皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.74点 | 書評数: 1617件 |
No.357 | 7点 | 十三番目の人格―ISOLA- 貴志祐介 | 2008/09/29 21:45 |
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このレベルで佳作止まり・・・。
普通なら受賞してもおかしくはないでしょう。 みなさんもおっしゃっているように、貴志氏の文章は非常にそつがなく、クイクイ読み進み、全てがあるべき姿に収斂していく上手さがあります。 しかし裏返して云えば、物語として見た時に、あまりに淡白すぎるという欠点でもあります。 幸いにして私にとってこれが初の貴志作品なので、その後が非常に楽しみですが、主人公が恋に落ちる相手との出逢いがあまりにもベタすぎて、思わず笑ってしまいました。 |
No.356 | 4点 | 詩人と狂人たち- G・K・チェスタトン | 2008/09/28 11:08 |
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詩人ガブリエル・ゲイルが出逢う様々な狂人たちの短編集。
狂人は狂人なりの理論で行動しているという視座が1929年の時点で確立されているのがまず斬新。 しかし、詩人と狂人はオイラの中では2人とも相容れなかった。 あまりに奇抜すぎて、理解に苦しむところ多し。 |
No.355 | 9点 | 木曜の男- G・K・チェスタトン | 2008/09/28 00:07 |
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チェスタトンの数少ない長編。
無政府主義者の集会に潜入する詩人のお話という、なんともチェスタトン趣味ど真ん中の作品だ。 一読して、そのあまりの奇想ぶりと、博覧強記の鹿爪らしい文章に戸惑い、辟易するかもしれない。 しかし二度目に読むと、この奇妙さが甘美な毒となって読書の愉悦をもたらすのだから不思議。 最近光文社の古典文庫で『木曜だった男』の題名で新訳刊行された。つまり21世紀に残すべき名作というわけだ。 光文社の選択眼の高さに賞賛を送りたい。 |
No.354 | 6点 | ブラウン神父の醜聞- G・K・チェスタトン | 2008/09/26 22:58 |
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ブラウン神父シリーズ最後の短編集。
やはり名作のシリーズとは云え、5集目ともなると質は落ちるのは避けられない。 全般的にチェスタトンが好んだと思われる、立場の逆転を要したトリック物が多いが、その書物を手にしたものは神隠しに遭ってしまうという「古書の呪い」やいくつもの死因が考えられる死体を扱った「とけない問題」など、白眉のものもあるから侮れない。 最後まで気の抜けない短編集だ。 |
No.353 | 7点 | ブラウン神父の秘密- G・K・チェスタトン | 2008/09/25 19:20 |
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本作ではまず冒頭の「ブラウン神父の秘密」においてブラウン神父の推理方法について開陳されているのが興味深い。
それは「自らを犯人の立場に同化させて、犯人ならどうするか?と考えること」とある。 つまりこれは現代の世で行われているプロファイリングそのものなのだ。こういう推理方法を既に1926年の時点において創作しているこのチェスタトンという作家の冴えに素直に驚かされる。 とはいえ、冒頭にも述べたように過去の作品に似た短編が多いのが難点。 「大法律家の鏡」は「通路の人影」の別ヴァージョンのようだし、「顎ひげの二つある男」、「ヴォードリーの失踪」などはチェスタトンが好んで使った○○トリック物。 しかし、「世の中で一番重い罪」のブラウン神父が真相にいたった解釈は、あっと声が出るし、「メルーの赤い月」の人間の立場による思考の特異性なども興味深い。 「マーン城の喪主」に至っては、○○トリックを実に上手く応用した作品で、一見子供だましのようだが、実はこの手の手法は現代の映画や諸作でも未だに使われている。 |
No.352 | 7点 | ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン | 2008/09/24 20:57 |
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前作から12年も経って発表された第3短編集。
長いブランクからの復活を象徴するかのように「ブラウン神父の復活」で幕を開ける。 全体的に奇抜なトリックが目立つが、理論派のチェスタトンらしからぬ、実現性の浅い物もある。有名な「ムーンクレサントの奇跡」、「翼ある剣」、「ダーナウェイ家の呪い」など。 特に「翼ある剣」のトリックは作者自身もお気に入りなのか、この後再三再四に渡って、同趣向の作品が登場する。 また有名な「犬のおつげ」や「天の矢」も収録されている。 チェスタトン独特のロジックと世界は健在で十分楽しめる。 |
No.351 | 3点 | 殺人現場は雲の上- 東野圭吾 | 2008/09/23 20:17 |
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スチュワーデス(今ならキャビン・アテンダントだから、この辺は次回重版時に改訂しないのだろうか)の凸凹コンビという主人公と内容の軽さゆえに数日経ったら忘れてしまいそうなキオスクミステリ。
ライトミステリながらもそつの無さを発揮している短編集だが、しかしやはり今までの東野氏の同傾向の作品に比べるといささか軽い感じがするし、スチュワーデスという職業柄、空港や機内と場所が限定されるせいか、場面のヴァリエーションに乏しく、それがためが総体的に小手先ミステリのような感じが否めない。 |
No.350 | 8点 | ブラウン神父の知恵- G・K・チェスタトン | 2008/09/21 19:50 |
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1作目の『~童心』が凄すぎて、その後にコレを読むとかなり評価が落ちるのだけど、心を白紙にして読み返すと、実はこの作品も粒揃いだということが解る。
冒頭の「グラス氏の失踪」はほとんどダジャレの世界で、しかもお騒がせ親父の物語と、噴飯物だが、「通路の人影」は現代でも使われるようなトリックだし、「ペンドラゴン一族の滅亡」、「銅鑼の神」、「ブラウン神父のお伽噺」はまさにチェスタトンならではの幻想小説の意匠を借りたロジックが展開される。 呪術的雰囲気、パラドックスがビシバシ冴え渡る短編集だ。 |
No.349 | 10点 | Yの悲劇- エラリイ・クイーン | 2008/09/20 19:58 |
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21世紀の世になり、この齢までかなりの小説を消化してきた中で、ようやく着手。
それでもなお、面白く読めた。 もう純粋にロジックの畳み掛けに酔わせていただいた。この作品のロジックにはクイーン特有の美しさというよりも、論理を超えた論理という凄味を感じる。 確かに平成の世、21世紀の世において、この犯人像はもはや目新しい物でもなく、驚くべきものでもないだろう。 しかし、本作は単なる誰が殺ったのか?を当てる犯人当てだけに終わらない、そこに至るまでの様々な事件についての論証が物凄い。 未だに「推理小説で凶器といって何を思い浮かべるか」という質問があったときに、「マンドリン」と答える人が複数いるという。それは暗にこの小説で扱われた凶器がその人たちの記憶に鮮明に残っているからなのだが、これは確かにものすごく強烈に記憶に残る。いやむしろ叩き込まれるといった方が正鵠を射ているだろう。小学校で習う掛け算の九九や三角形の面積の出し方、円周率が3.14であることと同じくらい、死ぬまで残る記憶になるのではないか。それほど、このロジックは凄い。 そして私はこれは未完の傑作だと考える。なぜなら冒頭のヨーク・ハッター氏の真相が明かされていないからだ。 ヨーク・ハッター氏は果たして自殺だったのか、それとも? なぜヨークは失踪したのか? まだ『Yの悲劇』は終わらない。 |
No.348 | 10点 | ブラウン神父の童心- G・K・チェスタトン | 2008/09/19 21:24 |
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私は『シャーロック・ホームズの冒険』よりもこちらを断然推す。
ミステリとして今なお燦然と煌めく至高の短編集。 どれも大胆な発想と奇想、そして知的な逆説に満ちたミステリとなっている。 その中でも特に「奇妙な足音」、「見えない男」、「折れた剣」は有名かつ大傑作であり、その影響は今なおミステリシーンに君臨している。 「神の鉄槌」、「アポロの眼」は今読むとプロパビリティや技術の発達で苦笑を禁じえない結末だが、それもご愛嬌。 一番チェスタトンらしさが醸し出されているのは「イズレイル・ガウの誉れ」に見る狂気にも似た真相だろう。 最初に手に取る人は「青い十字架」の読みにくさと子供だましのような真相に戸惑いを覚え、本を再び手に取るのを躊躇うかもしれない。 しかし続く「秘密の庭」で驚かされ、その次の「奇妙な足音」でチェスタトン・マジックにまんまと嵌るだろう。 そこからはもう止められないこと請合おう。 |
No.347 | 8点 | 奇商クラブ- G・K・チェスタトン | 2008/09/18 23:51 |
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奇商クラブとは、未だかつて誰もがやっていない奇妙な商売で生計を立てている人物のみが入会できるクラブ。
裁判中に突然発狂し、それが基で引退に追い込まれた元判事バジル・グラントという狂人を主人公にしているのが実にチェスタトンらしい。 なんとブラウン神父シリーズよりこちらの方が先に書かれていた。 収録された奇商クラブ物6編のうち、「家屋周旋業者の珍種目」と「チャッド教授の奇行」が秀逸か。 前者はもうほとんどバカミスだが、こういうことを考える作者が逆に好きだ。 後者は真相が明かされた時に戦慄が走った。あまりにすごすぎ。本当の狂人の話だ。 で、実は本書には別にノンシリーズの「背信の塔」と「驕りの樹」という2編がさらに収められていて、これが共に白眉の傑作。 「背信の塔」はなんとも幻想的な1編で、ディキンスンが大いにこの作者から影響を受けているのが解る1編だ。 そして「驕りの樹」もこの作者が博覧強記振りの筆致で描くからこそ、こういう設定が引き立つのであろう。 両者ともなんともいえない奇妙な味わいがある。 今も手に入るか不明だが、もし絶版ならば、非常に勿体無い短編集だ。 |
No.346 | 2点 | オペラ座の怪人- ガストン・ルルー | 2008/09/17 13:56 |
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作品にリアリティを持たすためにそれが実際の出来事であったかのように作者本人まで登場している。
そういった趣向と物語の性質がやはり自分の好みに合わない。 ただ、後に『13日の金曜日』シリーズの“ジェイソン”や『エルム街の悪夢』シリーズの“フレディ”に代表される怪人物の源流を作った功績はやはり意義あることだと思う。 特に怪人エリックがその醜さゆえに愛されなかった苦悩を吐露する所など、怪人であることの哀しさを含ませてその造詣に膨らみを持たせていることは「ルルー、只者でなし!」の感もあった。 が、やはり自分には合わなかった。 |
No.345 | 2点 | 黄色い部屋の謎- ガストン・ルルー | 2008/09/16 20:54 |
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フランス人は「悪の英雄」というのがどうも好きらしい。
その最たる代表はルパンであるが、本作も希代の詐欺師を設定し、犯人に仕立て上げ、しかも逃がしている。 従ってそういった一種特別な技能を持った人物を想定する事で、衆徒環視の下での人間消失とか、密室犯罪だとかの魅力ある不可能事象が作者の御都合主義の下に制御され、興醒めである。 本作のメインの謎の真相が詐欺師の早業だとか被害者の悪夢による狂乱事だったとは…。 果たして本作の歴史的地位というのは一体何に起因するのだろうか? 誰か教えてくれ! |
No.344 | 5点 | 流星たちの宴- 白川道 | 2008/09/15 22:57 |
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バブル時代の相場師たちの物語。
この作者の過去の経験が多分に活かされている物語。 気障とも思える文体や登場人物にノレるかノレないかで評価が分かれる作品とも云える。 オイラは、最後の唐突の終わり方に、突然放り出された感じがして、悪印象。 延々作者のバブル時代の自慢話に付き合わされた感じがした。 |
No.343 | 7点 | ガストン・ルルーの恐怖夜話- ガストン・ルルー | 2008/09/14 13:45 |
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正直云えば、歴史に残る名作とされている『黄色い部屋の謎』よりも数倍面白かった。
各短編共、それぞれ持ち味があり、個性豊かなのだが、好みで選ぶとすれば「金の斧」と「蝋人形館」の2編。 前者は結末が結構意外で現代ならば絶対に書けないオチだから。後者は、身震いするような蝋人形の描写と、皮肉なラストを賞して。 |
No.342 | 1点 | 黒衣婦人の香り- ガストン・ルルー | 2008/09/12 20:09 |
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疲れた…。
古典ミステリ独特のもったいぶった云い回しで、もう何が何だか解んなかった。 しかし、フランスミステリは一人二役、二人一役のトリックがよっぽど好きなのだろう。 ルパンシリーズもこの趣向は多いし。 しかしルルーの作品は前作、前々作に関わった人物、込められたエピソードが次作、次々作へと持ち越されるのが特徴のようだ。 推理小説という1作完結型の様式に人物又は挿話を以って一大相関図を描こうという狙いらしいのだが…。 私としてはご容赦願いたい。 |
No.341 | 6点 | 騎士の盃- カーター・ディクスン | 2008/09/11 20:21 |
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これはもしかしたらカー版“日常の謎”ミステリ?
本作の狙いは非常によく解る。こういう趣向は非常に好きだ。 ただこの密室の謎は現代人では解らんぞ! それが非常に残念だ。 |
No.340 | 7点 | 赤い鎧戸のかげで- カーター・ディクスン | 2008/09/10 13:59 |
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なんとカーによる怪盗対名探偵物。
登場する怪盗はアイアン・チェストなる盗みの現場に鉄の箱を携えた盗賊という、いささか風変わりな怪盗。 この理由がなんともカーらしい。 恐らくこのトリックを思いついて、どうにか使いたいので、こういう怪盗を設定したというような作品なのだ。 でも終始作中で展開されるドタバタ喜劇といい、この陳腐なトリックといい、ある意味、実にカーらしさに溢れた1作である。 |
No.339 | 5点 | 魔女が笑う夜- カーター・ディクスン | 2008/09/08 20:22 |
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カー版コージー・ミステリとも云うべき、ストーク・ドルイドという小さな街で起こる小さな事件の物語。
で、本作の真相と云えば、いささか首を傾げざるを得ない。 肝心の動機が曖昧だからだ。 なぜ犯人は悪意のある手紙を出し続け、また密室状態でジェーンに深夜後家が逢いに行ったのかの理由が全く見えない。 HM卿の奥さんの名前が判明したのだけがマニア向けの収穫か。 |
No.338 | 6点 | 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン | 2008/09/07 13:57 |
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この頃のカーのストーリーのアイデアは特筆物で今回もその例に洩れない。
新進気鋭の演出家の許に送られてきた匿名の脚本を契機に、俳優に田舎の町に行かせて、ロージャー・ビューリーなる殺人鬼になりすまして、殺人鬼の心理を摑ませようというのである。 で、こういう作品に例に洩れず、この俳優がまさか・・・という展開を見せ、ページを繰る手を止まらせない。 でもその後がなんか煩雑な感じだ。特に結末が通俗小説風になり、ガッカリだ。これもカーならではのサービス精神なのだろうが。 そして死体の隠し場所は誰もが考えつつも、小説としては使わないだろうというアイデアを使っているのがカーらしいね。 |