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ミステリの祭典

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孤狼の血
日岡秀一

作家 柚月裕子
出版日2015年08月
平均点5.60点
書評数5人

No.5 5点 SU
(2023/06/10 21:14登録)
舞台は1988年の広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡が、先輩刑事・大上の下で暴力団系列の金融会社社員の失踪事件を追求する物語。
本書の手柄は大上の圧倒的な存在感だろう。凄腕のマル暴刑事で、独自の信条と善悪観があり、日岡も次第に感化されていく。もちろん次々に登場する個性豊かなヤクザ群像と、同時多発的に起きる暴力団同士のねじれた戦いも、真相が幾重にも隠されているがゆえに面白い。
ただ、語りに巻き戻しが多くてスピード感がないのが難だし、どんでん返しの切れも今ひとつ。それでも汚れた正義と守るべき矜持をめぐる男たちの死闘は迫力に満ちており、その顛末を示す年表と、抑制の充分効いた静かな熱きエピローグが抜群で、初めて題名の意味が胸に強く迫ってくる。

No.4 6点 ぷちレコード
(2020/09/30 20:19登録)
昭和レトロな香りのする熱い男たちのせめぎ合いを、鮮やかに活写している。心に楔を打ち込まれるようなラストの衝撃は無類。

No.3 6点
(2019/05/13 23:58登録)
第69回(2016年)日本推理作家協会賞受賞作。
柚月裕子初読ですが、まずは作品のハードさ、男くささに驚かされました。広島県呉原市(呉市がモデルだそうです)の暴力団抗争を警察の視点から描いた作品で、やくざ映画的な感じがあり、実際映画化もされています。ハメット等本来の意味のハードボイルドとは違いますし、警察からの視点ではあっても、警察小説とは呼び難い感じもするということで、ジャンル分けには困る作品です。
各章の初めに置かれた日誌の奇妙な点、暴力団に顔のきく大上刑事が犯人だという投書が途中で飛び出す過去の暴力団幹部殺害事件の真相、叙述トリック系の仕掛けなど、意外性面にも工夫が見られます。どれも小粒ではありますが、本格派ではないので、文句はありません。
ただ、最後近くまでは迫力充分だったのですが、終わり方はちょっと拍子抜けな感じもありました。

No.2 6点 猫サーカス
(2017/10/18 19:14登録)
1988年の広島を舞台にして、驚くほど緊迫感に富む物語を作り上げている。所轄署の捜査2課に配属された新人の日岡が、暴力団係の班長大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員の失踪事件を追及するが、次々に暴力団員同士の戦いが勃発して混迷を深めるというもの。刑事対やくざ、極道同士の戦いが至るところで沸騰し、大きな謎を秘めてクライマックスへと疾走していく。しかも激しい活劇だけでなく、奥深い事件の真相を見せながら、最後には大きなどんでん返しが待っている。

No.1 5点 HORNET
(2017/01/02 16:02登録)
 日岡秀一が初めての刑事勤務となり配属された捜査二課で、仕えることになった大上章吾は、広島弁のべらんめえ調で部下をどやしつけ、やくざからも「ガミさん」と一目置かれるこわもて刑事だった。金融会社の社員が失踪した事件を負うことになった2人だが、そこにはヤクザの裏事情が絡んでいる様子。捜査を進める中で、大上とヤクザのただならぬ関係が垣間見えるようになり、その公正とは言えない捜査手法に、日岡は大上への不信と反発を感じ始める。だが、大上の信念、どんな手を使ってでも目的を遂げようとする姿勢に、次第に見方が変わってくる・・・・
 ヤクザ組織の相手をする暴対の刑事たちが、決してきれいごとだけではやっていけないという様を描き出しているストーリーは骨太で、非常に読みごたえがある。読者としても、始めは大上のやり方に反発を感じる部分はあるが、日岡との人間的なやりとりを見ているうちに、次第に魅かれていく部分も確かにある。最後の仕掛けは半ば予想通りで、それほど驚きはなかったものの、結末としては悪くない感じがした。

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