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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1521件

プロフィール| 書評

No.1101 6点 煙とサクランボ
松尾由美
(2019/06/20 20:22登録)
ジャンルとしてはSF/ファンタジーにしてみましたし、実際主役の墨津は幽霊という設定ですから、ファンタジーには違いないのですが、プロットは完全にミステリです。ユーモアという言葉の蘊蓄を披露してくれたりする最初の部分では、これはミステリと呼べる話になるのかなと思わせられ、次にバーテンダー柳井と墨津とが出会った過去の窃盗事件が語られる部分では、連作短編的な構成なのかなと思わせられ、ところが全体としてはやはり過去に起こった放火事件の謎に対する解答を与える作品になっていました。
動機の根本については、最初に動機についての議論が行われたところですぐ見当はついてしまいましたが、伏線は丁寧に張ってありますし、語り口はすっきりと心地よいですし、最後まで楽しく読んでいけました。本作における幽霊の基本設定には、細かく考えれば無理がありそうですが、まあいいでしょう。


No.1100 8点 探偵コンティネンタル・オプ
ダシール・ハメット
(2019/06/16 18:13登録)
収録5編中、同じ早川書房のミステリ文庫から出ている『コンチネンタル・オプの事件簿』とは『メインの死』だけが重なっています。チャンドラーだと早川も創元も、大系的に(ほぼ)すべての中短編を網羅する形にまとめているのに、ハメットの方は計画性がないのは、少々不満なところではあります。
しかしその意味で編集的には不満があっても、個々の作品は充分楽しめます。最初の『シナ人の死』は最も長く、最も複雑。それにしても1975年時点の再販で、タイトル等の表記手直しを全くしていないんですね、翻訳者砧一郎の没年は不明だそうですが。『金の馬蹄』は、トリックは早い段階で可能性には気づいていたのですが、上手く決着をつけてくれています。『だれがボブ・ティールを殺したか』には、実際の事件とは関係者の名前が違う云々などと書かれているのが、珍しいところ。『フウジス小僧』のクライマックス・シーンは迫力満点でした。


No.1099 5点 ブルー・シティ
マイクル・コリンズ
(2019/06/13 00:14登録)
ブルー・シティと言えば、ロス・マクドナルドの『青いジャングル』(別題『憂愁の街』)の原題ですが、本作の原題は実は “Blue Death”。最後近くで、「もう死んだも同然さ。憂鬱な死だ」というセリフが出てきます。
国際金属精製株式会社(IMR)の担当者が、ガレージの土地貸借契約更新手続で面会を求めても会おうとしない、という事件ともいえないようなことで、ダン・フォーチューンは昔知っていた女から依頼を受けることになります。しかし当然それだけで終わるはずもなく、依頼人の夫が瀕死の重傷を負わされ(病院で数日後死亡)、さらにIMR内部のトラブルが少しずつ明るみに出て来ることになります。
人間関係や過去の事件とのつながりなどがかなり複雑で、その収拾は今一つ鮮やかさに欠けるように思いました。またフォーチューン自身、何度も襲われることになるのですが、その襲撃者の正体も理由も、拍子抜けでした。


No.1098 5点 伊集院大介の新冒険
栗本薫
(2019/06/07 23:41登録)
伊集院大介の活躍する短編7編を収録しています。全体的な印象をまず書かせていただくと、なんだか古めかしいなという感じでした。1970~80年台前半のイメージがあるのですが、実際の発表年は1992~94年です。「新冒険」というとクイーンの短編集をも思い出しますが、『神の灯』やスポーツ・シリーズを意識した感じはありません。
『顔のない街』と『ごく平凡な殺人』の2編は同じ少年の一人称形式で語られています。前者については、越して間もないわけでもないのに間違えた点には疑問を感じました。後者は、この事件が平凡なものなんてないという考え方の元になるとは考えられないと思っていたら、最後には何とかこじつけてくれました。『事実より奇なり』は「奇」の意味の捉え方が変です。そんな感じでもう一つ好きになれない作品が多いのですが、『盗癖のある女』は意外に気に入りました。


No.1097 7点 囁く谺
ミネット・ウォルターズ
(2019/06/03 23:42登録)
ウォルターズの第5作で中心となる事件は、浮浪者の餓死事件です。それが実は殺人だったというオチもなく、その意味では、雑誌記者がその裏事情を探索していく話は非常に地味です。開幕早々に挿入される本からの抜粋など構成に工夫は凝らしていますが、意外にスムーズに楽しく読んでいけました。途中、最後までその正体が明確に書かれない人物が登場するシーンが2か所出てきますが、これも最後まで読めば、推測は簡単につきます。
登場人物たちの描き方もさすがですし、最後近くまでは非常に満足できる内容だったのです。ただ最初に死体を発見するミス・パウエルの人物像だけは、この作者にしては今一つはっきりしないかなとは思っていたのですが。
で、最後上記謎の人物以外はすべて説明される部分に突入するわけですが、ここは記者の憶測が大部分で、特に意外というわけでもなく、多少不満は残ってしまいました。


No.1096 6点 黄色い恐怖の眼
ジョン・D・マクドナルド
(2019/05/30 18:28登録)
本作を読んでいてふと思ったのが、ジョン・D・マクドナルドって抄訳しやすい作家だなということでした。冒頭の飛行機がシカゴ・オヘア空港に着陸する部分からして、2ページ中1ページ半はカットしても全く問題ありません。特に本作はストーリーや全体テーマとは無関係なことをマッギーが考え、解説する部分が多いように思いました。
今回シカゴにやってきたマッギーが引き受ける財産消失事件の調査で、脅迫という言葉はごく早い段階で出てきますが、どんな脅迫かがなんとなくわかってくるのは半分あたりです。しかし本当にそんな脅迫がうまくいくのだろうかと疑問も感じてしまいました。で、さらに7割を過ぎてから殺人も起こり、タイトルの言葉はこの殺人現場で出てきます。
最後の犯人と対決しに行くシーンは、なぜ呑気な二人ドライブでって感じだったのですが、これはその後の最終章のためには必要だったわけなんですね。


No.1095 5点 アルタの鷹
河野典生
(2019/05/26 17:45登録)
今回初めて読んだ河野典生は後期の私立探偵田沢汎太シリーズ第3作で、妙な作品でした。
大陸書房のカバーには、ユーモアハードボイルドと謳っていますが、当然ハメットの代表作のパロディでも、荒唐無稽スパイ・スリラーと言った方がいい内容になっています。ただ普通のパロディは作中で元ネタについては触れず、読者に「わかるだろ?」と目配せする感覚があるわけですが、本作の場合『マルタの鷹』を登場人物が読んでいて、それによく似た展開になっていきます。そんなところは見立てっぽい感じもあり、実際見立ての理由まで最後にはちゃんと説明されます。いや、作者がパロディしているのはむしろ「笑っていいとも!」の方でしょうね。さらに「キョトンとした目の―ちょっとレレレのおじさんにも似た―やはり小柄な日本国首相」なんて表現が笑えます。
登場人物が入り乱れてごちゃごちゃして、結末が明確さに欠けるのが難点でしょうか。


No.1094 5点 クレアが死んでいる
エド・マクベイン
(2019/05/21 23:20登録)
87分署シリーズ第14作ですが、ストーリーの方はともかく、書き方には少々うんざりしたところもありました。舞台の都市アイソラについて、その名前の由来などを延々説明していて、今までそのことについて書いたことがなかったのかなと思ってしまいます。「都会とはときにこんな妙なことをしでかすものだ。」とか「何とか月曜日を廃止する法律でも作るべきではないか。」とか、登場人物の視点からならともかく、客観視点から書かれるとばかばかしくなってしまいます。
で、話そのものは第2作『通り魔』以来のクリング刑事の恋人クレアが被害者の一人になる銃乱射事件ということで、衝撃的であり、捜査小説としてもおもしろく読めていけます。診療所の待合室にファッショナブルな雑誌と一緒にEQMMが置かれていたなんて遊びもありますが、もしエラリーが登場していたら10分で解決していたかも、という気がする事件でした。


No.1093 5点 縄張りをわたすな
ミッキー・スピレイン
(2019/05/17 23:00登録)
スピレインは1952に『燃える接吻』発表以来、長編をしばらく書いていませんでしたが、1961年の本作をきっかけに、翌年には『ガールハンター』でマイク・ハマーもの第2期を開始し、さらにタイガー・マン・シリーズなどもコンスタントに発表していくことになります。
その、ハードボイルド・ファン(文学派にこだわる人は別として)にとっては待望の本作、発表当時期待して読み始めた人には肩透かしだったかもしれません。アウトローな世界を描いてハードなシーンも多いのですが、主役ディープの感情がちょっとセンチメンタルになりすぎているのです。原題は “The Deep”。定冠詞がついていることからしても、旧友が殺されたことで故郷の街に帰ってきた主人公の名前というだけではなさそうです。
旧友殺しの真犯人の正体はかなり意外ですが、ラスト1行で明かされる事実は、簡単に予測できるでしょう。


No.1092 6点 孤狼の血
柚月裕子
(2019/05/13 23:58登録)
第69回(2016年)日本推理作家協会賞受賞作。
柚月裕子初読ですが、まずは作品のハードさ、男くささに驚かされました。広島県呉原市(呉市がモデルだそうです)の暴力団抗争を警察の視点から描いた作品で、やくざ映画的な感じがあり、実際映画化もされています。ハメット等本来の意味のハードボイルドとは違いますし、警察からの視点ではあっても、警察小説とは呼び難い感じもするということで、ジャンル分けには困る作品です。
各章の初めに置かれた日誌の奇妙な点、暴力団に顔のきく大上刑事が犯人だという投書が途中で飛び出す過去の暴力団幹部殺害事件の真相、叙述トリック系の仕掛けなど、意外性面にも工夫が見られます。どれも小粒ではありますが、本格派ではないので、文句はありません。
ただ、最後近くまでは迫力充分だったのですが、終わり方はちょっと拍子抜けな感じもありました。


No.1091 5点 怯えるタイピスト
E・S・ガードナー
(2019/05/08 20:19登録)
メイスン、ついにバーガー検事に敗れる?
今回ガードナーがやりたかったのは、これでしょうね。普通だと裁判の途中でメイスンによって真犯人が明らかにされ、告訴が取り下げられることになるのですが、本作では陪審員の評決まで出て、その後裁判長による判決言い渡しの場で真相が明かされることになります。この最後のどんでん返しは、シリーズ中でもおそらく最も意外なのではないでしょうか。
その意外性はいいのですが、そのためずいぶん無理をしているのが難点です。バーガー検事が密かに握っている事実は、もっと早くわかっていて当然のことなのですが、この事実を警察が厳密に調査すれば、ネタが割れてしまいます。だからと言って、読者に隠しておきさえすれば不自然さがなくなるというわけではありません。タイトルのタイピストのオフィスでの事件への関わり方も不自然ですし、共犯者が多すぎるのも減点対象です。


No.1090 7点 闇に踊れ!
スタンリイ・エリン
(2019/05/04 13:12登録)
引退した歴史学者カーワンがテープに録音していくビル爆破という「大事業」計画の独白の章と、私立探偵ジョン・ミラノの視点から三人称で書かれた章とをカットバックしていく手法で構成された作品です。
カーワンの黒人に対する偏見ぶりはとんでもないもので、異常なまでの差別的発言が、「医師。残酷で貪欲で抑えがたき独善の愉悦の、神の遣わした証人(あかしびと)。」といった気取った学者っぽい表現を散りばめながら繰り返されていきます。
その「大事業」計画とは無関係な事柄を調べるためにカーワンと接触したミラノについて、ミラノはイタリア系だから当然生まれついての黒人嫌いだとカーワンは思い込むのですが、実際のミラノは別事件の捜査で出会った黒人の美人クリスティーンに一目ぼれし、カーワンを調べるようになるのも彼女のためなのです。この皮肉な設定が、不気味とさえ言えそうな作品でした。


No.1089 7点 三つ首塔
横溝正史
(2019/04/30 08:00登録)
横溝正史が昭和30年台初頭に発表した長編は、『悪魔の手毬唄』を除くとほぼ通俗的な作品ばかりですが、その中でも群を抜いて有名なのが本作です。
同時期他作品と比べても謎解き要素は少ないというか、フーダニット的な謎に読者の注意が向かわないような目まぐるしいストーリー展開で、その点スリラーとして一貫性があって、全体として成功した作品だと言えます。ヒロイン音禰の視点というだけでなく、全編彼女の一人称形式で書かれていますが、この叙述形式は小説として重要だと思います。冒頭の三つ首塔にたどり着いたシーンからの回想で書き進められ、最後の舞台に臨む現在に至った時点で「できるだけ赤裸々に、じぶんの自分の心象なども書きつづけてきた」(「法然和尚」の章)という小説構成です。
金田一耕助が登場する必要もないような話で、実際出番もほとんどありませんが、一応はヒロインたちを最後に救出する役割で…


No.1088 5点 追憶のファイル
ジャネット・ドーソン
(2019/04/27 23:54登録)
女私立探偵ジェリ・ハワードの一人称形式によるミステリの第1作。と言えば、当然グラフトンやパレツキーの系列ですが、語り口は何となく爽やかな感じがします―これは翻訳にもよるのでしょうが。彼女は探偵社勤務時代から始まり既に何年もこの稼業をやっているという設定です。構想段階では途中で主役の設定を一般人から私立探偵に変えたそうです。
失踪した妻を探し出してほしいと夫から依頼されるのは、いかにもハードボイルド系の出だしです。ただ預金をおろして、荷物を持って自分の意志で出ていったことが明らかなのは珍しいかもしれません。失踪者の過去に起こった家族惨殺事件の疑問点は、簡単に見当がつきますが、失踪者の現在の行動はあってもよさそうでありながら、他には例を知りません。感心する点もいろいろあるのですが、全体的な事件の流れの自然さということでは今一つすっきりできませんでした。


No.1087 6点 死を望まれた男
ルース・レンデル
(2019/04/21 22:51登録)
レンデルはずっと前に『薔薇の殺意』を読んだことがあるだけで、そのデビュー作にはあまり感心しなかったことぐらいしか記憶に残っていません。それでその後もなんとなく避けてきた作家だったのですが、やはりそれではいかんと思い、この第7作(ウェクスフォード警部シリーズとしては第4作)を読んでみたのでした。
原題 "The Best Man to Die" は様々な意味を含んでいると訳者あとがきにも書かれていますが、邦題としては光文社文庫の『友は永遠(とわ)に』の方が、ミステリらしさということでは疑問があっても内容に即しています。この内容に即していることを印象づける事件解決後のラストの思わぬ出来事の苦い味は、さすが文学的に高い評価を受けている作家と思えました。
自動車事故の「実験」部分では、すぐその結論の欠陥に気づきましたが、これはイギリス人にとっては意外な盲点になるのかもしれません。


No.1086 5点 異域の死者 上野着17時40分の死者
津村秀介
(2019/04/17 23:01登録)
カバーの作品紹介では「複数の容疑者が捜査線上に浮かび上がってきた。しかし、その誰もが完璧なアリバイを主張していたのだ。」となっていますが、実際には容疑者3人のうち1人は、自分にはアリバイがないと言っていますし、もう1人は遠くにいたのでアリバイが成立するんじゃないかぐらいのことしか言っていません。最後の1人は、誰かが身代わりになってアリバイを提供したのではないかと疑われています。
それぞれの容疑者についてアリバイが成立するかどうかを、ルポライターの浦上が詳しく調査していくと、(1人については警察の捜査で判明するのですが)全員にアリバイが成立することがわかるというプロットは、なかなかおもしろくできています。しかし真犯人のアリバイトリックの肝心要の部分が、浦上のようなジャーナリストなら騙せても、警察の取り調べに対しては絶対通用しないものなのは、問題があります。


No.1085 6点 深夜特捜隊
デイヴィッド・グーディス
(2019/04/13 08:44登録)
グーディス後期(1961年)の作品で、本作後には作者死去の1967年に出版されたものが1冊あるだけのようです。しかし邦訳は本書が最初で、ある程度知られた作家のように思える割には、この後に邦訳されたのは映画化されたことのある3冊だけです。他にも映画化原作としてタイトルだけは知っている未訳作品がいくつかあります。
さて、本作ですが、主役の元刑事コーリーが、町のはきだめの顔役から信頼されるようになって、という話だけ見るといかにもハードボイルドで、巻末ノートにも「警察小説とハードボイルド調をミックスした」とされています。しかし、文体は既読2作と同じようにコーリーの内面的葛藤をたっぷり描いたものになっていて、基本的に冷たく突き放すようなハードボイルド調とは全く異なります。特に本作では警察バッジが彼に語りかけてくるというシーンが繰り返し出てくるのですが、ちょっとわざとらしい感じもするほどです。


No.1084 5点 やっつけ仕事で八方ふさがり
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2019/04/07 13:27登録)
保釈保証会社の逃亡者逮捕請負人ステファニー・プラム・シリーズは、第6作から第9作までは原題だけでなく邦題にも第何作かを示す言葉が使われていて、本作が第8作ということは、すぐわかるようになっています。
で、その内容ですが、今回はかなり不満もありました。同業のレンジャー、モレリ刑事の2人との関係だとか、新登場のクラウン弁護士のキャラとか、楽しませてくれる要素はいろいろあるのです。悪役が早い段階から明らかになっているのも、作品のタイプからすれば全く問題ありません。しかし、イーヴリンが逃亡(保釈とは関係なく)した理由の解明や、事件の最終決着が、ステファニーの知らない間にレンジャーがやってしまっていて、詳細が全く説明されないというのでは、安易としか言えません。笑いのネタも、既読作に比べると、ウサギ男のセリフ部分を除くと、ちょっと無理やり感があります。


No.1083 7点 憎悪の化石
鮎川哲也
(2019/03/31 22:33登録)
久々の再読ですが、2つのシンプルな原理のアリバイトリックのみが印象に残っていた作品です。
最初に読んだ時には、2つのトリックが重なるのが、ご都合主義に思えたのでしたが、読み返してみると確かに時刻まで重なるのは偶然ですが、殺人動機が、ほぼ同じ日にそのことが起こる必然性のある設定にはなっています。そのあたりが、似たことをやっても偶然の扱いに安易なところのある森村誠一とは異なる点です。
しかしアリバイトリックだけの作品というわけではありません。前半の鬼貫警部登場以前の部分では、11人の動機を持ち得る人物たちについて調査が進められていきます。さらに12人目の容疑者については、鮎川作品には珍しく(クロフツには意外にあるのですが)捜査過程にサスペンス要素まで多少取り入れています。後半では、過去に起こったはずの殺人事件探求があり、捜査小説として読みごたえがあります。


No.1082 7点 硝煙に消える
ジョージ・P・ペレケーノス
(2019/03/28 23:32登録)
ギリシャ系のアメリカ作家ペレケーノスのデビュー作。
エルロイやヴァクスと比較されることが多いそうですが、エルロイとの接点は1996年に始まる「D.C.カルテット」シリーズにあるのでしょう。1992年の本作は、ヴァクスとの共通点をある程度感じさせます。ある程度ぐらいにとどまるのは、ヴァクスのハードなアウトロー世界とは全く違うからで、クライマックスになるまで、激しいヴァイオレンスはありません。しかしミステリとしてのプロット自体はシンプルで、本筋とは関係ない部分が多く、それでいてその脇道が決して無駄でなく小説の魅力となっているところが共通しています。後、ロックを中心とした音楽がずっと流れているのがこの作家の特徴でしょうか。言及されるミュージシャンではエルヴィス・コステロ等ごく一部しか聴いたことがないのですが。
最後の犯人の「意外性」だけは、あまり感心しませんでした。

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