home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1485 6点 アイトン・フォレストの隠者
エリス・ピーターズ
(2024/02/07 23:35登録)
修道士カドフェル・シリーズの第14作は、1142年10月18日、荘園主の死去から始まります。と言っても、そのことがメインの殺人事件に直接関係があるわけではなく、シュールズベリの修道院に預けられていた荘園主の息子リチャードが後を継ぐことになったために。まだ10歳の彼に起こってきた結婚問題が、事件とも絡み合ってくるという展開です。リチャードが行方不明になる経緯は、まあそういった偶然もあるだろうけれど、といったところで少々安易ですが、彼に関するその後の展開は、おもしろくできていました。
後半殺人はさらにもう1件起こりますが、犯人は特に意外とかいうことはありません。ただ、第2の殺人の動機に関する伏線には、なるほどと思えました。犯人(と言うべきかどうか)に対するカドフェルの処置と、それに対する執行長官ヒューの賛同も、時代小説だからこその説得力を持ちます。


No.1484 6点 死者を起こせ
フレッド・ヴァルガス
(2023/12/02 23:55登録)
ブナの木はなぜ植えられたのか。この冒頭部分の謎に対する答は、悪くないといったところでしょうか。意外な理由というわけではありませんが、無理やり感もありません。さらに犯人が仕組むあるトリックと結びついているところも評価できます。
最後60ページぐらいで、容疑者が次々に入れ替わっていくあたりもおもしろいですし、ダイイング・メッセージがしばらく発見されなかった顛末も、うまくできています。このメッセージ、確かにフランス語を知らないと、というかフランス語を知っていても実際にその文字を図で示してくれないと、説明されても、ああそうですかとしか言えませんが、まあいいでしょう。タイトルの言葉は、この多重解決部分で出てきます。ただ、一ヶ所そんな殺人を行う必要があったのかなと思えるところはありました。
登場人物たちのキャラクターがおもしろく、小説構成はよくできていると思います。


No.1483 5点 約束の小説
森谷祐二
(2023/11/20 23:48登録)
2019年ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した作品です。
いわゆる典型的な館ものですが、ところどころに小説家を志す少女の話がはさみ込まれ、それがどうつながってくるのかが問題になってきます。館もの殺人事件の方は、類型的であることを利用した「動機」が用意されていますが、これはいくらなんでもという気がします。犯人の最後の行動も無茶。密室殺人のトリックは、島田荘司系ではあるのですが、そこまでぶっとんだところがないため、あまり感心しません。作者の医療関係の知識羅列は、まあおもしろいと言う人もいるかもしれません。
悪口ばかりのようですが、二つの部分のつなげ方には、なるほどと納得できましたし、最後の探偵の手紙はちょっと感動的です。
ところでこの作者、ヘヴィメタルのマニアでもあるんでしょうか。海外の有名バンドから日本の人間椅子等の名前まで出てきます。


No.1482 7点 太陽系帝国の危機
ロバート・A・ハインライン
(2023/11/12 18:44登録)
「ミステリだ、と言い切って作品登録および書評をお願いします」というのが管理人さんのこだわり(掲示板No. 7336, 11219)なので、この作品は少なくともミステリ度がかなり高い作品だと言い切りましょう。SFだから登録するのではありません。ただし本格派ではなく、ポリティカル・スリラー系。政治嫌いの売れない俳優が、帝国の危機を救うために活躍することになる話なのですから。
俳優ロレンゾが替え玉になってもらいたいと依頼されたある人物とは…本来俳優って、ルパンみたいな変装の名人なわけではないという根本的な点が間違っています。太陽系帝国ができて久しい時代に、個人識別に指紋が利用されるのも妙な気はします。最後の方に2015年に本作中のある出来事が起こったということが示されますが、もっと遠未来設定にすべきだったでしょう。しかし荒唐無稽な話としては楽しめました。
1956年度ヒューゴー賞を受賞した作品です。


No.1481 6点 モンタギュー・エッグ氏の事件簿
ドロシー・L・セイヤーズ
(2023/11/09 21:30登録)
本書タイトルに異議あり。この編集ならばということです。収録13編中、モンタギュー・エッグ氏のシリーズは6編だけで、本書に収録されていないシリーズ作も、訳者あとがきによれば5編あるからです。そのどれも翻訳権が取得できなかったのでしょうか。
という文句もつけたくなりますが、収録作品そのものに特に不満があるわけではありません。いや、『ネブカドネザル』だけは、非常に翻訳しにくい作品ですし、だから実際頭文字がなぜそうなるのか理解できないという点では、別作品(エッグもの)に置き換えてもらいたかったと思いますが。
ひとつだけ長いウィムジイ卿ものの『アリババの呪文』は、ごく早い段階でホームズ短編2編を思い出しました。実際、あの人の名前も言及されます。展開の必然性に欠けるのが難点。エッグ氏もの他の短い作品は、説明不足な点もありますが、だいたいオチがきれいに決まっていると思いました。


No.1480 4点 騙し絵の館
倉阪鬼一郎
(2023/11/03 20:19登録)
バカミスの作家として知られる倉阪鬼一郎初読です。しかし、本作のバカミス・トリックは、主役と言っていい美彦(よしひこ)=駆け出しミステリ作家井原真彦が自作『天使の庭』の中で使おうとする密室トリックだけで、それはすぐにタネを明かしてしまいます。
それより、しつこく仕掛けられた叙述トリックが中心の作品で、全体のプロットそのものは悪くないと思いました。しかし問題なのは新聞をにぎわす連続少女誘拐殺人事件の扱いで、最初のうちこの事件がメインなのかと思っていたら、途中でどうにも中途半端な解決になってしまうのです。
 それと…
 今書きつつある、この文章のような…
 そう、まさにこのような文章で、
 それにまた改行の仕方で、書き連ねられた…
やたらに気取ったあいまいな「詩的」文体も、このプロットのために最適だったとは思えません。叙述系では、「……館」が気に入りました。


No.1479 6点 メグレとマジェスティック・ホテルの地階
ジョルジュ・シムノン
(2023/10/31 00:10登録)
何年も前に原書で読んだ作品を〔新訳版〕で再読。
『メグレ保安官になる』等によれば、メグレは英語も多少は使えるはずですが、本作では全くわからない設定です。一方被害者の夫クラーク氏はフランス語が全くできず、意思疎通が面倒なのがユーモラス。"Qu'est-ce qu'il dit?"(何と言ったんだ?)というセリフが何度となく繰り返されます。事件担当予審判事はボノーという新顔。確かにベテランのコメリオ判事では、成り立たないところがあります。
ただ、翻訳はねえ。
カフェトリ:Cafeterie。普通だと当然カフェテリアですが、日本語の意味あいとはイメージが違うにしても。
「そうか」:メグレが被害者の身元をホテル支配人から聞いて、もらす "Ah!" の翻訳。
さらに原作にない説明文を付け加えたり、段落を入れ替えて前後関係を変えたりと、部分的にはもう超訳を超えた翻案です。
しかしまあプロットがいいのでこの点数で。


No.1478 5点 盗まれた御殿
シャーロット・マクラウド
(2023/10/27 21:22登録)
シャンディ教授シリーズ第1作発表の翌年に開始されたセーラ・ケリングのシリーズですが、この第3作はシャンディ教授の第3作より早く1981年に発表されています。
タイトルの「御殿」とは、ケリング家と張り合っていたマダム・ウィルキンズが建てた御殿で、彼女の死後市に美術館として遺贈されたものです。イタリアを中心として様々な名画が飾られていたはずが…というのが、殺人事件の裏にあり(かなり早い段階で、そのことは示されます)、その結果として警備員の一人が転落死する、それが殺人らしいということになってきます。
パズラー的な意外性では、これまでの両シリーズ4作に比べると、はっきり落ちています。かといって、いかにもコージーらしくなったとまでは思えず、そこがちょっと中途半端な気もします。
「ティティアン」は、もっと一般的な「ティッツィアーノ」と訳してもらいたかったですね。


No.1477 5点 終戦のマグノリア
戸松淳矩
(2023/10/24 22:33登録)
―巧妙に仕掛けられた数々の伏線が「小さな物語」をとんでもない大きさに成長させる。これぞミステリの王道! ―
そのように宣伝された作品です。確かに、旧家から発見された『木蓮(マグノリア)文書』と題された、大判の紙で60枚ぐらいもある手書き文章の謎を中心に構成され、重犯罪の起こらない本作は、「小さな物語」であると言ってよいでしょうし、その秘密が最終的に海外の国家的事情にまでつながってくるところは「とんでもない大きさ」です。しかしなあ、という気にさせられました。
発見された文書は太平洋戦争終結画策をめぐるものですが、なぜか英語で書かれていて、それを日本語にした形で綴られています。なぜ英語でという経緯も最後には明かされますが、説得力が今一つです。旧家から発見される理由の説明も明確にされていません。まあ、木蓮文書を読み始めた時に感じた文章に対する疑問は、うまく説明してありましたが。


No.1476 6点 火の湖(うみ)に眠る
ジョナサン・ヴェイリン
(2023/10/18 20:43登録)
原題はただ “Fire Lake”。シンシナティの私立探偵ストウナーの旧友ロニーが言っていたという言葉で、「一か八かの冒険を冒すこと」と説明されています。12月深夜、ストウナーがモーテルからの電話で叩き起こされるところから話は始まります。ストウナーの名前と住所で泊まっている男が自殺を図ったと言うのです。なかなか魅力的なつかみですが、その裏事情はたいしたことはありませんでした。自殺未遂者はロニーで、彼が関係しているのは麻薬組織絡みの事件であることは、早い段階からわかります。ただロニーを麻薬組織に送り込んだのが誰なのかが問題になります。
冷静沈着で礼儀正しい麻薬ディーラーのボスだとか、警察内部でも厄介者扱いされている暴力刑事が登場したりして、ハードボイルドらしいプロットですが、60年台の「愛と平和」とロックへの向き合い方は、ちょっと感傷的に過ぎるように思えました。


No.1475 6点 シュロック・ホームズの迷推理
ロバート・L・フィッシュ
(2023/10/14 10:39登録)
シュロック・シリーズのうち、『冒険』『回想』から1編ずつと、その後の発表作9編、それにシュロックものでない5編を収録した、光文社独自編集短編集です。
シュロックの推理は、英語原文でないとわからないものも多く、特に表題作は何が何だかですが、だいたいにおいて楽しめました。シュロックの迷推理で偶然事件が本当に解決できてしまうものもあります。シュロック以外のものは意外にほぼ正統的でした。
それにしてもシュロック・シリーズ、時代設定がよくわかりません。『アスコット・タイ事件』だと書き出しが「五九年の…」と年が二桁で示されていますが、ロンドンを馬車が走っている一方で日本大使館が存在します(Ogimaはオジマじゃなくオギマでしょう)。他の作品もそうで、新発明のラジオだとか映画(『羅生門』『ピーター・パン』等)だとか。最たるものは『ウクライナの孤児』で、1897年版の参考文献が最新版らしい七九年…???


No.1474 6点 水の眠り 灰の夢
桐野夏生
(2023/10/11 21:24登録)
『天使に見捨てられた夜』のコメントでは、ミロが「美術に詳しすぎ」と書きましたが、番外編の本作を読んで納得。母方の血筋なんですね。シリーズ第1作は未読なので、その中で経歴がどこまで描かれていたのかは知らないのですが。
最後に「なお、この話はフィクションであり、実在する個人、団体等とはいっさい関係ありません。」と書かれていますが、ジャーナリスト村野が追う2つの事件のうち一方は、実際に1962~3年に起こった草加次郎事件をそのままの名前でモデルにしています。実際に脅迫状が送られた吉永小百合の名前も出てきます。なおこの脅迫事件に対する警察の対応、犯人を罠にかけるはずが、犯人も現場に入り込みにくい警戒態勢をとっては、話になりません。
論理的にはそんな問題点もありますし、2つの事件の結びつきが偶然に過ぎないのも気になりますが、時代の雰囲気が感じられ、全体的印象はなかなかのものでした。


No.1473 7点 ロニョン刑事とネズミ
ジョルジュ・シムノン
(2023/10/06 20:29登録)
(原書 "Monsieur la Souris" を読んでのコメント)
原題のSourisは英語ではMouseに当ります。つまり本来ミッキーみたいなかわいい奴なのですが、この二十日鼠氏、年老いた浮浪者です。シムノンの非メグレものの常からすると、ほぼこの浮浪者の視点から描かれることになると思われそうですが、そうではありません。メグレこそ登場しませんが、「無愛想な刑事と消えたロエム氏」とサブタイトルを付けてもいいような、メグレもののスピンオフ警察小説になっているのです。
瀬名秀明氏の「シムノンを読む」で無愛想な刑事ことロニヨンの初登場作だと知り、気になっていた作品です。ロニヨン以外にも、リュカが警視として、またジャンヴィエ刑事も登場。後半はロニヨンが何者かに頭を殴られ、二十日鼠氏は誘拐されという展開を見せ、クライマックスはほとんど『メグレ罠を張る』あたりにも匹敵する緊迫感があります。謎解き要素もしっかりできた、楽しい作品です。


No.1472 5点 死のオブジェ
キャロル・オコンネル
(2023/10/02 21:36登録)
キャシー・マロリー刑事(作中では「巡査部長」と階級表記)のシリーズ第3作。なお、彼女は自分をただ「マロリー」とだけ呼んでくれと言っています。美術界で起こった事件で、邦題は作品、原題("Killing Critics")は美術評論に焦点を当てています。
天才ハッカーのマロリーですが、本作ではむしろ彼女の並外れた身体能力が誇示される作品です。年老いたとは言え元オリンピックの金メダリストである美術評論家クインとフェンシングの試合をやったり。このシーンは、ただクインを心理的に追い詰めればいいだけで、試合が必要だとは思えません。このクインは礼儀正しい好人物ですが、いったい何考えているんだかというところもあります。
捜査妨害をしてくる刑事局長に関する描き方が最後中途半端なのは不満でした。また、クライマックス、「その人物」はどうやって部屋に入ったのか等、論理的な疑問もあります。


No.1471 6点 妄想名探偵
都筑道夫
(2023/09/29 00:15登録)
タイトルの探偵役は、新宿のバー「まえだ」の常連、アルジェの忠太郎、略してアル忠さん、ミステリ作家の津藤幹彦の一人称で語られる7編の連作短編集です。「妄想」なのかどうかわかりませんが、アル忠さんは現在無職ながら、作品ごとに元は刑事だったとか新劇俳優だったとかポン引きだったとか言う、居所も定かでない正体不明人物です。最初の『「殺人事件」殺人事件』から最後の『「殺人事件」盗難事件』まで、最終作を除いてほぼ「×…×」殺人事件というパターンのタイトルになっています。
第1作はさすがに無理じゃないかと思えますし、第2作もまとめ方がすっきりしませんが、基本的には都筑道夫らしいロジック中心の作品集です。それだけに異色の『「ハードボイルド」殺人事件』が笑えました。最終作はアル忠さんの正体を明かしてくれるのかと思っていたら、結局そうはならず、という肩すかしを狙ったものでした。


No.1470 7点 眠れる犬
ディック・ロクティ
(2023/09/26 00:02登録)
1985年に発表され、受賞を果たしたネロ・ウルフ賞以外にも翌年の様々なミステリ賞新人賞にノミネートされた作品です。
冒頭に「はじめに」として、1982年にカリフォルニアで起こった連続殺人事件に関わった二人の人物が、それぞれの視点から書きあげた小説を、出版社の都合で1冊にまとめたのが本書だと説明しています。二人の視点から交互に一人称形式で書かれた小説はありますが、こんな言い訳をしたものは他に知りません。
その虚構作者の二人、私立探偵ブラッドワースと、依頼人である14歳の少女セレンディピティ(ブラッドワースは途中からセーラと呼んでいます)とが、いなくなった彼女の愛犬グルーチョを探して旅をする話です。
ハードボイルド系のストーリーですが、ブラッドワースがタフな探偵らしいアクションを決めるのは、最後の塔での犯人との対決シーンだけ。その後の彼の真相解説が意外でした。


No.1469 6点 曲がり角の死体
E・C・R・ロラック
(2023/09/19 20:51登録)
ロラック初読です。70冊以上の作品数がありながら、『ジョン・ブラウンの死体』が1997年に国書刊行会から出版されるまで、日本ではほとんど無視されてきた英国本格派黄金時代の女流作家。
曲がりくねった道に停められていた自動車の中で、評判の悪い実業家が一酸化炭素中毒で死んでいるのが発見されるという事件ですが、殺されたのはたぶん別の場所だろうということは、早い段階で指摘されます。その意味では原題 "Death at Dyke’s Corner" はちょっと違うんじゃないでしょうか。巻頭、周辺地図の裏に「登場する人物と地名はすべて架空のものである」とされていますが、その巻頭地図を参照しながら読んでいきました。
丁寧な捜査は飽きさせませんし、伏線もしっかりしています。ただクライマックスでの犯人のセリフの一部は、少なくとも藤村裕美氏の翻訳ではアンフェアと言うかあり得ないと言うか。


No.1468 5点 華やかな野獣
横溝正史
(2023/09/16 18:41登録)
中編の表題作の他に長めの短篇2編が収録されています。
表題作は、クイーンの某長編と同じアイディアが使われています。殺人現場からあるものがなくなっていることがわかった時点で、ひょっとしたらとは思いました。本作の方が2件目の殺人を組み込むことで複雑化していますが、そのため犯人の行動が妙に面倒になっているのが難点と言えるでしょう。ダイイング・メッセージも使われていますが、これはどうということもありません。
『暗闇の中の猫』がまた、クイーンの某短編を思わせる事件です。しかし銃殺される直前の被害者の行動が不確定という論理的欠陥はあります。なお、金田一耕助と等々力警部が初めて出会った事件で、みんな金田一さんと呼んでいますが、作者のうっかりミスでしょうか、ある登場人物が「金田一先生」と呼んでいるところがあります。
『眠れる花嫁』にもクイーンの有名作と共通する部分が一ヶ所あります。


No.1467 5点 赤いランプ
M・R・ラインハート
(2023/09/13 23:41登録)
英文学教授ポーターが、友人に2年前に起こった事件の顛末を聞かせてくれとせがまれ、その期間の日記を公開する、という体裁をとっています。
「サスペンスとホラー、そして謎解きの面白さを融合させたラインハートの傑作長編!」と宣伝されていて、ポーター教授が伯父から相続した幽霊が出ると噂される館のある田舎で起こった事件です。心霊現象は最初から次々起こるのですが、ただ降霊会で不思議な現象が起こったり、館の中で赤いランプが灯ったりというだけでは、怖くありません。最終的に大部分は合理的な真相が明かされてみると、プロットはきっちりできているのですが、語り口がもたついていて明瞭性を欠き、筋道がはっきりしません。ラインハートの文章がへただと思ったことはないので、パニックに陥りがちなポーター教授の性格ゆえのわかりにくさという面もあるのでしょうが、翻訳にもある程度問題がありそうです。


No.1466 5点 ロマンスのR
スー・グラフトン
(2023/09/07 23:40登録)
2005年に発表された本作の時代設定は1987年であることが、第4章には書かれています。ですから作中で重要な役割を果たすことになるPCも、持ち運びは簡単な程度ではあっても、かなりかさばる物で、記録メディアもフロッピー・ディスクです。携帯電話も出て来ません。
邦題は、D以来久々の、原題直訳とは異なるものになっています。原題は "R" is for Ricochet(跳弾)で、作品内容との関係がわかりません。一方「ロマンス」の方は、キンジーとチーニー・フィリップス警部補との間に芽生えますし、家主のヘンリーにもそんなことがあり、邦題の方が本作にはふさわしいと思えます。
富豪に頼まれて、仮釈放になる彼の娘リーバを刑務所に迎えに行ったキンジーが、リーバに振り回されっぱなしになる話で、既読作と比べるとハードボイルド味はほとんど感じられません。というわけで、ジャンルはサスペンスにしてみました。

1505中の書評を表示しています 21 - 40