したところ、Gahagan。むしろガヘイガン(「ヘイ」にアクセントを置く)なのかもしれません。
ポンド氏が何気なく発言する逆説に納得のいく説明をしてみせる形式といえば、最初の『黙示録の三人の騎者』は正にそのとおりですが、すべての作品が必ずしもそうとは限りません。赤い鉛筆のようなものなんて、ずいぶんなこじつけですし、影が最も人を誤らせる時は、のセリフは、事件の語り手の牧師が影を見たと述べた時のポンド氏のコメントです。『ガヘガン大尉の罪』に至っては、特に逆説は出てきません、
まあ、一般的にミステリの意外性そのものが、逆説的な論理の上に成り立っているとも言えるでしょう。要はアイディアとその語り方の質の問題なわけで、その点さすがチェスタトンです。


No.1036 6点 なげやりな人魚
E・S・ガードナー
(2018/06/25 23:22登録)
文庫化時に『あわてた人魚』に改題された作品で、読んだのは文庫版の方です。最後にデラが事件をファイルにする時に、おもしろい題名を思いついたと言うのですが、”negligent” ですから本来は「なげやりな」の方です。まあ被告人が無頓着だったから洗濯屋のマークを付けっ放しにしていたと考えても、あわてていたからそのバスタオルを置きっ放しにしたと考えてもよさそうです。
依頼人登場から始まるのではなく、最初からアクション・シーンが出て来て、メイスンがそれに巻き込まれるという発端です。その盗難事件をメイスンがうまく法廷で処理した後、盗難被害を届け出ていた富豪が殺される事件が起こる展開です。被告人の嘘によって、メイスンが法廷で苦境に立たされるところ、メイスンの内面に踏み込んで描かれるのは珍しいと思います。最後バタバタと新事実が明らかになるところはご都合主義な気もしますが、とりあえずこの点数。

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