home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1065 5点 天使の葬列
三好徹
(2018/12/07 23:13登録)
このシリーズを読むのは初めてですが、1969年に桃源社から出版された本作は、天使シリーズでも初期に属する6編を収録しています。大手新聞社の横浜支支局の記者である「私」には、コンチネンタル・オプの例に倣って名前がありません。しかし、ハードボイルドっぽい雰囲気はあっても、ハメットのドライさとは違い、どの作品も思いっきり情感的です。またこの新聞記者は一応正義漢ではあるのですが、一方ずいぶんだらしないところもあります。
最初の表題作では最初から殺人事件が起こり、犯人は誰でなぜ殺したのかという話ですが、次の『幻の天使』では交通事故で死んだ若い女にまつわる秘密、第3話『天使の唄』では歌手の自殺の理由、といった謎が解き明かされることになり、必ずしも犯罪がらみというわけではありません。全体的にあっさりしすぎている感じがしますが、競馬好きにはとんでもない出来事の『天使の賭け』が一番楽しめました。


No.1064 4点 埋められた時計
E・S・ガードナー
(2018/12/03 00:03登録)
最初の3章はメイスンが登場せず、さらに途中第14章もメイスンの視点から書かれていない作品です。まあ、ストーリー上からはその方がわかりやすいとは言えるのですが、なんだか中途半端な感じがします。その4つの章は、太平洋戦争で負傷して復員してきた青年の視点から描かれているのですが、彼のその経歴が特に意味を持ってくるわけでもなく、作中での役割があやふやなのです。
冒頭から登場する、ブリキ容器に入れて埋められた目覚まし時計の意味が最大の謎になっていて、メイスンもずいぶん悩むのですが、最後に明かされてみるとなんだかねえという感じでした。時計をあらかじめ埋めておく必要もないように思えますし、実際にはどうやったらそれがうまくいくのか不明です。拳銃と薬物に関する部分は、複雑にしすぎていますし、第14~15章の医師の行動もほとんど無意味としか思えず、不満点の多い作品でした。


No.1063 7点 鉄の枷
ミネット・ウォルターズ
(2018/11/26 23:53登録)
Nukkamさんや蟷螂の斧さんも書かれているとおり、謎解きミステリ要素はあるものの、作者の狙いはそれとは全く別のところにあると感じました。田舎の裕福な一族の陰惨な女家系図と、一応主役の女医およびその画家である夫の夫婦関係を描いた小説として読めば、非常に読み応えのある作品です。犯人が指摘されてから後も、かなりのページ数が残っていて、実はかなり早い段階で真相の予測はついていたのですが、ひょっとしてダミー解決ではないかとさえ思ってしまったほどです。
最初のうちは、実に人情味のある部長刑事を除けば、登場人物の誰にも好感が持てず、不愉快になりながらも読み進んでいったのですが、いつの間にか彼等の考え方、態度が納得できるように思えてくるのは、この作者の手腕でしょう。
なお、被害者の顔にかぶせられていた鉄の枷は、作中では原題のスコウルズ・ブライドルと表記されています。


No.1062 7点 能登・金沢30秒の逆転
深谷忠記
(2018/11/22 19:19登録)
カバー(カッパ・ノベルズ版)の鮎川哲也による推薦文で「北陸一帯の描写は克明をきわめ、読者のみは書斎にありながら、現地に身をおいているような錯覚を生じる」と書かれていますが、それは荘&美緒シリーズでは毎度のことで、個人的にはトラベル・ミステリらしい作品を読みたいならまずこの作者と思っています。
一方作者自身は「二作ほどトリッキィーな小説から離れていたら、無性にアリバイ崩しが書きたくなった」と言っているだけあって、トリックの発想はなかなかのものです。実際の地方を舞台にしたトラベル・ミステリだからこそのアイディアとも言えますし、逆にその「らしさ」が盲点になっているとも言えます。特に難しいわけではないのに気づかなかったなあ。
フーダニットの要素も入れ、半ばで意外な容疑者が浮上する構成にもなっていて、楽しめました。


No.1061 6点 真紅の輪
エドガー・ウォーレス
(2018/11/18 22:41登録)
『キングコング』の脚本でも知られるだけに、通俗スリラーの多作家ウォーレスはSFも書いていたそうで、だったら巻末解説に当時としては革新的だと書かれていた、イエール探偵がサイコメトリー能力者だという設定も、それほど意外でもないでしょう。問題なのはその設定がどのように使われるかということで、その能力で犯人を突き止めたというだけでは、話になりません。事件解決段階になって明らかにされるその意味は、説得力があります。説明の仕方にあいまいなところがあるのは残念ですが。
乱歩の通俗長編に似ているとの評もあるようで、確かに全体的なストーリー展開はそうなのですが、乱歩のような大げさな表現や演出は押さえられ、文学性はなくても理知的な感じです。
クリムゾン・サークル首謀者の見当は早い段階でついたのですが、その真相解明後に明かされるある秘密にはかなり驚かされました。


No.1060 5点 つながれた山羊
ジェレマイア・ヒーリイ
(2018/11/13 23:26登録)
ボストンの私立探偵ジョン・カディのシリーズ第2作。シェイマス賞を受賞していますが、個人的にはむしろ前作の方が好みでした。私立探偵小説としては珍しい試みを入れようとしたのが、かえって少々統一性を欠く結果になったように思えるからです。テーマも理解はできるのですが、不明瞭さが残るように感じました。
ベトナム戦争時代のカディの戦友だった男が殺された事件がメインですが、それに放火犯逮捕に続く事件が並行して描かれる構成になっています。2つの事件に直接の繋がりはないのですが、小説のテーマ的にはカディが反省的に比較していますし、特にラストで結びつくことになります。しかし、犯人の正体にカディが気づいた後、彼のやっていることは複雑過ぎるように思えます。
タイトルについては、途中カディのベトナム戦争回想の中で、虎狩のための囮の山羊が出てきて、さらに後半でそれが比喩的に語られます。


No.1059 6点 幽霊男
横溝正史
(2018/11/09 23:25登録)
最後の金田一耕助による謎解き部分を除くと、ほとんど乱歩の『蜘蛛男』系通俗猟奇サスペンスといった感じの作品です。それをかなり論理的に辻褄合わせしてくれるところが、最も意外だったかな…ただ、りゅうさんが<若干のネタバレ>として書かれている部分も、最後の推理の中で言及してくれると、もっと説得力を増したのだがと思えます。作者自身、伏線とするつもりだったのをうっかり忘れていたのでしょうか。
謎解き的には、クイーンの某過渡期作品とも共通する犯人隠匿のアイディア、第2の殺人における犯人が仕掛けたトリックがメインになり、さらに後者における偶然の出来事が重要な手がかりにもなっています。
途中マダムXが登場する活劇部分やストリップ劇場での殺人演出など、ご都合主義も目立ちますが、あまり知られていない正史作品中では佳作と言えます。


No.1058 7点 灰色の女
A・M・ウィリアムスン
(2018/11/04 17:06登録)
涙香の『幽霊塔』の原作。ちなみに乱歩版は未読ですが、乱歩は原作不明で直接参照できなかったわけですから、この評も逆に乱歩版は参照せずということで。
この原作を読んでみて、涙香の翻案が乱歩の『緑衣の鬼』みたいなのではなく、原作に非常に忠実であったことには驚かされました。文章こそ涙香独自のものですし、ところどころ改変はありますが、重要な会話の内容に至るまで、意味はそのままを伝えている部分が多いのです。ちなみに、涙香版で虎井夫人の飼っている狐猿とは、マングースでした。小森健太朗氏の巻末解説で特に興味深かったのが、原作判明のきっかけが本作を原作とする映画であったということです。
現代日本語訳で読むと、蜘蛛農園のシーンは、涙香版の養蟲園の方が得体のしれない気持ち悪さがありますし、読みやすい文章であるためかえって偶然の多用が目立ってしまいますが、波乱に富んだストーリーはやはりおもしろかったです。


No.1057 5点 ハワード・ヒューズ事件
スチュアート・カミンスキー
(2018/10/31 20:12登録)
20世紀半ばのハリウッドを舞台にして実在の俳優なども登場するトビー・ピーターズ・シリーズの第4作はタイトルからして、ホークス監督の『暗黒街の顔役』など映画製作にも携わった大実業家の名前で、彼が事件の依頼者です。
真珠湾攻撃の直前という設定で、事件はスパイもの的な要素を含んでいます。今回トビーを助ける有名人は、ベイジル・ラスボーン、この人の名前は知らなかったのですが、ホームズ役が有名な俳優で、ホームズっぽい推理(それもかなり的を射た)を披露して楽しませてくれます。
事件のクライマックスを冒頭に置いた後、過去に遡る構成ですが、殺人犯を待ち伏せていて、足裏がかゆくなってきたため、靴だけでなく靴下まで脱いでいて、不意を突かれるという間抜けぶりは、さすがにばかばかしくなります。また最後に明かされる歯科診療室殺人の真相は、拍子抜けでした。


No.1056 6点 賢者はベンチで思索する
近藤史恵
(2018/10/27 10:08登録)
3編の連作中編集というべきでしょうし、明らかに別作品だからこその重複表現も見られますが、目次では第一章~第三章となっています。
服飾関係の専門学校を卒業後近くのファミレスでアルバイトをしている久里子と、そのファミレスの常連である国枝老人の物語で、もちろん国枝老人が一応は名探偵役約。一応と言うのは、第三章を読み始めてすぐ、これは高木彬光も長編でひねって使っていた海外古典本格派短編シリーズの発想を下敷きにしているなと思ったからです。こちらも、その古典のアイディアをそのまま使うはずはありません。
ただし、謎解き的要素はたいしたことはありません。第二章ではハウダニット要素もありますが、ホワイダニット中心で、犬殺し、食品への異物混入、営利目的と思えない誘拐が扱われています。久里子の家族生活や恋など、ほのぼのした感じが心地よい作品でした。


No.1055 7点 ねじれた奴
ミッキー・スピレイン
(2018/10/22 20:19登録)
今までに読んだスピレインの中でも、特に話が複雑に入り組んでいて、結末の意外性もある作品です。様々な登場人物の思惑が、事件をややこしくしています。kanamoriさんの評を先に読んでいたため、真相は最初からわかっていましたが、現代では、元ネタよりも直感的に当てにくいでしょう。一人称私立探偵小説であることが、ミスディレクションにもなっています。
タイトルにも二重の意味があります。ひとつは事件そのもので、大詰めで「これほどひねくれたケースはおがんだこともないくらいだ」という文が出てきます。またラスト・シーンで犯人のセリフの中にも「ゆがみ、ねじれたもの」という表現があります。さらに最終ページのオチのつけ方が、このシリーズとしては意外で衝撃的です。
そんな異色作だからといって、アクションの方にも手抜きはなく、ハマーは市警の悪徳刑事たちを相手どって派手に活躍してくれます。


No.1054 6点 ヴィク・ストーリーズ
サラ・パレツキー
(2018/10/18 23:29登録)
1983年から1992年にかけて発表されたヴィク・シリーズの短編8編を収録した日本独自の…というか、本国ではさらに1編追加して出版される前に日本で出してしまった短編集です。長編よりも謎解き的な要素の強い作品もかなりあるのが、少々意外です。
『高目定石』はタイトルからもわかるとおり、碁を扱った話で、ヴィクと同じ建物に住んでいる日本人老夫婦が登場します。非常に珍しい題材だと思ったら、訳者あとがきによると、作者の夫君が碁をやっているそうです。『ピエトロのアンドロマケ像』は三人称形式をとっていて、長編でもお馴染みの医者ロティが働く病院の理事長マックスの視点からほぼ描かれています。ヴィクを客観的に見る作品もたまにはあっていいかなと思えました。『マルタの猫』のタイトル元は言わずと知れたあの作品。ただし本作の方は本物の生きた猫です。これは殺人かと思わせて肩透かしを食わせる犯罪のからまない話。


No.1053 5点 大東京三十五区 夭都七事件
物集高音
(2018/10/13 08:29登録)
最初のうちは昭和初期という時代設定にふさわしい古風な文体を楽しめていたのですが、同じパターンの文章が延々続くと、さすがに途中から飽きてきました。やはり自然に形成されたるスタイルにはあらずというわけで。
トリックがまた現実性のないものが多く、たとえば第1話はそんなもの本物の観音様に見えないでしょうし、第2話のタネのブラックアートは、ただ暗いのでは白いものも見えないだけであり、照明の当て方が重要なのです。バカミス系にもなっていず、設定時代の通俗変格探偵小説を思わせるトリックと言えるでしょう。
…と悪口ばかり書いていますが、それらすべてにおいてレトロな雰囲気はなかなか楽しめます。
店子の阿閉万(あとじよろず)が持ち込む奇怪な事件を解決してみせるのは、安楽椅子ならぬ縁側探偵の玄翁(げんのう)先生。ただし第3話だけは阿閉君の恩師鏑木教授が探偵役デス。


No.1052 5点 駈け出した死体
E・S・ガードナー
(2018/10/09 23:46登録)
2人そろって現れた依頼人(実際にはその1人は依頼人ではないということが後で法律的な問題を提起することになるのが、興味深い点です)の話はこのシリーズとしてはたいしたことはない感じでした。それであまり気乗りしないまま読み進んでいったのですが、タイトルどおりの出来事が起こってからは、一気におもしろくなります。なお原題で使われている言葉Runawayの直訳「逃げ出した」の方が内容に合っています。
法廷(予備審問)場面が長く、2/3にもならない時点で予審が始まってしまい、また地方検事がメイスンの言葉によれば「ハッタリをやらない」「正直者」であるのは、本作の特長です。法廷で2人の医師が死因となる毒薬について完全に食い違う意見を陳述するところが、非常に意外です。ただしその謎の解決には少々失望しました。冷静に考えてみると犯人の計画に首尾一貫性がないのも不満です。


No.1051 6点 死体置場は花ざかり
カーター・ブラウン
(2018/10/04 23:47登録)
カーター・ブラウン初読。
パイン・シティのアル・ウィーラー警部が活躍するシリーズといっても、警察小説という感じはありません。個人的な感覚では、警察小説は三人称で書かれるものです。一人称形式で、しかも最後にはウィーラー警部はハメットのあの作品を思わせる策略をめぐらし(ハメットのスケールの大きさは全くありませんが)、ラストを「レイヴァーズ保安官には、いったい、なんと報告したらいいだろう」という文で締めくくる結末にしてしまうのですから、まともな警察官ではありません。
また作品紹介には「ミッキー・スピレインの再来といわれる」なんて書いてありますが、本作のコミカルなノリに比べればマイク・ハマーはずいぶんヘヴィで真面目(特に女性に対する態度が)です。こっちはまさに「軽」ハードボイルド。
それでもkanamoriさんご指摘のとおり意外に謎解き要素はありますし、この気楽さもなかなか楽しめました。


No.1050 6点 影の肖像
北川歩実
(2018/09/30 23:06登録)
性別さえ明かしていない覆面作家が今回選んだテーマはクローン。作中の『クローン人間が生まれた日』という小説が、ある意味殺人事件を引き起こす元になっていると言っていいでしょう。どんな意味でかを書くのはネタばらし気味になるので、やめておきますが。それに白血病治療のための骨髄移植を絡めた話です。
少しずつ修正しながら過去の秘密を明かしていく手順は、ただもったいぶって手の内を小出しにしているだけに思えて、あまり印象はよくないのですが、終盤になってその秘密の大部分が明らかにされてきてからは、なかなかサスペンスフルな展開になります。最終的な過去の真相は、クローンなど持ち出さなくてもよい説得力のあるものになっていますが、伏線があったわけではありません。またどんでん返しは意外なのはいいのですが、最後の展開が少々無理やりな感じがしました。


No.1049 5点 嫉妬
ボアロー&ナルスジャック
(2018/09/28 23:13登録)
1970年発表作で、訳者あとがきによれば、フランスでは「ボアロー、ナルスジャックの近来にない傑作」と絶賛されたそうですが、それほどの出来とも思えませんでした。まあ長編では直前の4冊は読んでいないので、比較はできないのですが。
なにより、本作の文章があまり好きになれないというのがあって、これは一人称を通常「ぼく」としているのに時たま意味なく「私」になったりする翻訳のせいも当然あるでしょう。この一人称の不統一には、まさか叙述トリックではないだろうし(フランス語にはそんな区別表現はないはずですから)とまで思ってしまいました。異常なまでの嫉妬深さから殺人を犯す主役セルジュの思い込みぶりにも、最初のうちかなりうんざりでした。
それでも、殺人の後に起こった皮肉な状況には、感心させられます。最終ページで明かされるある人物の行動の動機もなかなか意外でした。


No.1048 6点 薔薇の輪
クリスチアナ・ブランド
(2018/09/14 23:50登録)
チャッキー警部が前回登場した『猫とねずみ』はゴシック・サスペンス系だったようですが、その27年後に書かれた本作も、ブランドお得意の緻密かつ大胆なフーダニットとは違った味があります。容疑者の数はごく限られているというか、事件が起こる前から4人が共犯で何か企んでいることはわかりきっています。中心の謎はスウィートハートがどうなったのかということ、それにシカゴのギャング2人の死亡事件がどう関係しているのかということです。2/3を過ぎたあたりで、チャッキー警部が語る仮説は、読者も既に思い付いていることだろうことくらい、作者も当然承知の上で、だからその仮説では説明のつかない記述をその少し前から散りばめています。ただ、その仮説と真相との距離感が、この作者にしてはどうも弱いのです。
E-BANKERさんも書かれているように、ギャングの描き方がパロディーっぽいのも気になりました。


No.1047 6点 リンゴォ・キッドの休日
矢作俊彦
(2018/09/10 23:08登録)
あまり刑事らしく見えないらしい二村刑事の一人称形式で書かれた作品2編を収録していますが、どちらも彼の休暇日1日だけで済んでしまう事件です。したがって基本的には単独捜査で、なるほど、警察官が主役でありながら、警察小説ではなくハードボイルドにする、こんな手法があったかと感心させられました。文体や雰囲気はまさにハードボイルド、と言うかいかにもという感じの警句や比喩表現が過剰なまでに使われていて、疲れてしまうほどです。
表題作は200ページぐらいですから、短い長編と言っていいでしょう。真相は明かされてみるとごく単純なのですが、脇筋をごちゃごちゃと入れてわかりにくくなっているところ、tider-tigerさんが『真夜中へもう一歩』評で書かれているように、プロットの組み立て方も初期チャンドラーっぽいですね。約150ページの『陽のあたる大通り』の方がすっきりできています。


No.1046 6点 焼殺魔―フロリダの悲劇―
ジョン・ラッツ
(2018/09/05 23:18登録)
私立探偵史上最も臆病な探偵と評されたアロー・ナジャー・シリーズの作者が新たに創造した私立探偵フレッド・カーヴァーは、身体障害者です。マイクル・コリンズのダン・フォーチュンは片腕でしたが、カーヴァーは警察官だった頃左脚を撃たれて使えなくなり、杖をついているのです。しかし走ることこそできなくても、ナジャーと違い激しいアクションにも怯むことはありません。
連続焼殺事件の容疑者は早い段階で浮かんできます。ただ手作り火炎放射器を使う殺人手口は、精神分裂病(統合失調症)の若い容疑者には合いそうもないという点は最初から明らかです。で、予想どおりというか予想よりも遅くなって、事件の様相ががらりと変わるや否やクライマックスのアクションとなります。
エドウィナ(現恋人)とローラ(前妻)、デソトとマクレガー(どちらも警部補)といった人物対比も、うまく考えられた作品でした。

1505中の書評を表示しています 441 - 460