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ミステリの祭典

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メグレの回想録
メグレ警視 「世界ミステリ全集09 ジョルジュ・シムノン ボアロー&ナルスジャック アルベール・シモナン」収録/別題『メグレ警視の回想録』

作家 ジョルジュ・シムノン
出版日1973年04月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点
(2021/05/27 19:27登録)
クレイグ・ライスのユーモア感覚は自分には合わないと、『時計は三時に止まる』コメントには書きましたが、シリアスな小説の多い作者による本作には笑えました。「ジョルジュ・シム」のずうずうしさをぼやくメグレ、トランスの殉職の件…
文庫本にしたらおそらく150ページ程度でしょう、普通のメグレものよりも短いのです。もちろんミステリではありませんし(ドキュメンタリー風警察小説と言うのは、さすがに無理があります)、早川書房もよくもこんな異色作をミステリ全集に入れたなと思えます。せめて短編を1つ添えるぐらいのことはしてもらいたかったですね。『メグレ警視のクリスマス』等、候補はいくつもあります。
あと、この作品の著者、ジュール・メグレ名義で出版してもおもしろかったのではないかと思ってしまいました。シムノン自身、メグレものを始める前にはいくつものペン・ネームで小説を書いていたわけですし。

No.2 7点 クリスティ再読
(2018/07/12 22:07登録)
メグレものなんだけど、空さんがやり落とされていた作品で、評者もそのうちやりたいなと思いながらも、怠けてたら雪さんに先を越されてしまった。70年代に「モダンの極み」な編集方針で、伝統的なファンの怒りを買ったことで有名なハヤカワの「世界ミステリ全集」で訳されて以来、ポケミスにも文庫にもなっていない「メグレの回想録」である(その前にHMMで訳されたことはあるらしい)。
メグレだって最初から管理職だったわけではなく、駆け出し時代はパトロール警官だって、風紀係だって、平刑事だってやっている。メグレ夫人との馴れ初めまで描いた、メグレの青春を語っちゃった本作は、ファンサービスのための公式薄い本みたいなものだよ。メグレものに親しんでいる読者にとっては、非常に興味深く読める作品なのだが、メグレ自身によるエッセイでしかないから、小説だと思うと困るだろう。それでもね、評者は「メグレの青春」を何かほっこりした気持ちで読んでいたなあ。特にメグレの生い立ちみたいなことが語られる章もあるので、とくに「サン・フィアクルの殺人」は読んでおいた方が楽しめるだろう。
普通のメグレもの小説だと「ミステリ」なので、メグレが感じてること・考えていることは、わざと描写されないことが多いけど、これは「回想録」だ。かなり自分を語っていて、メグレものを読んでいればいるほど、興趣が増す。

人間の神秘的な部分を理解してはいけない--わたしが最も熱心に、ほとんど怒りさえこめて抗議するのは、こういうロマネスクな考え方に対してである。

そうやって得た人間の神秘とは「いわば技術的なもの」だとメグレは言う。ここらへんにきわめてフランス的な知性を感じる。人間の魂と靴とケーキと、それぞれに対する、刑事、靴屋、菓子屋の知識に貴賤の違いはなく、それぞれがそれぞれに、尊い知識なのである。シムノンが明白に気楽に書いているだけに、手の内をかなり明かしているという、作家論として外せない読み物である。

(挟み込みの月報と巻末の座談会が、シムノン受容を考えるにあたって、70年代初めまでのきわめつけの資料になる。そういう意味でも読みでがある。すごい)

No.1 4点
(2018/07/07 16:51登録)
 一方的にシムノンのモデルにされた「実在の」メグレ警視が、ナマの姿を読者に語るという凝った形式を採ったメタフィクション。作者肝煎りのメグレ同人誌と思ってもらえばいいです。秀作の世評高い「モンマルトルのメグレ」の前に発表された、いわゆる円熟期の作品。作家として一番脂の乗った時期に、こんなしょうもない物を書くのがけっこうおちゃめです。
 この中ではシムノンは行き過ぎなくらい自信家として描かれており、好き勝手に実像を歪めた挙句、口論になると「メグレ、黙らないか!」と怒鳴りつけたりします。その対応に内心むかむかした本人がこういうものを書いたと、そういう事になっております。
 幼少期の思い出、メグレ夫人とのなれそめ、本庁での初逮捕その他のエピソードなど、ファンにとっては何回も読み返せるスルメのような読み物。「怪盗レトン」でトランスが殺されたのは実は別の刑事のエピソードで、退職後「O探偵事務所」を開いたのが正しい、最初期にメグレの部下として登場したデュフールは実はメグレに仕事を教えた刑事、など細かい訂正もあります。
 ただしメグレに興味の無い人間には単なる新人刑事奮闘記か実録もどき。表記の点数が妥当な所でしょう。
とはいえメグレファンには必携の書。決して"読まなくてもいい"作品ではありません。その場合の採点は6点相当にはなるでしょうね。

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