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ミステリの祭典

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makomakoさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:887件

プロフィール| 書評

No.327 8点 イニシエーションラブ
乾くるみ
(2013/06/21 21:12登録)
 「最後から2行目で本書は全く違った物語に変貌する」と裏書に書いてあるのだが、読んでみるとなかなか素敵な青春小説のよう。なんだか自分の青春時代に重なるようにも思えて実にほほえましい。これがどうなるのだろうと思いつつ後半になると何となく違和感を感じてきた。
 確かに最後でびっくり。こんな風とは思わなかった。はっきり言って良く分からないまま終了。大矢氏の解説に再読のお供にとあったところを読み、再読してみるとこれはなかなかの話なのだ。
 女は怖いねえ。


No.326 6点 十八の夏
光原百合
(2013/06/19 17:03登録)
 日本推理作家協会賞の作品なのだが、あまり推理的要素はない。かといって帯にあるように恋愛小説部門第1位というほどのものでもないように思います。悪くはないのですが、そんなにもてはやされるほど良くもない。女性が読めばよいのかもしれない。
 わたしには女性が若いころを描くものはどうも感情移入ができにくいところがあります。若い男からみると素敵な女性はいつも神秘でした。ところが女性が女性を描くとそういった神秘性は全くなく(当然ですが)、美人の描写があっても男をひきつける性的魅力が表現されていないことが多い。まあ同姓が描くのですからやむをえないのですが、女性主人公はどうも魅力に乏しくさらに男にはかけない鈍感さが目立ってしまうのです。
 そういった感じがこの作品にもあり、主人公にさほど魅力を感じなかったので読んでいてさほど感銘を受けませんでした。


No.325 7点 追悼者
折原一
(2013/06/16 13:25登録)
 折原一の作品は複雑で精緻な構造なものが多いため時に読むのがつらいということもあるのですが、この作品は誰でも知っている事件のようなストーリーのため入り込むのに苦労はありませんでした。読んでいくと興味深いが複雑でわたしなどは完全に作者の掌でもてあそばれた状態で、途中でぜんぜん違う結果を提示されているにもかかわらずその時点ではそうなのかと納得してしまった。
 犯人など当然指摘できず、名前を指摘されてもえーと誰だったかなといった始末です。きっと読み返すとしっかり伏線が張ってあると思うのですが、もういちど読む気にはなれず、作者を信用して?これでよいということとしました。
 でも読んでいて結構楽しかったのだから不思議なものです。


No.324 6点 京都祇園舞妓追走の殺人
柏木圭一郎
(2013/06/12 21:30登録)
 このシリーズは結構書かれておりドラマ化もされているのですが、このサイトではまったく取り上げられていない。確かに旅情ミステリーとされるジャンルなので、本格物とすればちょっと弱いことは否めませんが、読みやすくちょっとした時間つぶしには悪くないと思います。
 ダイイングメッセージなども出てくるが本格物として読むとちょっといけない気もする扱いかたではあります。
 主人公に癖がなく、京都の雰囲気と料理番組風の内容が盛り込まれているので読んでいて楽しいといえば楽しい。


No.323 5点 最も遠い銀河
白川道
(2013/06/12 21:15登録)
 文庫本4冊に渡る長編小説で作者は相当力を入れたことと思いますが、残念ながら私にははあまりよろしくありませんでした。出だしはなかなかよいのです。主人公も悪くありません。長編なのに読みやすくすらすら読めるのもよろしい。
 ところがこの小説は根本的に天国への階段の焼き直しなのです。さらに悪いことには主人公を追い詰める退役警察官の執念が的外れなことです。これでは主人公を心から慕う女性の思いを踏みにじることとなってしまうのに命が尽きようとしているのに追い詰めていく姿は、共感が得られ難いでしょう。金が有るとは思えないのに北海道から東京へ何度も旅行して相当日数滞在して、被害者が(本当は被害者ではないのですが)最もやってほしくないことを暴き続ける姿はストーカー以外何ものでもない。
 この小説の話の展開で相手のこともわかり真相も分かったら、それ以上追求しないのが人というものと思いますけども。
 そういった内容なので「天国への階段」より評価が大幅に下がってしまいました。


No.322 6点 九マイルは遠すぎる
ハリイ・ケメルマン
(2013/05/19 11:03登録)
 純粋な推理ゲームとして楽しむのなら、こな作品はできも良く実に楽しいこととなるので、このサイトでの評価が高いのはある面で当然なのでしょう。
 1作ごとに巧妙なトリックが仕掛けられそれを探偵が鮮やかに解いていく、まさに本格物の真髄が楽しめます。
 ただし物語としての小説を愛するものには単なる屁理屈の連続となってしまうといった面も大いに持っています。
 わたしは安楽椅子探偵ものは決してキライではないのですが、本格物を読む際にも登場人物への感情移入や物語性を求めているようなのでこういった作品集はちょっと苦手です。はじめは感心するのですが、だんだん退屈になり最後の作品まで読むのが苦痛になってしまう。
 パズルやトリックに興味がある方はお勧めですよ。
 


No.321 7点 珈琲店タレーランの事件簿2
岡崎琢磨
(2013/05/12 16:57登録)
 前作では主人公に多少の違和感があったが、2作目となると雰囲気になれて読みやすくなったぶんよかったかな。
 このシリーズは殺人のような物騒な話はなく日常の謎を解き明かしていくものなので、目を見張るようなトリックなどはないーーと思っていたら結構しっかりミスリードされ最後になってトリックに引っかかってしまったことを気づかされた。
 軽い話で後味も悪くないのでちょっと読むにはよいのでは。この本だけで話は完結しているのですが、やはり1作目から読んだほうがより興味深いと思います。


No.320 8点 天国への階段
白川道
(2013/04/28 07:56登録)
 感動した。久しぶりです。
 生涯を誓った女性に裏切られ、財産も親も失った男が復讐しようとするお話がメインですが、それとともに生涯変わらない男と女の愚直なまでの生き方がすばらしく、殺伐たる話となるところを全く違った感動へ導いてくれる。
 ことにヒロインの亜木子が素敵だ。近年このように心に残るヒロインに出会ったことはなかったなあ。
 幼なじみの圭一と亜木子が何十年ぶりかに再開して「けいちゃん」「あきちゃん」と呼び合うシーンはほんとうに感動しました。
 この小説は社会派ミステリーでもあるが素晴らしいラブストーリーでもあるのです。
 長いお話ですが一気に読ませる力があります。
 残念なのは後半の展開がかなりベタベタのお涙頂戴風にになってしまったこと。

以下ちょっとネタバレ
 エピローグはどうかなあ。ないほうがよいような気もするが。これでは主人公のために命を落とした部下が浮かばれないし、娘の深く傷つくのではないだろうか。親の勝手だよねこれって。読んだあとちょっとやりきれない。


No.319 7点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2013/04/13 14:52登録)
 どの作品もきちんと考え抜かれており、水準は高い。法月氏のいつものようにあとがきに作品に対する作者の考えや参考文献がのっている。内外の推理小説をよく読んで勉強家だなあと思う半分、こんなに色々と読むからそれに縛られて悩むんでしょうと同情もする。
 この人の才能ならこんなことやっていないで思いついたらさっさと書いてくれればもっと面白いものがたくさんできそうなのだが。まあ作者の性格なのだからしかたがないか。
 いずれも粒ぞろいの本格物だが、猫の巡礼はちょっと異質。これ結構面白かったです。
 


No.318 7点 せどり男爵数奇譚
梶山季之
(2013/03/14 21:20登録)
 なかなか面白い。発行当時の感覚と今は多少のずれがあることにちょっとビックリ。私にとってこれが発表されたのはちょうど大学時代から社会人となっていった時期なのだが、そういえばこんな感覚だったようにも。
 中共やソ連といった言葉も久しぶりです。最近は大学時代は講義よりクラブとマージャンの時間が長かったような気もするのですが、最近ではマージャンもあまりやらなくなり、各話ごとのマージャンの役の名前もひょっとしたら若い人たちは分からないのかもしれない。
 そういったことも含めてわたしとしては面白く読めました。


No.317 7点 ビブリア古書堂の事件手帖4
三上延
(2013/03/05 21:40登録)
 今回は江戸川乱歩のお話。いつものように連作ではなく一本の長編。相変わらず栞子さんは素敵で本に関してはとんでもなくすごい知識とインスピレーションをもつが、お母さんはさらにすごいようだ。
 今回ようやく母親の智恵子さんがはっきりと登場となった。なかなか冷たく大変な人だが、それなりによいところもあるようです。
 母娘の本に関する推理は相変わらずすごい。大輔と栞子さんのロマンスもようやく伸展してきて次回が楽しみ。大輔君そろそろバシッと決めてくださいね。


No.316 7点 閃光
永瀬隼介
(2013/03/02 17:10登録)
 3億円事件は学生時代に経験した一大事件だった。その真相が、このようなものであったのかと思ってしまうほどの迫力と現実感がまず素晴らしい。ストーリーの展開も良く、描写されている登場人物があちこちに変化して普通は分かり難くなってしまいそうなのだが、ほとんど混乱なく読めてしまうのは作者の筆力なのでしょう。
 ただ登場人物が好きでないなあ。警察はこんなに下品で若いのがちょっとしたことですぐ切れて先輩の胸倉をつかんで怒鳴りあげたりするのかなあ。 
 わたしは官憲が好きとはいえないが、これはちょっとひどい。これではやくざよりよっぽど悪そうではないか。
 まあ犯人がある程度めぼしがついたところで、のっぴきならないお家の事情でうやむやになったというようなことは何となくありそうですがね。

 


No.315 7点 小説家の作り方
野崎まど
(2013/02/24 09:04登録)
この世で一番面白い小説を思いついたのだが、 書き方が分からないから教えてほしいというへんてこりんな出だしに、ライトノベルス風だし大丈夫?と心配しつつ読んでいったが、これが意外と面白い。
 なるほど。そうくるか。
 読みやすい文体だが、時折おじさんには意味不明な単語が出てくる。まあこのぐらいはよろしいでしょう。
 本格物として読むと、理論が破綻したところがどうしても目立つのですが(うっとうしい読者で申し訳ない)、結構楽しいですよ。
 表題だけ見て引っ込まないで読んでみては。
 


No.314 6点 妖異金瓶梅
山田風太郎
(2013/02/17 17:03登録)
 題名からも作者からもひょっとして(しなくても)エロ?と思ったが評価が高そうなのでネット購入した。届いてビックリ。こんな厚い本とは思わなかった。ネットだと時に思わぬことがありますね。
 読んでみると連作がつなぎ合わさっているようで、でも全体としてはきちんと一つの話としてできている。
 初めあんまりエロくないのに拍子抜けしていたが、読み進むに従って結構な短編本格推理小説のつなぎ合わせで、しかも主人公の好色大金持ちの西門慶、お調子者の応伯爵、とんでもない妖婦金蓮が個性豊かに描かれており、だんだん面白くなっていく。
 本格物として読むとちょっと甘いが、でもトリックも鏡を使ったり瞬間移動、ばらばら殺人など思ったより豊富でナカナカでした。


No.313 7点 伯林蝋人形館
皆川博子
(2013/02/03 10:05登録)
6人の作品とそれの解説といった体裁となっている。
 それぞれが自分の視点で同じ登場人物、同じ時代の作品を書きその後に解説様の話がつづく。第1次大戦後の混乱したドイツが生々しく描かれ、このような無茶苦茶な時代はなかなか想像しがたいのだが、本当にこんな世界に生まれなくてよかったと実感させられる。
 これでは世の中に絶望して自殺や享楽が横行し、極端な思想に走ろうというのもある程度理解できる。
 それにしても複雑に内容が絡み合っており、わたしなどは作者に翻弄され続け登場人物が少ないにもかかわらず頭が混乱して内容を十分に把握したとは言いがたい。
 解説の瀬川氏が年表を作ってくれており、それを読んでかなり混乱が収まったという次第です。
 東西ドイツが統一されてしばらくしたころにドイツへ行き、西と東の違いをまざまざと感じたものでしたが、この小説の時代はそんな程度の混乱ではすまされない破壊と混乱が満ち満ちている。
 暗く悲惨な時代を描いた秀作と思います。


No.312 7点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2013/01/27 10:00登録)
 山田氏の忍法帖シリーズは漫画化、映画化もされてわたしたちの年代にはかなりポピュラーなものでした。忍者ものは大好きで伊賀の影丸、サスケ、赤影、カムイ、はては隠密剣士にいたるまで何でも読んで見て楽しんでいたことが思い出されます。
 ことに忍法帖シリーズでは「くの一」が印象が強く(映画館でくの一の予告編を見たときの衝撃は忘れられません。)、忍法帖はエロイとの感じがずっと残っていたのですが、この本を読むとぜんぜんそんなことはなく面白く読みました。
 登場人物が多いので記名力が衰え気味の頭ではどちらが伊賀でどちらが甲賀か途中で分からなくなることもありましたが、まあなんとかなりました。ちょっと登場人物が多すぎるかな。
 最近の映画化では登場人物は大分少なくなってすっきりしているようですが。


No.311 5点 ドグラ・マグラ
夢野久作
(2013/01/23 21:45登録)
 ちょっと異端的な精神障害についての内容が多いので友人の精神科医や心理師などが読んだら喜ぶのかもしれないが、普通の人が読めばへんてこりんな内容に戸惑うことでしょう。
 帯に書いてあるように、読めばは精神に異常をきたすということはないと思いますが、こういったものを読んで面白ければ精神病に親和性が高くかなりやばいのかも。
 わたしは内容を完全に理解したとは思えませんが、少なくても読んで面白くはなかった。もっとすっきりした内容にできそうなのにわざと弄り回してごちゃごちゃにしたものを読まされた印象です。
 変な人が書いた、変な人向けのお話といったところかな。


No.310 5点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2013/01/13 10:10登録)
ヨーロッパの田舎町には必ずといってよいほど教会があり、案内を請うとボランティア(たいていは爺さん)が由緒や美しさをとうとうと述べてくれる。もう十分ですと思ってもなかなか放してくれない。彼らにとっては本当に立派で誇るべきものなのであることは十分承知しているが、それでも話を聴くのはつらい。
 この小説はまさにこんなときに感じた雰囲気をたっぷりもっている。きっとイングランドの人たちが読めば激しく感動したことと思います。フランスとイングランドの違いなどを述べているところも興味深いのですが、いかんせん異教徒のわたしにとっては退屈で睡眠に最適。読み通すのに時間がかかりました。


No.309 6点 密室蒐集家
大山誠一郎
(2013/01/02 11:03登録)
 ここまで密室もののトリックだけで作品を5作も作り上げたことに賞賛を惜しまない。がちがちの本格ものでトリックが何より楽しみといった嗜好の方ならまず間違いなくとても楽しめるでしょう。 わたしも本格ものが好きではあるのですが、昔読んだ本格もののトリック解説書のような感じで、はじめは感心するのですがそれだけではお話としてもう一つ。感動や雰囲気を味わうといったことにはならないのです。ああもったいない。雰囲気も十分にかもし出せそうな内容なのに。
 連作としないで長編小説を書いていただきたかったなあ。
 まあこういったトリックのみの内容としたところが、けれんみがなくてよいといった見方もありましょう。  
 7点としたいところなのですが、最後のダイイングメッセージがあまりにも無理(これだと被害者と犯人がこれほど分かり難いメッセージを瞬時に思いつき見破ったこととなります)なので1点減点しました。


No.308 6点 戻り川心中
連城三紀彦
(2012/12/31 09:31登録)
 文学性とミステリーを高い次元で融合させた作品と思います。文章も美しく、それぞれの作ごとにミステリーとしての工夫も凝らされていて、このサイトでも多くの方の評価が高いようですが、残念ながらわたしの好みではありません。
 雰囲気や繊細な美しさに逆境や暗さが必要なことは承知しているつもりですが、この作品は根本的に「ねくら」なのです。
 読んでいてどうにもいらいらしてしまう。こんな雰囲気につかりたくはないのです。
 太宰治や水上勉が好きな方にはとてもよいのでしょうね。
 
 

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