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ミステリの祭典

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追憶のローズマリー
フィンチ警部

作家 ジューン・トムスン
出版日1997年05月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2020/06/04 20:29登録)
(ネタバレなしです) 英国のジューン・トムスン(1930年生まれ)はシャーロック・ホームズのパスティーシュ短編が高く評価されていますがそれらが広く知られるようになったのは1990年代になってから。ミステリー作家としての活動は1970年代から書き続けられているフィンチ警部シリーズの本格派推理小説があり、個人的にはオリジナル探偵のこちらに興味がありました。トリッキーな作品もあるそうですが1988年発表のシリーズ第14作の本書はトリックはあまり凝ってません。創元推理文庫版の巻末解説の「人の微妙な心持を描くのがとてもうまい」特徴を押し出した作品です。心理描写もさることながら舞台描写もかなり控え目です。第一の事件は嵐が迫り来る夜の出来事なのですが全く迫力を感じません。むしろ19章での荒廃した建物が並ぶ運河とか20章の穏やかな夜に登場人物たちが織り成す小さく静かなドラマの方が印象に残りました。謎解きとしては被害者の周辺にローズマリーが散りばめられた秘密が注目に値しますが推理でなく捜査によって場当たり的にわかるのは本格派として物足りません。真相がほぼ明らかになったところで新たな謎が生じる展開が意外でしたが、蛇足のような気もしました。余談になりますが巻末解説で「時のかたみ」(1989年)の誤訳を謝罪して本書で訂正した姿勢は素晴らしいと思います。レジナルド・ヒルの探偵をダルジールと紹介して、後でディーエルと発音するのが正しいとわかってからもその後の翻訳でもダルジールで押し通し続けた出版社に爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいです。

No.1 6点
(2019/02/04 23:47登録)
社会人を対象とした文学・演劇の夏期講習会で起こる殺人事件。あらすじに目を通さずに読み始めたら、しばらくは誰が殺されるのだろうと疑問に思ってしまいました。講師たちの人間関係やある受講生や、問題はありながらも講習会が始まるあたり、あまりミステリらしくありませんが、86ページに至って突然不吉な文が挿入され、さらに殺人を予想させるシーン(「何の用だ?」)がすぐ後に続きます。
次作『時のかたみ』ほど真相が見え見えではなく、それでもこの手かあの手かといくつか候補は挙げられるのですが、パトリシア・モイーズとも共通するような英国女性作家ミステリらしい雰囲気を楽しんでいたのです。ところが終盤近くなって、さらに殺人が起こる展開には驚かされました。フィンチ主席警部はその時点で既に真相に気づいているのですが、この最後の殺人で名探偵でなくても誰でも事件を解決できる展開になるのには疑問を感じてしまいました。

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