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ミステリの祭典

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鉄の枷

作家 ミネット・ウォルターズ
出版日1996年11月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 7点 ROM大臣
(2021/09/01 13:58登録)
中世の拷問器具を身に着けて変死をしていた老女の謎をめぐる物語。死者のかかりつけの女医と、その夫の画家、捜査に当たる部長刑事の三人が、各々の立場から事件に関わっていく。そうした現在の物語の合間に挿入されるのが、老女の書いていた日記だ。過去へとひたすら遡行するその記述は、現在とも密接に絡み合いながら死者の肖像を鮮やかに描き出し、読者が最初に抱いていた「偏屈で陰険なだけの老女」という印象を突き崩す。
しかも一方でこの作品には、未来に通じる明るい視線も存在する。医師と画家と刑事のやり取りは愉快なものだし、彼女たちが老女の孫娘と関わり、不器用ながらも少女のために骨を折る姿などには心温まるものがある。そんな向日性が、陰鬱になりかねない作品に和らぎをもたらし、沈痛な最終ページを経てもなお、快い読後感を与えてくれるのだ。

No.5 5点 ボナンザ
(2019/11/23 11:55登録)
相変わらず濃密な田舎の人間関係をしっかり描いた作品。次から次への暴かれていくどこまでも人間臭い醜悪さは見事。

No.4 7点
(2018/11/26 23:53登録)
Nukkamさんや蟷螂の斧さんも書かれているとおり、謎解きミステリ要素はあるものの、作者の狙いはそれとは全く別のところにあると感じました。田舎の裕福な一族の陰惨な女家系図と、一応主役の女医およびその画家である夫の夫婦関係を描いた小説として読めば、非常に読み応えのある作品です。犯人が指摘されてから後も、かなりのページ数が残っていて、実はかなり早い段階で真相の予測はついていたのですが、ひょっとしてダミー解決ではないかとさえ思ってしまったほどです。
最初のうちは、実に人情味のある部長刑事を除けば、登場人物の誰にも好感が持てず、不愉快になりながらも読み進んでいったのですが、いつの間にか彼等の考え方、態度が納得できるように思えてくるのは、この作者の手腕でしょう。
なお、被害者の顔にかぶせられていた鉄の枷は、作中では原題のスコウルズ・ブライドルと表記されています。

No.3 7点 蟷螂の斧
(2016/02/17 09:01登録)
裏表紙より~『資産家の老婦人、マチルダ・ギレスピーは、血で濁った浴槽に横たわって死んでいた。睡眠薬を服用した上で手首を切るというのは、よくある自殺の手段である。だが、現場の異様な光景がその解釈に疑問を投げかけていた。野菊や刺草で飾られた禍々しい中世の鉄の拘束具が、死者の頭に被せられていたのだ。これは何を意味するのだろうか?』~

デビュー作「氷の家」でCWA新人賞、第二作「女彫刻家」はMWA最優秀長編賞、第三作「本作」ではCWAゴールドダガ―賞受賞との経歴の持ち主です。さすが、重厚でうまいとの印象です。ミステリーの部分では、自殺?他殺?の謎、鉄の枷の謎、不可思議な相続の内容などで引っ張て行きます。一方の軸で、登場人物の側面、裏面を徐々に明らかにしてゆく手法で描いています。ミステリー部分より、こちらの方(被害者、その娘、孫の人格形成)が本流のように感じました。なお、シェークスピアの作品が登場しますが、内容を知らない私にも判り易いように説明されており好感が持てました。全体的には、クリスティ氏の手法を用い、背景を非常に重くしたような作品とのイメージですね。

No.2 6点 nukkam
(2015/08/08 12:15登録)
(ネタバレなしです) 1994年に発表されたミステリー第3作の本書でMWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得し、これでウォルターズはわずか3作目にして英米両国のミステリー最高峰を制覇したことになるわけです。なかなか魅力的な謎をはらんだ事件で物語の幕が上がるし、第16章や第18章での推理場面などは間違いなく本格派推理小説ならではの展開ですが、登場人物たちの人物像が物語の進行とともに変化したり新たに気づかされたりする作者の小説テクニックが印象的でした。そういう点では謎解きよりも物語性重視の作品と言えるかも知れません。雰囲気は重苦しいし物語のテンポもゆったり目ですが、それほど読みづらさを感じないのも作者の実力の高さの証しだと思います。

No.1 7点 あびびび
(2011/11/08 16:50登録)
その女性は鉄の口枷をはめられて殺されていた…。しかも財産は娘、孫には行かず、かかりつけの女医に全額与えらるれるという…。

本格ミステリの香り漂う逸品。「女彫刻家」よりこちらの方が読みやすく、楽しめた。英国伝統のミステリと言えるのではないか。

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