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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.1270 5点 モグリ
安萬純一
(2021/06/04 22:43登録)
鮎川哲也賞受賞作家の、長編としては第3作に当たるようですが、本格派ではありません。横浜中華街を舞台に、台湾と中国本土マフィアの対立に、無免許医椚田が巻き込まれる、というかむしろ自分からからんでいく話です。タイトルはこの椚田のことで、ブラック・ジャックとまではいきませんが、外科医としての腕は確かです。
台湾マフィアのボスの息子殺害事件の隠された秘密については、伏線となる手紙の内容は、椚田は読んで知っていても、読者には知らされません。明かしてしまえば露骨すぎるのですが、本格派ではないと言ってもどうもね。また、結末に意外性はあると言えなくはないのですが、被害者の左手に関する件の理由説明は、全く理由になっていません。そもそもそんなこと、マフィアの掟の中で許されるんでしょうか。
それでも、なかなかハードな展開は、読んでいる間はおもしろかったことは間違いありません。


No.1269 7点 ディミティおばさま旅に出る
ナンシー・アサートン
(2021/06/01 20:50登録)
優しい幽霊ことディミティおばさまのシリーズ第3作ですが、最初の9作のうちなぜか第2作だけは邦訳がありません。それで、本作は「優しい幽霊②」となってしまっていて、訳者あとがきにも、本作が第2作だと勘違いしているようなことが書かれています。このシリーズは次作『~古代遺跡の謎』しか読んでいないのですが、ロリとビルの家庭生活の流れが重要な要素であることは2作読めば明らかなので、途中が抜けるのはちょっとねえという気がします。
今回は幽霊であるディミティおばさまが家を離れて旅をするというので、どういうことかと思っていたのですが、なるほど、おばさまがこの世とコンタクトをとる青い日記を、ロリの義父である大ウィリスが持って、イングランド各地に散らばる親族たちを訪問するのでした。
親族の過去に隠された秘密を探っていく話は、ミステリとしてもおもしろくできています。


No.1268 6点 メグレの回想録
ジョルジュ・シムノン
(2021/05/27 19:27登録)
クレイグ・ライスのユーモア感覚は自分には合わないと、『時計は三時に止まる』コメントには書きましたが、シリアスな小説の多い作者による本作には笑えました。「ジョルジュ・シム」のずうずうしさをぼやくメグレ、トランスの殉職の件…
文庫本にしたらおそらく150ページ程度でしょう、普通のメグレものよりも短いのです。もちろんミステリではありませんし(ドキュメンタリー風警察小説と言うのは、さすがに無理があります)、早川書房もよくもこんな異色作をミステリ全集に入れたなと思えます。せめて短編を1つ添えるぐらいのことはしてもらいたかったですね。『メグレ警視のクリスマス』等、候補はいくつもあります。
あと、この作品の著者、ジュール・メグレ名義で出版してもおもしろかったのではないかと思ってしまいました。シムノン自身、メグレものを始める前にはいくつものペン・ネームで小説を書いていたわけですし。


No.1267 5点 光る地獄蝶
愛川晶
(2021/05/24 22:49登録)
剣道三段の短大生栗村夏樹のシリーズ第2作。しかし、本作では彼女の剣道の腕前は披露されません。
これまでに読んだ愛川晶の2冊に比べると、シリーズものということもあってか、ストレートな謎解きミステリでした。ただし、犯人の意外性や独創的な殺人トリックがあるわけではありません。私立探偵殺害事件の真相は、ごく当然のものですし、過去の事件は密室ではありますが、毒殺なのですから、不可能性はそれほど感じられません。それより、その過去の自殺と思われた事件の「遺書」の謎が中心です。遺書の中にも出てくる表題の「地獄蝶」とはアゲハ蝶のことであることは、途中で明らかにされます。筆跡鑑定では間違いなく本人のものとされたその文章の持つ意味は、かなり異様なものです。また偽造説の根拠も、専門知識利用とは言え、鮮やか。
ラスト・シーンは、感情的にはそうなるのかなあと思ってしまいました。


No.1266 6点 時計は三時に止まる
クレイグ・ライス
(2021/05/21 23:21登録)
以前光文社文庫から、シリーズ第1作にふさわしい『マローン売り出す』の邦題で出版されていた作品ですが、マローンはこの事件で売り出したわけではなく、すでに辣腕の弁護士として知られているという設定です。
ライスのユーモアには、前に読んだ『幸運な死体』ではほとんど笑えなかったのですが、今回もそうでした。ヘレンが洗濯物のシュートに飛び込むという無茶な行動にも、ちゃんとした理由があるんだろうなと考えてしまうと、おかしみが感じられませんし、その行為に対するマローンたちの反応も、ごく自然な非難だけ。ヘレンとジェイクが酔っぱらってばかりというのも、ユーモアとしては好みに合いません。
しかし、だからつまらないというわけではありません。ヘレンの主導による、非常識な展開になるとはいえ、タイトルどおりの魅力的な謎を持つミステリとしては、犯人の見当はつきやすいものの充分楽しめます。


No.1265 5点 七年目の殺し
ミッキー・スピレイン
(2021/05/18 19:18登録)
『カストロ・スパイ』と表題作の2編の中編を収録しています。2作ともダブル・クライマックスを用意した作品なのですが、どちらもかえって最後があわただしくなりすぎるという欠点を持っています。『カストロ・スパイ』は邦題からもわかるとおりのキューバ情勢を取り入れたスパイ・アクションで、原書ではこちらの原題 “The Flier” が本のタイトルになっています。しかしこれがごちゃごちゃしすぎて、スピレインにしてはおもしろさがストレートに伝わって来ないのです。まあ、リアルな国際状況を的確に描くことのできる作家でないせいもあるでしょうが。
邦題の表題作の方が、これもやはりかなりごちゃごちゃしているとは言え、おもしろくできています。7年間冤罪で刑務所に入っていた元新聞記者が、何度もボコボコにされながら、最後は目的を達することになる話ですが、ただラスト・シーンで明らかになるある人物設定はどうもねえ。


No.1264 6点 黒岩涙香探偵小説選Ⅰ
黒岩涙香
(2021/05/12 19:41登録)
口語体で書かれた『幽霊塔』より約10年前に書かれた『無惨』および『涙香集』としてまとめられた8編で、これらは文語体だというので、相当な読みにくさを覚悟していたのです。ところが意外にも、凝った緻密な口語体より読みやすいぐらい。論創社版では旧漢字を常用漢字等に直しただけでなく、会話部分で各人のセリフの後に改行を入れてくれているおかげもあります。
それにしても創作小説『無惨』の内容には驚かされました。3部に分れたうち、全体の約4割を占める「中編(忖度)」全体が、真相解明の経緯説明にあてられているのです。この推理・説明がホームズやソーンダイク博士並みの緻密さで、まさに「推理」小説。
『涙香集』の8編中2編は、巻末解説によれば涙香自身の創作のようです。100ページぐらいの『探偵』は後のウォーレスあたりをも思わせるようなスリラー長編の短縮翻案でしょう。


No.1263 6点 サタデー・ゲーム
ブラウン・メッグズ
(2021/05/08 16:18登録)
「本格派の新しい衝撃!」というのが、ポケミスの帯の宣伝文句だったのですが、これは非常に疑問です。
全体の構成と文章は、登場人物たちの意識の流れを、各人の立場から細かく分けて追っていったもので、正直なところ、読んでいて本格派どころかミステリという感じさえあまりしないのです。「四月のある土曜日午前八時前」から始まり、ラストはその日の夜、ほんの半日間の出来事です。その中で登場人物たちが過去を振り返ったりもしていくのですが、それもほとんどは前日の夜から早朝までのことです。
テニスをしていた4人が警察の事情聴取で深夜のパーティの顛末を語った段階で、結末がどうなるかは見当がつきましたが、真相の証拠とその提示は実にあっけないもので、これでは「謎解き」になりません。一応最初の方に伏線は張ってあるのですが。奇妙な雰囲気を楽しむ心理小説だと考えた方がいいでしょう。


No.1262 6点 プレイボーイ・スパイ1
ハドリー・チェイス
(2021/05/05 14:46登録)
邦題から何となく想像していたほど、主役のマーク・ガーランドはプレイボーイではないように感じました。もっといろんな女性に積極的に手を出していくのかと思っていたら、最初に出てくる謎の女と、二重スパイのジャニンの2人だけ、それもむしろ相手の方から思惑があって彼に近づいてくるのです。また普段は小金で仕事を請け負うかなり貧乏くさい男であったところも、予想外。
話はパリから、ガーランドとも知り合いだったソ連を抜け出したスパイが潜んでいるセネガルへと移り、CIA、悪徳大富豪、ソ連スパイが入り乱れてのスリリングな展開になります。チェイスらしく、最初にガーランドを雇った男を手始めに、次々に人が殺されていき、最後の方には、ほとんど無意味と思える無差別殺人まであります。
最後の砂漠地帯での派手なアクションは楽しめますし、決着の付け方も説得力のあるものになっていました。


No.1261 4点 不連続線
石川真介
(2021/04/30 23:05登録)
第2回鮎川哲也賞受賞作です。事件担当の上島警部が、上島鬼貫という俳人(1661~1738)の句を思い出すシーンがあるのですが、これは当然、この俳人の名前から逆にこの警部の名字を作者は思いついたのでしょうね。それはいいのですが、容疑者が書いた3冊のミステリの題名感覚は、どうもいただけません。
内容的には、確かにアリバイトリックはなかなかよくできています。巻末の選評で、紀田順一郎は「発覚の機会が増えるわけで、感心しない」としていますが、個人的にはその出来事を利用するという着眼点は評価できると思います。むしろ、犯人がそれを利用できたという点が少々ご都合主義な気もしますが。
しかしそれより、本作に対して不満なのは、小説としての統一感のなさです。登場人物の心理描写もグルメ礼賛も文章が鬱陶しく、フィクションの枠内にすっきり収まっていない感じです。


No.1260 6点 暗夜に過去がよみがえる
メアリ・H・クラーク
(2021/04/27 20:46登録)
ニュースキャスターの幼いころ両親が死んだ事件の真相究明と、現在における女性上院議員の取材番組にまつわる脅迫、殺人とを絡めたサスペンス小説で、クラークらしくはらはらさせてはくれても非常に安定感のある筆致で話は進んでいきます。最後はすべて収まるところに収まり、特に意外性に富んでいるわけではありませんが、納得のいく結末。ただ、最初の脅迫電話で、「あの家に住んではならない」と言っている点については、論理的疑問があります。
脅迫者の正体が最後には明らかになるという構成かと思っていたら、意外にも1/3ちょっとぐらいのところで早々と脅迫犯の視点から書かれた部分が出てきます。それでもなぜこの人物が脅迫をするのかは、もっと後にならないとわかりません。
原題 "Stillwatch"(人知れぬ監視)という言葉はキャスターの隣人が言うのですが、そのわりにクライマックスでのこの人の活躍が不十分です。


No.1259 7点 ドルの向こう側
ロス・マクドナルド
(2021/04/24 12:52登録)
犯人が意外だという人も多いようですが、個人的にはかなり早い段階で、この展開なら犯人はどちらかでないとロス・マク最盛期にならないなと予測してしまったので、意外性を感じませんでした。と言っても、それはその真相に感銘を受けたかどうかとは全く別問題です。ただ最終章、ずっしりとは来たのですが、最後の数行だけ、少し甘いかなという気がしてしまいました。後、リュウが以前に付き合っていた女性が偶然事件の重要関係者として登場するのですが、この人がリュウの元カノだった必要があるのかにも疑問を感じました。まあ、その設定のため珍しく激したリュウを見ることもできることも確かなのですが。以上が、直前の2作に比べて点数が落ちる所以です。リュウにしては珍しいと言えば、捜査の手数料や経費のことで困ったりしているのもそうですが、このタイトル、その点も踏まえているのでしょうか。


No.1258 7点 オレンジの陽の向こうに
ほしおさなえ
(2021/04/19 13:55登録)
鳥沢真(とりさわしん)と森泉棗(もりいずみなつめ)の2人の視点から一人称形式で交互に書かれた作品です。2人が夢の中でしか会えなくなった理由は、真が死んだからで、現世と死後の世界をつなぐのはイワフネという地衣類(菌類と藻類が共生したもの)らしいということがわかるあたりは、棗のとぼけた性格の故もあってファンタジー系の雰囲気です。ところがその2人と関係のある様々な人物がからみあい、あまりにも現世とそっくりな死後の世界の秘密が明らかになっていく過程は、完全に謎解き的興味を中心に据えたハードSFの構造になっています。
死後の世界にもイワフネが現れる部分は安易な感じがしますが、以前に読んだタイムスリップ・テーマの『天の前庭』よりもSF的基本設定がしっかりしていて、しかもロマンティックなファンタジーとしても良く出ているという、なかなか楽しめる作品になっていました。


No.1257 6点 死にゆく者への祈り
ジャック・ヒギンズ
(2021/04/16 23:22登録)
ヒョーツバーグの『堕ちる天使』に続きミッキー・ローク主演映画の原作2作目、というより映画版は未見で、主演がこれもロークだったことは全く知りませんでした。あらすじを読んだ限りでは原作にほぼ忠実なようですが、YouTubeで確認できるマイク・ホッジズ監督の腕はアラン・パーカーよりかなり落ちる感じです。
元IRAの銃の達人マーチン・ファロンが本作の主人公ですが、この名前、tider-tigerさんが『虎の潜む嶺』評でも書かれているようにヒギンズの別ペンネームです。ファロン名義での最初の作品は1962年発表ですから、本作の11年前、あえてその名前の人物を主人公にしたところに、ヒギンズの本作への思い入れがうかがわれます。ファロンだけでなくダコスタ司祭の人物設定も魅力的です。
ただ、そもそも司祭が目撃した事実と告解で聞いたこととは別問題だろうと思うのですが、カトリックに詳しいわけではないので、そこはなんとも。


No.1256 7点 堕ちる天使
ウィリアム・ヒョーツバーグ
(2021/04/12 17:53登録)
映画『エンゼル・ハート』を先に見た人も多いでしょうが、かく言う自分もまたそうです。ミッキー・ロークとデ・ニーロの演技、そしてアラン・パーカー監督の鮮烈な映像は記憶に残っているのですが、ストーリーの方はごく早い段階で予想できたオチを除くと、ほとんど覚えていませんでした。
そんな曖昧な記憶でも映画ではあまり感じなかったと思うのですが、原作は確かにハードボイルドです。それもチャンドラーよりもかなり荒っぽい感じ。カバーの粗筋など、本作の紹介では必ず載っているのでハードボイルドとオカルトとの融合であることは書いてしまいますが、前半にヴードゥー教の儀式場面はあるものの、本当にホラー的要素がちらつきはじめるのは半分を過ぎてからです。前知識なしで読めば、結末が見えるのはその段階になってからでしょう。
結末の意外性と細部の論理性に拘らなければ、迫力は充分でおもしろくできています。


No.1255 6点 桜さがし
柴田よしき
(2021/04/08 20:03登録)
表題作等8編を収めた連作青春ミステリ。
たまにはこの作者でも、と手に取ったのですが、意外にもかなり前に読んだ『風精の棲む場所』で探偵役だった浅間寺(せんげんじ)竜之介がやはり登場する短編集でした。他にも様々なシリーズを書いている作家なんですけどね。最終話の『金色の花びら』の中に、世の出来事は神が決めることで、それを偶然と呼ぶという意味のことが書かれていますが、本書を選んだのも、やはり神が決めたこと…
ただし主役はむしろ、浅間寺が中学校教師だった頃の教え子たち4人です。20代半ばになったこの4人の人生・関係を描いた中に、ミステリ要素を加えた感じになっています。浅間寺が探偵役を務めるとは限っていません。まあ『思い出の時効』だけはミステリとして成り立っていないとは思うのですが。
全体的に各話の締め方がクサ過ぎる気もしますが、京都の雰囲気も良く、楽しめました。


No.1254 6点 蹄鉄ころんだ
シャーロット・マクラウド
(2021/03/28 18:50登録)
マクラウド初読印象は、気持ちのいいミステリというところでしょうか。
バラクラヴァ農業大学のシャンティ教授シリーズはこれが第2作ですが、馬房に掛けてある蹄鉄がすべてひっくり返されていたという奇妙な事件から始まり、貴金属工芸店の強盗事件、大学で飼育している豚ベリンダの誘拐事件、そして装蹄師殺人事件と、早い段階で次から次へと立て続けに事件が起こります。
コージー系らしいほのぼの感はもちろん楽しめ、事件解決後のジャーナル情報を使ったまとめ方などうまいものですが、謎解き要素についても、犯人の正体こそ大して意外ではないものの、ベリンダの隠し場所とか殺人の動機とか、いろいろと工夫されています。ただ、そもそもベリンダを誘拐する必要があったのか、疑問です。警察の捜査攪乱のためということかもしれませんが、やはり無駄な労力という気はします。


No.1253 6点 欺き
ローレン・D・エスルマン
(2021/03/22 22:37登録)
巻末解説では、エイモス・ウォーカーのシリーズ翻訳は1991年に早川から出版された『ダウンリヴァー』以来9年ぶりで、「″懐かしい″感情が生まれてくる」と書かれています。どうやらこの感情の裏は、エイモスがネオ・ハードボイルドの市井派私立探偵たちに比べて、マーロウ・タイプの「孤高の騎士」的だということも、あるようです。
依頼人は知人のアイリスですが、以前の作品に登場していたのでしょうか。既読の『シュガータウン』も細かいことは覚えていないのですが、未訳の作品もかなりあることですし。実の父親を捜してほしいけれど、すぐには料金を払えないという彼女のために、一肌脱ぐことになるのが、エイモスの「騎士」らしいところ。その調査の途中で、ギャングが絡んできて、殺人も起こりますが、このモーテルでの殺人事件の真相は、まあこんなものかなという感じです。それよりアイリスの父親探しの顛末が以外で心に残りました。


No.1252 6点 夜明け遠き街よ
高城高
(2021/03/16 23:15登録)
2012年に出版された本作は、1980年代後半のいわゆるバブル期の札幌ススキノを舞台とした7編を集めた連作短編集です。共通する主役はキャバレーの「サブマネ」(副支配人)黒頭(くろず)裕輔、キャバレー等のスタッフを意味する「黒服」という言葉が使われています。
読む前から予測はしていたのですが、当時の華やかな夜の世界、ヤクザや政治家への賄賂なども出てくる話が集められていて、黒頭が問題解決にあたることが多いとは言え、明確にミステリと呼べる作品は多くありません。『フィリピン・パブの女』、『夜明け遠き街』の2編が、まあ一応謎や捜査が中心になっているかなというぐらいです。他に、『赤ヘネと札束の日々』にも犯罪は絡んできますが、それが中心でもありません。そのラストの電話、「笑い声が途中で切れた。」の1文で終わるところ等、やはりハードボイルドらしい感覚ですが。


No.1251 6点 あたしにしかできない職業
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2021/03/13 09:18登録)
ステファニー・プラム・シリーズの第1作邦題は『私が愛したリボルバー』でしたが、第2作の本作ではタイトルの一人称が「あたし」に変わっていて、本文でもやはり「あたし」です。なるほど、ヴィクやキンジーなら間違いなく「私」あるいは「わたし」でなければなりませんが、このシリーズは「あたし」の方が似合います。
裁判所に出頭せず行方をくらました保釈中のケニーが相当の悪であり、警察からも今回の逮捕事由とは別件で容疑をかけられていることは、ほとんど最初からモレリ刑事の話でわかります。このモレリ刑事とステファニーとの関係が、ステファニーの家族状況とからまって、なかなか楽しめます。ただこの作者のユーモアは、本作では特に文章よりも映像化した方が笑えるのではないかと思えました。
24個の棺桶盗難事件とケニー事件との関係は、悪くはありませんが、まあそんなところでしょう。

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