時計は三時に止まる マローンシリーズ/別邦題『マローン売り出す』 |
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作家 | クレイグ・ライス |
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出版日 | 1987年05月 |
平均点 | 5.67点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 5点 | ボナンザ | |
(2023/05/13 21:47登録) さっくり読める一作。キャラクターたちに馴染めるか次第。 |
No.5 | 6点 | nukkam | |
(2022/06/04 21:25登録) (ネタバレなしです) 米国の女性作家クレイグ・ライス(1908-1957)が1939年に発表したミステリーデビュー作です。作風がユーモア本格派推理小説と認識されていることが多い作者ですが、本書の死体発見場面はまるでゴシック・ホラー風な雰囲気なのに驚かされます。もしも死体発見者で最有力容疑者となったヒロイン視点のまま物語を展開させていたら1級のサスペンス小説に仕上がったかもしれませんが、本書は酔いどれ弁護士マローンシリーズ第1作であります。とんでもない行動でとんでもない展開となるところは早くもライスの個性が発揮されており、ハリウッドを舞台にして派手などたばた要素を織り込んだエラリー・クイーンの「悪魔の報復」(1938年)や「ハートの4」(1938年)を意識したのかもしれません。もっともヘレンを事件関係者に設定したためか、これでも後年作と比べるとユーモアはまだ抑え目ですが。随所で酒の勢いを借りる場面が描かれていますが、下品な方向に走らないのもこの作者ならではです。殺人現場の時計が全て三時で止まっていたという風変わりで魅力的な謎の真相はそれほど印象に残りませんが、犯人を特定するマローンの推理はなかなかの切れ味です。余談になりますが私の読んだ光文社文庫版は5章が尻切れトンボ状態で、文章が終わらないまま次ページへ進むといきなり6章が始まってショックでした。 |
No.4 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2022/03/05 20:36登録) 先日やった「家の中の見知らぬ者たち」の主人公ルールサが酔いどれ弁護士だったから..でもないが、酔いどれ弁護士といえばご存知J.J.マローン。そのデビュー作だからもれなくジェイク&ヘレンのコンビもついてくる。「飲んで騒いで~~」の連続でなかなか楽しいし、とくにヘレンがスクリューボールコメディのヒロインっぽくツンデレぶりを発揮して、なかなかよろしい。ジンジャー・ロジャースとかああいった辛辣で行動的なタイプ。会話も洒落ていて、映画にしたら向いてそう。ヘレンが全部おいしいところをかっさらっていくような印象だし、ライスの「理想の自分」みたいなものが投影されているのかな。 なんだけど、ミステリとしては「こんな真相だとイヤだな」と第一感で思うようなのが真相。家の中の時計が全部止まっている理由も、屁理屈を聞いてるみたいな気分。話のデテールは楽しいんだけどねえ...あと意外に話の展開にメリハリがない気もする。デビュー作だからそんなものか。 (評者、マルクス兄弟みたいなのが「ファース」だと思うんだがなあ...カーだと「盲目の理髪師」はファースだけど、「連続殺人事件」はスクリューボールだと思う) |
No.3 | 6点 | 空 | |
(2021/05/21 23:21登録) 以前光文社文庫から、シリーズ第1作にふさわしい『マローン売り出す』の邦題で出版されていた作品ですが、マローンはこの事件で売り出したわけではなく、すでに辣腕の弁護士として知られているという設定です。 ライスのユーモアには、前に読んだ『幸運な死体』ではほとんど笑えなかったのですが、今回もそうでした。ヘレンが洗濯物のシュートに飛び込むという無茶な行動にも、ちゃんとした理由があるんだろうなと考えてしまうと、おかしみが感じられませんし、その行為に対するマローンたちの反応も、ごく自然な非難だけ。ヘレンとジェイクが酔っぱらってばかりというのも、ユーモアとしては好みに合いません。 しかし、だからつまらないというわけではありません。ヘレンの主導による、非常識な展開になるとはいえ、タイトルどおりの魅力的な謎を持つミステリとしては、犯人の見当はつきやすいものの充分楽しめます。 |
No.2 | 7点 | 弾十六 | |
(2019/05/05 16:43登録) マローン第1作。1939年出版。創元文庫1992年初版で読みました。 発端の謎の魅力より登場人物たちの騒ぎが面白い。何故か常に飲んでるシーンばかり。みんな呑んだくれてる。(車の運転中にも!) 展開が良く、ぐずぐずした堂々巡りも二日酔いのよう。結末も素晴らしい。人々への暖かいまなざし(ジョークと同様、酔いは人を平等にする?)がライスの持ち味ですね。 p118 スヴェンガリ…トリルビー…: 1895年のデュモーリア作の小説Trilbyの作中人物。ジョン バリモア主演の映画は1931年。 p142 “ランプを持った女”(the lady with the lamp): 訳注で「ロングフェローの詩からの引用」となってますが意味不明。その詩Santa Filomena(1857)ではthe lady with a lamp。単に「看護婦ナイチンゲール」と記載すれば良いのに… その詩でこのフレーズが有名になったらしいので間違っちゃいませんが… p144 “古戦場のある小さな町よ”(It’s only a shambles in old shambles town): Jake caroledと続くのですが、聖歌のパロディなのかな?調べつかず。(2021-8-22追記: In a Shanty in Old Shanty Town、詞Joe Young、曲Ira Schuster&Jack Little、1932年10週連続ナンバー1ヒットとなった曲のもじりだろう) p167 <ヴァージニア グレイズ>(Virginia Grays): タバコの銘柄。Web検索では見つからず。この銘柄は女性用だ! と思ってしまったのはVirginia Slims(1968年販売開始)のせいです。 p167 『きみがふたりいたら』のメロディを口ずさんだ(hummed a line of I Wish That You Were Twins):Joseph Meyer作曲、Eddie De Lange作詞の1934年のヒット曲 I Wish I Were Twinsのことか。Fats Wallerがオリジナル。歌詞の方ではI wish that I were twinsとなっている。 p188 [タクシーの]チップ五十セント(tipped me fifty cents): 消費者物価指数基準1939/2019で18.29倍、現在価値1020円。高額だと思いますが、ここの訳では印象に残らない。(わざわざ運転手が言ってるので、多いか少ないかどっちかだな…と漠然と感じますが…) p235 おじいさんの時計(Grandfather’s clock): 1876年 Henry Clay Work作詞作曲。日本語版「大きな古時計」は「みんなのうた」で1962年から。 p330 やばい煙草(monkey weed): 成句ではないようですが感じはわかりますよね。 p330 ターキー イン ザ ストロー(Turkey in the straw): オクラホマミキサーだって! 1830年ごろの有名曲(作者不詳)とのこと。 |
No.1 | 5点 | tider-tiger | |
(2016/07/02 11:46登録) 翌日に婚約者と駆け落ちの御予定を控えているホリー。ところが、目を覚ますと屋敷内では大きな異変が起きていた。屋敷中の時計がすべて夜中の三時で止まっている。そして、ホリーの結婚に断固として反対している伯母が刺殺されている。 そういえば、昨夜、おかしな夢を見た、あれはなんだったのだろう? そして『このあとすぐ! 「ホリー、駆け落ちのはずが豚箱へ」お楽しみにね』という展開になります。 ホリーの婚約者はジェイクの仕事仲間、ホリーのご近所さんがヘレン。そういうわけで、マローンも呼ばれて、お馴染みの三人組が事件に介入(デビュー作だからお馴染みでもなんでもないのですが)。こともあろうかジェイクとヘレンは容疑者同行の現場検証の際にホリーを逃亡させてしまいます。 クレイグ・ライスのデビュー作です。半眠半醒といった状況のホリーの心理描写から物語が始まります。丁寧というよりはグズグズした感じでありますが、個人的には悪くない書き出しだと思いました。 三時に止まっていた時計、夢と犯罪との関連、脱獄と魅惑的な材料が色々ありますが、どれも生煮え。それらをうまく使いこなせていません。動機の隠し方も感心できなかったし、容疑者が少なすぎますね。警察が当然発見して然るべきものを発見していませんし。いかにもデビュー作という印象。 ただ、シリアスな物語と破天荒なキャラクター、重い話を軽く書くライスの作風はすでに萌芽しております。ユーモアミステリでありながらも作品全体に陰がある。ホリーの家庭の話もけっこうヘビーですが、事件のあった屋敷の御近所さんなのにヘレンの家族が誰も出てこないのはなぜ? 酒をやたらと飲み、無謀な運転をして、ビールの入ったコップをクルクルと回し、コップをいくつも割る。ヘレンはただの楽しい酔っ払いではなさそう。潜在的な自殺願望者ではなかろうかなんてことまで考えてしまう。 クレイグ・ライスはそういうことをはっきりとは書きません。 だから、本当のところはわかりません。 |