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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1634件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.374 9点 天に昇った男- 島田荘司 2008/10/31 23:17
ヤバイ。ものの見事にハマッてしまった。

本作は島田作品の中でも異色の物で、作者本人でさえあとがきで全く予想外に生まれた副産物であると述べている。
島田ミステリに通底する弱者への真心とロマンシズム、これが一貫して物語のBGMとして流れ、進んでいく。最後には珍しく悲劇的な結末で無機質に締められ、読者の心には冤罪に対してのほろ苦さが色濃く残る。最後に門脇春男は救われたのか、それは判らないが不幸な者がここにいるということを強く教えられた。

No.373 8点 ひらけ!勝鬨橋- 島田荘司 2008/10/30 22:23
これ、実はけっこう好き。
この小説は殺人事件が起こるものの、明らかに作者得意の本格推理ではない。
「青い稲妻」チームの個性的な面々の日常とホームの存続を賭けたゲートボールの白熱した試合、そしてクライマックスで繰り広げられるかつて一流の素人レーサーだった老人たちの華麗なるカーチェイスが主になっており、老人たちの再生と青春の復活がメインテーマなのだ。
ゲートボールの試合を読んで、これほど手に汗に握ったのは後にも先にもこの作品だけである。
オイラは角川文庫版で読んだが、この表紙がものの見事に内容と全く関係のないマンガになっている。
誰だ、担当者は!?

No.372 7点 死者が飲む水- 島田荘司 2008/10/29 14:21
御手洗シリーズ『斜め屋敷の犯罪』で登場した牛越刑事が主役を務めるスピンオフ作品。
北国の叙情が滲み出てくるようだ。
でも時刻表トリックはやっぱり苦手。

No.371 8点 火刑都市- 島田荘司 2008/10/28 23:04
当時初めて読んだ島田流社会派小説。
そんな中でもトリックが組み込まれているのが島田らしいなぁと思った。
解決部分では唸らされたけど、犯人の動機が観念的で、ちょっと作者自身、自論に酔っているような気がせんでもない。

No.370 5点 殺人ダイヤルを捜せ- 島田荘司 2008/10/27 22:41
かなり一昔の時代を感じさせるミステリ。
この一昔前ということをもっと念頭に置いておけばトリックも見破れたかも。
しかしもうすぐ、この題名に使われている「ダイヤル」の意味が解らない世代が読者になっていくんだろうなぁ。

No.369 7点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/10/26 14:07
前2作から打って変わって物語はサム警視の娘ペイシェンスの一人称叙述で語られることから悲劇四部作において、変奏曲ともいうべき作品になるだろう。

巷間の評価が本作についてかなり低いのは、やはりこのペイシェンスというキャラクターが妙に浮いている感じを受けるのと、前2作に比べ、タイトルに掲げた「Z」の意味がインパクトに欠けるからだろう。

私はといえば、前2作に比べるといささか迫力に欠けるのは巷間の評価とは一致するものの、結末まで読んだ今では、最後怒濤の如くレーンが開陳する弁証法による消去法で瞬く間に容疑者が絞られ、1人の犯人が告発されるあたりはロジックの冴えと霧が晴れていくカタルシスが得られ、個人的には凡百のミステリよりも優れており、楽しめた。

No.368 5点 学校の殺人- ジェームズ・ヒルトン 2008/10/25 20:52
『チップス先生さようなら』のヒルトンが唯一著した推理小説。
学校を舞台にしているのがこの作者らしく、どうせ文豪の手遊びで書いたミステリだろうと思いきや、意外にも読める内容だった。
でもやはりこの作家の本質は謎解きにあるのではなく、やはり物語の部分にあり、学校の中での捜査につきものの、青春臭さがこの作品に彩りを与えている。
でも学園物のミステリではやはりセイヤーズの『学寮祭の夜』がベストだなぁ。

No.367 10点 黒い天使- コーネル・ウールリッチ 2008/10/25 00:19
泣けた。静かに泣けた。夜の切なさに包まれたかのようだ。

夫の浮気相手に怒鳴り込んでいったところ、その女性は死体となっており、夫にその容疑がかかり、妻が無罪を証明するため、浮気相手の女性にまつわる4人の男性を調べるという、ウールリッチならではの設定。

この中で3人目の男との話がいい。多くは語るまい。とにかく切ないのだ。

誰もがロマンティストになる小説だと思った。本当にウールリッチは素晴らしい。

No.366 6点 シーズ ザ デイ- 鈴木光司 2008/10/23 14:40
17年前の太平洋横断航海で沈んだ船の謎を軸に、親子の絆の回復と自然教育を絡めた作品。
冒険小説の一種として挙げてみた。
限られた登場人物でドラマが繰り広げられ、色んな展開を見せて読ませるのは確かなのだが、いかんせん偶然事が多すぎる。
作者自身、ヨットを所有しており、自然と触れ合っているうちにこういう見えない手に導かれるような不思議な体験をするそうだが、特に最後の手紙の部分でもっともあって欲しくない設定だった時には、昔の少年ジャンプのマンガを読んでいるような陳腐な感じがした。

No.365 4点 恐怖の冥路- コーネル・ウールリッチ 2008/10/22 20:28
ウールリッチ作品にしてはかなり落ちる作品。
何となく導入部も『幻の女』を思わせるし、なんだか二番煎じのような感じだ。
最初に手に取るウールリッチ作品としてならば、及第点であろうが、それなりに読んできた身ならば、物足りなさと書き流した感が否めない作品だ。

No.364 9点 喪服のランデヴー- コーネル・ウールリッチ 2008/10/21 20:31
通常ではありえないと思われる導入部も、ウールリッチならばさもありなんと思ってしまうから不思議。
飛行機から投げ落とされたビンに恋人が当って死に、その復讐のため、乗客を一人一人殺していく。
荒唐無稽と感じるが、これが実に面白い。
1つ1つの殺人劇が極上の短編のように書かれ、思わず犯人を応援したくなる。

しかし主人公の名前がジョニー・マーって、洋楽ファンなら思わずニヤリとしてしまいますね。

No.363 8点 夜の闇の中へ- コーネル・ウールリッチ 2008/10/20 21:17
ウールリッチの未完原稿をローレンス・ブロックが後を継いで完成させた本書。
とはいえ、全然両者の文体には違いが見られず、どこからどこまでがウールリッチで、どこからがブロックか、全く解らなかった。
解説では冒頭と結末の方をブロックが補綴し、中間はほとんどウールリッチの手になるものだとのことだったが、私は読書の最中、ブロック自身が、物語のムードを継承しつつ、自身の作家としての矜持も保ちながら書いていると思っていた。違うとなれば、ほとんど区別がつかないわけで、ブロックの練達の筆巧者ぶりに全く以って脱帽である。

プロットとしては最後の一撃については結構驚かされたものの、読み進むにつれ、いささか使い古された手法であったと気付く。しかしそこはブロック。前に散りばめた布石を固め打ちして、設定の弱さを上手くカヴァーしている。

特に冒頭の一文、「はじめに、音楽があった」に呼応する形で終わる、これが非常に巧い!!はじめにある音楽と最後に聞く音楽は全くその意味が異なり、相反するものである。この冒頭文及び結末がブロックの追記によるもので、これによって物語としては一クラス上に行った感がある。

筆を進めるに連れ、ここいらの始まりと終わりのアレンジはやはりブロックの作家としての矜持を覗かせる心憎い演出で、この二つの、云わば物語にとって最も肝心要の部分において最高の仕事をした、それだけでブロックの手腕は評価に値するのである。

No.362 4点 - 坂東眞砂子 2008/10/19 13:51
これを読んで、「坂東眞砂子って、こんなもんか」と思い、他の諸作に手を出さないのは大きな間違い。
本作はこの作家にとっては不本意な出来でしょう。
坂東作品では無視していい作品。

No.361 2点 黄昏の館- 笠井潔 2008/10/18 22:50
私はこれで笠井作品を断念しました。

No.360 7点 恐怖- コーネル・ウールリッチ 2008/10/17 20:26
結婚を間際に控えた花婿が一夜の情事から他の女と遊んでしまう。これが彼にとって破局の始まりだった。その後彼女は彼をゆすり続け、とうとう彼は逆上し、首を締めてしまう。そしてそれから見えない警察の魔の手を恐れるようになり、辺鄙な街へ移り住んでは新たに現れる彼を取巻く不信な人物達に彼を捕まえに来た警察の一派だという見えない恐怖の手に絡まれていく。

この恐怖は私にも判る。人は何がしか社会の中で匿名性を求める。それで安心を得ているのだが、一度普通人のレールを外れると実はもうかつてのようには戻れなくなる。その事は今後も心に澱のように溜まり、折に触れ想起されるのだ。

最後のエピローグはウールリッチ特有の皮肉だ。
そう、誰もが何がしかの“恐怖”を抱き、生きているのだ。それに打ち勝つ者もいれば打ちひしがれる者もいる。
それが人生なのだ。

No.359 5点 完全殺人事件- クリストファー・ブッシュ 2008/10/16 23:36
プロローグをぽけーっとしながら読んでいると、後で足をすくわれるからご注意を!
ここに注意しないとこの作品の本当のよさが解らないだろう。
登場人物表に載っていない人物が意外に物語の核になっているのが、ちょっと気になったが。

No.358 9点 ポンド氏の逆説- G・K・チェスタトン 2008/09/30 20:09
いやあ、すごいすごい!
目から鱗の真相が逆説で鮮やかに語られる、“逆説王”チェスタトンの真骨頂ともいうべき短編集だ。

「死刑執行命令の停止を告げる伝令が途中で死んだので、衆人は釈放された」
「二人の男が完全に意見を一致したので、一人がもう一方を殺した」
「赤い鉛筆だったから、あれほど黒々と書けた」
「影法師を一番見誤りやすいのは、それが寸分違わぬ実物の姿をしているときだ」
「のっぽの男ほど、かえって目立たない」

こんな気違いの世迷言のような逆説がチェスタトンにかかると実に合理的に解かれる。
今も手に入るか解らないが、『ブラウン神父の童心』に続く名短編集といえるだろう。

No.357 7点 十三番目の人格―ISOLA- 貴志祐介 2008/09/29 21:45
このレベルで佳作止まり・・・。
普通なら受賞してもおかしくはないでしょう。

みなさんもおっしゃっているように、貴志氏の文章は非常にそつがなく、クイクイ読み進み、全てがあるべき姿に収斂していく上手さがあります。
しかし裏返して云えば、物語として見た時に、あまりに淡白すぎるという欠点でもあります。

幸いにして私にとってこれが初の貴志作品なので、その後が非常に楽しみですが、主人公が恋に落ちる相手との出逢いがあまりにもベタすぎて、思わず笑ってしまいました。

No.356 4点 詩人と狂人たち- G・K・チェスタトン 2008/09/28 11:08
詩人ガブリエル・ゲイルが出逢う様々な狂人たちの短編集。
狂人は狂人なりの理論で行動しているという視座が1929年の時点で確立されているのがまず斬新。
しかし、詩人と狂人はオイラの中では2人とも相容れなかった。
あまりに奇抜すぎて、理解に苦しむところ多し。

No.355 9点 木曜の男- G・K・チェスタトン 2008/09/28 00:07
チェスタトンの数少ない長編。
無政府主義者の集会に潜入する詩人のお話という、なんともチェスタトン趣味ど真ん中の作品だ。
一読して、そのあまりの奇想ぶりと、博覧強記の鹿爪らしい文章に戸惑い、辟易するかもしれない。
しかし二度目に読むと、この奇妙さが甘美な毒となって読書の愉悦をもたらすのだから不思議。

最近光文社の古典文庫で『木曜だった男』の題名で新訳刊行された。つまり21世紀に残すべき名作というわけだ。
光文社の選択眼の高さに賞賛を送りたい。

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