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ミステリの祭典

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半落ち

作家 横山秀夫
出版日2002年09月
平均点6.67点
書評数45人

No.45 6点 みりん
(2023/03/20 03:58登録)
作中の謎としては「空白の2日間」と「50歳で自殺する理由」の2つです。
異なる役職を持った6人の視点からこの事件を追う群像劇的な作品に仕上がっていて、その分嘱託殺人や検察と警察の軋轢、記者間の闘争など社会派な要素がふんだんに盛り込まれているミステリでした。

No.44 7点 メルカトル
(2021/11/26 22:50登録)
「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは―。日本中が震えた、ベストセラー作家の代表作。
『BOOK』データベースより。

構成は凝っているものの、基本的に単純なストーリーです。現職警察官が妻を殺害したと自首してきたが、空白の二日間に一体どこで何をしていたのかという謎が残る。その謎を、刑事、検察官、新聞記者、弁護士、裁判官、看守がそれぞれの立場から追うという物語。
たった一つの謎で、ここまでの長編に仕上げる手腕は流石だと思います。これは一種の群像劇とも言えそうです。先に挙げた6人の仕事現場の実情や生活がさり気なく語られると共に、それぞれの個性も確りと浮き彫りにされています。

所謂半落ちの状態で裁判を迎え、最後の最後まで空白の二日間に何が起こったのか読者に悟らせません。そしてラスト数頁で漸く真実が語られる時、なぜか私の頬を伝う一粒の涙をどうする事も出来ませんでした。何とも言いようのない読後感と世の無常と一握りの希望を残す結末が印象的です。

No.43 8点 zuso
(2021/07/05 22:47登録)
妻を殺した警察官が自首してきて、最初から事件は解決している。そこに謎は何ひとつない。あるのは、殺してから自首してくるまでの空白の二日間。
人の心の奥底を探る試みが、これほどまでにスリリングであったのかと驚く。

No.42 6点 okutetsu
(2020/07/24 01:42登録)
非常に読ませる内容で、読んでて引き込まれるものだった。
オチはちょっと弱いかなとも思ったが、酷評されるようなものでもないし、林真理子の言い様は明らかにおかしい。

No.41 5点 雪の日
(2020/05/03 21:15登録)
ストーリー重視の作品

No.40 7点 パメル
(2020/03/23 10:09登録)
妻を殺害した実直な警察官が自首してくるが、犯行後の二日間の行動だけは供述を拒む。いかなる説得もはねつける。だから「完落ち」ではなく「半落ち」。おまけに、あと一年経って五十歳になったら死を決意しているらしい。一体どうなっているんだという話。
人間ドラマミステリなのだが、ユニークなのは章ごとに中心人物が移り変わっていく手法。犯人が自首し、取り調べ、送検、裁判と進んで行くのに合わせて、担当の刑事、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、留置所の刑務官とリレーのように。
これらの人々はそれぞれの立場で、犯人の空白の二日間の謎に迫ろうとする。しかし最後の章を除いて、彼らは組織の圧力や理不尽さに負けて挫折していく。そういう意味では組織の腐敗や、保身しか考えていない上司など嫌な現実がうまく描写されている。
そして最後にようやくカタルシスが訪れる。二日間の秘密の謎が解かれ、感動のフィナーレを迎える。決して派手ではないがツボをおさえている。この謎解きを行うのは最初の章で挫折した刑事なので、そういう意味でも救いを感じさせてくれる。

No.39 7点 バード
(2019/12/18 14:28登録)
『64(ロクヨン)』, 『クライマーズ・ハイ』ときて3冊目の横山作品。
上記の2冊で感じたくどさがなく、これまで読んだ3冊の中では、本作が一番好み。
一つの事件を根幹にすえたことで、各話の役割や、話間の繋がりが明確となり群像劇としてのドラマ性を高めている。(最近読んだ群像劇物である『ラッシュライフ』と比べても、話の筋が明確な本作の方が好き。)

章毎に主人公を変える構成にしたことで、各章で話を畳む必要がなくなり、その結果、全体が締まった物語となったのだと思う。

また、流石に人間ドラマが売りの作家さんだけあって、描写や人物の造形は全体的にお見事。各話主役が抱いた、立場と本音の狭間での葛藤をひしひしと感じとることができた。

No.38 8点 名探偵ジャパン
(2019/05/06 22:37登録)
最近は「社会派」と銘打ってはいても、本格ミステリ的な仕掛けが施されていたりするような凝った作品もありますが、「社会派原理主義」的な見方をすれば、それらはむしろ「邪道」といえるのではないでしょうか。それに対して本作の割り切り方は見事です。これぞ「ザ・社会派」です。
読み始めこそ、正直(作者が記者時代の知識を生かしたのでしょうが)「法曹界あるある」的なネタ(?)を延々と読ませられ、「勉強するために読んでるんじゃないんだよ」と辟易しかけましたが、すぐに慣れました。
物語の最大にして唯一の謎である「どうして犯人は『半落ち』を貫いているのか?」に対する解答ですが、これが実に素晴らしい。「本格ミステリは、お化け屋敷で人間が描けていない」へのカウンターとして生み落とされたのが「社会派」なら、社会派は「普通の住宅に血の通った人間を住まわせる」責務があります。本作はそれに見事に答えたと言えるのではないでしょうか。

後に、この「オチ」に関する論争がきっかけで、作者が直木賞と決別宣言をしたという話を知りました。作家として実に見事な言動だと思います。残念なのは、喧嘩をふっかけた側が、作者が突きつけた反論に対してだんまりを決め込んだということです。いやしくも作家という職業で飯を食っているなら、ここは受けて立って、さらなる論争に発展させるのが普通でしょう。物理的な喧嘩は絶対にいけませんが、ペンを使った喧嘩は、文壇においてはむしろ推奨されるところのはずです。情けない。

No.37 3点 文生
(2017/10/29 15:05登録)
妻殺しを自首した元警察官。しかし、彼は犯行から出頭に至るまでの2日間の行動については頑として口を割ろうとはしなかった。
魅力的な謎と多視点で語られる凝った構成に対して真相がひどく凡庸に感じられました。秘密が明らかになると同時に犯罪の構図が反転するような意外性に満ちた真相を期待していただけにがっかり感も半端なく、よってこの点数です。横山氏の作品は警察小説でも本格マインドにあふれててかなり好きなのですが、これは肌に合いませんでした。

No.36 8点 青い車
(2016/02/21 17:23登録)
読んでいる間は夢中になりました。本格系ばかりでなく、警察小説のジャンルも読んでおこうという気持ちで手にとったのですが、五人の人物の視点で描かれる骨太なドラマは重厚で大満足です。犯人も動機も最初から明かされ、「彼はなぜすぐ自首しなかったのか」をめぐる謎だけでここまで読ませるのは驚異的です。あとから思い返すと、暴力も厭わない志木刑事のキャラクターが好きになれなかったこと、最後唐突に真相が語られるところなど、粗がないこともないのですが是非他の横山作品も読みたいと思わされました。

No.35 6点 斎藤警部
(2015/11/20 18:36登録)
私は刑事コロンボ「高層の死角」ラストシーンの鍵となる「何故第一の殺人だけ自白したか」という応用篇ホヮィダニットが心の琴線に触れて大好きなのですが、本作の場合は「何故ずっと自白を拒んでいた容疑者が、ある時を境に急に自白を始めたか」なる更に複雑でトリッキィな一種のホヮィダニット、それを大きな人間ドラマが覆い包むという構造で、大変チャレンジングな作品と思います。良い文芸小説で、愉しく読ませていただきました。結末の「ホヮィ」は確かに予想を超えたものでした。しかし。。。。唐突感は否定出来ません。

【これよりネタバレの風向きへ】
おいおいそんな伏線どこにあったよ!?って思いましたよ。バランスってもんがあるでしょう。あれほど夫婦愛の細やかな事情(そこに何事か秘密が潜んでいるに違いない。。。。)を前面に立て、謳い上げておきながら。。でも6点。

No.34 7点 いいちこ
(2014/04/22 15:27登録)
本作の評価が世評と比較しても異様に辛いと感じる。
やはり投稿者の多くがミステリ読みであり、ミステリとして評価されているからなのだろう。
確かにミステリとしては脆弱な構造で、致命的な欠陥も存在しているのだが、1個の読物としては出色のデキ。
犯人を取り巻く人々を描き、犯行の筋を追いながらも、警察と検察の立場と利害や、職業倫理と組織の論理のコンフリクト・葛藤を抉り出す筆致は見事。
一本道のプロットと美しいラストは、素直すぎる、キレイすぎる印象は否めないが、抜群のストーリーテリングで爽やかな読後感を残すのも確か。
一言で言うとミステリ初心者向けの佳作ということだろう。
中級者以上には食い足りないかもしれない

No.33 6点 simo10
(2013/05/29 22:38登録)
この作品の映画版を飛行機の中で見たことがあるのですがラスト辺りで着陸態勢に入ってしまい、落ちを知ることはありませんでした。
以来この作品の存在を忘れていたのですが、書店でふと目に入り、読んでみようと思いました。
他の方々がおっしゃるように、確かにオチまでは非常に面白かった。
特に一章、二章の登場人物の荒っぽいノリが最高でした。
そしてオチに関してはまさに半オチ。唐突な感じだし、特に感動もできない。
一番釈然としないのは半落ちの理由付けかな。警察へ迷惑がかからないよう配慮することも考えてるなら、さっさと虚偽の自白をすりゃ良かったのに。

No.32 7点 TON2
(2012/12/09 19:15登録)
集英社文庫
 県警幹部の警部が、アルツハイマー病の妻を殺したと自首した。しかし、殺害後2日経過しており、殺害の事実は認めるが、空白の1日をどこでどのように過ごしたかについては沈黙したまま何も語らない。
 空白の1日をめぐって、取り調べをする県警の警視、地検の検事、全国紙の中途採用記者、バブル崩壊で落ちぶれた弁護士、痴呆の父親をかかえる裁判官、拘置所の看守といった、彼と接触を持った人たちの思いが章ごとに描かれています。
 社会的地位があっても、だれもが組織内における圧力や保身、家族問題で苦しんでいます。皆警部がなぜ空白の1日を語らないのか知りたいと願い、その物語が自分にとっての空白を埋める何かだと感じているようです。
 テーマは「あなたにとって命にかえても守りたい人はいますか」です。

No.31 10点 ナナ
(2011/05/19 15:22登録)
本の魔力に取りつかれた初の小説です。すごい!横山秀夫、恐るべし。これを超える小説に出会うことはあるだろうか、と思うくらい感銘を受けました。心からおすすめします。(私も林真理子に怒りを覚えます。)

No.30 7点 ムラ
(2011/05/16 19:31登録)
警察、検事、記者へといろんな人が犯罪を犯した一人の犯人の行動を探っいく道筋となったホワイダニットストーリー。
個人的にホワイダユニット小説はラストの意外性よりも物語の説得力のほうに重きを置いている(意外性も合わされば満塁ホームランだが)ので今回の小説はとても面白く見れた。
被告人は空白の二日をどうすごしたか、よりも、被告人の人間性を第三者の者たちはどのように見ているか、がとても気になる作品となっていた。
テンポもよく、文章の感じも好み。


(こっからネタバレ注意)
薄いって意見もあるけど、殺人者の○○を○ったという事実は世間的にはかなりのマイナスになってしまう気がする。
まぁ、薄いか濃いかで言われたら薄いが。

No.29 7点 つよ
(2011/05/01 22:56登録)
本でも映像でも。

No.28 4点 HORNET
(2011/01/10 11:38登録)
 この長さの割にはあまりすっきりしない,まさにオチは「半落ち」な印象が残りました。横山氏の警察小説は一級品だと思っていますが,短編(しかもシリーズ連作)のほうが密度が濃く,読み応えがあるように感じます。それが引き延ばされ,ゆえにゆえにスローテンポになってしまった感があります。

No.27 5点 kanamori
(2010/03/10 22:20登録)
直木賞は完落ち。
警察小説の短編集のほうは、「臨場」など本格系のものも多々あり好きな作家なんだが、これはラストがピンとこなかった。読解力の問題かもしれません。

No.26 4点 江守森江
(2009/09/30 00:06登録)
社会派ホワイダニット作品。
直木賞を逃した過程で挙がった問題について、ミステリーなのだからリアリティを追求すれば、手続き〜実行まで(当時の)行政の腰の重さを考えると作者を支持出来ない。
しかし、そこまで深く考えずにミステリーとしてでなく人間を描いた作品と捉えて読めば直木賞を逃した事が不思議としか思えない。
※ファジーな選択で映像化作品に先に接してしまったが、さほど残念な思いはない。
採点はミステリーとして扱ったので低め。

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