home

ミステリの祭典

login
makomakoさんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:887件

プロフィール| 書評

No.607 7点 白の恐怖
鮎川哲也
(2018/10/14 08:50登録)
 鮎川氏は若い頃に推理小説の魅力を教えてくれた方で、新作が発表されるごとにほとんどの作品を読んだと思っていましたが、この作品はたまたま読む機会がなかったものです。今回新しく文庫化されたのでさっそく読みました。
 ああ懐かしいなあというのがまずの印象。
 私にとってはとても読みやすい。
 いかにもといった設定でいかにもといったお話がくりひろげられます。昔の私なら犯人は想像もつかないところですが、長く本格物を読んだひねくれものとなってしまったので、犯人は容易に推定できました。 
 当然作者もそのことは分かっているため、最後はほとんどの読者がびっくりするような仕掛けをしています。ただしこれは話の本筋から言うとおまけのようなもので、おまけで本体の評価はできないでしょう。
 懐かしい作家さんなのでちょっと評価は甘いです。


No.606 4点 盲目の理髪師
ジョン・ディクスン・カー
(2018/10/06 07:49登録)
 この作品は私には合いませんでした。ドタバタ劇があまりにばかばかしく、かなり非現実的で一体何が起こっているかすら不明な展開。
 これが謎に満ちたお話なら良いのですが、語っている本人が何もわかっていない状況で、それを聞いただけで名探偵がこの場の中からの推理を行うといった設定。
 こんなことってありえます?事件の次第を話している人がいろいろな人のしゃべった言葉を一字一句間違えずに覚えていて、名探偵がそこの細かい言葉から犯人を推理するなんて。
 安楽椅子探偵ものはこういった要素は必ず含まれるものですが、個々の表現から(ご丁寧にしゃべったところのページまで記載してありました)、といっても普通内容全体のことなら納得できますが、しゃべった単語からの推理となると無理がありすぎでしょう。
 


No.605 4点 牧神の影
ヘレン・マクロイ
(2018/09/22 08:36登録)
マクロイの代表作の一つとされているそうです。この小説は暗号解読とサスペンスと推理が盛り込まれた力作です。というととてもよさそうに思えましたので読んでみたのですが、うーん確かに暗号は飛躍的に進歩したようです。ポーのような暗号では現実として簡単に解読されてしまうのでしょう。だからこのような複雑な暗号作成が必要であることは認めますが、普通の読者にとってあまりにも専門的で複雑すぎます。さらに解いた暗号が当然英語になるのですから日本人にとっては二重の暗号みたいになります。英語が母国語の人なら多少はましかもしれない。
 実際何ページにもわたる暗号表が出てきて、これを複雑にいじって、となるとほとんどの人がお手上げとなりそうです(もちろん私もその一人)。途中から暗号解読のところは読み飛ばしてようやく読破となりました。
 これを読むと暗号小説は現代の時代設定では読む側がよほどのマニアでないと無理なのだとわかります。
 鉄道や飛行機を使ったアリバイ崩しなども、専門家が見たら一目でわかるし、最近のアプリならすぐ検索出来てしまいそうですが、お話の世界としての約束事みたいなものですから楽しく読めるのでは。
 主人公はこんな怖くて辺鄙なところにどうしてたった一人で何日も住むのか。私なら一日で帰ってしまいそうですが。
 丁寧に書いた作品なのだと思いますが、暗号のマニア以外はお勧めできそうもないと思います。


No.604 8点 第四の扉
ポール・アルテ
(2018/09/15 07:28登録)
 ポール・アルテは初めて読みました。フランス人でカーのファンという触れ込みどおり、怪奇趣味や、密室がてんこ盛り。
 やー、これって大好きなお話だなあ。ワクワク感いっぱい。おもしろい。
 読んでいてこれで本当にちゃんと解決できるかと心配になるほどでしたが、まあある面で解決しており、これはこれで良しとすべきなのでしょう。

以下少しネタバレを含みます。
 ただ密室の謎の一部はちょっとインチキだなあ。もともと解決していたとすべき状態をそうでないように見せかけてやっぱりことに謎ではなかったというのは
どうかと思います。さらに最後のどんでん返しはちょっとびっくりしたのですが、登場人物の最後の行動や行く末がはっきりしないところがあり、この辺りがすっきりすれば最高の点数を差し上げたいところです。いずれにせよ久しぶりに出会った本格推理小説で、作者のほかの作品も是非読んでみます。
 


No.603 6点 文豪Aの時代錯誤な推理
森晶麿
(2018/08/26 17:03登録)
 森氏の小説は初めて読みました。題名から見て本格推理小説と思って購入しましたが、内容はファンタジーに近い作品なのでしょう。
 芥川龍之介が自殺したが、その後現代にタイムスリップしたような設定です。
 羅生門が絡んだお話が展開しますが、羅生門を読んでいなくても困ることはなく、十分楽しめると思います。
 推理小説としてはちょっと甘いですが、ファンタジーの中での推理ということでしたら十分許容範囲と思います。
 読んでいると芥川の時代の人が現代に飛び込むとなるほどこんなことになるのだと納得しつつ、当時の男性と女性の関係は現代と大きく違っているのだなあと再確認されます。
 ただひとつ。最後のほうで多分河童の話のようなところが出てきますが、これは唐突で余分でしょう。


No.602 7点 そしてミランダを殺す
ピーター・スワンソン
(2018/08/13 20:13登録)
お話としてはとんでもない性格の女が次々と殺人をしていく。相手の女もとんでもない性格。主人公の女は二人ともサイコパスのようです。通常は理解不能と思われるのですが、この二人の女性が魅力的に描かれており、馬鹿な男どもは見事に引っかかり、殺しの道具とされたりさっさと殺されたり。よく考えるとひどい話なのですが、読んでいるときはあまり嫌な感じがしません。どちらかというとサイコパス的女性の考えが何となく理解できるような感じになってしまいます。
 しかも主人公は最終的にうまく切り抜けてしまうと思わせるのですが、何とな陽がいっぱい」風の終わり方をしてしまいました。いくら何でもこれで幸せに暮らしたらいかんでしょう。
 主人公に共感ができるということには決してならないと思いますが、嫌悪感を抱かずに読めてしまう不思議な小説でした。


No.601 5点 UFO大通り
島田荘司
(2018/07/22 17:10登録)
二つの中編とも常人にはとても考えられないような出来事と解決なのです。
表題のUFO大通りは常識では考えられない設定を御手洗がいとも簡単に解いてみせます。こんなお話を本格推理として成り立たせようとするとどうしても相当の無理が生じます。これしかないといった合理的な解決方法ではなく、こういったことも否定はできないといったことでもよいという建前の上で成り立っているように感じます。まさに風が吹けば桶屋が儲かるといった感じですね。
 2作目の傘を折る女は御手洗の推理過程がよく分かりそれなりに興味深いものですが、よくもこう屁理屈が思いつきしかもそれが正鵠を得ているという、いわばご都合主義的なお話ですね。
 これが面白く感じるかばかばかしいかは読者の好みの問題でしょうが。


No.600 6点 遠い国からきた少年
樋口有介
(2018/07/16 10:42登録)
 風町サエは「猿の悲しみ」で登場したキャラクターと思いますが、シリーズ化されていくようで今回もサエのお話。
 作者の作品のお楽しみの一つとして、ちょっとした合間に出てくる風景描写があるのですが、猿の悲しみではそれがちょっと不足気味で物足りなかった。それが本作は十分味わえました。
この作品は初め「笑う少年」と題していたのをこの題名としたものともことです。本作の題名のほうがずっと良いなあ。
 相変わらずサエは強くてある意味かっこよいが、私の好みとしては男の主人公のほうが作者の本領を発揮するような気がしています。


No.599 6点 古事記異聞 鬼棲む国、出雲
高田崇史
(2018/07/06 19:19登録)
 高田氏の作品は独特の歴史観からなるものが多いが、今回は古事記と出雲伝説を絡ませた、殺人事件のお話でした。
 作品の構成はQEDシリーズに近いものがあります。歴史に興味ある女性(今回は日本史学科の大学院生)と恐ろしく歴史に詳しい助教授のお話と、猟奇的殺人事件が交互に語られて、最終的にそれが結び付くといったところはまさにQEDそのものです。
 殺人事件に関しては登場人物が少ないので、犯人は誰かといった推理小説的な面から言えば謎解きの要素は少なく、本格推理から言えば禁じ手のオカルト的な要素もあるります。
 出雲のお話としては作者は以前QEDでも触れていたことがありましたが、今回はちょっと違った解釈もあります。作者の歴史観の変化なのでしょうか。でもこういった話が好きな私には結構興味津々でした。
 シリーズものとなりそうですので、次回を期待します。


No.598 3点 サファイア
湊かなえ
(2018/06/03 20:33登録)
湊氏の小説は初めて読みました。
後ろにあった解説によると湊氏は後味が悪いためイヤミスといわれることがあるとのことです。その解説者によれば、世の中そう都合よく後味の良い事ばかりとはいかないから、後味が悪いという人に説教するなどど書いてありましたが、私はやっぱり読んで最後に不快になるような小説は好みではありません。
この短編集も最初のほうは結構後味が悪い。最後のほうはまあ比較的ましはありますが、初めの何篇か読んでもうやめようと思う方もきっといるでしょう。
作者がわざわざ気分が悪くなるような結末にしているように感じるのですが、なぜそんなことをするのか理解しにくい。
この作家の小説は多分もう読まないと思います。


No.597 5点 ルパンの消息
横山秀夫
(2018/05/28 20:07登録)
 なかなかの力作です。読後感も良い。
 処女作だけあって色々と考え抜かれて色々と詰めこんでありますが、比較的すっきりとまとめてあると思います。
 ただし想定があまりに非現実的です。
 犯罪が起きてから15年経ち、時効までわずか一日という設定は絶対無理があります。こんなに容疑者をしらみつぶしに捕まえて、長々と白状させるのに、本当に一日でできましょうか。警察にこれ程の能力があるなら15年間何してたの。
 さらに捕まった方も実に詳細に当時のことを述べているけど、たとえ印象的な事件ではあったけどみんなが時間体位で覚えているのは無理でしょう。
 設定ミスと思っていたら最後にどうしてもこういった設定にしなければならなかったことがわかってきます。
 でもこれはほかの方も書いておられるように明らかに蛇足でしょうね。
 


No.596 4点 ラバー・ソウル
井上夢人
(2018/05/20 09:28登録)
これはあまりに長すぎます。ビートルズのラバーソウルにある曲名全てを入れたためこんなになったのかもしれませんが、もっと短くしてもらわないと。
 ストーカーの自分勝手な屁理屈が延々と続いて不愉快になります。読んでいて何度かやめようと思ったのですが、このままやめると余計嫌な感じが残りそうで無理やり最後まで読みました。井上夢人の作品でなかったらとうの昔に読むのをやめています。
 最後のどんでん返しがあるので、もし読まれる方は不愉快でも最後まで読んでくださいね。そうすれば多少救われますが、井上夢人のファンでないならあまりお勧めはできない。


No.595 5点 誘拐犯はカラスが知っている
浅暮三文
(2018/05/20 09:19登録)
 天才動物行動学者が主人公で、動物の生態から犯罪を紐解くというかなりユニークなお話です。
 無理がある設定とは思いますが、読めばそれなりに面白い。7つの短編で全体として連作風となっています。最初の2つの話はかなり興味深いのですが、あとはもう一つかな。
 動物の生態について興味深いお話がちりばめているのですが、鳥が名画の作者の区別ができるぐらいまではびっくりでよいのですが、真贋がわかるとなるとちょっと本当?となってしまいます。
 主人公のもう一人の女性はこてこての関西弁。作者が関西人なのでこういったこととなったのでしょうが。
 私は若い頃大阪にしばらく暮らしました。当時関東の言葉でしゃべられると気取ったかなり違和感がある感じを受けたのですが、この設定は関東なのでここで、こんなこてこての関西弁でしゃべられると、ちょうど関西の方が大阪で関東言葉でしゃべられた時のような違和感があると思います。関西落語や吉本みたいな感じ。
 大阪で聞く関西弁は好きなのですが。
 関西なまり程度だときっともっと可愛い感じアップしそうです。


No.594 6点 心に雹の降りしきる
香納諒一
(2018/05/05 17:15登録)
色々な事件が起き、二転三転どころではない展開があるが、推理の要素はあまりなくハードボイルド警察小説というところでしょうか。
 こんな警官は許されるのかなあとも思いますが、まあ、ありということで読まないとやってられないかも。
 お話が二転三転するうちに犯人もいろいろ見つかり、でもなかなか真の解決ではない。サービスてんこ盛りというより詰め込み過ぎというべきと感じました。
 主人公があまり好きではない。ことにはじめのうちはいやなやつ。ここで読むのやめようかと思うほど。でもこの手の小説は読んでいくと普通はああいいやつなんだと思えてくるのですが、それがなかなか思えない。警官が唯一頼っている被害者から金を巻き上げるなんて最低。後でいくら良いように描いてもこんな最低のことをするようではしょせんダメでしょう。


No.593 7点 感染領域
くろきすがや
(2018/04/21 18:53登録)
 この作品は第18回「このミステリーがすごい」の優秀賞受賞作品です。東大出身の二人でひとつのなまえの作者として応募したとのことです。
 さすが東大出身だけあって話の内容がインテリ風。ウイルスのお話が中心となるのですが、高学歴集団には変な人がいっぱいいるなあと思わせます。
 お話の内容はウイルス学の相当専門的なところまで踏み込んだものなので、ウイルス学に興味がある私にとってはなかなか面白い。そういうといかにも難しそうですが、全くこういったことがわからなくても楽しめると思います。
 登場人物のキャラが立っていてこれも興味深い。
 ことに女性の里中は切れて冷たく、しかも有能で特別の癒し方をしてくれる(読んでのお楽しみ)素敵な女性です。
 この人がかかわるお話を是非また読みたいものです。


No.592 6点 あなたは嘘を見抜けない
菅原和也
(2018/04/15 12:28登録)
 大胆不敵な題名で、これはきっと騙されるだろうと思って読みましたが、やぱり見事に騙されました。
 なるほど、こうきたか。一応伏線らしきものも張ってありまあフェアーな方でしょうね。 メインの登場人物がちょっと神経質すぎるけどまあこういった人が主人公でないとお話が始まらないのだからよしとしましょう。
 それならもっと良い評価のはずなのですが、残念ながら開かれた密室の解決方法が納得できないままで終わっています。
 これってちょっとインチキじゃない。たぶんこの方法は無理です。そうするとこのお話は根本的になり立たないこととなってしまうのです。
 もうちょっと納得のいく方法での解決が欲しかったなあ。


No.591 5点 沈黙する女たち
麻見和史
(2018/04/15 08:15登録)
 この小説は出だしが好きではないです。死体愛好者が廃屋で死美人の写真を撮るというシーンは、上手に描ければ耽美的になるかもしれませんが、作者はそこまで筆が上手でないため、いやらしい感じが否めませんでした。
 途中からはあまり感じのよくない元刑事とメインキャラクターの元新聞記者が活躍することとなります。そのあたりはまずまず。
 でも本格推理とすればトリックはほとんどなく、犯人も一定のところまで見当がついてしまいます。後は作者がこの範囲の登場人物ならどの人を犯人としても成り立ちそう。サスペンス小説というべきでしょう。
 すごさはなくとても面白いというところまではいかないが、時間つぶし程度に読むならそれなりに良いと思います。


No.590 5点 特捜7 銃弾
麻見和史
(2018/04/10 21:24登録)
この作品は水葬の迷宮と改題されました。改題された後の作品を読んだ感想です。
両肩から切断された警察官の殺人事件が起き、拳銃が盗まれその拳銃で次々と殺人が起きる。実は20年ほど前にも同様に肩から切断された事件が起きていた。
なかなか魅力的な謎です。
登場人物もよく描かれており、謎の解明もあまり無理がない。警察小説なので、名探偵は出てこずお話はゆっくりと進んでいく。
悪くはないですね。でもこれだといったインパクトも少ないかな。だからとても面白かったというまでには至りませんでした。

以下ちょっとネタバレです。
私としては事件が解明されると、どうしても両肩切断のところが引っ掛かります。このお話の状態で両肩切断(関節から切り落とすなら離断ですが)を行うのは大変すぎますね。私は仕事の関係で経験がありますのでこれははっきり言えます。瀕死で重傷の素人には無理です。
従ってこのお話は現実としてほとんど成り立たないこととなります。
残念だなあ。これさえなければもっと高い点数があげられたのに。


No.589 5点 毎年、記憶を失う彼女の救いかた
望月拓海
(2018/04/04 17:23登録)
 記憶喪失というのは時々取り上げられるジャンルで、一定の作家、読者にとっては興味深い物と映るのでしょう。
 本作品では周期的に記憶を失うという変わった設定の女の子をどうやって救い出すかといったお話とおもっていたら、途中で相手の男のことが語られるにつれこみいったお話となってくる。
 興味津々の方も結構おられると思いますが、私はこの主人公の女性のキャラクターが好きでないので、読んでいてうっとうしくてたまらなくなった。
 よくこんなうっとうしいやつと付き合うねえ。
 もちょっとかわいい女性の主人公だったら、結構評価が高かったのに。


No.588 6点 迷路荘の惨劇
横溝正史
(2018/03/31 19:57登録)
 久しぶりに横溝氏の作品を読みました。私の若い頃には氏はまだ存命で「病院坂」などはリアルタイムで読んだ世代です。
 何十年ぶりに読むとやっぱり時代を感じますねえ。でも古き良き時代といった感じもしないでもない。
 物語には八つ墓村のような地下の洞窟が出てくるは、死体がネズミにかじられるはなかなかおどろおどろしい。
 さらに密室も出てくるし。密室トリックはちょっとしょぼいが、現実的トリックでこれは本当にやれそうです。
 こういった風にサービスてんこ盛り風ですが、やや無駄に長いところは否めません。切れ味がちょっと悪いが、でも結構面白いですよ。

887中の書評を表示しています 281 - 300