home

ミステリの祭典

login
九マイルは遠すぎる
ニッキイ・ウェルト教授

作家 ハリイ・ケメルマン
出版日1976年07月
平均点7.10点
書評数21人

No.21 8点 クリスティ再読
(2023/05/17 08:43登録)
どんな「名探偵の推理」であっても、ヘリクツといえばヘリクツ。
ミステリにとって一番イタい指摘に対して、「でも!」と言える立場があるとするならば、その「推理」が築きあげる堂々とした空中伽藍の美にあるんじゃないのかと、評者は思うのだ。
だから表題作の「凄さ」というのは、片々とした隻句から幻のように犯罪計画が浮かび上がってくる、強引極まりない力技に徹し、それで振り切ったことなのだと思う。
いいじゃない?ニッキィの推理が妄想だったとしても。それでも十分小説になるよ。

まあだから、表題作以外の作品は普通に「安楽椅子のミステリ」を書こうとした、というのが何となく感じられる。
それなりに、いい。しかしこの「それなりに」さが、表題作の異常さを逆に際立たせているようにも感じられる。

「九マイルは遠すぎる」みたいな短編は、「天から降ってくる」ようなもので、書こうとして書けるものじゃない。そう思う。

No.20 6点 虫暮部
(2022/12/22 16:26登録)
 作者が序文で自作を “古典的推理小説” 及び “もっぱら読者に喜びを与えることに専心する現代的な表現様式” と称したのは全く以て正当な自己評価だと思う。頭皮マッサージを受けているような心地良い読み味。そのぶん地味だが止むを得まい。
 でも「ありふれた事件」の犯人をもっと緻密に活写したら結構不気味かも。

 「時計を二つ持つ男」は何か変だ。
 犯人はあんなトリックで誤魔化せると本気で考えたのか。しかし実際に通用してしまった。関係者が超自然現象を信じ易い背景が欲しいところだ。宗教団体の内部で起きた、とかさ。
 人々がそれを信じる場でないとカムフラージュにならないが、信じるが故に “現世の法では裁けないが、彼が死んだのはアイツのせいだ” と断罪される。信じない場なら、トリックは判らなくても行動があまりに怪しく、事件に関わっていると自白しているようなものだ。どっちにせよ後ろ指を差されるではないか。
 そこはまぁ起訴されなければ良し、と開き直っていたのかもしれない。しかしそもそも、この件は “超自然現象” の演出など無くても、事故に見せかけた遠隔殺人が可能なのである。
 犯人がしたこと:①時計をずらす。②絨毯に仕掛け。③夜中に発砲。④超自然現象の演技。
 ここで③の代わりに、⑤夜中に何かの音を発する仕掛けを施す。
 すると①②⑤があれば、翌朝には階段から転落した死体が見付かる、と言う寸法だ。
 更に言えば、トリックを推測出来たからといって、それが超自然現象を否定する根拠にはならないと思う。

 「梯子の上の男」、そんな写真を部外者にポロッと見せるのは如何なものか。

No.19 6点 メルカトル
(2018/02/09 22:03登録)
安楽椅子探偵ものの名作と名高い本作です。例えば表題作は「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という一文からあれこれと連想ゲームのごとく空想の翼を広げ、挙句の果てにある事件にまで結びつけてしまう手腕は見事であるのは間違いないでしょう。しかし、いささかこじつけが過ぎませんかね。ロジックというより奇跡の偶然と言ったほうが相応しいように思います。

あらゆるミステリが細分化し、各ジャンルでマニアックと言えるほど凝った作りの作品が林立する現在、過去の名作がいくら独創性の高いものであっても、これだけ複雑化している現状を鑑みると、さすがに両手放しで賛辞を贈るのには躊躇いを感じます。
当時としては画期的だったのかもしれませんが、今読んでみるとかつての輝きは薄れているのではないかと思われて仕方ありません。

全体として冗長であったり、やや煩雑だったり、余分な描写が目立ったりといった部分が気になりました。あくまで個人的な感想です。やや退屈な事件段階に比べて、あまりに鮮やかな解決。このアンバランスさがどうしても頭から離れなくて、7点から6点に転落した感じです。
私的には『エンド・プレイ』『時計を二つ持つ男』が双璧でした。両者とも素晴らしいロジックを展開しており、まさに名作と呼ぶに相応しい作品だと思います。

No.18 9点 ねここねこ男爵
(2017/10/29 04:57登録)
表題作がその執筆の経緯を含めて(悪い意味で)有名になりすぎてしまったが、正直出来はあんまり良くない。要はコンセプトモデルです。
表題作以外の作品がとても素晴らしい。古今東西ロジックもの短編集のベストかと。
個人的には「時計を二つ持つ男」「エンドプレイ」「わらの男」かな…「おしゃべり湯沸かし」のシンプルさも捨てがたい。

『ロジックよりトリック』『どんでん返し!意外な犯人!衝撃の真実!』な人は読んではいけません。

No.17 7点 青い車
(2016/10/17 22:32登録)
 表題作に関して、ロジックのこじつけや無理やり感もよく指摘されていますが、そこは長所ではあってもけして短所ではないと思います。『九マイルは遠すぎる』で作者がやりたかったのは、机上の空論でどこまで自由に遊べるかの挑戦ではないでしょうか。そして、そういう意味ではかなり高水準な短篇です。それは『おしゃべり湯沸かし』も同様。ただ、トータルで言うと印象に残らない短篇も多く、出来にムラがあります。もうひとつかふたつ、必読レベルの作品があれば凄まじい短篇集になったのでしょうが。

No.16 6点 いいちこ
(2016/05/24 11:13登録)
安楽椅子探偵モノの宿命とは言え、真相解明に至る推理にかなりの飛躍を感じるし、収録作品数が多いこともあり、手際にやや単調さも感じるところ。
あまりにも有名な表題作は正直期待を超える水準とは言えないが、当該作よりも高い水準にある作品も散見。
全体として一定のクオリティは維持しているが、世評ほどの作品とは感じなかった

No.15 5点 りゅうぐうのつかい
(2015/11/09 18:35登録)
最後まで読んで振り返った時に、どんな話なのか覚えていたのは表題作と「梯子の上の男」だけであり、個人的にはいささか退屈で、印象に残らない作品集であった。
確かに、ニッキイは与えられた事実だけから論理的推理を展開するが、その推理はいささか強引だし、わかりにくい(短編なので致し方ないのだろうけれど)。その真相もほとんどが感心するほどのものではなかった。
「九マイルは遠すぎる」は、出てくる地名の地理的関係がわからないので、その推理過程に興味が持てず。偶然耳にした言葉を、聴いたという事実さえも覚えていないというのはいかがなものだろうか。
「わらの男」は、誘拐犯人が指紋を意図的に残した理由が実にわかりにくく、何度も読み返した。
「梯子の上の男」だけは伏線が巧妙で、最後の一文が印象的であった。この短編集では一番面白かった。

なお、私の読んだハヤカワミステリ文庫の192頁4行目(ありふれた事件)で、「叔父のフランクがなにかと力になってくれていたけど、そのフランクが、…」の箇所の『フランク』は『ジョン』の誤りのはずだ。

No.14 9点 ロマン
(2015/10/22 15:43登録)
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」ふと耳にした言葉だけを頼りに推論を重ねた先に炙り出される意外な事件の真相。「謎」の提示に対して予想だにしなかった「解」に至る。その発想のアクロバットが実に見事に決まっている。純粋な論理の思考実験が引き出す結末の驚き。もちろん、起こりうる可能性を精妙に見極めていく過程の面白さも見逃せない。

No.13 8点 斎藤警部
(2015/10/21 20:12登録)
表題作の大胆緻密なロジック交響詩にゃぁ感服横丁千鳥足ってなもんよ!! ちっともロジッカーじゃない評者もこのお話単体には満点を投げ銭せずにいられないね。展開される一連は決して気丈な苦労人、もとい机上の空論なんかじゃなくってね、じゅうぶん実生活に適用出来るリアリティのあるナニですよね。あン? 余計な事は言わないように、他人の余計な事は聞き漏らさず解釈し漏らさないように、ってなわけでね。最後、しっかりちゃっかり現実の事件を見事に引き当てる所がまた最高だね!
他の作品は記憶に無い! 悪くなかったと思うが?

No.12 7点 ボナンザ
(2014/04/10 17:33登録)
驚異的名作集。
表題作のタイトルがあまりにも有名だが、それだけではないすばらしさ。

No.11 8点 アイス・コーヒー
(2013/09/15 10:57登録)
ニコラス・ウェルト(ニッキイ)教授は「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という短い文章から未知の殺人事件の犯人を導き出す安楽椅子探偵。
個人的には、表題作以上に中盤の作品が気にいった。いささかご都合主義なところもあるが、明快な推理と楽しめる文章は気に入り、本作は安楽椅子探偵ものの代表作にふさわしいといえる。
他にも音だけで推理する「おしゃべり湯沸し」やすべてが伏線で感心させられた「二つの時計を持つ男」「梯子の上の男」などの異色作もあり興味深い。「二つの時計~」などは、読み終わった直後に自分自身が「あの」行動をとってしまったので笑うしかない。

No.10 5点 蟷螂の斧
(2013/08/20 18:52登録)
(東西ベスト68位)序文の抜粋「古典的推理小説は、本質的に短篇であると感じていた。~人物や設定は不随物~長編小説の長さに引きのばすことは、~長々しい退屈な描写~うんぬん」。この逆を望む者にとっては、あらすじを読んでいるようで味気ないと感じてしまいます。人物描写(たとえ人間が描かれていないと批判されても)や、伏線の提示、サスペンス感などを期待するので、どうしても短編は苦手となっています。ただし、好みの’奇妙な味’は短編に限ると思いますが。推理過程は楽しめましたが、好みの問題でこの評価としました。

No.9 6点 makomako
(2013/05/19 11:03登録)
 純粋な推理ゲームとして楽しむのなら、こな作品はできも良く実に楽しいこととなるので、このサイトでの評価が高いのはある面で当然なのでしょう。
 1作ごとに巧妙なトリックが仕掛けられそれを探偵が鮮やかに解いていく、まさに本格物の真髄が楽しめます。
 ただし物語としての小説を愛するものには単なる屁理屈の連続となってしまうといった面も大いに持っています。
 わたしは安楽椅子探偵ものは決してキライではないのですが、本格物を読む際にも登場人物への感情移入や物語性を求めているようなのでこういった作品集はちょっと苦手です。はじめは感心するのですが、だんだん退屈になり最後の作品まで読むのが苦痛になってしまう。
 パズルやトリックに興味がある方はお勧めですよ。
 

No.8 8点
(2013/01/09 22:32登録)
序文によると、表題作は作者が学生に推論の課題として出した文が基になっているそうですが、今回再読して意外だったのは、その短さでした。まあ、1文から思いがけない推論を引き出すことも可能だと主張するニッキイ・ウェルト教授の推理のみでほとんど構成されてしまっているのですから、そんなに長くできないことは確かですが。
2作目からはもっとオーソドックスな、まず犯罪が起こってというミステリが続きますが、『おしゃべり湯沸かし』は、湯沸かしの音が隣室から聞こえてきたことから推理をふくらませていく、表題作に近いタイプです。いずれにせよ、発表誌EQMMの編集長クイーンを思わせる論理中心スタイルは守られています。
論理だけでなく、犯人による不可能犯罪トリックも仕込まれているものは2編。超自然的な『時計を二つ持つ男』と、最後の一番長い『梯子の上の男』です。

No.7 6点 nukkam
(2011/09/06 18:09登録)
(ネタバレなしです) 米国のハリイ・ケメルマン(1908-1996)は高校や大学の教師職を歴任した人物でミステリー作家としては非常に寡作家で、1967年に短編集として出版された本書のニッキイ・ウェルト教授シリーズの8作は1947年から1967年の足かけ20年をかけて書かれました。論理的な謎解きの好事例としてエラリー・クイーンが大絶賛した短編集ですが最も名高い表題作は私はあまり評価していません。話の後半で地理に関する情報が出てくるとその方面の知識のない読者は推理に参加するすべを失ってしまい、ニッキイの話をただ後追いするしかありませんから。私の1番のお気に入りは探偵役のニッキイの推理を論破しようとする面々が次々に返り討ちにあう「わらの男」で、まさしく論理戦の醍醐味が堪能できました。音のみから推理する「おしゃべり湯沸し」も独特の味わいがあります。

No.6 6点 take5
(2011/08/11 00:51登録)
関係なくて申し訳ないですが奈良に旅行したとき、電車の中で読んだ思い出があります。
「9マイルは遠すぎる」という言葉から、自分ならどういう発想をするか、挑戦してから読むのもありではないでしょうか。

No.5 7点 E-BANKER
(2011/06/12 22:34登録)
ニッキイ・ウエルト教授のロジックが切れまくる!作品集。
純粋な推理だけを武器に、些細な手掛かりから難事件を次々に解き明かしていきます。
①「九マイルは遠すぎる」=有名作。「ほんの少しの言葉から意外な真相を導く!」で有名。でも、それほどとは感じなかった。
②「わらの男」=むしろこっちの方が①より感心。「安楽椅子探偵」のお手本のような作品。
③「10時の学者」=これも秀逸! 恐らく真犯人は「こいつ」と最初から想像はつくが、そこまでのロジックが見事。
④「エンド・プレイ」=捜査陣が見落としたちょっとした手掛かりから、真相解明! これぞ名探偵もの。
⑤「時計を二つ持つ男」=これって「遠隔殺人」でしょうね。
⑥「おしゃべり湯沸し」=封筒の中身を推理する場面が面白い。
⑦「ありふれた事件」=いかにも犯人らしい奴はやっぱり犯人ではなかった。
⑧「梯子の上の男」=チェスと犯罪を絡めての推理法がなかなかGood。犬や梯子といった小道具も効いている。
以上8編。
評判どおりの面白さ。
「安楽椅子型探偵」の見本のようで、ロジックが小気味よく効いてます。
気の利いたラストもよい。ミステリー好きなら1度は読むべき作品でしょう。
(①はそれほどでもない。それよりは②~⑤がお勧め)

No.4 7点 こう
(2010/08/09 00:57登録)
 安楽椅子探偵ものの今や古典でしょう。表題作には突っ込みどころはあるでしょうが読んだ当時は感心しました。また表題作だけでなく他作品も一定水準で楽しめます。この短編集の続編がないのが残念です。

No.3 7点 kanamori
(2010/07/22 21:28登録)
ニッキイ・ウェルト教授シリーズの連作短編集。
表題作はあまりにも有名で、数語の会話文だけで思いもよらない結論を導き出す、安楽椅子探偵ものの名作。
収録作すべてがアームチェア・ディテクティヴではなく、「エンド・プレイ」など、正統派本格編としてよく出来ている。

No.2 9点 おしょわ
(2008/10/20 23:18登録)
表題作は著名な名作です。読みましょう。
ギュッと詰まった短編、という感じです。

21中の書評を表示しています 1 - 20