home

ミステリの祭典

login
ロビンさんの登録情報
平均点:6.56点 書評数:130件

プロフィール| 書評

No.110 7点 紅楼夢の殺人
芦辺拓
(2009/06/21 15:47登録)
壮大なる、アンチ「本格」ミステリ。
一つ一つの事件の真相はさほど目を見張るものはなく、小粒なトリックを寄せ集めただけの連続殺人の様相です。ただ、この物語の裏に隠されていた仕掛け(叙述じゃないよ)というか、正確には構図なのだけど、これはすごい。
事件の真相自体は個人的に嫌いな部類に入るものだが、この構図なら納得。本格志向の作者が描く、アンチ本格ミステリ。

しかし、いかんせん文章が読みにくく、日本ではなく紅楼夢を舞台にしていることから、「何かあるな」とはかまえちゃうよね。


No.109 7点 リア王密室に死す
梶龍雄
(2009/05/05 15:23登録)
メインとなる謎は密室殺人一つだけなので(実は後々もう一撃あったことに気づかされるのだが)、正直この長さでは引っ張り過ぎである。面と向かって友情を叫ぶ高校生も、今となってはこっ恥ずかしくも感じる。キャラクターに誰一人も魅力的な人物がいないのは、青春ミステリとしては致命的。
とは思うものの、密室のハウダニットは、真相を知ればそれを成立させるための伏線が手際よく散らされていたことに気づかされる。ただ、この二部構成は余分な演出だったと思うんだけどなぁ。


No.108 6点 恐怖の冥路
コーネル・ウールリッチ
(2009/05/03 00:47登録)
まあ、取るに足らない平均的なアイリッシュ作品。プロットも目新しい点はないし、設定自体もよく使う手法です。導入部の謎は確かに『幻の女』を彷彿とさせられるが、それに比べたらかなり小粒な謎。
ただ、読ませる展開や詩的な描写は相も変わらず素敵。久しぶりにアイリッシュ節を堪能できたのは嬉しかった。


No.107 3点 向日葵の咲かない夏
道尾秀介
(2009/04/30 21:48登録)
文庫化を機会に、初の道尾作品に挑戦。
まあ、自分の中でハードルが上がりすぎていたこともあるが、読んでいても「気持ち悪い」という印象しか残らなかった。
内容は、新本格しか読んでことのない自称ミステリ好きが好みそうな作品です。ただ単にどんでん返しを繰り返せばいいってもんじゃない。効果的な驚きではなく「どうせまたでしょ?」とウンザリな気持ちにしかなりません。あの伏字にしたって、振りが大きすぎるでしょ。あの場合は傑作かバカミスかのどちらかしかないのに、平凡な叙述トリックという最も中途半端な形に。残念。
ただ、他にも高評価な作品も多いみたいなので、道尾作品はまだ読み続けたいとは思います。


No.106 9点 死せる案山子の冒険
エラリイ・クイーン
(2009/04/25 19:47登録)
クイーンのラジオドラマ集第二段。
初期国名シリーズの頃のパズラー色が強かった前作に比べ、本書はより中期よりの作品傾向が目立ちます。
後期クイーンの悪癖とも言うべきダイイング・メッセージ物はパッとしませんが、クイーンファンならば楽しめる要素のある作品は多いです。
クイーンが新作として考えていたプロットが、先に発表されてしまった『そして誰もいなくなった』と同じだったためにボツになった話は有名ですが、本書の『生き残りクラブの冒険』は、その幻の原案が採用されている、と解説者の方は予想しています。しかしこのアイディアでは、クリスティのほうがサスペンス性もサプライズ性も上だと思います。
国名シリーズ要素が多く詰まった表題作は、犯人指摘のロジックがスマートで、さすがと感心させられるが、案山子や雪だるまに関するホワイがあっけなさすぎるのでいまいち。
お気に入りは『姿を消した少女の冒険』なんと、クイーンにしては稀有な誘拐ものです。正直、現代人にはわかりやすい犯人ですが、中期の悲劇性が色濃く出ていることが大きなミスリードとなっています。これが登場人物が単なるパズルの1ピースであった初期ならばこういった作品は生まれなかったでしょう。そういった、初期、中期、後期と作風に違いが現れたクイーンを一度に味わえることが本書の醍醐味なのかもしれません。


No.105 10点 ナポレオンの剃刀の冒険
エラリイ・クイーン
(2009/04/11 00:26登録)
アメリカで放送されたクイーンのラジオドラマのシナリオ集。解決編の前には「読者への挑戦」ならぬ、「聴取者への挑戦」が挿入されています。ラジオなので、物語は全て会話のみで構成されています。「ラジオドラマという制約の多い中で、これだけの作品を生み出せるクイーンは、やはり神」と法月氏が語っていましたが、僕も賛同です。
お気に入りは「殺された蛾の冒険」「呪われた洞窟の冒険」の二つ。
特に「呪われた洞窟の冒険」は、カーを彷彿とさせるようなオカルティズムと不可能犯罪。足跡密室のトリックは、他の作家では思いつきだけのバカミスになりかねないものですが、クイーンはやはり違います。幾重にも張り巡らされた伏線をロジックによってつなぎ合わせていく。その伏線の張り方が非常に巧妙で、それをラジオドラマという自由の利かない中でやってのける。正に初期の国名シリーズに引けを取らないパズル作品だと思います。さらにラストの趣向といったら、まんま「あの作品」と同じで、クイーン好きな方はついニヤリとしてしまうでしょう。「殺された蛾の冒険」は、これぞクイーンというアクロバティックなロジックを堪能できます。
聴取者に「解くことができる」という前提の下のラジオドラマでなく、小説の形式を取っていたら、もっと完成度の高い作品になっていたと思います。
正直、10点は甘すぎますが笑。久しぶりにクイーンの物語を堪能できたという喜びが多分に加味されています。


No.104 5点 ホッグ連続殺人
ウィリアム・L・デアンドリア
(2009/04/06 12:20登録)
(ネタばれです)最初の事件で犯人がわかります。だってあの状況であの手紙を書けるのは一人しかいませんから。それとも、もしかしてものすごいトリックが仕掛けられているのか?……と期待したが、どうやらそういった趣向のミステリではないみたい。ミッシングリンクものとしてはたいした作品ではありません。
「結局事故だった」とは、見当ついていたんですが、実際にそれが真相だとものすごく拍子抜けしてしまいます。


No.103 7点 マレー鉄道の謎
有栖川有栖
(2009/03/29 00:27登録)
間違いなく作家アリスシリーズの代表作でしょう。
あとがきで語っているように、本書は「ただの本格ミステリ」だと思います。嫌味ではなく、最高の褒め言葉として。確かに「新本格」という言葉の意味が変化してきた中で、これだけ真正面から本格作品を描ける作家は、果たして今後生まれてくるのでしょうか?これは出版社側にも問題はあると思いますが。

と、褒めどころはあるんですけど、有栖川作品にしては稀有なハウダニットがメインとなる本書、そのトリックが、どうもあの有名な三毛猫探偵のあの作品を髣髴とさせられるんですけど。ロジックにも学生アリスのようなアクロバティックさはなく、大人しく半端な印象。
ま、愛ある辛口ということで。


No.102 4点 モンキー・パズル
ポーラ・ゴズリング
(2009/03/22 01:00登録)
こらこら、最も重要なホワイが解決されていないじゃないか。と、まずはそれが一番の不満。「見ざる、聞かざる、言わざる」と日本語にしてしまえばちょっぴり間抜けな感もぬぐえないが、そのミッシング・リンクの謎は素敵だったのに。
そして、個性が弱く多すぎる登場人物に誰が誰だか判読不能。さらに、プロットがベタすぎて先の展開が読めてしまう。踏んだり蹴ったりな作品でした。


No.101 8点 犬神家の一族
横溝正史
(2009/03/01 15:55登録)
横溝作品は数えるほどしか読んだことはないが、これは傑作。過去の日本の物語だからこそ成立するどろどろした人間模様、見立て殺人による恐怖感をそそる怪奇性、それが数々の伏線によって論理的に事件を紐解くパズルのピースとなっている。

しかし、最近は毎回のごとく読後にボヤいているんですけど、この作品も同様に「都合のいい構図だよなぁ」と感じてしまいます。


No.100 6点 喪服のランデヴー
コーネル・ウールリッチ
(2009/02/28 02:56登録)
全ての登場人物が、物語展開を成立させるために動いている。取る行動のいちいちが感情的にも理屈的にも理解できない。つまるところ、リアリティがなさすぎる。ウールリッチ(アイリッシュ)の作品の中でも都合の良さは断トツで目に付きます。

しかし、本書を読んでいて終始抱いていた違和感が、こうさんの文章を読んで氷解しました。本当にハヤカワ文庫の裏表紙は読んではダメです。これがなかったらもう1、2点はプラスされていたでしょう。ネタばれ故、上記の点が気になったのかもしれません。


No.99 6点 霧に溶ける
笹沢左保
(2009/02/26 17:52登録)
他の方の高評価にそそられて読んでみました。しかし、自分にはそこまでの作品とは感じられませんでした。
あの密室トリックはある意味バカミス(もちろんポジティブな評価の)だと思います。これは映像のほうがより驚けるんじゃないかな。
(以下ネタばれ)本書のような構図はあまり好きではありません。複数犯人、さらに裏で操っていた真犯人と、どうしても都合の良い仕掛けに感じてしまいます。


No.98 8点 夜のフロスト
R・D・ウィングフィールド
(2009/02/23 22:06登録)
いやぁ、相変わらず安定して読者を楽しませてくれる。
デントン署には流感が蔓延し、相次ぐ病欠者の発生に署内は大慌て。人手の足りない中、フロスト警部を中心に多発する事件を同時進行に解決へと導いていく。この物語の構成力はすごいと思います。
下品でドジで論理よりも自分の直感を重んじるフロスト警部ですが、今回も空振りの連続。立てる仮説全てがことごとく覆され、新たな新事実に自分の都合のいいように証拠を当てはめてまた仮設を構築。その繰り返しの末たどり着く全ての事件の真相。本当に、今回も首の皮一枚でつながった感じです。彼のマレット所長への態度は失礼すぎて読んでいるこっちがハラハラします。ですがそこが彼の最大の魅力。他にも、今回の彼はちょっとカッコいい。


No.97 7点 白菊
藤岡真
(2009/02/22 12:46登録)
起伏の激しい物語展開に翻弄され、大満足だったデビュー作(ミステリの)に比べると、多少は見劣りしてしまう。仕掛け自体は定番なのだが、多重構造による物語の構成力はさすが。ただ少し落ち着きすぎたかな。


No.96 6点 暗闇の薔薇
クリスチアナ・ブランド
(2009/02/19 15:08登録)
解説では山口雅也氏が激賞していますが、自分はそれほどの作品だとは思えませんでした。核となる死体移動のトリックは、もっと『黒いトランク』的にこちらの理解が及ばないほどの複雑な構図を期待していたのですが、本当に拍子抜けするほどなんてことはない、というか別にトリックすらない真相です。
読後に、ああ確かに英国本格らしいプロットだなぁとは思わされますが、重要な事実の隠し方もそれらしいです。

(ネタばれ)よくよく考えればあの人物にはアリバイはないし、まあ非常に嫌な奴だったのでこいつが犯人だったらいいなぁと思っていたら……スッキリ。


No.95 6点 摩天楼の怪人
島田荘司
(2009/02/15 13:06登録)
御手洗の活躍を読めるのは嬉しいけど、この真相はちょっとなぁ、というのが正直な感想です。
お得意の壮大で幻想的な謎は氏らしく非常に惹かれますが、これは推理ではなく知識を披露しているだけです。


No.94 6点 黒いカーテン
ウィリアム・アイリッシュ
(2009/02/13 20:25登録)
中途で物語の全貌が読めます。この展開ならば次はこうだろうな……という、ある程度ミステリを読みなれた人ならばあまりにも教科書通りな進行に感じてしまう。逆に本書が古典だと考えれば、それは凄いことだと思います。
しかし主人公のみに都合のいい結末は釈然としません。彼女と老人の扱いが酷いです。(っていうか、あれじゃ無実の証拠にならなくないか?)


No.93 5点 白光
連城三紀彦
(2009/02/12 00:03登録)
めくるめくどんでん返しの螺旋。正直、どうでもいいです。誰が犯人でも、どうでもいいです。
(以下ネタばれ)おそらく「全員が犯人」という構図を描きたかったのでしょうが(もちろん、クリスティのあの作品とは違った意味で)、それは登場人物それぞれの捉え方しだいでしょう。もっと本格色の強い作品を期待していたので、構図の反転のみで勝負するロジックも何もない(いや、気休め程度にはあるか)ような本書は、自分の好みには合いませんでした。
例えばこの作品に法月綸太郎やリュウ・アーチャーなどの探偵が登場すれば、家庭内悲劇をめぐる本格ハードボイルドな作品になり、探偵役が登場せず文学色が前面に出てくると本書のような作品になるのでしょう。
純文学的に描写すれば、狂った人間も(僕には登場人物全員が狂っているようにしか感じませんでした)成立してしまうのだから怖い。


No.92 10点 首無の如き祟るもの
三津田信三
(2009/02/10 14:29登録)
初の三津田作品。いやぁ、まいった!すごい!
読みにくい文体や漢字の連続(それは自分に学がないからですけど)から、読み始めた当初は挫折感も漂っていたのに、まさかこんな「現代的」本格の傑作に出会えるとは。
核となる「たった一つのある事実」、確かにそれが判明した途端、一気に思い描いていた物語世界が崩れていった。前半の事件を前振りにしての、後半の首切り事件の構図は凄まじい!よくこんなに複雑な画を思いついたものだ。
正直、ラストのどんでん返しの連続で、自分の中では評価が10~8点の間を行き交っていたが、ようやく最後に落ち着いたアレが真相ならば10点です。(しかし、どうやらホラー的結末のほうが強いらしく、それならば減点かなぁ……。いや、やっぱり勝負となる「本格」部分のみを考えて10点で!)

学生アリスファンの自分ですが、本格ミステリ大賞は「女王国の城」よりも本書のほうが相応しいのでは……?


No.91 5点 夜は千の目を持つ
ウィリアム・アイリッシュ
(2009/02/08 13:51登録)
アイリッシュらしいタイムリミット・サスペンス。だけど、確かにこの設定は引くなぁ。それに最大の色である描写がくどすぎて物語進行が滞っている。サスペンスらしい疾走感がなかった。
まあ、超能力に本格的な理由付けはなくてもいいのだろうけど、そこに「何かあるはず」と期待するのは間違いでしょうか。

130中の書評を表示しています 21 - 40