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ミステリの祭典

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ドルの向こう側
リュウ・アーチャーシリーズ

作家 ロス・マクドナルド
出版日1981年04月
平均点7.80点
書評数5人

No.5 7点
(2021/04/24 12:52登録)
犯人が意外だという人も多いようですが、個人的にはかなり早い段階で、この展開なら犯人はどちらかでないとロス・マク最盛期にならないなと予測してしまったので、意外性を感じませんでした。と言っても、それはその真相に感銘を受けたかどうかとは全く別問題です。ただ最終章、ずっしりとは来たのですが、最後の数行だけ、少し甘いかなという気がしてしまいました。後、リュウが以前に付き合っていた女性が偶然事件の重要関係者として登場するのですが、この人がリュウの元カノだった必要があるのかにも疑問を感じました。まあ、その設定のため珍しく激したリュウを見ることもできることも確かなのですが。以上が、直前の2作に比べて点数が落ちる所以です。リュウにしては珍しいと言えば、捜査の手数料や経費のことで困ったりしているのもそうですが、このタイトル、その点も踏まえているのでしょうか。

No.4 8点 クリスティ再読
(2018/07/07 22:42登録)
「運命」から「一瞬の敵」までの間、ロスマクって本当に外れがない。本作は富裕な両親に反抗して矯正施設に送られた少年が脱走し、家には身代金を要求する電話がかかる....少年は自らの意思で誘拐されたような口ぶりに、この家庭の秘密をアーチャーは予感する。という話。
少年(とその少年に恋してやはり両親に反抗する少女)を軸に描いていることもあるが、本作のテーマは「父性」である。実際少年の父は体育会系パワハラ親父で、少年がアート好きの繊細系なのが気に入らない様子を見せる。この親父、ロスマク作品の中でも一二を争う「嫌なヤツ」な気がするな。で、その代理と言っちゃあ何だが、アーチャーが押し付けがましくないナイスな「父性」を見せてくれる。
キャラ確立以降のアーチャーは、キャラを印象づけて「かっこよく」描こうという意図をほとんど感じないのだけど、本作のアーチャー、何かすごくカッコイイのだ。少女を元カノの家に預けて、一人廃ホテルに赴く姿とか、なかなかシビれるものがあるくらいに、カッコイイ。

あなたが、ぼくの父親だったらよかったのに

これぞアーチャーへのご褒美というものだ。「父親探し」が後期ロスマクの固執的テーマなことは言うまでもないんだけど、自身の固執テーマさえもうまくミスディレクション的に処理しているあたり、なかなか「うまい」作品だと思う。どうも「さむけ」「ウィチャリー家」だけが注目されがちだけど、いろいろな面で本作もナイスな作品だ。

No.3 7点 あびびび
(2011/09/08 14:47登録)
リュウ・アーチャーは依頼人のわがままにも決して投げ出さず、しかも出てくる事実は壊れ物ばかり…。

しかし、ハードボイルドの分野で、一番犯人が意外で、どんでん返しがある作家だなと思う。ほとんど外れはない、安心して読める?

No.2 8点 Tetchy
(2009/05/20 19:26登録)
犯人は予想外ではあるが真相は半ばで自らが仮説した通り。そのせいで物語に失速感を感じたのかもしれない。
人前では現実を直視しない素封家として振舞っていた彼女が実は常に過酷な現実に対峙せざるを得なかったために起こった憎悪が招いた悲劇。
嗚呼、痛々しい。

No.1 9点 ロビン
(2008/12/15 22:18登録)
お馴染みの、失踪者の捜索という依頼を受けてアーチャーが悲劇の歯車を回し始める。
本書は、後期ロスマクには希少な、冷静沈着なアーチャーが激昂し感情を露にする場面がある。思春期の(ちょいと年はいきすぎだけど)少年を通じて、ロスマクの思想や哲学が伺える。そういった意味でも、他にはない貴重な作品。
ラストでようやく事件の全景を眺められ、その犯人もまた、予想の及ばない人物だった。
今回のアーチャーはカッコいい。

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