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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.1255 6点 桜さがし
柴田よしき
(2021/04/08 20:03登録)
表題作等8編を収めた連作青春ミステリ。
たまにはこの作者でも、と手に取ったのですが、意外にもかなり前に読んだ『風精の棲む場所』で探偵役だった浅間寺(せんげんじ)竜之介がやはり登場する短編集でした。他にも様々なシリーズを書いている作家なんですけどね。最終話の『金色の花びら』の中に、世の出来事は神が決めることで、それを偶然と呼ぶという意味のことが書かれていますが、本書を選んだのも、やはり神が決めたこと…
ただし主役はむしろ、浅間寺が中学校教師だった頃の教え子たち4人です。20代半ばになったこの4人の人生・関係を描いた中に、ミステリ要素を加えた感じになっています。浅間寺が探偵役を務めるとは限っていません。まあ『思い出の時効』だけはミステリとして成り立っていないとは思うのですが。
全体的に各話の締め方がクサ過ぎる気もしますが、京都の雰囲気も良く、楽しめました。


No.1254 6点 蹄鉄ころんだ
シャーロット・マクラウド
(2021/03/28 18:50登録)
マクラウド初読印象は、気持ちのいいミステリというところでしょうか。
バラクラヴァ農業大学のシャンティ教授シリーズはこれが第2作ですが、馬房に掛けてある蹄鉄がすべてひっくり返されていたという奇妙な事件から始まり、貴金属工芸店の強盗事件、大学で飼育している豚ベリンダの誘拐事件、そして装蹄師殺人事件と、早い段階で次から次へと立て続けに事件が起こります。
コージー系らしいほのぼの感はもちろん楽しめ、事件解決後のジャーナル情報を使ったまとめ方などうまいものですが、謎解き要素についても、犯人の正体こそ大して意外ではないものの、ベリンダの隠し場所とか殺人の動機とか、いろいろと工夫されています。ただ、そもそもベリンダを誘拐する必要があったのか、疑問です。警察の捜査攪乱のためということかもしれませんが、やはり無駄な労力という気はします。


No.1253 6点 欺き
ローレン・D・エスルマン
(2021/03/22 22:37登録)
巻末解説では、エイモス・ウォーカーのシリーズ翻訳は1991年に早川から出版された『ダウンリヴァー』以来9年ぶりで、「″懐かしい″感情が生まれてくる」と書かれています。どうやらこの感情の裏は、エイモスがネオ・ハードボイルドの市井派私立探偵たちに比べて、マーロウ・タイプの「孤高の騎士」的だということも、あるようです。
依頼人は知人のアイリスですが、以前の作品に登場していたのでしょうか。既読の『シュガータウン』も細かいことは覚えていないのですが、未訳の作品もかなりあることですし。実の父親を捜してほしいけれど、すぐには料金を払えないという彼女のために、一肌脱ぐことになるのが、エイモスの「騎士」らしいところ。その調査の途中で、ギャングが絡んできて、殺人も起こりますが、このモーテルでの殺人事件の真相は、まあこんなものかなという感じです。それよりアイリスの父親探しの顛末が以外で心に残りました。


No.1252 6点 夜明け遠き街よ
高城高
(2021/03/16 23:15登録)
2012年に出版された本作は、1980年代後半のいわゆるバブル期の札幌ススキノを舞台とした7編を集めた連作短編集です。共通する主役はキャバレーの「サブマネ」(副支配人)黒頭(くろず)裕輔、キャバレー等のスタッフを意味する「黒服」という言葉が使われています。
読む前から予測はしていたのですが、当時の華やかな夜の世界、ヤクザや政治家への賄賂なども出てくる話が集められていて、黒頭が問題解決にあたることが多いとは言え、明確にミステリと呼べる作品は多くありません。『フィリピン・パブの女』、『夜明け遠き街』の2編が、まあ一応謎や捜査が中心になっているかなというぐらいです。他に、『赤ヘネと札束の日々』にも犯罪は絡んできますが、それが中心でもありません。そのラストの電話、「笑い声が途中で切れた。」の1文で終わるところ等、やはりハードボイルドらしい感覚ですが。


No.1251 6点 あたしにしかできない職業
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2021/03/13 09:18登録)
ステファニー・プラム・シリーズの第1作邦題は『私が愛したリボルバー』でしたが、第2作の本作ではタイトルの一人称が「あたし」に変わっていて、本文でもやはり「あたし」です。なるほど、ヴィクやキンジーなら間違いなく「私」あるいは「わたし」でなければなりませんが、このシリーズは「あたし」の方が似合います。
裁判所に出頭せず行方をくらました保釈中のケニーが相当の悪であり、警察からも今回の逮捕事由とは別件で容疑をかけられていることは、ほとんど最初からモレリ刑事の話でわかります。このモレリ刑事とステファニーとの関係が、ステファニーの家族状況とからまって、なかなか楽しめます。ただこの作者のユーモアは、本作では特に文章よりも映像化した方が笑えるのではないかと思えました。
24個の棺桶盗難事件とケニー事件との関係は、悪くはありませんが、まあそんなところでしょう。


No.1250 5点 歪められた男
ビル・S・バリンジャー
(2021/02/28 11:12登録)
バリンジャーと言えば『歯と爪』『消された時間』の全編カットバックを駆使した2作しか読んでいない人がかなり多いと思われますが、自分もそうでした。本作は作者最後期のスパイ小説で、上述2作のようなアクロバティックな構成を期待すべきではありません。冒頭の「読書の栞」にも北村薫の、バリンジャーの特質は意外性より「哀しみ」にあるとする意見を引用したりして、本作を読む人にそのことを警告しています。
しかし、実際に読み始めてみると、事故で都合よい期間だけの記憶喪失になり、さらに整形手術で顔が変わって(歪んで)しまった男の一人称で語られるプロットやケイツ少佐の正体は、なんとなく上記2作を思わせる感じもあります。しかし、次から次へと関係者たちが死んでいく展開は、おもしろいとは言えるのですがやはり相当なご都合主義ですし、あいまいな終わり方も今一つぴんと来ませんでした。


No.1249 6点 おかしな死体(ホトケ)ども
海渡英祐
(2021/02/25 20:10登録)
「礼儀作法の点では、彼は警視庁内で最低クラス」という吉田茂警部補のユーモア・ミステリ短編集シリーズ第1弾で、どれも「~死体」というタイトルの8編を収録しています。吉田警部補は自分のところにはひねくれた事件ばかりが回ってくると、やはり歴代総理大臣をもじった名前の部下たちに当たり散らしながらも、明快な推理で事件を解決していきます。『浮気する死体』はさすがにちょっと無理じゃないのという気もしましたが、だいたいにおいてクイーンや都筑道夫など論理派が好きな人にはお勧めの短編集です。ユーモアの方では、最後のひとつだけ長い『怪獣の好きな死体』が最も笑えました。
吉田警部補は最後犯人に自白させるため、罠をかけることが多いのですが、佐藤部長刑事がそれをやめさせようとするところ、そんな捜査は違法であることは承知の上で書いているんですよと言い訳している感じです。


No.1248 6点 憎しみの絆
ジャネット・ドーソン
(2021/02/23 00:29登録)
登場人物表にはなんと38人もの人物が挙げられていますし、読み終えるのにずいぶん日数がかかってしまったのですが、それでも混乱することもなく、内容はすっきりと頭に入ってきました。さすがに、名前を覚えきれないところはありましたが、登場人物表を見れば、ああそうかとすぐ納得できます。その意味では、人物の描き分けがしっかりできた作品です。
「早送り」「巻き戻し」「再生」と3つの章に分けられていますが、別に音楽やビデオと関係のある内容ではありません。普通に時間の流れに沿った書き方でもよかったとも思えますが、殺された男を冒頭で印象づけるという点では、一応効果はあるでしょうか。
かなり長い作品で、多数の容疑者が浮かんできますが、事件の状況から考えると最も怪しいのはこの人ではないかと早くから思っていたのです。実際真相はやはりそうでした。しかしそれが特に不満というタイプの作品でもありません。


No.1247 6点 判事とペテン師
ヘンリー・セシル
(2021/02/08 22:47登録)
『メルトン先生の犯罪学演習』の作者として前から名前だけは知っていた作家ですが、読んだのは初めてです。『メルトン』作品紹介によると軽いユーモア・ミステリらしいので、シムノンやロス・マクにはまっていた当時は読む気も起こらなかったというのが、正直なところだったのです。
で、そのメルトン教授も最後の方で主役の旧友ということでチョイ役で登場する本書が初読のセシルですが、なるほど、こういう感じかというところでした。長編ではありますが、枝葉は合っても一つの事件を中心として構成していくというミステリの一般的な構造にはなっていません。相互には特に関係がない(同じ人物が事件関係者になることはあっても)様々なエピソードの寄せ集めです。判事でもある作者らしく、裁判が中心で、その他に競馬も重要な要素になっています。
原題の "The Painwick Line" は、ペインズウィック家系の意味です。


No.1246 5点 焼け跡のユディトへ
川辺純可
(2021/02/02 22:46登録)
第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞で、受賞ではなかったものの優秀作とされた作品です。
時代背景は昭和26年で、舞台は瀬戸内の町。ということは横溝正史の岡山もの作品が次々生まれていた時期で、しかも広島の話なども出てきて事件とつながってきます。
巻末の選評で島田荘司は、投稿時、つまり改稿前の本作について「表現は達者の部類に入る」としていますが、それほどかな、という気がします。確かに小説の文章としては悪くありません。しかし出版された改稿版でも、やはり謎を魅力的に表現できていないと思うのです。これは大げさな表現を使うかどうかとは無関係でしょう。探偵役のディックが会話の中で時々入れる英語(日本語にカタカナルビがふられている)も、本当にその日本語を思いつかなかったから英語で言った、という感じはあまりしません。
事件全体の構造も、まあ悪くないというレベルでしょうか。


No.1245 6点 トラブルメイカー
ジョゼフ・ハンセン
(2021/01/30 22:39登録)
このブランドステッター・シリーズ第3作では、彼が保険調査員であることが事件の捜査になかなか有効になっています。事件そのものには、最初の被害者を始めとして同性愛者がかなり登場し、ブランドステッターにとってはなじみの世界です。被害者と書きましたが、容疑者はすぐ逮捕されたものの、自殺の可能性もないとまでは断言できず、また保険金受取人が犯人という可能性も全く無視はできないということで、ブランドステッターは事件担当の日系警部補とも協力して、調査を進めることになります。最後には彼は空手の心得もあるという意外な一面も見せてくれました。
登場人物数が多く、少々混乱してきますし、真犯人もその大人数の中に埋もれてしまっていて登場時に印象が薄く、最後の意外性があまり決まっていないように思えます。また、本作は翻訳のせいもあるかもしれませんが、情景描写の細かさが少々うるさい気もしました。


No.1244 5点 熱く冷たいアリバイ
エラリイ・クイーン
(2021/01/26 20:42登録)
原書房から出版されたクイーンの外典コレクションでは3冊目ですが、原書の出版は本作が最も早い1964年なので、まずこれを読んでみました。作者のフレッチャー・フローラは全く知らなかったのですが、調べてみるとかなりの短編が雑誌やアンソロジーに翻訳されています。
巻末解説にはリーがプロット作りにかなりアドヴァイスしたから、これほど巧妙な作品として完成したのではないかと書かれていますが、読んでみた限りではどうなのか、よくわかりません。確かに人間関係を軸にした意外性の演出に工夫を凝らしてはいますけれど、それはクイーンに限らず、フーダニット系の作家であれば誰にでも当てはまりそうです。いずれにせよ外典のペーパーバック・シリーズは、書いた本人が基本的なプロットを考えたものでしょう。
邦題が意味するエアコン利用については、死亡推定時刻を大幅に狂わせるのはちょっと無理があると思いました。


No.1243 5点 魔の首飾
高木彬光
(2021/01/23 07:43登録)
江戸時代末の実在の侠客大前田英五郎の子孫と称する私立探偵大前田英策もの6編を収録した角川文庫の短編集。そのうち『掌は語る』と『飛びたてぬ鳥』は立風書房の長編『断層』にも併録されていました。
「私立探偵というものは人生の溝さらい、その事務所は社会のはきだめのようなもの」(『飛びたてぬ鳥』)と考える大前田英策は、個人営業ではなく何人もの探偵助手を雇う興信所を営んでいます。巻末解説には、神津恭介が天才的すぎ人間性に欠けるという批判に答えた一つの試みだとか、ある種のハードボイルド的な要素も持つとか書かれています。ただ、神津恭介の対極的な設定ではあっても、百谷弁護士などのようなリアリズム系ではありませんし、作者の文章はハードボイルドとは全く異なった、地の文で主観をむしろ大げさに表現するものです。冒頭の中編『暗黒街の密使』には暴力団や殺し屋は登場しますが。


No.1242 7点 チャイナタウン
S・J・ローザン
(2021/01/17 23:39登録)
1994年に発表されたリディア・チン&ビル・スミスのシリーズ長編第1作。英語版Wikipediaによれば、以前にもこの2人の探偵の短編はいくつか発表されていたそうです。
本作段階では、リディアは28歳、私立探偵稼業を始めて6年ということで、かなりキャリアも積んできています。にもかかわらず、彼女は感情を隠しておくことができず、人がかけている電話の内容を知りたくて、「思わず足を踏み鳴らした」りするのです。リディア一人称の作品は、ビル視点作品ほどハードボイルドでないという説は、事件云々より、感情を表に出さないハードボイルド探偵らしくないところに由来しているように思えます。実際ストーリー自体は美術館に寄贈された中国磁器の盗難に中国ギャングが絡んできて、いかにもハードボイルドな感じです。
原題は "China Trade" ですから、直訳はむしろ「磁器の取引」でしょうね。


No.1241 7点 ナツメグの味
ジョン・コリア
(2021/01/14 22:58登録)
初期から後期まで、まんべんなく17編を集めた短編集で、異色短編作家といってもかなり様々な面を見せてくれる1冊になっています。
最初に収められた表題作は、間違いなくミステリに分類される作品で、偏執狂的で怖いオチになっています。原題は作中に出てくる「ナツメグを一つまみ入れないと完成しない」というセリフ。他にミステリと言えそうなのは、どれも前半に入っている『特別配達』『異説アメリカの悲劇』『魔女の金』『宵待草』『夜だ! 青春だ! パリだ! 見ろ、月も出てる!』ぐらいのものでしょうか。どれもおもしろいのですが、異色といっても能天気にすっとぼけた『夜だ!~』が意外に気に入りました。
後はだいたいファンタジー要素の強いもので、変てこなユーモア作もあれば、ラストで微笑させてくれる冒険小説もありますし、ストレートなホラーも2編。全作中『頼みの綱』だけは以前に読んだことがありました。


No.1240 5点 津軽殺人事件
内田康夫
(2021/01/11 17:50登録)
光文社文庫版の作者解説では、39番目の長編だそうです。この解説文の中に、津軽に取材旅行した際、弘前のホテルで『青い山脈』ロケ隊と同宿したことが記されていますが、それがプロットにも生かされています。映画関係者の体質について悪口も書かれていますが。
カッパノベルズ版時の、「殺人事件」は「無印・良品」と題されたあとがきも付いていて、その中で作者が松本清張のファンであって、『波の塔』を読んだ時、ミステリでなかったことに、アテが外れた思いをしたと述べています。本作についていえば、全体的な構成は松本清張を連想させるものがあり、作者は自分では「社会派」といわれるジャンルにも縁がないと言ってはいても、社会悪追及こそないものの、影響は大きいのではないかと思いました。
太宰治の短編から引用したダイイング・メッセージについては、太宰の文章の意味の解釈にもなっている点には感心しました。


No.1239 8点 慈悲の猶予
パトリシア・ハイスミス
(2021/01/08 23:08登録)
『見知らぬ乗客』も『太陽がいっぱい』も、いやあ本当におもしろいですねと言いたくなる映画でしたが、その原作者の小説は、今回初めて読んでみたのでした。で、その小説はやはり本当におもしろいものでした。まあ本作は、実際には家出した妻を殺したのではないかと疑われる作家を描いた心理サスペンスですので、あまり映画向きではないかもしれません。
読んだ創元版訳者あとがきには、本作は初めて邦訳されたハイスミス長編で、原題 “A Suspension of Mercy” の翻訳として「慈悲の猶予」は不適切だったので『殺人者の烙印』に改題したことが書かれていますが、その部分で結末をほとんど明かしてしまっているのは問題です。
ところで主人公が「アルハンゲリスクを訪れる」ことを考えるシーンが最初の方にあるのですが、これ、たぶん同じ妻殺し疑惑テーマを深刻に扱ったシムノンの『妻のための嘘』(原題直訳:アルハンゲリスクから来た小男)を踏まえているのではないでしょうか。


No.1238 6点 ドイツの小さな町
ジョン・ル・カレ
(2021/01/03 00:13登録)
昨年末に亡くなったジョン・ル・カレの第5作。
ル・カレと言えば長大な作品が多いイメージがありますが、本作はこの作者初の大作です。そして常連スマイリーが登場しない初めての作品でもあります。今回スマイリー的な役割を果たすのは、英国外務省諜報員のアラン・ターナー。彼がドイツの英国大使館での機密書類紛失事件を捜査することになるわけですが、最後の方になると、なるほど、こういう役回りならスマイリーではだめで、悪く言えば青臭い理想主義の若手でなければならなかったことがわかります。
それにしても、長いわりにスパイ小説としては動きが少ない作品です。ほとんど関係者一人一人から、事件の容疑者に関する事柄を聞き出していくだけの前半は、もっと短縮できなかったかなと思わせられました。しかしエピローグを含めたラスト3章は、ル・カレらしい迫力があります。


No.1237 4点 三毛猫ホームズの恐怖館
赤川次郎
(2020/12/31 00:17登録)
恐怖館と言っても赤川次郎のことですから、横溝正史や江戸川乱歩みたいな怖さは当然ありません。舞台は高校で、古いホラー映画を研究する怪奇クラブの会員たちが主要登場人物です。プロローグとエピローグとの間の4つの章は「オペラの怪人」「ジキル博士とハイド氏」「フランケンシュタイン」「ノスフェラチュ」となっています。
途中、ポルターガイストという言葉を片山刑事も石津刑事も知らず、「街頭ポスター」とかボケをかましてくれるのですが、本作が発表された1982年と言えば、スピルバーグ&フーパーの映画『ポルターガイスト』が公開された年ですから、ちょっと感覚を古く設定しすぎな気もします。
まあそんな途中部分の笑いはそれなりに楽しめたのですが、犯人の描き方も密室の理由もおざなりで、解決はどうもいただけません。ホームズも、ナイフの鞘を発見するシーンなんて、もう完全に超能力探偵猫です。


No.1236 7点 シルマー家の遺産
エリック・アンブラー
(2020/12/27 23:18登録)
久々の再読で、渋い味わいがよかったという印象だけが明確に残っていた作品です。
アメリカで10年以上前に死んだ人の遺産相続人を弁護士がドイツからギリシャをめぐり捜し歩く話は、スパイ小説とは言えないでしょう。ただし、後半ギリシャに着いてからの展開は、当時のギリシャ政情が背景になっていて、やはりアンブラーらしいシリアス政治スリラーの味わいです。
多額の遺産を残して死んだ人の名前はシュナイダーなので、その人の先祖がシルマーから改名してはいるものの、なぜこのタイトルなのかと思わせられます。ところがこれが最後に「シルマー」でなければならなかった理由が納得できるようになっているという構成がいいのです。
ところどころ「ゐ」の字がチェックミスで残っていたりという訳文の問題以外では、ギリシャに舞台が移ってからは展開が予想しやすい点が多少不満でしょうか。

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